社会を変えるには (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881685

感想・レビュー・書評

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  • 印象的な箇所のまとめ。

    <第1章日本社会は今どこにいるのか>
    先進国では製造業が減り、情報産業やITをもとに投資する金融業が増大。また宅配業者やデータ入力業者など新種の下請けの仕事が増える。ビジネス街で働く中核エリート層を支えるためには、単純事務労働員やビル清掃員、コンビニや外食産業の要員が必要。これらは「マックジョブ」と言われる短期労働者の職になる。一人の中核エリートを支えるには、五人の周辺労働者が必要とも言われ、これらは海外に移転できない。逆に言うと、先進国の都市であっても、多数派は低所得層になり、格差拡大は進む。


    <第4章民主主義とは>
    代議制は、「私の意見」と「私達の意見」が同じだった封建制度の時代の遺物。現代社会は個人の意見が多様であり、代議制が成立し難い。

    選挙で多数の票を集めて当選した政治家は、支援者の利益になることをするが、価値観が異なる多数の人の利益になることはしなくなる。

    昔は「官僚は政治家に弱い、政治家は有権者(財界、民間)に弱い、有権者は官僚に弱い」の3すくみの構造だったが、今は誰もが無力感を持っている。「他人が言うことを聞いてくれなくなった」と思っている。投票しても社会は変わらない。ロビイング活動をしてもたらいまわしにされて、意見が政策に反映されない。

    もともとの民主主義は直接民主主義だった。古代ギリシアでは成人男性が直接民主主義を行っていた。

    「あの人達に社会の意見が代表されている」と思える時、代議制は成立する。

    昔は世論調査の数字をだれも気にしなかった。最近は政治家も世論調査の数字を気にする。選挙の結果(国会の議席配置、首相の選ばれ方)が、民意とイコールではなくなったからだ。故に選挙より民意を表しやすい世論調査が重要視されるようになった。


    <第5章近代自由民主主義とその限界>
    自由民主主義といっても、自由主義と民主主義はなかなか両立しない。自由主義は権力から自由になる思想で、その担い手は主に有産者層。具体的には、資本主義とともに勃興した新興ブルジョワが、王権や政府からの介入を拒むために支持した。

    一方で民主主義は、全員参加で権力を運営したいという考え方。たくさん税金を取る大きな権力でも、みんなで運営されていれば構わないという発想。

    20世紀の半ばに自由民主主義は大きな危機を迎えた。ナチスは暴力によって政権を奪取したのでなく、普通選挙による議会制民主主義の中で政権第一党についたのである。当時のドイツには大きな政党があったが、恐慌の中で、「我々が代表されていない」と感じた失業者達、第一世界大戦の帰還兵で「社会の余計者」扱いされた若者たちが、共産党やナチスを支持した。

    古代ギリシア哲学を学んだ西欧知識人にとって、ヒットラーの総統就任は。「余計者」の雄峰達に支持された僭主の登場に見えた。ドイツからアメリカに亡命したハンナ・アレントもその一人。アレントは、古代ギリシア哲学をもとに人間の歴史を3つの時代にわけた。統治行為、政治参加の「行動」が賞賛されていた時代から、後世に残るものを作る「仕事」をする「ホモ・ファーベル」の時代を経て、日々消えていく虚無的な「労働」に従事する「アニマル・ラボーランス」が支配する時代になったという。アレントはアメリカを、まだ人間の自発的な政治参加の「行動」が生きている国だと見て、希望を託した。

    1968年「我々は代表されていない」と感じるマイノリティーが次々と政治の声をあげた。リーマンショック後も「居場所がない」と感じる人々が世界中で暴動や抗議活動を起こした。支持を失ったのは保守政党より労働政党だった。彼らは民衆の支持を失った。議会制民主主義の限界が現代の課題である。この課題に対する解決策の思索は色々と実践されている。


    <第6章異なるあり方への思索>
    ギデンズの再帰的近代化論。昔は単純近代化。個体論的な合理主義。主体は客体を把握できる。計算して操作できる。票の合計が多数の人の意見を代表するという考え方で、政策ができた。

    何故現代ではこういう政策が機能しなくなったのか? 個体論の前提が崩れたから。村は一つの個体である、労働者階級は一つの個体である。母子家庭や一つの個体である。失業者は一つの個体である、という考え方が通用しなくなった。昔は村を一つの個体に見立てて、村向けの政策をすれば、村の人々は満足したが、現代は不満を言う人が増えた。

    どうしてこうなったのか? 選択の増大。主体の行動と選択の自由度が増す。20世紀に出てきた現象学的考え方に立てば、こちらが何か行動を起こせば、相手も変化する。相手が変化すると自分も変わらざるを得ないので、未来を予測した行動ができにくくなる。

    現代社会で増えているのは、自由の増大というより、「作り作られてくる」ことの増大。ギデンズはこれを「再起性の増大」と言った。デカルトの時代、「われ思う、故にわれあり」と言う自己は、神という不動のものに支えられていた。現代は自己が揺らぐ。「こんな自分でいいのか」と迷いながら選択し、意思決定し、「作る」ものになっていく。アイデンティティの模索、自分探し、キャリアデザイン、ダイエット。

    自己を作れば作るほど、自己は無限に不安定になっていく。自分を作りながら、自分を安定させようというのだから、矛盾している。いつまでたっても自己形成をやめられない。情報は無数にあるだけでなく、常に変化する。不安になった人々は、絶対的に強い者に憧れる。しかしそれも、どこの国でもあっという間に選択にさらされ、非難され、使い捨てられていくことも少なくない。(STAP細胞問題。持ち上げられた後、徹底的にたたかれる)

    一昔前、計画経済が息づまるのは、情報我多すぎて計算しきれないからだと思われていた。それだけなら処理速度をスーパーコンピューターであげればいい話。それは本当の問題ではない。本当の問題は、現場で起きている現象を中央が把握できないこと。生成変化する現象を全て把握して、操作することはできない。調査して、調査結果を発表すれば、調査結果を見た人々が行動を変える。調査結果に基づいて行動しても、やがて人々の行動は変化する。選択が増大すればするほど、未来の予測は難しくなる。

    ではどうすればいいのか。再帰性の進展を止めるのではなく、自らも再帰的になる。

    情報公開、対話を進める。保護する側の力を弱めて、保護されている側の力を強める。


    <第7章社会を変えるには>
    現代の価値は多様で、集団は細分化している。けれど誰もが共有している価値がある。「自分の声が社会に反映されない」「自分はないがしろにされている」という感覚。これは首相であろうと非正規雇用労働者であろうとおそらく共有されている。この感覚を変えれば、おそらく社会を変えることになるのではないか。

    「自分はないがしろにされている」という感覚を足場に行動を起こす。対話と参加を促し、「われわれ」を作る動きにつなげていく。

    活動の過程そのものに楽しさを。楽しくない活動は、アレントのいう労働。受験勉強が典型だが、本当は楽しくなくて空しい行為、「労働」をしている時、人は他者と比較して自分の位置を計測したり、他者を貶めて優位を保つという「結果」が欲しくなる。

    批判を受けても動揺しない。複雑化している現代は、絶対安全がありえないのと同じように、全く批判がない状態もありえない。

    現代日本は多くの人が何かをしたいという気持ちを持っているよう。ボランティアをする人、英会話塾に行く人、音楽や踊りをする人、毎日ブログやSNSをアップする人など。そういうエネルギーは今の日本にも溢れている。もっと楽しいことをしたい、社会を変えることをしたいという思いがあるかも。

    動くこと、活動すること、他人とともに社会を作ることは、楽しいこと。

    (所感)
    ヘーゲルの「精神現象学」と同じで、結論はしごくまっとうで当たり前のこと。しかし、結論に至る論述の過程が刺激的で面白い。読書という活動はそういうものかもしれない。最近ブログを書くのも脚本の課題を書くのも義務的で、「労働」みたいになってきたから、楽しく書いていこうと思った、人と比較してもむなしくなるだけだし。敵はだた一人、つまらないことをする自分だ。昨日の自分を超えて行け。行為そのものに喜びを感じるように。バガバッド・ギーダー。

  • 現在の日本には,原発や秘密保護法反対デモに参加する多くの市民がおり,デモをテロと断じる政治家がいる。直接民主制と間接民主制の奇妙なねじれ。デモで社会が変わるのか。社会を変えるとはどういうことなのか。社会を変えるにはどうしたらいいのか。歴史的・社会的・思想的に考え,一歩を踏み出すことの意味を問う。

    *推薦者(国教)K.M.
    *所蔵情報
    http://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB00321215&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB

  • 議会制民主主義の枠内に抑えこまれて死にかけている民主主義をゆたかに解き放とうという論旨に読めた。

    変化してる社会だから、いろいろ案外うまく変えていけるんじゃないの?って感じの楽観論も心地よく。

  • すっきりした。

  • 社会を変えるにはというタイトルだが、主にはデモの意義について。
    デモなどの抗議や主張をする活動の正当性、危うさ、そしてその現実について丁寧に記述してある。

    デモが主題なので、連合赤軍の話とか、やはりリベラル・左翼側の話が多く、それ一辺倒なので少し途中で疲れてくる。世の中ってそんなだったっけと。
    これがリベラルの教科書となるようだと、リベラルはやはり厳しいなと思った。

  • 非常に沢山の情報が詰まっており、歴史的な縦の流れと、地域などの横への流れを、何度も読み返して最後に辿り着くのに時間がかかった。
    しかし、社会を変える事は、諦めてはいけないと誓い直す良い機会となった。

  • 「自由というのは、何らかの足場がないと、たんなる不安定に転じます」

     社会を変えるにはデモをしましょうという内容だと思います、多分。
    ちょっと中身が濃く、量が多すぎて読み切れませんでした。
     なんでデモかというと、デモをして意志を表現することもまぁ大切なんですが、それより自発的に政治に参加するという点らしいです。
     私たちは投票という形で政治に参加できますが、盛り上がって投票することはありません。少しは日本のこれからを考えはしますけど、投票行為は祭りではありません。
     そこで著者は、政治参加には皆で集まってワイワイ話すという盛り上がりが必要と言っています、多分。
     民主主義という制度は皆で盛り上がれる場が必要ということで、宮台真司が中間共同体と、鈴木寛が熟議の場と言ってるやつと似ているかもしれません。
     デモなんてと、遠目で滑稽に見てましたがそんな機能があったのかと勉強になりました。

  • 昨年夏に刊行され、2013新書大賞第1位になった…
    ボクにとっては『日本という国』『〈民主〉と〈愛国〉』につぐ
    3冊目の著者の本だ。本書の趣旨を著者はこう書く…

    -いま日本でおきていることがどういうことなのか。
     社会を変えるというのはどういうことなのか。
     歴史的、社会構造的、あるいは思想的に
     考えてみようというのが、本書全体の趣旨です。

    日本の現状を原発問題を軸に概観したあと、
    社会運動の変遷をたどり、民主主義の始原をながめ、
    古代ギリシャ思想、近代政治哲学、現代思想をひきながら
    論考をすすめる…新書ではあるけれど500頁を超える…

    ただ、おそらく著者は読者を想定し、読みやすい書き方に
    しているせいもあるだろう…一気に読めた。
    いろいろと学ぶことは多かったけれど、著者の思いは、
    要は次の一文にあるように感じた。

    -「デモの意味」については、私はこう考えます。
     まず参加者が楽しい。こういうことを考えているのは
     自分だけではない、という感覚がもてる。

    高杉晋作の辞世の句(下句は野村望東尼)を思い出した…

     面白く無き世を面白く 住み成す者は心為り

  • 原発問題、日本や世界の社会運動、人々の考え方、運動のノウハウなど多岐にわたり書かれている。
    現象学、相手が変わったことでわかってもらえたと気づく。
    これからの日本は普通の先進国になる。
    われわれは右でも左でもない、前だというドイツの活動。
    愛の反対は憎しみではなく無関心。
    活動をするにあたっては、自分が楽しむことが大切というのは非常に良くわかる。

  • 日本の近現代の社会構造の分析は、説得力に富んで、注目に値するが、その後の、西洋哲学の記述した部分は疑問に思う。なぜなら、単純化されていて、概説に終わっているからだ。単純化ほど危険なものはない。
    後部の結論は、肯定できる。単なる「デモ」の肯定によって、社会を変える唯一の手段としていないからだ。人間のあらゆる営みが、枯渇しないことをもって、「社会を変える」のに、有効な指標としているところが、評価できると思った。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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