おどろきの中国 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881821

感想・レビュー・書評

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  • 「おどろきの中国」は講談社現代新書「ふしぎなキリスト教」の著者である橋爪大三郎と大澤真幸に宮台真司が加わった二匹目のドジョウを狙った本ですが、1作目がやたら面白かったので、敢えてその講談社の商法に乗っかりこの本を読みました。
    サブタイトルの「そもそも国家なのか?」にも魅かれた面もあります。

    中国とは何ぞやという本題もさることながら、特に私の中では過去から、燻ぶっていたのが、
    ・日本は何故日中戦争のようなあんな馬鹿げた戦争をやったのか?
    ・上記に対する日本の謝罪の問題
    ですが、この解とも言える箇所が幾つかあり、胸のつかえが取れた感じがしました。

    特に宮台氏の以下の発言が印象に残っています。
    「東京裁判という虚構図式式の踏襲が合理的だと考えています。日本が謝罪するというあいまいさを避け、『A級戦犯が指揮した作戦行為や戦闘行為は悪かったし、それらの行為が悪かったことを政府や国民は理解しているし、A級戦犯を自力で取り除けなかった事を悔やんでいる』と言えばいい。現にそれが『日本国民は悪くなかった』と語った周恩来首相が望んでいたことでしょう。・・・略・・・ふつうは橋本さんがおっしゃるような心からの謝罪が重要だとは思うけれど、戦争世代から遠く離れた世代が心からの謝罪の気持ちを継続出来ないことが自明である以上、後続世代は東京裁判図式がもつ意味をよく理解し、かつ未来志向的な信頼醸成が最終的には得になることをわきまえ・・・」

    東京裁判については、現在では勝利者の敗者に対する一方的な裁判という意見が多いなかで、この解釈は、まさに目から鱗の解釈と映りました。
    また、今回改めて1972年の「日中共同声明」を読んでみました。先人は後世の為に色々と苦労しているのだなという印象を強く感じた次第です。

    この問題は非常にデリケートな政治問題なので、人それぞれの考え方があり、この考えに同調してくれなんて事は言えませんが、私の中では非常に有意義な本でした。

  • 対談方式は嫌いなので星4つにしようと思ったが、やはり内容は面白い。
    中国が良いとか悪いとかではなく、かの国を理解するにはどうしたら良いのかを考えさせてくれる。
    うっすらとそうじゃないかと思っていたことを、なるほどと頷かせる。
    それにしても感じるのは、日本の政治家が無能で、官僚が傲慢だと言うこと。
    日本のパンピーを舐めて甘え過ぎだ。

  • 昨年、尖閣諸島の問題や反日運動など中国の動きで気になる所が多くあった。さらに、それを受けた国内の反応も過激だった。中には戦争も辞さないというような論調のものもあった。国内でそういう気分が高まっている事を恐ろしく思った。しかし、私たちは中国という国を理解していないのでないだろうか?にもかかわらず、反日運動に脊髄反射的に嫌悪感を示し、拒絶してしまうのはおかしいと思う。
    そのようになんとなく怖さを感じていたなかで本書と出会った。これを読むことで、なにかしら中国を理解するヒントが得られるのではないだろうか。

    本書は3人の社会学者が、中国について語った本だ。
    はじめに、中国という国を西欧由来の社会学的に考える事に批判的になって、新たな理解の仕方を探った。そもそも、国家という考え方が生まれるまえに統一王朝ができていた中国。それゆえに、西欧とは全く異なる考え方で社会を捉えていた。中国はEUに近いという考えが、非常に納得がいった。儒教と天子という統治システム。

    次に、古代の中国と毛沢東。毛沢東が成し得た事は何だったのか。中国の近代化が遅れた理由と、毛沢東が近代化を進める事ができた理由。

    中国の歴史問題では、日本の問題とも結びついた。事実を捉えるうえで前提になる認知地図の違い。

    これからの日中関係。アメリカと中国に挟まれた日本は、それぞれの考えを理解しようとする努力が足りない。それは私たち自身も努力すべき点だろう。

    本書を読んで、中国の近代の歴史を学びなおしたいと思った。

  • 日本の戦争責任に随所で触れているため、ひょっとして脊髄反射的な嫌悪感剥き出しのレビューが並ぶんじゃないか・・・と思いきや、流石はブクログ、冷静な感想が多いので一安心。この本のmain subjectはそこじゃないですからね。

    「他者から自己を浮かび上がらせる」のが橋爪大三郎氏の著作の真髄だとするならば、現代において中国は格好の「他者」。扱いづらくて喧しくて、出来れば無視したいけれど、でも絶対に無視するわけにはいかない堅強な「他者」として屹立する中国に、きちんと視線を合わせて対峙しようとするための重要なtipsが各所に散りばめられている。

    但し、今後の日本にとってこの本で述べられているほど道は平坦ではないようだ。「過去への構え」を不変とする意思の提示はもとより、米中間のインターフェースとしての役割も言うは易し、だ。事実、本書で日本のプレゼンス増大の好機とされている北朝鮮問題でも、やはり従前同様米の立ち回りの後ろに隠れてしまっている。

    しかし、それでも中国を直視することを避けてはいけないと思う。自分自身を知るためには、他人を理解しなければならない―自己の内実だけにいくら目を凝らしたところで「自分が何者であるか」は決して分からないと思うからだ。この本を傍らに中国=他者と向き合うことで、後景に未だに自分でもよく分からない日本=自分というものを鮮やかに浮かび上がらせることができるのだと確信させられる。

  • 座談会形式だから、議論が荒っぽいところもあるかもしれないが、中国的思考の中心みたいなものがなんとなく、つかめたような。

  • 橋爪さん1人で中国論を書いてくれたほうがすっきりして分かりやすいかもしれん。わざわざ3人で鼎談する必要はなかったのでは。

    特に橋爪さん以外の残りの2人がざっくりした社会学理論を駆使しているのかいないのかわけわからん仮説を披露し(ときに脱線するし)、それを受けて橋爪さんが説明するという構成がまどろっこしい。

    橋爪さんと大澤の2人は「ふしぎなキリスト教」で散々誤解や事実誤認、間違いが指摘されている。今回も、橋爪さんは中国に詳しいということを差し引いて、本書で開陳されている内容を慎重に全て鵜呑みにしないよう眉に唾をつけて読んだ。
    これ一冊読んで、中国のすべてが分かった!という気分に浸らないようにしないといけない。飽くまで隣の大国を理解するための一助とすべきもので、これで事足りると即断するのは危険。

  • 第1部中国とはそもそも何か
    第2部近代中国と毛沢東の謎
    第3部日中の歴史問題をどう考えるか
    第4部中国の今・日本のこれから
    の4部からなります。
    中国と言うのは外から見てもよくわからない国で、歴史を誇りにするくせに何で前時代の文化を根こそぎ破壊するような大規模な革命を起こしたがるのか?なぜ毛沢東はあんな人気なのか?国体は何回も断絶していながら、なんで未だに中華思想が健在なのか?チベットや台湾の事を中国人はどう思っているのか?そもそも本当に台湾を支配下に置きたいのか?何で儒教文化なのにマナーが悪いのか?国民に共産党に対する不満はないのか?などと、僕にとっては疑問の多い国です。

    この本の第1部、2部では中国人のメンタリティをよく解説していて今の中国人が何を考えているか参考になりました。
    ざっくりですが、
    中国人は血縁関係を非常に大事にして、それが担保されれば、支配するものがだれであってもそれ程、関心がないということ。
    交通ルールが無いに等しいのに事故を起こさないように、個人が利己的に行動し、皆がそうであることを信頼して、予測することで結果的に秩序が保たれていること。(相手に気を遣うと逆に事故になる。)
    中華思想から、西洋的な近代化にいまいち納得していないこと。
    などです。
    3部では、歴史問題に言及するのですが、ここはまぁ、十分でないというか、すんなり納得できない部分もありました。読むに当たっては疑問に思う部分は立ち止まって、よく考えた方がいいと思います。
    4部は、アジアの領土問題のデリケートな部分に触れています。台湾や沖縄が、日、米、中間の均衡に非常に重要な役割をもっていることが再確認できます。
    この本は対談形式なので、明確な結論みたいなものは無いです。

    また、3人とも、昔の中国びいきなのかなぁという印象があります。
    それはいいのですが、「今の日中関係あるいは日韓関係はが上手くいってないのは、かつての日本人のように、中国に対する強い畏敬の念をもって何かを学ぶ姿勢がないからだ。」といった記述があります。(韓国もまた、中国文化をを伝える役割をしていたことから、尊重されていた。)
    ここで言う「かっての」とは儒学が盛んだった明以前の時代ですが、さすがにそんなあまりにも昔のことと今とを同じように論じるのは無理があると思います。
    それを言うなら今の中国に尊敬できる部分がないと難しい。
    しかし、この本によると中国人の考えとしては無くは無いようです。

  • 内容が多岐に渡り、対談形式なのではっきりした結論がわからない部分もあるので感想が難しい。疑問も結構あるが、それでも面白い。特に天の理論。西洋的な神がいない中国が、皇帝の支配を正当化する為の理論だが、何も言わないし正邪もない。ただ勝ち残ったものに天命が下り、支配がうまく行かなくなって反乱が起こり倒されると天命が去る。毛沢東が皇帝か、というのも面白い。中国共産党がイデオロギーのない、つまり政党ではなく皇帝の意を実現する統治機構、いわゆる官僚組織というのもそう。だから毛沢東が失敗しても、マルクス主義じゃなくても、その権威は揺るがない。皇帝と官僚だから。日本と中国の戦後の関係の理解も面白い。周恩来や鄧小平などの理性的で反日感情を越えた政治判断できる人は今の中国にいるのかな?江沢民からかなり偏向した気がする。日本はもっとひどい。だいたい第二次世界大戦についての日本の共通理解が国民にない。教育の問題とか戦後に幅を効かせたマルクス主義史観の問題とか冷戦の影響とかあるだろうが、少なくとも宮沢喜一くらいまでは、日中関係がどうあるべきか、歴史観も含めてしっかりしていたと思う。今は本当にダメだと痛感。

  • 中国社会の構造と毛沢東のカリスマ性の秘密が面白い。
    「三国志演義」の思想から毛沢東のリーダーシップを読み解いていく。
    「三国志演義」では、皇帝は武力の強い者ではない。
    漢の皇祖劉邦は、武の天才項羽を、破るほどの武の達人だが、皇帝になると文民に徹し、文民皇帝として漢帝国400年の礎を作る。
    それは武の皇帝となった秦の始皇帝の帝国が15年で滅びたことを反面教師としているのだ。
    武で中華を征服したにも関わらず、武の痕跡を消し去って文を表に出すこと。
    それこそが「三国志演義」思想の指し示す皇帝の奥義なのだ。

    毛沢東が大躍進政策で失敗し、4000万人の餓死者を出した時、人民解放軍のトップで軍のエリートの彭徳懐は、毛沢東排除のクーデタを画策するが、誰も支援しなかった。
    人民解放軍は毛沢東を支持したのだ。
    何故なのか?
    彭徳懐は武を代表する始皇帝であり、魏の曹操に比肩されるからだ。
    一方の毛沢東は、文を代表する漢の劉邦であり、蜀の劉備に比肩されるからだ。
    中国の皇帝は、優秀な官僚を擁し、皇帝+官僚の政策が過たない限り、正当化される。
    その政策が失敗した時、農民は皇帝と時の政権を転覆させることが出来る。
    それが易姓革命だ。

    中国社会は儒教に裏打ちされた「幇」と言うインフォーマルな組織によって規定されている。
    幇はダブルスタンダードを持ち、内には徹底的な利他、外には無法を旨とする。
    モデルは蜀の劉備、関羽、張飛の「桃園の義盟」だ。
    後にそこに諸葛孔明が加わる。
    毛沢東幇に所属していた林彪は、出世するが、毛沢東に忌避され幇を放逐されると身の危険を感じて逃亡を企てる。
    しかし、逃亡計画がバレて、燃料不足のままトライデント機で慌てて飛び立ち、途中で墜落して死亡する。
    その逃亡計画を毛沢東に告げたのが、林彪の娘だった。
    この娘の行動は、毛沢東のカリスマ性を示すとともに、法家の思想(親に対する情よりも、法令を遵守する)の名残を示している。

    秦は法家の思想を採用して、法令違反を厳しく罰した。
    これは体外的な戦争を、内部に抱え込むことでもある。
    つまり、国家の内部が常に戦争状態であったのが秦だったのだ。
    その秦が15年の短命で滅びるに至り、漢を樹立した高祖劉邦は、主たる思想として儒教を採用した。
    しかし、一方では法家の思想を底流に残した 
    儒教を主として全面に出し、法家を従として、伏流させたのだ。
    儒教+法家のハイブリッド思想によって漢は400年の政治的安定を維持することに成功した。

  • 前半、中国とはもはや国家とは呼ばないレベルの大国だとか、毛沢東とは何だったのかなど、世界史・文化人類学目線からの分析はなかなか面白かったが、後半の現代における日中米関係の話は偏っている感じもしたし、あまり興味を惹かれなかった。

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著者プロフィール

橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう):1948年生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京大学大学院社会学部究科博士課程単位取得退学。1989-2013年、東京工業大学で勤務。著書に『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『教養としての聖書』(光文社新書)、『死の講義』(ダイヤモンド社)、『中国 vs アメリカ』(河出新書)、『人間にとって教養とはなにか』(SB新書)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)など、共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『おどろきのウクライナ』(以上、講談社現代新書)、『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)などがある。

「2023年 『核戦争、どうする日本?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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