殺人出産 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062934770

感想・レビュー・書評

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  • 村田さんの世界観にみごとにハマってしまう作品だった。作品の情景表現がすごくうまくて最後まで読み入ってしまった

  • 通勤電車の中で読むのはちょっと勇気がいる本だった。今私の生きている世の中の常識とは全く違う常識の世界で、いろんな考え方にギャップがあった。

    私は今生きている世の中の制度の方がいいなあ。。
    誰かに合法的にころされるかもしれない世界なんて嫌だな。。恐ろしい

  • 生と死と性の実験室。それぞれ題材はめちゃくちゃ興味深かったけど、話として面白いとは思わなかった。自分の結構普通な価値観への挑戦状かもね。

  • コンビニ人間が好きだったので、手に取りました。村田沙耶香さん二冊目となります。
    その内容からセクシャルな単語が頻発するので電車では読みづらかったです笑

    殺人出産
    パラレルワールドのようにこの世界と架空の世界が混ざり合っていて違和感がないです。抜けのない設定。出産至高主義の人には絶対認められない作品でしょうがそうでない私にとっては共感すら覚えました。人を選ぶ作品だと思います。新井素子さんっぽさもあり。納得できる自分と不快感を覚える自分とその割合が明確になる恐ろしさもあり心を掴まれました。面白かった!

    トリプル
    これまた愛の営みという価値観を破壊する作品。思春期特有の潔癖な精神性のためか嫌悪感はなかったです。こういう未来も悪くないとすら思えました。

    清潔な結婚
    これも性生活と結婚生活は分けて考えるべきという説得力のある作品。潜在的な人も含め意外と納得できる人は多いのではないでしょうか。

    余命
    5分ほどで読むことができる作品。星新一さんの作品と言われても気づかないかも。大病した人間からすると、意外と人は生に対しての執着心として持ってるのだと思っている。その動物的な本能を拒否する世界観。

  • ○殺人出産
    解剖シーンがグロくてしんどかった。
    村田さんの他の作品にある食人や昆虫食、殺人シーンは大丈夫だったけどこれはきつかった。
    誰の考えにも賛同できないから没入も出来なくて、呼んだ後はよくわからない気分だった。
    設定は面白い。

    ○トリプル
    これも性行為シーンがきつかった。
    結構特殊性癖だと思う。
    トリプルの性行為が正しいと思う人には現代の性行為が同じように気持ち悪いと感じられるがしれない…という体験にはなった。

    ○清潔な結婚
    快楽のための性行為と繁殖のための性行為を分けるという考えはすごく目新しく感じた。
    結婚について、「母親になったり女になったり友達になったりしなくてはいけない。私は、ただシンプルに、兄妹みたいに暮らせたら——(以下省略)」というセリフが心に残った。
    ロマンチックな恋がしたいと思いながらも、年齢を重ねるごとに、感情の起伏が少ない、疲れない結婚がしたいと思い始めているから…。

    ○余命
    永遠の命を手に入れてもヒトはヒトから自由にはなれないのかもしれないと思わされる。
    むしろ死が突発的でなく自らの決定で訪れるものになれば、その判断すらも他人に評価されるんだろうな。
    ダサい死に方、地味な死に方、親孝行な死に方…etc.
    死に方まで死後噂話のタネになるなんて、死後まで人間社会に逃れられない気がして、救いも何もない気がした。

  • コンビニ人間に続き村田作品2作目。早くも村田ファンだ。一見衝撃的な題材「生・性・死」しかしながら誰もが多少なりとも抱くであろう「殺意,浮気心,潔癖さ,死生観」を織り交ぜ、現実にあるかもと思わせる筆力。村田氏が過去に経験したような気さえする。価値観や倫理観を揺さぶられるこの感覚が癖になる村田作品。本書のどの短編も良いが文庫版「清潔な結婚」の163〜164頁『恋愛の延長線上で家族を探すことに違和感がある。(中略)ただの家族としてパートナーと向き合いたい』が印象的且つ共感する部分がある。

  • 独特の世界を描いているが没入は全くできない。カズオイシグロとの違いは何…

    もう少し丁寧に書くと、カズオイシグロだって私を離さないでとかクララとおひさまとかで、近未来の倫理的にバグってる設定で物語作ってる。でも読者はそこにぐいぐい引き込まれて、その倫理観に全く同意してなくても物語世界にどっぷり浸れる、というか浸されてしまう。溺れてしまう。
    一方この作品は、とっても奇抜で独特な設定であるにも関わらず最初から最後まで「ふーーーーーーん。」で終わる。つまり没入できない。物語は永遠に私の外にある。私は外から物語を眺めているだけ。ゆえに心を揺さぶられるような感動は生まれない。

    カズオイシグロに限らず、村上春樹も、ガルシアマルケスも、読者を完全に浸らせて心揺さぶってくる。この違いは何からくるのだろう?これが筆力の差ということなのか?全くわからない。

  • 常識や正義だと我々が思っているのものを、ぶち壊していくような作品でした。
    とても面白かったです。
    村田沙耶香さんの本は、「コンビニ人間」しか読んだことがなかったのですが、更にディープな魅力に触れられたような気がしています。
    ぜひ他の本も読みたい!

  • 独特の世界観。生と性にいろいろな考えがあって、何が正しくて何が間違ってるのか、正解はない。殺人出産で頭と心がかなり疲れたのか、短編だったもののあとの3作を読むのに苦しかった。村上沙耶香作品初心者は余命くらいの超短編からくらいが丁度いいかも。

  • 大好きな村田さんの短編小説。
    コンビニ人間、地球星人と続いて、この人はいつも変わった視点から人生を描いてくれて面白い。
    いつもハッとする。内容についていつも狂ってると言われてるけど、別に今の常識と言われる物事だって誰が決めたか分からないわけで。
    今回の殺人出産の中にある3つの話全て、そういった当たり前を誰が決めたの?と問われてるような作品だった気がする。

    やっぱり衝撃的なのは殺人出産だけれど。
    少子化への対策としては割と筋が通ってて面白い。
    あとは倫理観だけなんだけども、
    村田さんはそういった人の持つ倫理観は脆いものだと思ってるのかなぁと感じる。
    人間て確かにすぐ心変わりするし、数時間たったらどんなに衝撃的な出来事も忘れてしまうし、
    ちょろい部分ありますし。。
    もしかしたら殺人出産...あり得るかもなぁなんて思えた。

    あと殺される側の死を周りが綺麗なものと扱うのが最高に気待ち悪かったし村田さんらしいなぁって思った。

  • 「コンビニ人間」に続いて読んでみたけど、今回のも完全に狂ってて面白かった。登場人物みんな狂ってる。こんな世界観を描けるなんてきっと作者も狂ってる(褒めてる)

  • この世の「常識」が一体なんなのかわからなくなった。

    この本で普通とされている日本の社会は、現実の日本からすると異常と見做されるものだった。

    「恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界で、私たちは何か強烈な「命へのきっかけ」が必要で、」という文がとても印象に残った。
    本書では殺意がその衝動になると書かれているが、現実世界ではどうなのだろう。
    何のために恋愛をして快楽を得るのか。考えても意味がないことだが、この事を考えさせられずにはいられない本だった。
    10人産むと、人を1人殺すことができる日本。
    実際にこうなるとどうなるのか想像してみたが、なんだかんだ言って成り立っていきそうだなと思った。


    トリプルでは、「カップル」は誰の目から見ても普通でありふれたものなのに、そこに1人加わった「トリプル」はなぜ、ダメだと考えられるのだろうかと思った。
    トリプルという恋愛関係も、この話を読まないとなかった考えだった。
    今の日本にそのような恋愛関係はあまり普及していないが、この先できなくもないだろうなと思った。


    余命は、すごく短い話ですぐに読み終わったが、とても好きな話だった。
    私も死ぬ時はこの話のように自分で死に時、死に方、死に場所を選んで死にたいと思っているため、この話の日本は理想郷だった。

  • 暗い話で個人的には好きではなかった

  • 発想は天才的だと思う反面、自分は受けいれられなかったです。最後に気持ち悪さが勝ってしまいました。。
    ただ、常識というものは、結局は多数派が作り上げているだけなのではと思ってしまうような世界観がすごいと思います。

  • 思ってたのと全然違った。復讐とか強烈な殺意を達成するために10人産むのかと思ったら、世界観から違ってて、私にはどうしても共感できない世界で最後まで「なんで?」がぬぐえなかった。他の短編もものすごく個性的な世界で残念ながらどれも共感出来ず、気持ち悪さだけが残ってしまった。

  • 清潔な結婚ふつうに近い未来実現しててもおかしくない。殺人出産が成立してなくても、相手殺されてたんじゃね。とは思うね、狂気がないと10人も産めないよ

  • すごく面白かった!
    物語の世界線が現実味帯びていないけど、もしこうだったらの世界で描かれているストーリーがやけにリアルで読んでいてゾクゾクした!
    少しミステリアスなところがいい!

  • 村田さんの作品はとにかく鮮烈なインパクトがある。

    とりあえず娯楽として面白いのと、あれこれと考えさせられるところが私好み。

    ただし考えたとてすぐ答えは出せないトピックばかり。

    村田さんの作品の中ではいつも、ありえないが合理的な価値観や制度が登場する。
    「気持ち悪い。理解できない」という感想で終わる人もいるだろうし当然それでも良いとは思う。
    ただしその価値観を理論的かつ理性的に否定できる人は少ないのでは?とも思う。

  • ありえない設定?いや、あり得るように引き込まれる。

    • みどりのハイソックスさん
      わかります。

      まるで、私のいる世界が間違っているかのような、
      この世界が当たり前だ。と
      いつかはそうなるのかもしれない。
      まだ、その時が来...
      わかります。

      まるで、私のいる世界が間違っているかのような、
      この世界が当たり前だ。と
      いつかはそうなるのかもしれない。
      まだ、その時が来ていないだけ。と
      あり得るように引き込まれてしまいますよね。
      2022/04/12
    • 読書家まころんさん
      コメントありがとうございました。
      その通りですね。今は自分とは違う世界のことのように思えても、いつかはこんな世の中が当たり前になるのかもしれ...
      コメントありがとうございました。
      その通りですね。今は自分とは違う世界のことのように思えても、いつかはこんな世の中が当たり前になるのかもしれないと思ってしまうくらい引き込まれますよね。
      素敵なコメント、ありがとうございました。
      2022/06/12
  • 表題含む短編三作品
    タイトルと裏書きで購入。

    【今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。】
     もうこの裏書きだけで面白い。命に対する理屈がわからない。最初に読んだ村田沙耶香作品。
     全ての作品で男が薄い。男不在ではないが、男が感じられないというか、良くも悪くも添え物な感覚。全作品とも自分の中にある常識を非常識にするので、最初はうまく飲み込めないが、一度飲み込むとするすると入ってくる。
     最後の作品の「私」は性別不明だが、流れ的に女性だろうと感じた。


    以下、ネタバレ含む感想










    【殺人出産】
     舞台は、今とは価値観の異なる日本。基本的に女性だらけの話で、男性の存在感の薄さがオブラートレベル。偶発的な出産が減り、セックスは愛情表現と快楽を求める行為で、子を成すための行為ではなくなった世界。子供は望む人が人工授精で産むのが当たり前であり、その価値観から人口も減り、逆に10人産んだなら1人殺して良い殺人出産システムが採用されている。このシステムを利用して誰かを殺す人は「産み人」と呼ばれ、その殺意にはどこか畏敬の念すら感じられている。※死産や流産は10人に含まれない。

     逆に、人を殺してしまった場合は「産刑」になる。女であれば避妊具を外され、男であれば人工子宮を埋め込まれ、生涯牢獄で産み続ける。

     どちらも最初はピンと来なくて飲み込むには読み続けるしかなかった。しかし、私(育子)の姉が17歳で「産み人」になると言い出した事を語り始める辺りから、その世界のシステムに不思議な好奇心が湧いてくる。

     1人の人を殺すために10人産む事を一途なににかと捉えて、その思いを賞賛する人、殺人出産システムの産み人を「犠牲者」と捉え、このシステムを嫌悪する人、それぞれの価値観と、現在のギャップに殺人とは何かを問われる感覚はヒリヒリとして不快ではない刺激だ。

     純粋な殺人衝動、狂気の代償を支払ってから正当な手順で命を奪う者。純然たる無作為な殺意は、自らを生かす手段である人。なにを正義とするかは難しい。難しいから面白い。

     この殺人出産システムでは、10人産み終えると、殺人届を提出する。そして、翌日には殺される対象者(死に人)に告知され、それからひと月の猶予が与えられる。身辺整理とお別れをするための期間だ。死に人として選ばれた事は、10人を産んだ産み人と同様に、賞賛される。10人分の命を1人の命を犠牲に産み出すことに成功した人だからなのだろう。死に人の葬儀には白い服で参列し「ありがとう」と感謝する。遺族にも同様に、死に人へお礼を伝えるのが「当たり前」なのだ。そして、遺族は誇らしげに「どういたしまして」と答える。
     なんとグロテスクな光景か。
     しかし、それは今の日本に住む自分の感想であって、その世界ではこの感覚こそ異端である。

     この歪みが不気味で良い。
     この世界に生まれていたなら、自分はおそらく「死に人」に選ばれていた事だろう。この世界の死に人(チカ)は、ある人にとっては「望まれぬ命」であった。
     チカのケースの場合、悪いのは「死に人」でも「産み人」でもない。まだ、完全な避妊が行われていない時代に、チカの父親が避妊に失敗し、チカの母親が偶発的に妊娠した事が悪だったのだ。チカを「死に人」に選んだのは、かつての父の婚約者、父親は、婚約者がありながら、不誠実にチカの母親と関係をもち、チカを孕んだ事によって、元婚約者は、その腹に宿った命を恨み、その命を奪う事だけを思って10人を産んだのだ。実に痛いところを突いてくる。殺意はどこから自分に向かってくるか想像もできないものだ。

     姉は意外な人を、しかし、理解できなくはない相手を「死に人」に選ぶ。そして、妹は「産み人」の殺人の付き添いを頼まれる。そして……。

     殺意とはなにか、殺人衝動とはなにか、狂気とは、命とは。恨みとは、怒りとは、祈りとは。
     重たい話のはずが、重くなりすぎず、最後にゾクッとするホラーな一面もあり、読後は暫くスイッチが切り替わり難い。



    【トリプル】
     作者は「今の常識」が「非常識」になる世界を好むのか、この短編集のテーマなのかはわからないが、恋愛は2人でするものという固定概念をぶち壊そうとする短編。

     今の常識が変わりつつある世界。
     今時の恋愛は「トリプル」が優勢だが、母親の世代はデートとは二人でするものであり、恋人はカップル。三人でラブホテルに入れば乱行で、性に乱れた人間のする事だ。
     トリプル交際は十代を中心にここ数年で広がり、カップル交際は時代遅れだ。
     現代に置き換えるなら、見合い結婚が時代遅れ、または恋愛ができなかった者の敗者がする結婚で、恋愛の果ての結婚こそ「本物」とされるような時代の移ろいの最中なのだろう。実際、五年、十年あれば価値観は掌を返す。晩婚化の進む現在、婚活に取って代わった金銭の絡む出会いは、パーティーであれ、合コンであれ、マッチングアプリであれ、過去の見合いよりずっと安っぽく軽薄に思える。それとて、今の価値観で、またすぐに世の中の流れは変わるのだろうけれど。
     ここでは10代男子二人と10代女子一人がトリプルとして交際している。三人は三人で恋人関係で、友達だった男子二人は最初こそ困惑するが、すぐに三人の交際馴染む。
     キスをする時も三人。それぞれ角度を工夫して三人でキスをする。
     セックスも三人でするもの。一人の体調が悪ければしない。そのセックスも「我々の想像する普通」とは違う。
     トリプル交際が憧れで普通だった真弓(主人公?)には、カップル交際をしている友達リカがいる。カップル交際は今や異端で、リカは周囲のトリプルから「なんでカップルなの? カップルってどんな風にキスをするの? セックスは?」と聞かれることに辟易している。
     同性愛者が、異性愛者によく尋ねられることと同じだ。ただの好奇心であり、肯定する姿勢は見せても理解はしないマジョリティの態度。リカは過去にトリプルも経験したが、カップルでいたいと思っているし、トリプルを勧められれば即答で断る。しかし「もったいない、二人なんてつまらない」と言われてしまう。トリプルにとっては、カップルはなにか足りないのだろう。
     トリプルのセックスは、儀式めいている。マウス式セックスは、その日「マウス/口」になった者の穴が、二人を全て受け入れる。「マウス」が達したらセックスは終了。トリプルのセックスには必ずしも性器は必要ではなく、衣類を脱ぐ必要さえない。
     そして、隠していたトリプル交際が母親にバレ、叱責された主人公は10代らしく家を飛び出す。そして、近所のリカの家に逃げ込もうとして、カップルのセックスを目撃してしまう。
     二人が裸で抱き合い、性器を結合させているさまを見て、トリプルの真弓は激しい嫌悪感を抱く。嘔吐感が込み上げ、そんな行為で自分が誕生したのかと、シンプルにカップルのおぞましいセックスを見て汚されたと感じ、二人の恋人に助けを求める。

     どちらが「正しい」のかまったく判断ができないが、全て正解であり、不正解なのだろう。
     生理的な嫌悪は、一定の理解を示しているつもりであった主人公も一瞬でカップルフォビアにするパンチ力を持っていたことになる。

     これは現実だ。
     これが、今だ。
     だから不気味で、とてもリアル。



    【清潔な結婚】
     二つの作品のパンチ力が高く、三作品めはどこかぼんやりとしてしまう。
     性別を超えた清潔な結婚を望む夫婦は、婚活サイトで出会い、問題なく生活している。無性別結婚をし、性を極力排除した生活で満足しているが、子供は両者とも欲している。
     元より性関係を持たない結婚を望み、それを実践してきた二人が、子をなそうとした時に医療施設を使うことになるのだが、結局のところ性行為を医療として正当化する儀式的なものだ。
     なんとも不気味。
     医療行為の後、二人はこの夫婦の関係に「性」を持ち込まずにすんだことに違和感と安堵を感じている。最後の一文でこの夫婦がまもなく破綻するのだろうと予想させる感触が本当に不気味。


    【余命】
     三作品めで少しトーンダウンして、若干の違和感を残しながらの四作目。
     あまりなも爽やかに死の準備をスタートさせるところから始まる。この世界では予定して、頃合いを見て、死ぬものらしい。
     業者が来てさまざまな家財道具を処分している。軽快な会話の中「そろそろ死のうと思っているんですよ」とか話しながら、最後は「よい死を」と去っていく。
     医療が発達し、老衰がなくなり、事故などの死も蘇生可能になった世界では、自由に自分の望むタイミングで死を選択する。そのタイミングは10歳でも200歳でも構わない。さまざまな手続きをとり、計画的に死ぬ。

     なるほど、わからん。
     こんなに軽快な死があるものだろうか。まったく感情の入り込む余地のないシンプルな死。誰も傷付かず、誰も悲しまず、電源を落とすような死。
     死に方の指南所が溢れ、死自体が最後のアトラクションであるような世界。短編だからこそのテンポで最初の重苦しさから徐々に軽くなり、最後はプツッと断ち切られる。

     それでも、なにか本を読むかな……と思った時に「あの作家さんはなにか出してなかったかな」とチェックする程度に掴まれたし、たまに再読してしまう。自分にはない世界があって、落ち着かないのに心地いい。

     それにしても、強い笑

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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