殺人出産 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062934770

感想・レビュー・書評

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  • 人によっては気持ち悪すぎる描写が無理かもしれないけど、全ての話の設定が面白くて、最初の導入で引き込まれた。

    今の常識ではやばい、ありえないと思われるような考え方を正常としている未来の世界で、今の常識とされてることを言うと、「それはもう古い」とか、逆に「先進的」って言われてるシーンが出てきて面白かった。
    いつか、今は想像もつかないことが当たり前と言われるようになる時代が来て、今の常識に囚われてる私や私と同世代以上の人たちが、その考え方古いよって言われる時代が来るのかなって思ってしまった。

    ほとんど全ての設定が、今の時代ではありえないことばかりだけど、一部、今の時代でもありうる、共感できてしまうことが書かれていて、ありえない設定が少し現実味を帯びてくる。
    例えば、虫を食べるのが流行ってるのは、実際に虫のスナックが売れてるニュースを聞いたことがあるし、「清潔な結婚」の夫婦に男女関係を持ち込まないで家族・兄弟のように暮らすっていう結婚も、そのコンセプトだけ聞くとそういう価値観もアリなんじゃないかと思う。

  • 生死観のSFって面白いなと思った。
    殺人が合法となってること、セックス=子作りと結びつけられないこと。ポリアモリーの方が自然になること。人間の世界の話なのに、モラルが変わってしまうとこんなにも世界って不思議になってしまうのだなと思った。でも最後の、死ぬ時を自分で決めて、自分で死に方を決めるようになる話とかは、あり得ないことなんだけど最後まで妙に人間的だと思った。最後まで自分の死に方を通じてセンスとか経済力を人様と比べるってすごくリアルだからだ。
    あと世界が進みすぎているからこそ、殺人が生きている感覚を取り戻す美しい行為として描かれているのが面白かった。
    道徳やモラルがここまで変わることはないと思うけど、もし変わってしまったら新しいものがスタンダードになっていくのはとても不思議なことだなと思う。でも実際にそれが今までの歴史でも起こってきたのだ。昔の人が今の世界を見たら、私がこの小説を読んだ時と同じような感覚になるのかな。

    あとこの話を読んで古市の、「平成くん、さようなら」を思い出した。向こうは安楽死に関する話だったけど、どちらの本も生命や恋愛、死ぬことについての価値観を考えさせてくれる本だ。

  • 下ネタの概念をぶっ壊されるこの感じ、最高でした。
    このような未来になりませんように。

  • 正に世にも奇妙な物語のお話です。
    非現実的な設定なのに、これは近い将来起こりうるんじゃないの!?という錯覚に陥りそうな不思議な空気が漂っている作品です。
    表題作の殺人出産は、特に生々しいしい表現が使われており、それが村田さんワールドなのですがゾワゾワが止まりませんでしたね。
    今の常識は将来は非常識?常識ってなんだろう?
    とにかく常識を覆す話です。

  • 表題作含む4作
    「殺人出産」は今までとはちょっと違う感じでした
    10人子供を産むと一人殺すことができるという
    「トリプル」はカップルではなく3人で恋人な関係
    まぁそういうのもありかと
    「清潔な結婚」は性交しない夫婦の話
    だけど子供は欲しいという。実際にもいそうだなと
    「余命」は自分で死を選べるって話
    これもある意味あってもよさそうな

  • コンビニ人間ですっかり同著者にハマって、こちらの本を購入。基本的なスタンス「常識の範囲外(普通を疑う)」という点は共通していた。これもなかなか面白い本だった。3つの短編集だが、どれも発想に驚かされたし、納得いってしまった。同著者の他の作品もますます読みたくなった。

  • 殺人出産システム
    ─「10人産んだら一人殺してもいい」

    そもそも出産自体が死に直結すること
    なので 10人出産ということが
    どれだけ過酷なことかと考える

    果たして10人出産するまで
    殺意は持ち続けるのかという疑問も
    あるが相変わらずスゴイ事を考える

    でも 未来的には妊娠&出産も
    変わっていくんだろうな

    その他3編
    「トリプル」「清潔な結婚」「余命」
    もはや何が正しいかわからなくなるが
    自分は意外と
    受け入れられるかもしれない。。

    人口減少問題を村田沙耶香さん的に
    捉えると こういう世界観になる
    というのは納得できてしまう

    全てがつながっているようで
    深く考えせられた

  • 愛とセックスと生殖行為を切り離す。その設定の中で登場人物の世界に対する違和感や生理的嫌悪感は、私たちが数百年に渡って刷り込まれてきた「常識」にそのまま跳ね返ってくるのだと感じました。「センターっ子」「トリプル」「愛とか遺伝子がまだそれなりに信じられていた時代」「お大事に、よい死を。」それぞれに作り出された用語や概念が絶妙に恐ろしく、リアリティを生み出している。
    10人産んだら1人殺せる世界。人生をかけて殺したいと思う人。産刑。尊敬の対象である産み人、送り出される死に人。

  • 狂気としか思えない。
    でも、神聖さも感じた。
    かなりメンタルがすり減るので、二回目はきっと読まない…

  • 「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」「余命」の4編。
    たぶんすべて文芸誌で読んだことがある。
    ブクログで振り返ってみると、私の村田ファーストコンタクトは「トリプル」だった。
    そこで、うわーこの女性作家はSFチックな設定をSFへの敬意なく持ち込んでしかも女性特有と自ら訴えるセックスだか出産だかの感覚を媚びっぽく書いているなー辟易するわー、と思っていた。
    いわば不幸な出会いをし敬遠していたのだ。
    さらには芥川賞前後で中村文則とか西加奈子とかのサロン的な人脈の一員だということで、さらに嫌悪していた。
    が、「マウス」で見直し「ギンイロノウタ」でがつんとやられ、ながらも例のSFチックなアレはどうもね……と思っていた。
    が、読み直してみると、確かに「トリプル」はいまひとつ。
    だが「殺人出産」の、設定ありきの姿勢にはあまり乗れない。
    しかしラストの「殺人」は、作者のずっと描き続けてきた「性」と「殺意」の混淆のようなものなのだなあ、と感慨深い。
    それ以前に描写(の清冽さ)が凄まじい。
    ひとりの読者にとっての不幸な出会いと、その記憶を、それぞれ塗り替えるほどに。
    今後は、デビュー作「授乳」、評価の高い「しろいろの街の、その骨の体温の」を手に入れよう。

    ところでの作品集の単行本も文庫も、それぞれ装丁が素敵だね。

  • 10人産んだら1人殺せる社会という設定の表題作は、SF、ディストピア小説と割り切って読んだのでとても面白かった。もしそういうルールのある世界に自分がいたなら、どうするだろうかと考えさせられてしまう。

    瞬間的に人を殺したいと思うことは誰にでもあるだろうし、もちろん私もあります。電車でぶつかられただけでも「死ね」って思うし、夜中にドスドス騒音たてるマンションの上階の住人にもいつも「死ね」って思ってるし、私より無能なのに男で年上だというだけで私より高い給料もらってる上司にも日々「死ね」って思ってるし、社員はボーナスも出ないのに出張と称して会社のお金で海外旅行に毎年でかける社長夫婦のことも「100回くらい死ね。そして地獄に堕ちろ」って思ってる。

    ただ「こんなやつ死んじゃえ」って頭の中だけで思うことと「だから私が手をくだす」と実際に実行に移すことには深くて長い川があってですね、冷静に考えて、そんなどうでもいい相手を殺して刑務所入るくらいなら、引っ越す、転職する、などの選択肢はいくらもあるわけだし。だからそういう殺意って長続きしない。10人産んだら一人殺していいよ、って言われても、かかる時間は最低でも10年、その10年のうちにもうどうでもよくなるかもしれないし、自分が手をくだすまでもなく相手が勝手に死ぬなり不幸になるなりするかもしれないし、何十年もかけて10人も生む大変さ味わってまで殺したい相手は流石にいない。だから一番共感できたのは主人公の年下の同僚チカちゃんでした。

    しかしこのルール、つまり自分も誰かの強烈な恨みをどこかで買っていれば、自分が殺される対象になる可能性もあるわけで、そうなると結構、いつも良い人ぶっちゃうかもなあ。作中で、主人公をねちねち苛める職場の上司が出てきますが、こういう人はそういうことばかりしてるといつか自分が殺されるかもという危機感は持たないのだろうか。

    良いなと思ったのは人工子宮を移植すれば男性も出産を出来るようになっている点。女性だけの特権じゃなく、男性も平等。産みの苦しみも平等なのはいい。ディストピアものの常として、このまま少子高齢化が進めば、ありえない未来じゃないと思えるところが恐ろしい。殺人は別としても生むことだけに特化した層というのは作られてもおかしくない気はする。そしてそう思う自分が正しいかどうかわからないけど、こういう世界もけして悪いばかりじゃないって思ってしまう自分もいたりして、早紀子という女性のふりかざす正義に、なぜか不快感を覚えてしまう。主人公も言っていたけれど、極端な信念は、方向性は違ってもやはり狂気の一種だと感じます。


    ※収録作品
    「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」「余命」

  • 連作ではありませんが、『生、死、恋人、夫婦、家庭』といった身近なものの常識に、真っ向から『No』を突きつける作者の胆力と、そんな青くさい主張をグイグイと読ませてしまう構成力が光る短編集です。

    「殺人出産」
    SF作家のような緻密な設定はありません。村田沙耶香センセイは、ぶっ飛んだ設定の中に力技で読者を引き摺り込んでいきます。
    語られるのは『生と死(もしくは殺意)』。読みながらよくメモを取るのですが、この作品で取ったメモは
    「なんだ,,殺せばいいんだ!」のみ。
    没入感がヤバいです。

    「トリプル」
    恋人達の新しいカタチの提示。青春小説のような女子高生の日常と恋人達の目眩く過激なセックスが綴られています。
    恋人達の新しいカタチは、多様性にも対応した自由で柔軟なものに見えて、実はすでに様式化している点が悲しいです。

    「清潔な結婚」
    性的なものから切り離された清潔な家庭とはどういったものでしょう。
    「夫は家では一切の性行為を禁じることを希望し、それは私も同じだった。 『性とは僕にとって、一人で自分の部屋で耽る行為か、外で処理する行為なんです。 仕事でつかれて、ただいま、と帰ってくる家にセックスがある。そのことに生理的嫌悪感があるんです』」
    セックスレスの肯定でしょうか。お互いにセックスありの愛人が家庭外にいる清潔な夫婦。快適そうですが、夫は次のステップ(家庭=子作り)には進めなさそうです。その融通の効かなさが村田沙耶香っぽいと思いました。

    「余命」
    ラストは『死』でした。短い作品ですが、この短編集をしっかり締めています。

  • 「殺人出産」を含む、4篇が収められています。雰囲気としては、ヒューマンドラマを濃くした星新一という感じでしょうか。

    10人産んだら、1人を殺せる。もしも、そんな制度ができたら...。初めは、変わりゆく常識に懐疑的だった主人公が、ゆっくりと、でも確実にその常識に染まっていく様子は、読んでいてゾッとするものがありました。

    村田先生は、いつも興味深いテーマを作品にしてくださいますね。ストーリーとしては、多少飛躍している気もしましたが、自分はそこも含めて楽しめました。ただ、グロテスクな描写もあるので、苦手な方はご留意ください。

  • 発想がぶっ飛び過ぎて、驚いた。
    これがクレージー沙耶香なのか。
    「人を○してはいけない」
    「10人産んだら、人を○してもいい」
    どちらが正しいかは、わかりきった事なのに、読んでいるうちに、主人公の変容に納得している自分が居た。

  • 倫理観、正義感、常識、全てひっくり返される話ばかり。
    表題作は10人産んだら1人殺していい世界の話。
    男性も人工子宮で子供を産める。女性も男性も人工授精でお腹に宿し、1人殺すために10人産み続ける世界。
    狂ったように見えるシステムは合理的で、産む人も、殺される人も、命を繋ぐためのありがたい人として尊敬される。
    女性は一定の年齢で子供を産めないよう処置されるから、恋愛、結婚の先に妊娠出産はない。
    この発想が凄い。妊娠出産はあくまで自分で産みたい時に人工授精で産むし、自分で産みたくなければ産み人が産んで一括で育てられるセンターからもらって育てれば良い。
    血の繋がりなんてあまり関係なくて、国全体で子供を育てるシステムが構築されていた。
    人権やら尊厳やらは無視だけど、人口を増やし、安定的に国を維持するという点においては、とても合理的。
    そんな世界でのシステムに馴染まない主人公が、産み人、殺される人、産まれた命を見て、世界に染まっていく様が描かれている。

    「トリプル」は3人で付き合う話。異性で3人でもいいし、同性で3人でもいい。これはこれで幸せかも。

    「清潔な結婚」は肉体関係を結ばないで婚姻関係を結ぶ家族の話。最初から家族として人を選ぶとこういうことになるのか…って感じた。

    「余命」は星新一風味で好き。
    寿命がなくなった世界で、死に方を自分で選ぶ主人公。
    不死になっても人は意外と死ぬのかもなと共感。


  • 生と死と性をテーマとした「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」「余命」の4作品が収録されています。

    「コンビニ人間」で気になった作者さんだったので別作品も読んでみました。どの作品も世にも奇妙な物語のような独特な世界観を通じて、読者に対して常識の在り方を訴えかけてくるメッセージ性の強いお話でした。

    時代が変われば、今の当たり前は当たり前ではなくなる。それに伴って人の価値観も当然変化していくものなので、変化を嫌わず多様な考え方を受け入れる寛容さも重要なんだなと感じました。

  • 生と死と性について極端なまでに歪な切り取り方をした短編集4作。ある意味風刺が効いてる。

  • 読みやすかったけど話の内容はあんまり好みじゃなかった
    めちゃくちゃ短いけど余命が一番好き

  • 今「普通」と考えられていることや、「あたりまえ」だと信じられていることは、これから先もそうであるとは限らないんだなと思った

  • 多分中学のとき、ポップを書こうという授業があって、それでなにか衝撃的な本を題材にしようと思って、目に止まったのがこの本だった。
    殺人と出産。死と生という相反する概念がタイトルにあるこの本に惹かれた。少し怖い気もしたが読んでみた。ポップにする甲斐がある衝撃的な内容だったが、淡々と当たり前のように書かれているのが怖さや奇妙さに拍車をかけている。こんな未来になってしまったら末恐ろしいが、少子高齢化が叫ばれる今、あり得なくもない絶妙なリアルさで描かれているのでゾッとする。設定が細かく作り込まれているので、本当にファンタジーとは思えないほど。
    最近、この本の著者である村田沙耶香さんが『コンビニ人間』の著者でもあったことを知り、久しぶりに読みたくなった。『世にも奇妙な物語』のような不思議で心の奥がザワザワと不安になってくる世界観が癖になる。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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