殺人出産 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062934770

感想・レビュー・書評

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  • 性と命の常識を思いきり覆される短編4篇。だけど「こんな世界になるわけない」とは言い切れないことで、今ある常識が思いのほか脆いところに立っていることに気付かされる。
    10人産んだら1人殺していい、3人で性を営むトリプル、性だけを排除した結婚、死に期を自分で決める世界。

  • 4編はすべて生命倫理につながるテーマ。

    「あなたの倫理を揺さぶって目を覚ましてあげる」と著書に言われているように感じた。

    殺人出産では最大多数の幸福が正義。
    10人産んだ者が正義で1人の犠牲は問題ない。

    このシステムで殺される人に選ばれないように、つつましく謙虚に生きればよいという単純な話ではなかった。
    話は違うが、中国の信用スコアのようなものが高い人は除外されるとかあれば、犯罪やハラスメントの抑止になるのかとも考えるが絶対ではない。




  • 初めて読んだ、村田沙耶香さんの本。感想が書きたくて、もう一度読みました。2回目だったけど、どのお話も新鮮にショッキングだった。「殺人出産」を読んだ後、1時間くらいぼーっとして何も手につかなかった。
    「正しい」ってなんだろう、と何度も思った。私たちは常に取り替えられるだけの存在で、その時代や世界で正しいとされている考えに従って生きていかなければならない。主人公が生きている間に徐々に「正しさ」や「当たり前」が変わっていく描写が素直に怖かった。
    村田さんの世界や人に対するそういう考え方が好きなんだと思います。

    村田さんの性や愛に関するお話は、設定がぶっ飛んでるけど、確かに、と思わされることが多い。性や愛なんて主観的なものなのに、こうあるべき、とか愛し方はこうです、みたいな考えがあるのは不思議だな、と。

  • 村田沙耶香さんの本、発想が面白くすぐに読み終えてしまう。4ページのみの超短編小説、余命が好きだった。

  • RADWIMPS「ギミギミック」

    殺人出産では、殺人が罪であること。
    トリプルでは、2人で恋すること。
    清潔結婚では、夫婦でセックスすること。
    余命では、死ぬことや生きること。

    どの話でも、今「常識」とされている事が、完全に覆った世界が舞台になっている。
    ということは「常識」外れな話なはずなのに、合理的だな、あり得るかもな、と思えてくる不思議さ。

    何をしたって殺人は罪でしょう。
    3人を同時に優劣なく好きにはなれないでしょう。
    旦那が外で愛人関係を持つのは不安でしょう。
    死の訪れは当たり前にくるものでしょう。
    …と思っていたって、時間が経ったり、何か決定的なことが起これば、自分の価値観はすぐに変わる。
    どの価値観が正しいかは分からないけど、どんな価値観も盤石というわけではないんだなと思った。

    「コンビニ人間」もだが、自分の価値観や常識は他人に押し付けてはいけない。
    村田さんの本を読むと、「普通は」と話し始めてしまうのが良くないことだと感じる。「多数派は」と言ってしまえばいいのか。それも確かなデータではないけれど。

    私としては、「殺人出産」だけは、イマイチ共感できなかった。人口増加が良いことなのか分からないから、産み人と死に人の崇められ方は理解できず。
    センターっ子が乳児の段階で早めに売れるというのも想像できず。(成犬が残っていること多いし)

    「トリプル」は、3人同時に愛せる人がいるなら良いやんと思った。主人公の母のような軽蔑感情は特に無し。
    「清潔結婚」は、兄弟みたいな関係性の家族も良いやんと思った。 相手の価値観が崩れた時、愛人の方を好きになってしまったら怖いなとは思うけど。でも、家事もお金も対等に決めていたから、あれさえ守ってくれれば、自分の中でもあり得るのかもしれない。
    「余命」は、医療技術が進歩しすぎでも良くないだろうなあと思った。

    全部「今のところ」の盤石な感想だけど、再読すれば変わるかもしれないな。議論したら面白いかも。

  • 『生命式』にも度肝を抜かれましたが今回もすごい世界観。10人産んだら1人殺してもいい『殺人出産』の世界。3人で付き合うのがメジャーになった『トリプル』の世界。性を伴わないクリーンな繁殖の『清潔な結婚』の世界。医療が発達し自ら死ぬ時期を選ぶ『余命』の世界。
    村田沙耶香の死生観には驚かされるが、いつか本当になるんじゃないかとサラッと思わせる文体もすごい。

  • コロナ禍でどこにも行けないゴールデンウィークに読了。

    生や死の常識が変わっていった後の世界を描いた本。新しい常識を信じて疑わない人、変わっていく常識に追いつけない人も描かれている。

    今、現実でもコロナ禍をきっかけに、世界のシステムが変わりうる感じがしていて、そういう意味で今の気分に合った本だった。

  • この本を手に取ってみてあらすじをみてパラパラとみては、帯に書かれた常識とは何か。や、近い未来に起こりそうな妙でリアルな描写と殺人出産のシステム。考えさせられる物語だった。

  • 98

    全く今の常識が通用しない世界が繰り広げられる短編4作。こんなことを考えている人が世の中にいるのが、怖い笑 村田沙耶香はコンビニ人間のときもそうだけど、どうやったらこんな世界を思いつくの。

    10人産んだら1人殺してもいい 狂った世界。
    その1人に選ばれたら葬式はみんな白い服を着て白い花を一輪捧げる
    ここが一番狂ってると思った。こっわ。

    トリプルは3人でのセックスの仕方が狂気じみてて怖かった でもトリプル側としてはカップルのセックスの仕方の方がおぞましく書かれてて

    読んでて自分の常識が一切通用しない分、眉をひそめて読んだけど読む手は止まらなかった。
    これはすごい話たちだ。

    20191229

  • コンビニ人間、マウスと読んできて好きな作家さんとして自分の中にある村田沙耶香さんの殺人出産。
    テーマは同じで何が正しい事で何がおかしい事なのかを考えさせる内容だと思うんだけど、ちょっと今回の作品はえぐかった。
    特に表題の殺人出産とトリプル。
    短編でサラッと読めるんだけど、内容が重い。
    自分自身、自分と考え方や物の嗜好が違うからって排除するつもりは無いけど、でも普通の事としてすんなり受け入れるのもちょっと無理だなぁって思った。
    正直、LGBTとかも仕方がないのかなぁとは思うけど個人的には受け入れられないもんなぁ。

  • 村田沙耶香さんが描く、独特の生と死の世界観。他の作品と同様、性的な描写と表現が苦手な人もいるかもしれないが、私は少し中毒になり始めている。

  • いのちをこの世に送り出す行為である「出産」と
    いのちをこの世から消し去る行為である「殺人」
    相反する言葉がくっついたタイトルに惹かれて購入。
    先が気になりすぎて、ページをめくる手が早まったのはこの作品が初めてではないけれど、
    何とも言えぬハラハラ感、不安と後味の悪さはこれまで読んで来た作品の中でダントツのトップ。

  • 「殺人出産」
    人を殺したければ、10人産めば良いという世界。
    読み終わった率直な感想としては「何これ?」という不可解さ。でも何か伝わってくる、命の尊さみたいなもの。
    子どもをつくる行為も、人を殺す行為も、命を操っているという観点においては同じことなのかもしれない。産み人は、それをエゴのためではなく人類のために行っている。
    美しい世界だと思いました。
    「トリプル」
    三人で恋人同士になるという世界。二股とかではなく、本当に三人でキスしたりセックスする場面は、新しいなぁと思って読みました。一対一じゃなくて、三人で付き合うことで、秩序とかが守られるのかもしれない。それはそれで良いと思うけど、セックスだけは二人でしたいなぁと思いました(笑)とにかく新しいですね。あとお母さんとの言い合いで殴りすぎw
    「清潔な結婚」
    タイトル通り清潔な結婚ゆえ性行為のない夫婦が子どもを望んだ場合にどうするか。性的対象の相手と結婚として適した相手が一致するとは限らないという問題を描いた小説。その問題には共感できる…けど、極めすぎていておもしろかったwてゆうかラスト、夫どうした?やっぱ嫌悪感?
    「余命」
    これは…すごいな。
    医療が発達して死がなくなった世界では自分で死ぬ準備をしないといけない。「死」がすごく軽い感じで描かれているけど、世界から「死」がなくなったら、そんなものかもしれません。

    • siesta05winさん
      清潔な結婚。
      私もラストに夫が吐いた意味がイマイチ分からず、どうした!?って思いました。
      やった行為への嫌悪感なのか、自分が親になるのこ...
      清潔な結婚。
      私もラストに夫が吐いた意味がイマイチ分からず、どうした!?って思いました。
      やった行為への嫌悪感なのか、自分が親になるのことを想像しての嫌悪感なのか…
      2016/12/30
  • エログロありの、はっきり言って気持ち悪い話である。
    この本には異常者しか出てこない。

    ただそれは、読者の「普通」の価値観からすれば、だ。
    本の中の世界は「異常」な価値観が市民権を得たまたは普通になった世界。そして「こちら側」にいる登場人物、狭間にいる登場人物もいて、彼らの苦悩する姿も描かれる。

    別に「普通を普通と思うな」なんて説教臭い話ではない(おそらく)。ただただ「向こう側」の在り方の描写が生々しく、読んだ後もしばらくは脳にこびりついた。

  • 久しぶりの読書。短編から始めるのって良いね
    相変わらず不思議な世界観。洗脳されるような感覚がたまらない

  • 当たり前が崩れると、全く違う世界に見える。
    10人産んだら1人殺せるーーー。そんなのおかしい、正しくない。でもそれは本当にそうなのか?
    生と死は常に隣り合わせ、いつだって誰だって殺人ができる世界には変わらない。人口は減らないし、合理的なシステムにもみえる。産刑や産み人の殺意が未来を作る点には不思議な気持ちになる。倫理はどうなのか?は考えたいとこ。

  • 人の生死にについて、
    再度考える機会をくれるそんな本でした
    一見すると現在の世界ではありえないと、
    否定してしまいたくなる内容です。
    しかし、良く良く考えてみると、
    生物としては利にかなっている部分もあり、
    何度も本書の内容について、
    考える価値があると思いました。

  • 美醜、善悪、男女、生死、明暗‥‥村田沙耶香の描く世界では、相反するものの境界が暴力的に引き剥がされていく(気がする)。

  • えぐい。
    村田沙耶香初。

  • 短編4話すべて、設定が面白い。
    ただタイトルにも挙げられてる「殺人出産」に関しては設定が興味深くて惹かれ過ぎる分、着地が難しい内容だったかなと感じた。

    ・殺人出産
    10人産んだら1人殺していい、という倫理的には問題だけれども合理的には納得のいく設定に、物凄く惹かれたし、感心させられた。
    姉の環は潔く『産み人』になって殺人を犯すことを決めて20年間を捧げたけど、妹の育子はずっと殺意を心の中でフツフツと飼い続けてて、環に誘われて実際に正式な殺人に加担したことによって殺人欲が爆発したような気がして、妹の方が余程サイコに感じた。
    ただ設定が面白いだけに、個人的にはそこまで納得のいく終着では無かった。
    殺人に神秘性を感じた結果罪を背負う覚悟が生まれたのかなんなのか、半日経った後に殺人を告白して産刑を全うするというラストだと受け取った。
    けど、早紀子の胎児を殺して悦に浸るのはやっぱり育子があまりにも異常すぎると思う…。殺人が大きく非難される時代と大きく美化される時代の狭間で生きたからこそ生まれてしまった異常性なのか、先天性のものなのか…。

    ・トリプル
    読み始めでは、1人の女性(もとい男性)に対して2人の彼氏(もとい彼女)という意味合いでのトリプルかと思っていたら、読み進めるうちに3人は互いにしっかり矢印の向いた恋人同時という意味だと理解して驚いた。
    マウスを決めてセックスする、ことが真弓にとっての正しいセックスなのがどうしてもカップル思考の現在に生きる自分からすれば違和感。だけどまだまだ若い彼らからそればそれが当たり前で自然なことなんだもんね…。トリプルでのセックスの描写はかなりおぞましい。一夫多妻制や一妻多夫制とは別物だなと感じた。流行って欲しくは無いな…。

    ・清潔な結婚
    家庭を持つという意味で惹かれる相手と性的欲求を抱く相手は別物だ、という考え方を持っている人間は現実にも沢山いると思う。この夫婦のようにお互いにそれを話し合った上で性的衝動は他所で解消することを認め合う関係というのは実際に聞く話だし。
    自分はそういう考えではないから戸惑ったけど、お互いに認め合った夫婦は不倫相手(で正しいのか)から嫌がらせされても嫉妬に狂ったりはしないものなの…?
    そして、ラストで夫が具合悪くしていたのも理由が気になった。どういう意味合いなんだろう…。
    いくら機械か妻か分からない状態で射精出来たとはいえ、産まれる子供はその行為の元出来る子供に変わりは無いし、子供の声を聞いてふと気持ち悪くなってしまったのかな。

    ・余命
    面白い。突然やってくる死がなくなった分、自分で死に方を選んで好きなタイミングで死ぬ話。
    ショートショート。
    「死ぬことは認められている」けど、自分で死ぬしかないのが余程残酷だと思う。こういう世界であれば、自然な死がやってくる方が余程気が楽かも。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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