- Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087202496
作品紹介・あらすじ
二十四年の短い生涯に、近代文学に燦然と輝く名作を残して逝った樋口一葉。その象徴性に満ちた文学は、江戸から明治、古典から近代文学へという時代に生まれ、そのどちらをも超えた魅力をはなち、現代に読みつがれている。本書では、代表的五作品『大つごもり』『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』『わかれ道』をあらゆる角度から読みこむ。遊廓吉原のにぎわい、西鶴など、江戸から当てた光はまったく新たな世界を浮かびあがらせ、登場人物たちの心情への鋭い考察は、"人間・一葉"の真実に迫る。「いやだ!」といいながら、困難な時代に立ち向かった一葉の魂のメッセージを伝える著者渾身の評伝。
感想・レビュー・書評
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2021/9/2
『にごりえ』『たけくらべ』のみ。
信如が枝を折る何ともなく読んでいたシーンを、古典文学である和歌や漢詩に求めて解釈する考察はなるほどと。
それと、『たけくらべ』をミュージカルに例えるのは面白い。美登里という女性の苦悩に焦点を当てながらも、彼女を取り巻く人々を描くことで、普遍的な人間像を炙り出している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本近世文学を専門とする著者が、樋口一葉の代表作『大つごもり』『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』『わかれ道』を読み解き、とくにそれらのうちに「江戸的なるもの」をさぐりあてている本です。
同時に著者は、前田愛の『樋口一葉の世界』(1993年、平凡社ライブラリー)を高く評価しており、一葉のテクストのうちにジェンダーの問題や「金」というテーマを見いだしていますが、『にごりえ』の解釈では「闇の世界/死の世界」という前田の解釈の枠組みに対して、主人公のお力は「境界を喪失した人間」なのではないかという考えを提出しています。これは、テクスト論的な構造の枠組みを内側から踏み越えるような問題につながる指摘だといえるようにも思うのですが、この点については議論は掘り下げられておらず、ある意味では読者に解釈をゆだねているといってよいのではないかと思います。 -
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国文学科の授業を思い出しました。
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[ 内容 ]
二十四年の短い生涯に、近代文学に燦然と輝く名作を残して逝った樋口一葉。
その象徴性に満ちた文学は、江戸から明治、古典から近代文学へという時代に生まれ、そのどちらをも超えた魅力をはなち、現代に読みつがれている。
本書では、代表的五作品『大つごもり』『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』『わかれ道』をあらゆる角度から読みこむ。
遊廓吉原のにぎわい、西鶴など、江戸から当てた光はまったく新たな世界を浮かびあがらせ、登場人物たちの心情への鋭い考察は、“人間・一葉”の真実に迫る。
「いやだ!」といいながら、困難な時代に立ち向かった一葉の魂のメッセージを伝える著者渾身の評伝。
[ 目次 ]
序 花と布
1 享楽の吉原―『たけくらべ』
2 盆十六日のひとだま―『にごりえ』
3 師走みそかの訣別―『わかれ道』
4 大晦日はあはぬ算用―『大つごもり』
5 十三夜の月から見る―『十三夜』
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ] -
樋口一葉が、いやだと言いっぱなしでなく、言った上で現実に向き合うのが、すごい、力だと思う。さすがに五千円札になる人間は違う。遊郭の中の、凝縮された人間関係は、結局は世間の反映なんだと思う。
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なんかで読んだ書評のなかで,最もこれを薦めている人が多かったから読んだ.
確かに面白い.
樋口一葉の解説,本の解説,と言うよりはむしろ樋口一葉作品を通じて江戸時代の文化やそれを樋口一葉がどうとらえどう考えたかということについて書かれていたのがよかった.
こういう風に誰か特定の作家の作品を読めたらすごく楽しいだろうな,と感じた. -
控え目で薄幸な女というイメージが強い樋口一葉ですが、
三者三様の描き方の中に共通項があった。
意外な一葉の側面を知ることができる。 -
大和言葉の柔らかな響きが魅力的な物語を描いた樋口一葉の評伝。この手のものは著者の立場や考え方も非常によく投影されていて、樋口一葉が描かれつつも、著者の田中優子をも透かしてみることが出来るような気がする。「江戸の恋」も読んだが、この著者の考え方はなんだか古いのか新しいのか分からない。けれど、十分納得がいくものがあるので、自分は好き。
樋口一葉は「(狭)間にしか生きられなかった」という結果になってしまったけれど、彼女が求めたのはむしろさまざまなボーダーを超えてゆくことではなかったのだろうか、と思った。ジェンダー、身分制度、世間的なしばりのある貧困、家族、そんなボーダーを。
ボーダーを超える。自分にとっても非常に魅力的な響きがある。
同じ仕事をしていても、「女性は結婚すればいいのだから」という考え方を嫌悪した、と著者自身も記していましたが、これを読んで「そうそう!」と強く頷いたものだ。結局、女性という存在をフェアに見ていないことになるから。
つまり、樋口一葉は最後には世捨て人のように、このような「しばり」がない世界として乞食になりたいと思ったのだろうなあ。でも、それは生きているうちにはほとんどかなわないことだろう。
人間の生物性を捨てることになるから。