エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087452525

感想・レビュー・書評

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  • 今、ノンフィクションを書かせたら右に出る者がいない佐々涼子さんの衝撃的な作品。今まで意識した事がなかった世界を見せてもらえる。『紙つなげ』も名著だが、読後感の衝撃は遥かに大きい。優秀なノンフィクションならではの感動を味わえる。

  • 久しぶりの重めのノンフィクション。

    国際霊柩送還士という、亡くなった人を国を挟んで遺族の元へ送る仕事の話。

    単に運ぶのではなく、破損の激しい遺体を遺族の方に見せられるよう修復し、大事に慎重に輸送する。
    遺族の方のプライベートには入り込まず、さりとて心には寄り添う。
    そこには命ある人への、かつてあったはずの命を、誠意を込めて送り届ける、崇高な使命があった。

    しかし仕事の内容は苛烈を極める。いつなんどき仕事が発生し、その仕事はいつでも緊急である。

    天災などあった際にはとんでもないことになる。

    美しい仕事なんて言葉では語り尽くせない、人としての心に、命に触れる、いつの世もなければならない仕事。

    そんな仕事の実情を、ライターの方が書ける限りの範囲で見せてくれる。

    死について、違う観点で触れることができる良作。

  • 定期的にノンフィクションが読みたくなり、いわゆるジャケ買いで購入したが、圧倒的な取材力と、それを伝え切ろうとする作者の熱意を感じ、あっと言う間に読了。あらゆる人にお勧めしたい作品。NHKのプロフェッショナルで取り上げてくれないかな…
    映画のおくりびとは、静かにゆっくりと亡き人に向き合う作風だが、こちらは、これでもかというほど、エンバーミングの実情をつきつけてくる。仕事柄、ご遺体は貨物として取り扱われるのは知っていたが、日本にこんな素晴らしい会社があるのかと驚いた。切なくも尊く誇り高き仕事。

  • 外国で亡くなった人はどうやって祖国に戻ってくるのだろうか?
    皆さんはそんな疑問を持ったことがあるだろうか。

    この本では、聴きなれない職業である「国際霊柩送還士」という仕事で活躍している、
    エアハース・インターナショナル(株)という会社の社員が日々闘い続けている現場を取材した
    感動のドキュメントである。

    始めに国際霊柩送還士という仕事について書いてみる。
    外国で旅行とかビジネスで不慮の事故で亡くなった人は、現地の警察等の身元確認後、
    本国に送り返される。
    その時に、遺体が腐敗しない状態に処置するのは、「エンバーミング」。

    そのあと、書類のやり取り、輸送業者との段取りをする一連の仕事が国際霊柩送還士という仕事。
    不思議な仕事であるが、遺族とのお別れの時に、生きていた本人で有ることが
    分かって、さらに表情も穏やかになった状態まで修復する技術は読んでいて圧巻。
    なぜ、そこまでやるんだろうとエアハースの人たちも思う。
    その現場を紹介しよう。

    まず、登場するのは、社長の木村理惠。
    理惠は東京港区の板金工の娘として生まれた。
    父は典型的な職人肌で、親方タイプ。
    理惠はそんな父に影響されて、負けん気の強いリーダータイプ。

    葬儀業界に入った理惠は全体を把握する能力と気配りは上司にも一目置かれる存在だった。
    葬儀会社の現場を仕切ることをすぐ覚えて、エアハースの社長について。
    エアハースに入ってから、みんなに心配される位、動き回って遺族のために心遣いをすることが
    倒れてしまうのではないかと心配されるほどの行動力。

    一方、エアハース設立に関わるもう一人の人物、会長の山科昌美。
    理惠より以前から葬儀業界にいた山科は理論派タイプ。
    まだ、「国際霊柩送還士」という仕事をどこの会社も専業で行っていないときに
    こんなことがあった。

    フランスの柔道家が日本で亡くなった。
    なんとか遺体の形で本国に帰したい。山科に問合せがあったが、
    その手配をするために、色々調べたら専門で行っている業者がいない。
    そこで自分で全て書類等の手配を行った結果、無事フランスに送り届けた。
    そこで、初めて「国際霊柩送還士」という仕事の重要性を感じた。
    と同時に自分がこれを専業としようと決意する。

    他にも理惠も息子利幸の二代目の頑張りだったり、他の社員の活躍が
    本書には見事に表現されている。

    本書で感じる共通点は、遺族は確かに亡くなったことは悲しいが
    遠い国でどうなっているのか不安なまま、まったく本人と分からない状態ではなく、
    生きていた時の表情で帰ってきたときに発する言葉、
    「本当にありがとう、〇〇ちゃんが帰ってきたことが信じられない」という
    言葉の数々を発するのが心に浸みてくる。

    最後に本書から、心の中に刻まれた言葉を引用して終わりにしたい。
    息子の利幸が仕事での心境をこう、語っている。

     「ご遺体に対面した時はまるで合戦場に行った時のような感じです。
    アドレナリンがぶわーっと全身を駆け巡って『絶対になんとかする』という気持ちになる。
    臨戦態勢っていうのかなあ。その時、頭は真っ白ですね。言葉という言葉は吹き飛んで、
    真っ白ろになる。」

    会長の山科の言葉。

     「親を失うと過去を失う。

     配偶者を失うと現在を失う。

     子を失うと未来を失う。」

  • 日本にいる外国人の遺体の搬送、外国にいる日本人の遺体の搬送を専門で扱う会社があったとはこの本を読む前まで知らなかった。遺体に向き合うこの会社の人達の姿勢にも感銘を受ける。高田郁さんの出世花を彷彿させるような強い意思がこもった作品だった。「彼女の人格がそのまま会社のカラ―になっている」と表されている社長の木村利恵さんと執筆した佐々涼子さんの生き方も素敵でした。

  • アマゾンプライムビデオで配信中。
    物語だと想像していたのですが、全てノンフィクションで実在している会社のリアルなドキュメンタリー。
    海外で命を落とす、という想像しにくい世界をリアルに再現。知力・体力・精神力が求められる過酷なお仕事の実態が書かれています。

  • 「死」というものに おそらく大抵の人間よりも恐れ忌み嫌いつつも、大抵の人間以上に関心がある自身が、綺麗事ではない死の、それも遠く離れた地で迎えた死の肉体的現実が生々しく描かれたこの本を読んでみて、ただ単に現実を書き上げているだけでなく、なぜ日本人は遺体を物体ではなく肉体として重要視するのかという漠然とした疑問が解ける内容でした。
    葬式は残された家族のためとよく言われるけれども、まさにそのとおりで、その残された遺族がいかに納得できるかを追及しているのがこのエアハース・インターナショナルであると、「死」を恐れる気持ちが少しは晴れた...とまではいきませんが、スッと落ちる読後感でした。

  • 業界のパイオニアであるエアハース・インターナショナル㈱への取材をもとに執筆された本書。

    とても良かった。
    衝撃が大きくてなんて言葉にすればいいのかわからない。
    海外旅行・海外勤務をする人が時代とともにどんどん増え、自然災害も起きてるのに、どうして今まで関心を持たなかったんだろう…。調べようと思わなかったんだろう、って思いました。
    だからこそ今読めて良かった。

    世に知られることのない「命」を扱う仕事。
    遺族の全く手の届かないところで、こんなにも真摯に、心を砕いて、故人のために尽くしてくれる人がいる。
    読みながら何度も、何度も、いろんな感情が高ぶって胸がつまりました。
    読後のこの気持ちを私の語彙ではとても伝えられない。
    とにかく、読んでみて欲しい1冊!

  • この本を読めて良かった。
    今まで知らなかった影の偉大なる仕事。
    国際霊柩送還師という存在。
    この仕事は仕事は産婆に似ている、という表現があった。
    家族にはできない、取り上げる作業と送り出す作業。
    ただ、送り出す作業にはマニュアルはないという。
    死因も状態も家族もまるで違う、一人として同じ条件の人はいない。

    一瞬だけまるで魂を呼び寄せるように、お別れをするために全力を尽くして故人と対話をする。まるで霊能者のようにメッセージを受け取る。

    死は非現実的なんかじゃない、生と隣り合わせで、生きてきた生き様の集大成として亡くなる。どんな風に生きてきた、死をもって明らかとなる。
    記憶に残る人でありたい、そう思うからにはそれなりの努力や尽力をしなきゃ身勝手なものなのかもしれない。
    何もしないで人の記憶に残りたいなんておこがましい。

    家族にとって、生き返るなんて思ってなくても、
    あれこれ段階を踏んでそれでも生き返らないということを身を以て知る、
    その過程こそが大事だという。
    その通りだと、経験をもって思い返す。

  • 取材テーマ先の仕事に関心を持ち読了。
    仕事として頭が下がる。
    文章の構成を弄ばなくても、十分に気持ちは伝わるのに…そこがもったいない。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。著書に『エンジェルフライト』『紙つなげ!』など。

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