- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087714890
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
世界観と登場人物を同じくする短編 5編からなる物語。ヤクザまがいの生業で生きる2人の男たちが、離婚してバラバラになる家族とドライブしたり、凶器を運ぶ女と一緒に検問を通過したり、虐待されている少年の親をびびらせたり。少年時代のエピソードも良い。
怪しげな犯罪、軽妙なセリフのやりとり、親切が回り回るような展開。少し間が抜けていて、みんな根っこが優しい。伊坂幸太郎の真骨頂。
読み終えて初出を見たとき初めてそれぞれの初出時期などを知ってびっくりした。最後の章ですべてが「締まる」のだけど、作者はここまで全部を最初から想定して書き始めていたのかな??
頭からまた読みたいと思わせる文句なしの星5つ。ラストも素晴らしい。 -
裏稼業コンビの溝口と岡田をめぐる5つの短編集。
時系列がバラバラだったり、
テイストも違う5編だけど、
1冊を通してしっかりと一つの物語になっている。
伏線の張り方や言葉のチョイス、ユーモアのセンスなど
昔の懐かしい伊坂さんの小説という感じで面白かった。 -
「頼むぜ。車間距離ちゃんと取っておけよ。いいか、距離感なんだよ、人生は」
「で、理由は何だよ。何で、この仕事を抜けるんだよ」
「これ、っていう理由はないんですけど。俺の仕事って、相手が泣きそうな顔になるじゃないですか ー 相手がつらそうにしてるの見るのって、あんまり楽しくないんですよ」
「昔、俺の親父が言ってたのを思い出すぜ。『子供作るより、友達作るほうがはるかに難しい』ってな」
「今日で解散なんですよ ー わたしたち離婚して、今日、マンションも引き払うんです」
「へえ ー 解散ってのはやっぱり、音楽性の違いとか?」
「岡田さんに、この半年くらいの我が家の、どんよりした空気を体感させてあげたいよ ー あそこにいるくらいなら、満員の通勤電車で生活したほうが一億倍マシ。空気もだんぜん、マシ」
「ぎすぎすしてたんだ」
「ぎすぎすどころか、ぐおんぐおんしてましたよ」
「過去のことばっかり見てると、意味ないですよ。車だって、ずっとバックミラー見てたら、危ないじゃないですか。事故りますよ。進行方向をしっかり見て、運転しないと。来た道なんて、時々確認するくらいがちょうどいいですよ」
「駄目じゃないよ。明日から、もう俺の人生、残り全部、バケーションみたいなものだし。バカンスだ」
『「意味分かんないんだけど」早坂沙希はきょとんとしていたが、そこでようやく俺を見上げるようにし、「バケーションってのはいいね」とにっと笑った。「わたしもそうしようかな、残り全部バケーション」
悩んだ末に、俺は正直に言った。「百年早えよ」』
「食べ歩きですか ー そういうのって楽しいですか?」
「まあ、食べるのが好きならば ー 岡田さんは好きな食べ物とかある?」
「どうでしょう。あまり考えたこととかないので」
「そういうのって、考えることではないと思うけど」
「まあ、理論上だけのことみたいですけどね。世の中のことは何でも、理論上はうまく行くんですよ」
「理論を邪魔するのは何だろうね」
「感情じゃないかな」
「検問なんて、形式だけで、ろくに調べちゃいないんですよ。おざなりなんですよ、ねえ、溝口さん、そうですよ」
「だからって、怪しい段ボールの、怪しいバッグの、その中の怪しい金を見過ごして、どうするんだよ。そんなのは検問じゃねえよ。ただ、税金で渋滞作ってるだけじゃねえか」
「あのレジ袋ってなかなか口が開かない時あるんですよね。ぴったりくっついちゃって。静電気ですかねえ。指で散々、こするんですけど、開かないんですよ」
「なんだよそれ」
「で、俺はこのまま、スーパーで、レジ袋を指でこすったまま、歳取っちゃうんじゃないかって不安になることないですか?」
「おまえ、何か面倒臭いことを言い出したんだろ、どうせ。『別れるなら、奥さんに言うわよ』だとか、『お金をちょうだい、さもなくば』だとか。人間、『さもなくば』なんて日本語、使う時が来たら、おしまいだよ。人生のうちで、そうそうないぜ、そんな場面」
「確かに、あいつは、この車が盗難車だってことも知らないはずですしね」
「盗難車じゃねえよ。これは、あそこに置いてあっただけだ。だろ? 鍵がサンバイザーにはさんであった。あのままあそこに停めてると誰かに盗まれるかもしれねえから、親切な俺たちが運転して、安全な場所まで運んでやってる。それだけだ」
「あ、ですよね ー 財布拾って、交番探してるようなもんですよね」
『確かに、弓子先生は、僕たちを叱る時、僕たち自身ではなく僕たちがやったことに、がっかりして、怒っている。だから、僕たちは、自分自身ががっかりされないように、次からは頑張ろうと思う。』
「俺の知り合いは、そのうち電話も持ち歩く時代が来るぞ、なんて言って息巻いてるけど、そんなの夢物語で現実味がねえ。電話持ち歩いてどうすんだって話だ。だろ? 『もしもし、山田さんのお宅ですか?』って訊いたら、『いえ、今、家ではなく歩いております』とか答えるのかよ。おかしいだろうが。そんなに急用なんてねえよ。外で電話で喋るくらいなら、直接会いに行くっつうの。」
「岡田君たちはおうちに帰ってて、これは先生の問題だから」
「先生の問題? いつだって、先生の出す問題を解くのは、俺たちじゃないか」
「警察に連絡して」
「連絡してって簡単に言うけどな、電話ってのは持ち歩いてるものじゃねえんだぞ」
「あ」
「あ、じゃねえよ」「実はそれが」「実はそれが、じゃねえよ」「それが申し訳ないです」「それが申し訳ないです、じゃねえよ」「カメラが」「カメラが?」
「壊れてしまいまして」
「でもまあ、最近、よく思い出すんだよ」
「何をですか」
「岡田がな、この仕事を辞めるって言い出した時に、『俺の仕事って、相手が泣きそうな顔になるじゃないですか』『相手がつらそうにしてるの見るのって、あんまり楽しくないんですよ』とか溢したことがあってな」
「まあ、溝口さんの仕事は、相手の嫌がることですからね」
「当時は俺も、楽しかったら、仕事になんねえだろうが、って笑ったもんだ」
「それを思い出すんですか」
「どうせなら、つらい顔をさせない方法もあるんじゃねえか、と思いはじめたんだよ」
「どういうことですか」
「相手の弱みを突いたり、ミスにつけ込んだりするんじゃなくてな、相手を喜ばせて、貸しを作ろうってことだよ」
「意味とか関係ねえんだよ。八分でも十分でも、飛べるなら飛ぶんだよ。損得じゃなくて」
「その時は、どこかでずっとバケーションでも満喫してやるよ。俺の人生、残りは夏休みだ。宿題なしでな」 -
滅多に読まない伊坂さん、たまたま手に取る。小粋な絡みはバトンリレーの面白さ。幼い頃TVで見た…"チキチキマシン猛レース"を思い出した♪。
-
溝口や岡田のひょうひょうとした感がいい。面白かった! けど、ラストのメールが誰からなのかは、やっぱり気になるわ。
-
伊坂幸太郎らしい話。
犯罪のチームから抜けて一般の仕事に就きたい岡田。
岡田はそれを先輩に打ち明けると、「適当な番号にショートメールを送って友達ができたら仕事から抜けられる」という無理な賭けをすることに。
でも意外や意外、友達ができそう!?
その他、岡田をめぐる人たちのちょっと変で、でもなんだか納得してしまう変な話の数々。 -
伊坂さんの本は、確か3冊目。
ラッシュライフに似た作品だったなぁ(´ω`)
繋がりのある短編集。
・残り全部バケーション
…岡田さんと離婚した家族のドライブ話
・タキオン作戦
…岡田さんと当たり屋に当てられた権藤さんで、父に虐待されている雄大くんを助ける未来からくるターミネーターの話
・検問
…溝口さんと太田が誘拐した女性を乗せた車が検問に合う。無事にスルーするがその盗難車には大金が入っていた。その女性は、殺害された国会議員の愛人で銃を捨てる役だった。
・小さな兵隊
…小学生時代の岡田さんと映画監督になった同級生が弓子先生をストーカーから助ける話。アドバルーンのバイトで溝口さんが登場する。
・飛べても8分
…溝口さんが骨折し入院した病院で毒島さんにする復讐話。
果たして岡田さんは生きているのかな。
サキさんって、岡田さんがドライブした家族の娘だよなぁ。毒島が少しは情けをかけてくれているといいな。
溝口さんの「飛んでも8分、歩けば10分、メールは一瞬。だとしても、飛べるなら飛ぶべきだ。」(飛んでも8分)のセリフが心に残った。急がば回れ。経験が大事って事かなと解釈。
あと、「作業は一つずつ、こなしていけばいいんだよ。全部いっぺんにやろうとするから、失敗する」(検問)っていうのも焦りやすい私には心に残った。
CDのパッケージとかレジ袋が開けられなくて、一生このままなんじゃないかと不安になる太田の気持ちもなんとなくわかる。小さなことが解決できなくて、一生このままなんじゃないかって想像すると取り残されたような気持ちになる。でも、そんな事は有り得ないから、取り残された自分を想像して、俯瞰するとちょっと面白い。
そういうどうでも良い描写が程よく散りばめられていて、読者を飽きさせないのも伊坂さんの本の良いところだなと思う。
伏線の回収も美しい。
また伊坂さん読もう。 -
シリアスな伊坂さんより、面白おかしい伊坂さんが好きだー。
Instagramの読書倶楽部タグでだったかな、どなたかが言っていた「愛すべき悪人」というのがとってもしっくりきます。
セリフひとつとっても、どこか現実味がないのに「確かに…」と思わせてくれるファンタジー感とわくわくがたまらない。
誰も傷つけずに問題を解決する方法について書かれていた気がしていて、それってなんだかとても素敵で私も日常生活で真似したくなっちゃう。 -
伊坂さんの本をはじめて読んだが非常におもしろくスピード感もありスラスラと読めた。
第二章のタキオン作戦がすごく好き