恋するソマリア

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715842

感想・レビュー・書評

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  • 恋するソマリア

    著者 高野秀行
    集英社
    2015年1月30日発行

    早稲田大学探検部出身のノンフィクション作家、高野秀行氏のソマリアもの第二弾(たぶん)。探検家でノンフィクション作家の角幡唯介氏の、早大探検部先輩にもあたる人。
    「アフリカの角」と言われるソマリアは1991年以降、無政府状態となって、海賊たちが通過する船を襲っているという印象がある。アメリカが介入しようとしたが、悲惨な戦いとなって撤退。その壮絶なる様子はリドリー・スコット監督の映画「ブラックホーク・ダウン」で観た人も少なくないだろう。

    しかし、そんなソマリアは、実は今、実際には3分割されていて、そのうちの一つがソマリランドという複数政党による「謎の民主主義国家」になっている。ただし、国際的には認められていないため、グーグルマップなど普通の地図にはソマリアは1つの国として描かれている。
    北のソマリランドのほか、角の部分プントラントは海賊の国、南部ソマリアでは暫定政府軍とイスラム過激派の戦闘が続いている。国際的社会での首都は南部ソマリアにあるモガディショだ。

    ソマリ人は、これら3分割された国と、隣接するジプチ、エチオピア、ケニアの一部にも住んでいる。著者が最初に訪問したのが2009年、次が2011年。ソマリアに魅せられ、人脈も掴んできた2回目の帰国後、著者は必死にソマリ語のネイティブを日本で探した。ソマリ語は非常に難解で、フランス語やアラビア語ですら文法構造が単純に感じるほどだという。やっとの思いで早稲田に留学している兄妹から習えることになった。

    今回は、2011年10から2012年12月までの滞在を、4パートに分けてリポートしている。一応、ソマリアのケーブルTVの東京支局長の立場をもらい、ジャーナリストとして入国した。平和なソマリランドでの話と、イスラム過激派と暫定政府軍が対立する南部ソマリアでの体験を書いているが、生々しいノンフィクションというより、なにもかも日本と違いすぎるソマリアに魅了され、よそ行きでないソマリアが見たいと思い始めた著者が、結局、皮肉な状況で最後にそれを達成するというドキュメントだ。

    クライマックスは、最後。南部ソマリアのある知事が、著者を含めたジャーナリストたちを引き連れて故郷に凱旋する。半日で戻るはずが、知事のそうした気まぐれ、思惑により、何日も引っ張り回され、帰国便にも乗れなくなった。これまでイスラム過激派がいて危険だったが、やっと多国籍軍がなんとか制圧するようになった知事の故郷、そして、さらなる奥地。荷物もなにも持ってこず、着替えも風呂もない。大量の蚊になやまされる。おまけに、現地の人が食べるカート(和名アラビアチャノキ、日本では合法)という弱い麻薬作用のある葉っぱの食べ過ぎにより、極端な便秘に悩まされる。

    もう最悪の状態の中、皮肉なことにそこで著者自身が望んでいたソマリアの「素の姿」を見ることができる。
    便秘にいいとされるラクダの乳を飲み、上からは下痢、下は岩のような糞づまりで一晩苦しんだ後、ついに「ツチノコのような便」が2つ出るシーンがあるが、読者としてもその瞬間がなんとスッキリ爽快感を感じることか。

    しかし、知事の気まぐれが終わってやっと戻れるようになった帰路、イスラム過激派により待ち伏せされて襲われる。著者と知事は装甲車に乗っていたが、防弾ガラスにもひびが入り、頭から血を流した知事が悲鳴を上げて倒れ込んできた。ただただ伏せて待つしかない著者。結局、援軍が来て九死に一生を得るが、難を逃れた後に、ジャーナリスト仲間達が彼を囲み、お前も戦闘に参加したんだ、やっと仲間だと彼を迎え入れる。
    そして、頭から血を流していた知事は、撃たれたのではなく、混乱して自分で頭をぶつけていただけだということが分かる。

    まるで映画のようなエンディングだが、やはり心打つものがある。
    高野秀行氏の本は、たぶん、これまで読んだことない。いや、あるかも知れないけど、忘れている。もちろん、新聞や雑誌では読んだことがあるが。
    角幡唯介氏同様、早大探検部出身ノンフィクション作家、とても面白い。
    冒険系ノンフィクション、今年3冊目。いずれも傑作。
    今、一番おもしろい。

  • ソマリア語を習得しようなんて、凄い。ソマリア愛も普通ではない。自分をしっかり持ち、目的に向かってがむしゃら。しかも、こんな本を出す文章力。語学力。凄すぎ!ソマリア面白いが、危険過ぎ!

  • アフリカのソマリアを旅する旅行記の第2弾。ソマリランドへの旅行、南部のソマリアの話の2つがメインです。

    旅行記というよりも、ソマリ人の生態を詳しく知りたい!という気持ちで書かれたものです。遊牧民であったソマリ人は農耕民族の日本人とはだいぶ考え方が異なり、特に超速で動き超速で忘れることは全然違うな。と感じました。また、氏族社会という独特な考え方についても、改めて日本とは全く違うと感じました。

    一番の驚きは仇相手の娘を妻に娶って紛争を解決するということ。これはなかなかできないことだと思いました。

    また、南部ソマリアで戦闘に巻き込まれる話は、すごい体験をしたものだと関心しました。

  • 筆者のソマリアへの熱き思いに感心。アフリカ経験あるのでイメージはわくが、基本的に初めて知ることばかりにて、読み応えあった。

  • 謎の独立国家ソマリランドの続編のような位置づけ。そこで書き残した事や、その後の渡航内容が綴られている。この人のソマリランド愛はすごいなー。ここまで一つの地域を愛し興味を掘り下げる情熱を傾けられる場所を見つけた著者は幸せだ。誰よりも、日本で一番この国を理解していたいと言う希望は、帰国後ビジネスをすると言うアイデアにも行くが、この人は「お金儲け」が目的になってない(イヤそりゃ少しはある)ソマリランド発展に為、そして母国日本と愛するソマリランドとのパイプ作りの為、と言うのが好ましい。
    一般的な生活を体験する、料理を習う、郊外を見る等外国人には困難な事を実現させて行くのは、著者の情熱と友好心と出会った人との信頼。最後にちょっと裏切られる展開があるけど、これは真の裏切りじゃない。著者はわかっている。最後の戦闘シーンは度肝抜かれた。
    この方の秘境の著は他も読んでみたい。

  • 2020/07/06

  • 謎の独立国家ソマリランドの続編。
    前作は歴史的背景など難しいところもあったが、今回はソマリランドの家庭料理、南部ソマリアでの危険地域での旅行記のような内容で非常に読みやすい。
    ワイヤッブ、ハムディのその後も気になるので続編を期待。

  • 氏族が絶対であり、外に向けての愛想はふりまかず、北欧に行っても同胞だけの世界で過ごす。これだけ聞くと内向的な民族に見えるが、ところがどっこいそんな単純な話ではない。期せずして紛争に巻き込まれた体験記など重い話もあるが、いつも通り軽く笑わせる文体でとても読み応えあり。

  • ●学校の勉強や普段の生活からでは、全く馴染みのないソマリアについて書かれたルポルタージュ。まさに未知の世界のことが書かれていて面白かった。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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