- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087815139
感想・レビュー・書評
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国際霊柩柩送士のルポ。海外から日本へ送られてきた遺体の入国手続きや遺体を整える作業をした後に遺族まで届ける。逆に、日本で亡くなった他国の人を送り出す、という仕事をしている会社、そこで働く人のノンフィクション。
毎日、死と接する。
現代の日本は、死と接する経験は少ないが、本来、死は誰にも訪れる日常のものである。死があるから生があり、生があるから死がある、両者は一体であるということを再認識させられる。
人間は、身近な人の死に接し、事実として受け入れられず、とことんまで悲しまないと、その先に進めない。死者と向き合うために、崩れた死体を整え、死化粧を施して遺族に引き渡す。遺族は生前の面影を残す遺体と接して悲しむことで初めて別れを告げることができ、区切りをつけることができる。
その場を用意するのがこの職業となる。
あくまでも黒子として生きるが、なくてはならない存在をクローズアップしたこの本、あるいはその職業は、もっと評価されてもいいと思う。しかし、表に出ることはない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
親を失うと過去を失う。
配偶者を失うと現在を失う。
子を失うと未来を失う。 139
自分が死んだときに、生き様が露呈するのが怖い。
でも、私が死ぬことで誰も悲しまないでほしい。
矛盾するけど、これが正直な気持ち。
助けてもらったと思えるけど、忘れたい人たち。252 -
けっして、多くの人を支える訳ではないけど、日々対峙する人達と真剣に向き合い、できることを一生懸命考え、そして思い、それに取り組む人達の話。
この本では、遺体を運ぶことと同時に、魂を送り届けることにスポットライトが当てられている。
魂を送り届ける、その意味は…
生きている人が、
その人の分まで人生を生き抜くことができるように
生きている人が、
その人との別れを悲しみ抜くことができるように
そして、その人の魂は、家族のもとに戻り、残された者の生に昇華される。
魂を送る人達は、魂を家族に運び、個人の死を残された者の生につなげる。
魂を送る人達は、残された家族を支えることで、不断の社会を支える人達。
魂を送る人達は、普段は忘れ去られているが、不断の社会を本当に支えている人達。
自分を支えてくれている人達も、普段は申し訳なくも忘れてしまっているけれど、実は自分のピンチに手を差し伸べてくれる、そんな人達なんだろうな〜、と。
自分も誰かのそんな人だったらいい。 -
外国で亡くなった日本の方や日本で亡くなった外国の方を、その人の帰りを待っている人のところへ帰す、そんな仕事があるのをこの本で初めて知りました。
著者はこの作品を記すにあたり、ある程度の距離を持って、誠実にこの会社や遺族や死と向き合ったんだなと感じました。
その分思い入れが強くて伝えたいことが多すぎたというところが読み物としては難点でしょうか。
死にしろ失敗にしろ、ちゃんと向き合わないと乗り越えることは難しい。
横にそれてうまく逃げられたと思ったって、所詮それに囚われてるに過ぎない、んですよね・・・ -
海外で亡くなった日本人の遺体はどうなるのか、また日本で亡くなった外国人の遺体はどうなるのか。
外国と日本との間で遺体の搬送を行い、遺族のもとへ届ける仕事が日本にもある。「国際霊柩送還」と名付けられたその仕事を担うのは、2003年に設立されたエアハースという会社。そんな会社で働く国際霊柩士を追ったノンフィクション。
遺体を本国に送り、遺族にきちんとした形で引き渡すにはなかなか手間がかかります。各種書類を揃えて手続きをして、エンバーミング(腐敗しないように死体に施す処理)したり、きちんと死化粧をしたり。そういうことは効率を重視する人から見たら「そんな無駄なことせずに、骨にして本国に返したらいいのに」(もちろん宗教上の問題で火葬ができない人もいるけど)、「どうせ火葬するんだし、そんなにこだわらなくてもいいのでは?」と思われるようなことなのかもしれません。でも生きている人が亡くなってしまった人とちゃんと別れるためには、非効率と思われるようなことをきちんとやっていかなければならないのだと強く強く思いました。 -
人が海外で亡くなった時どうやって送られてくるのか。
その答えがこの本の中にはある。
綺麗すぎると感じたタイトルも、読むと意味があることもわかる。
運ばれてくるまでには様々なドラマがありお金も絡む現実がある。葬儀ビジネスの裏側は魑魅魍魎の世界だ。
浪花節すぎる共同経営者とそこで働く人々。経営者の生い立ちや家族などに触れ、ノンフィクションにしては情緒的だけれども決してウエットではなく、なにか冷たい水に触れたかのような驚きと、重たい話を後に引かせない不思議な読後感がある。
プロフェッショナルの仕事と人との関わり方が題材からは想像もできないが印象に残った。 -
2012年、第10回開高健ノンフィクション賞受賞。
副題に「国際霊柩送還士」とある。
これは、海外で日本人が亡くなったとき、また日本に滞在中の外国人が亡くなったとき、その遺体を遺族の元まで送り届ける仕事である。
本書で取り上げられている会社はエアハース・インターナショナル株式会社。事実上、この会社がこの業界でのパイオニアであり、第一人者のようである。
日本人の場合であれば、現地からの飛行機の手配をし、空港で遺体を受け入れて、遺族の元に運ぶ。あるいは、外国人の場合であれば、遺体を預かり、空港から送り出して現地に届ける。搬送にあたって、遺体の状態が悪くならないようにエンバーミングの処置も行う。
葬儀社というわけではなく、遺族が望む場所に遺体を運び、弔いが行えるようにする。いわば「つなぐ」仕事といってよいだろう。
近年、日本人が海外で亡くなる事件・事故を耳にすることが増えている。
人の行き来が増えるということはまた、行った先で亡くなる人も出てくるということである。
そうはいっても、まだ、海外で亡くなるというのは、仕事や観光の途中、いわば不慮の死であることが多い。遺族は往々にして、心の準備ができていない状態である。
物理的に距離も遠く、また国によって必要な手続きもさまざまである。日本式の火葬は世界標準なわけではなく、日本の常識からは「考えられない」状態で遺体が帰ってくることも稀ではない。
そうした遺体をスムーズに遺族の元に戻す。
時間が不規則であり、かなりの体力を要する激務である。状態の悪い遺体を目にすることも多い。
法的な知識も必要だし、もちろん海外とのコネクションも大きくものを言う。
過酷な仕事だが、彼らはまるで宗教者のように、遺族に、そして遺体に向かう。
依頼が次第に増えている中で、信じられないほどの少人数で業務を回していることも驚きである。
これは誰でもできる仕事ではない。
本書は、エアハースに密着しながら、国際送還が必要になってしまった故人、そして遺族の人間ドラマを綴っている。
エンバーミングで穏やかになった遺体を前にした家族の反応、本国式で葬礼を行うことによる安堵感。
送還士として働く人々の背景、また著者自身の経験談も織り交ぜながら、丁寧な描写がされていく。
きちんと「弔う」ことの意味とはなにか。
そんなことも考えさせる1冊である。
*日本で亡くなった外国人の事例については、石井光太『ニッポン異国紀行』でも取り上げられていた。
*人間ドラマの部分で、ずいぶんと泣いてしまったのだが。
読み終わってみると、実際の書類としてどんなものが必要とされるのか、とか、各国の現場でどのような処置がなされ、その違いが何なのか、とか、本文中にちらっと出てくる国際フューネラルシンポジウムの具体的な内容、とか、事務的・実務的な話ももう少し知りたかったような気もしてくる。 -
ルポルタージュとしては、
周辺取材も少なく、客観的なデータも少なく、
多少、感情の入った文章も気になりますが…、
(著者の感情が、前面に出てはいけないと思う)
何よりも、題材が、とてもよかったと思います。
(題材買いした感じ…)
もっと、ビジネスやマーケットの実態や、
携わる方々のプロフェッショナルな部分と、
人間としての苦悩や仕事としてのやり甲斐が、
客観的かつ理性的に、淡々と書かれていれば、
素晴らしいルポになったのでは、と思います。
平易に、さらっと読むことができますし、
(ルポとして、よいか悪いかは別として…)
題材としては、とても大切なことですし、
機会があれば、一読されるとよいかと思います。