神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 1005
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001500

感想・レビュー・書評

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  • 日本純文学の一頁を担う作者の力がありありと感じられた。特に、かえるくん、東京を救う では人間の無意識の中に潜む理性的な部分と衝動的な部分のせめぎ合いを、かえるくんとみみずくんに置き換えて、見事に描き出している。地震を通して改めて明らかになった、すべての人間の中に抑え込まれていた無意識の中の葛藤が表現されていると感じた。

  • これはいい。考え抜かれ、言葉を選び、ぴたりとあてはまる完璧さと柔らかさを併せもつ村上春樹さん独特の香り。うつろいゆく儚い世界に、ため息さえ洩れてしまう。少し孤独な6人の主人公をやさしく包み込むように結びつけていく、そんな読後感があります。心の中に、静かに「いいもの」が満たされていきました。

  • 阪神大震災が起きた事にまつわる短編集。

    直接被災した訳ではなく、震災が起きた事で遠い場所に住む人に出た心境の変化、死を意識したりなどの変化を語った感じ。
    「地震男」という形をとって死をイメージした子供や、震災によって今の自分の生活・人生を見直したりという分かりやすいのから、東京でもみみずくんによって地震が起きるからそれを一緒に阻止する戦いに来て欲しいとかえるくんに頼まれたり、色々なパターンがありました。

    「タイランド」の二ミットの台詞が印象的でした。
    「生きることと死ぬることとは、ある意味では等価なのです」
    年齢的に死を意識するようになる、だけじゃなくて何才だろうが生きながら死に向かってはいるんだと意識させられました。
    今の自分は何割死んでるのかな、と考えたりしました。

  • 作品の根底にあるのは阪神淡路大震災。しかし暗喩よりもっとどこか遠くに横たわる出来事のように描かれる、6つの物語。ある日突然人生観が変わる出来事が起こったら、ある日日常生活に非日常が紛れ込み現実が混濁したら、我々はそうした不安定な意識のなかに生きているのかもしれない。

    全体的にはそれほど印象には残らなかったが、『蜂蜜パイ』は現代のおとぎ話のような不思議な魅力を持った作品であった。後悔と安らぎは常に繰り返し、永遠に続くようなバランスでもちょっとしたきっかけで脆く崩れるものだし、だけれどもちょっとした形で新しい形でバランスして人生は進んでいく、鮭がいなくなったあとの蜂蜜パイのように。

  • 6編の短編には、いずれも’95年1月17日の阪神淡路大震災が登場するも、惨状や被災地としての神戸が登場するわけでない。共通の背景として出てくる程度。ただ、大震災や同時期に起こったオーム真理教による無差別テロが平穏な日常を無惨に壊していったことを目の当たりのし、激甚被災地のど真ん中にいた者のひとりとして、’95年のあの時の重くて澱んだ空気感をいずれの小説も孕んでいるなぁと強く感じた。

    ●UFOが釧路に下りる
    阪神大震災の報道をひたすら見ていた妻が突如蒸発。「あなたは良い人だけど空気の塊のような人だ」と書かれた手紙と共に離婚届が届き、離婚へ。茫然自失の中、友人から休暇を勧められ、その友人から釧路で待っている妹にこの箱を渡してほしいと。その釧路で不思議な話を聞かされる…。

    ●アイロンのある風景
    茨城の小さな海岸の町が舞台。父親との関係が悪く家出してきた女性と同棲中に大学生、神戸に家があるが、この町に住み時折流木を集めて海辺で焚き火をする初老の画家。この3人が焚火を囲んで語る一夜の物語。

    ●神の子どもたちはみな踊る
    母親は完璧な避妊をしたにもかかわらず妊娠したことで神の子と呼ばれる青年。父親は耳のちぎれた産婦人科の医師だと聞かされ、ある日その父親らしき男を見つけ、尾行を始める。

    ●タイランド
    アルコール依存と女の影がちらつく夫を憎み、阪神大震災で死んでしまえばいいと憎むほど傷心の女医。学会の後、一週間の休暇を取りタイの田舎へ。その間、ガイド兼運転手の男との交流を通じて、生きること、死ぬことの意味を考えるの主人公。

    ●かえるくん、東京を救う
    ある日、かえるくんが主人公ところに現れ、巨大なみみずくんが新宿の地下にいて地震を起こそうとしている。みみずくんと闘い、何としても地震が起きないようにしないといけないから手伝ってほしいと告げられる。

    ●蜂蜜パイ
    早大文学部で出会った高槻と小夜子と西宮夙川出身の主人公の3名はいつも行動を共にしていた。ある日、高槻と小夜子が付き合っていることを知り深い悲しみに。やがて主人公は小説家となり、高槻と小夜子は結婚、子どももでき、3人から4人の関係になっても以前と変わらぬ関係は続く。

    どの小説もどんなエンディングが用意されているかが楽しみで、とにかく読んでいて面白かった。とりわけ「蜂蜜パイ」が秀逸。この小説と似通った設定が、2005年に上梓された「東京奇譚集」の中の「日々移動する腎臓のかたちをした石」の主人公と酷似。この「日々移動する腎臓のかたちをした石」もめっちゃ好きな短編。

    村上春樹の小説、とりわけ短編を読んでいる間は、しょっちゅう「示唆」と「暗喩」の2つの言葉が頭の中を往き来する。今回の短編の中で、その筆頭は「かえるくん、東京を救う」ですかね。村上春樹ワールド全開のファンタジーは、実に“タチ”が悪いっス!

  • 村上春樹の6つの短編集。タイトルの短編が印象深いか、というとそうでもない。どれか一つを選べ、と言われれば、、、むつかしい。

  • 村上春樹を読んでわかったことだが、村上春樹の小説には一貫したテーマはない。

    あるのは、ただの物語。

    殺人事件などのミステリー小説、青春系の感動小説には、主人公が追い求めるものや悩むことがあり、それが大抵はテーマとなる。

    だが、本作を読んでわかったのは、村上春樹の小説には意味などない。

    ただ物語が存在するだけなのだ。

  • ブンガク
    かかった時間100分くらい

    阪神大震災のあとに書かれた連作短編集。都市の地下にひっさりと眠る巨大な人知を超えた力と、何かの形で「それ」にかかわりながら生きる人たちの話。初読。

    どれもいい。どれも淡々としていてもの悲しくて、救いがないことはない。ぐっとくる。

    この夏にいろいろ村上春樹を読んだけど、村上春樹の要素がぎゅっとつまっていて、作品としての完成度がとても高いように思う。

    ああ、小説だ、と思う。

  • 地震。
    全体的にうっすらと憂鬱なトーン。
    終わりが蜂蜜パイで良かった。

  • ふくぼん読書会の、課題本。

    1995年の地震のあとで書かれた短篇作品7つで構成されている。
    地震の前と後でなにが変わったのか。

    かえるくん東京を救うは、片桐さんの心の中で起こったことだったのか。

    「僕は純粋なかえるくんですが、それと同時に僕は非かえるくんの世界を表象するものでもあるのです
    」とは。
    目に見える世界が本当のものとは限らない。まさにこれが、キーワードなのか?

    タイランドの

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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