行人 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.79
  • (147)
  • (177)
  • (222)
  • (17)
  • (3)
本棚登録 : 2280
感想 : 180
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010120

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 兄と弟
    あなたは本当は誰を好く想うのか
    そう言わずとも言葉の隅に態度の一瞬に現れているのではないか

  • のつこつと読んだ。 昔いっぺん読んだことがあって、浜寺の料亭の場面だけが印象に残ってて、そこを確認したくって読んだら、かなり前の方にでてきてほんの数行だけやった。あとはほとんど忘れていてまるで初めて読む気分。 病院の場面が面白いっていうか映像として想像つかない。病室は畳張りで布団やったんやろうか。それやったら靴は何処で脱いでたんやろうかとか。どうも看護婦さんはそれぞれ専属で部屋の前の廊下で待機してるみたいな。声がかかるまで柱にもたれて本を読んで時間潰してる表現があったり、その看護婦さんに病人のこと聞いたら何でも教えてくれてプライバシーダダ漏れやったり。
    その上病人の都合で入院したり退院したり。胃潰瘍の人にはお腹の上に氷嚢乗せてたり。今では想像もつかないことばかり。
    漢字の使い方もええ加減なような気がする。ページによって送り仮名が変わってたり「初」と「始」の使い方も違うかったり。昔は手書きやったからそんなこともあり得たって感じかな。ある意味自由やな。でも、ま、この小説で描こうとしたことは、そんなことではない。兄一郎の苦悩を描いたんやろうが、そこに至るまでがのつこつのつこつ。

  • 知識人の幸せは難しいなぁ。漱石をずっと順を追って読んでるけど、男と女、古い価値観と新しい価値観といった単純な二項対立じゃなくて、行人は肉親の家族や夫婦でありながら理解できない他人の精神の作用と苦悩みたいなものが書かれていて、文学として重厚に感じる。昔の交流と他人への影響力があると思っていて、でも深くは考えられない父、現代的だけど鉢植えの木である嫂の直、気難し屋なだけでなく、碁を打つのは苦痛だが逆に碁を打たずにはいられない、漠然と苦しくもがき続ける兄、といった人間の性格と考えが本当に冷静に正確な目で書き表されている。
    こういうのを読める歳になったのかなと思いました。

  • 漱石の作品を丹念に読んでいくと、教科書的文学史的知識を通り越してやはり文豪だ、天才だと実感する。100年前にこんなすごい文学を書いた天才が日本にいた、という誇りが湧いてくる。


    『行人』

    人間と人間の関係を、心理の奥深くに探求してやまない作者の彷徨は、苦しくも胸を打つ。

    前半、二郎は兄一郎のストイックな性格に翻弄され、兄の家族(妻、両親、妹)まで巻き込んで起こってくる葛藤を語る。兄嫁との三角関係まで疑われ、微妙な立場になる。あげく後半、兄の友人Hにも世話をかけ、手紙で描写される兄の性格とは。

    「ひとのこころはわからない」と人を信じられない。いえ、いい加減なところで妥協できない性格なのだ。

    そんな性格の人はめんどくさいからほっとこう、というわけにはいかない。

    誰でも本当はそこが知りたい。

    人を愛しながらも人を信じられず、こころが病んでいく。近代、現代のこころの病といえるこのテーマは、古くない。

  • 結婚前にして、とても勉強になった。
    ムハンマドが山を呼んで動かそうとする話が、未だに心に残っている。

  • 心配性の兄を持つ「自分」の日常をつらつらと書き記した一冊。
    大きい山場はないのだけれど、不思議に頁をめくる手が止まらない。
    兄から、兄嫁の節操を試すために一夜の旅をしてくれ、と言われるところが山場といえば山場。
    その依頼を断り、ただ出掛けで話を聞くだけという妥協案を出したものの、荒天により結局旅先で兄嫁と宿で一夜を過ごすことになる。
    自宅へ帰った後も兄の猜疑は消えず、彼の言動が狂い始める。
    その兄に旅を勧め、共に旅をした兄の友人から自分に手紙が届く。そこには心配性どころでなく、深く神経を病んだ兄の姿があった。
    近代知識人が急速な社会の変化に惑う姿を、兄という装置を使って描いたのかも。
    手紙の中で一人の人物の言動をつぶさに著し、その人間性を浮かび上がらせる手法は、次作の『こころ』に結実する。
    父が語った盲目の女性の挿話は本筋とは薄い関わりながら、後味悪く一番胸に残った。
    ということは、それをその場で聞いていた兄の精神の歯車を狂わせる一助となった可能性も?

  • 夏目漱石の作品は、作品ごとにかなり好き嫌いが出てしまう。これまで読んだ中では、一番『門』が好きだったけれど、これも読むまではドキドキしていたくらいだ。

    行人は、二郎を主人公としたストーリーで、何か大きく突き動かされるような内容ではなかった。しかし、当時の情景や習慣が、夏目漱石という作家によって上手に表現されていて、あたかもその時代に生きているかのような感覚にさせてくれる。

    そういう点では『キレイな』小説だなぁという印象は残っている。

    友人の入院、下女の結婚、兄の病気という日常の中で二郎が生きていく姿は、見ていてリアルな感じがするけれど、あまり没入できなかったので、この点数とした。

  • 母、父、妹、兄、嫂、女中、友、職場の人、病院で知り合いになった看護師の会話や姿が多く描かれる。
    最近読んでいた本は、男と女の2人の間の関係がほとんどを占め最後に姉との関係も描かれる(杳子 古井由吉)、女と男の関係と女が印象を抱くホテルやバーの従業員や男の親しい女(トパーズ 村上龍)。
    家族や職場の人やちょっとしたことで知り合う人とどう関係していくのかが描かれていない小説も多い。

    主人公が、友人の入院中の世話をした看護師に、「こんな奴に優しくしてやらなくていいですよ」と言った。
    こんな事を言う主人公の、人との関係の仕方に、私に欠けているもの欲するものがあるのか、ここが気になった。

    「ちびまる子ちゃん」(さくらももこ原作のもの)や「あたしンち」では、ちびまる子ちゃんと学校の様々な人との関係、家族との関係、近所の人との関係が描かれている、あたしンちでもそうだ。
    ちびまる子ちゃんでは、まるちゃんだけでなく、たまちゃん、野口さん、はまじ、永沢くん、藤木くん、丸尾くん、みぎわさん、よしこちゃん、花輪くん、、、クラスメイトの家族までちゃんと描かれる。
    その人の育った家庭を描かれるものと、家庭が描かれないものがある。
    私はこういうアニメが好きだ。
    これらのアニメでは、苦悩がこの小説のように深く細かくは描かれないが。

    古井由吉を読んだ後だから、夏目漱石の小説読みやすい!(情景が浮かびやすい、描写(建物、仕草)が細かすぎない、会話がある、意識が現実から離れていかない、)と思った。
    読みやすいから、読後に「何なんだ一体⁉︎」と思わず、次の本に移ってしまった、一読で終えた。

  • (個人的)漱石再読月間の12。残すは3。

    初読は高校生の時だと思うが、当時は哲学書や思索的なものが好きで、この作品もとても面白く読んだ記憶があるのだが…いやこれは高校生には無理でしょ!特に男女、家族、夫婦の問題は時代を超えて無理。齢を重ねてから読むべし。

    後半の兄の友人の手紙は、漱石再読を始める直前に読み返した埴谷雄高「死霊」の三輪4兄弟を思い起こさせた。思索を重ねに重ね、狂うか、死か、宗教しかないと苦しむ兄。
    軽薄な父とその性質を受け継いだ語り手である弟の方が生きやすい。思索的であるとはなんと生きづらいことか。

    …自分が本来好きな読書の形とは何なのか、それを考えることができて、再読月間はとても有意義なものになってきました。

全180件中 31 - 40件を表示

著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夏目漱石の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ドストエフスキー
フランツ・カフカ
三島由紀夫
夏目漱石
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×