行人 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010120

感想・レビュー・書評

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  • 2017.12

  • 男女間の悩みからはじまり、最後はその人(主人公の兄)の人生観、宗教観で終わるというストーリー。

    狂人一歩手前の精神状態にあるように思われる兄とその周りの人々の苦悩を描いているのだが、それ程感情移入はできず、明治の知識人とはこういったものかという程度の感想。

  • 外から見ると単純なのに内側では複雑化している家庭内の人間関係を見ているだけで面白かった。家庭内なのに緊張感がありヒヤヒヤする。
    はじめは努力もしないで愛だけ欲しいと喚いているように見えたが、兄の人となりがあばかれていくにつれ、兄の孤独に同情する気持ちが生まれた。
    H氏の手紙の兄の言葉にはハッとさせられるものがいくつもあったが、あの家族と兄は相性が良くなく、家族がこれを読んでもよりギクシャクするだけだろうなと思う。それが分かっているからまた深く孤独を感じるのだろうと想像した。

  • 一郎、女性に劣等感抱き過ぎではないか。気持ちは分からなくはないけど。並の人間なら出来る人間関係の初期治療を、我が強いために出来なかったんだろう。もしかしたら一郎もその点に気づいていたかもしれないけれど、我を押し通して修復不能にしてしまった、と言う傍から見た感想。
    偉そうな感想だったけど、僕自身、女性の本音をどう引き出すかなんて知らないから、この点では一郎とどっこいではある。兎に角、直の本音をどうにかして一郎が知ることができれば、少なくとも「所有」だの「絶対」だの小難しい問題まで悪化しなかったのではないか。
    今回は一郎と直の不和の原因が曖昧なまま終わってしまった。「門」で宗助と御米が不倫した原因が明らかにされないように、一番俗っぽい点を省くのはなんだか狡いなと思いつつ、逆に「こころ」は先生の一番俗っぽい感情を描写しきったから凄く面白く読めてしまうんだろうなと思った。

  • 『彼岸過迄』よりは印象が弱い。
    二郎と直の関係が一線を越える場面を見所だと捉えていた為、最後まで何も発展しなくて落胆した。
    しかし、最後の一文には思わず息が止まった。
    もし一郎が死んでいたらどうなるのだろうと遥々と空想が広がった。
    私は完全に二郎と直の見方だ。
    周囲の親戚が鬱陶し過ぎて不快で堪らなかった。
    一家の中で孤立しているのは一郎と二郎のどちらだろうか。
    私は一郎と直の二人には離婚してほしい。
    離婚するしか方法はない気がする。

  • 学問だけを生きがいとしている一郎は、妻に理解されないばかりでなく、両親や親族からも敬遠されている。孤独に苦しみながらも、我を棄てることができない彼は、妻を愛しながらも、妻を信じることができず、弟・二郎に対する妻の愛情を疑い、弟に自分の妻とひと晩よそで泊まってくれとまで頼む……。「他の心」をつかめなくなった人間の寂寞とした姿を追究して『こころ』につながる作品

  • 義姉・直の存在感が際立っている。『三四郎』で出てきた汽車で偶然にも同宿することになった女性にも通じる怪しさ。それに向き合う純で初な二郎。作中では男は意気地がないと二郎に対して言う直。妙な艶かしさがあるが、安い不倫の物語にしない漱石。その漱石を思わせる直の夫・一郎について、結びにH氏の長い手紙で分析させるくだりは、自分自身のことを客観的過ぎるほど知りつつも、それを実行に移せない苦しさを感じさせる。

  • えーーー、正直に言いますと、漱石大先生の作品を、最後まで読み切ったのは初めてでございます。。手に取った作品は多いんですが、読み終える前に返却期限が来たりなんだりでどうも。でも、すごく面白くてこれまで投げ出してきたことをひたすら後悔してる。。 嫂の機微は同じ女として結構わかるような気がするのだけど、それがわからないわからないという男たちの様子が可笑しいし。かなり個性の強い登場人物たちが、あぁどこへ行ってしまうんだろうと心配かけてくるんだけど、結局まだどこにも行けず愚図愚図してる感じなど。

  • J/GのJ/B、噂にたがわぬ良さでした。

  • 漱石の作品では、『門』が今のところ一番好きなのだけど、それに匹敵する良さだった。

    最初は、兄が二郎と嫂の仲を疑って破綻していくストーリーを追っていた。
    二郎としては疑われたからこそ種火が付き、嫂はきっとその匂いに気付いていたんだろうと思う。
    恐らく嫂が一郎に手を上げられたあの晩、嫂としては暗い復讐心を満たす積りで、二郎を誘惑する。
    それは一郎への、というよりは、家という大きな共同体を破壊するような復讐心ではないだろうか。
    結局、二郎は体裁的には何もなくとも、新たな方面へは進めなくなってしまい、向こうからの行動があれば良いのに……と起死回生だけを漠然と願うのであった。

    けれど、話はその範囲では終わらない、
    好きな気持ちから転じた男女における嫉妬ではなく、一郎は人が人を信じきれない、また自分自身を絶対と見做すことで生じる、矛盾としての不信の方にずんずん突き進んでいくように思う。
    また、お貞に対しても、女の変化は夫がスポイルするせいだと述べている。この台詞は、「こころ」のお嬢さんを見ていく上で残しておきたい視点である。

    救われるべき科学はなく、神もいない。
    テレパシーというような共感覚を、果たして一郎こそが信じられたのか。いや、信じたかったのか。
    そして、そのような共感覚など信じずとも幸福に生きてゆける世界に、憎悪したのか。

    クライマックスの、兄の学友からの手紙を読むと、それまでのテーマから一周外側にある、人が生きることに直面させられる。
    そうして、一郎という人間の弱さをようやく素直に受け入れることが出来、彼の眠りが健やかであって欲しいと願わずにいられない。

    この手紙を二郎はどう読んだのか。
    二人は再会するのか。
    そうしたことは描かれてはいない。
    けれど、二郎が一郎に愛されるためには、やはり二郎が一郎を愛さなくてはならないのだろう。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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