金閣寺 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050089

感想・レビュー・書評

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  • 自分がことのほか人より醜いのでは、と思うことは
    思春期にはありがちなことかもしれないが、
    この作品の主人公は吃音(どもり)があるために
    自虐的に自分への‘醜い感’が強い。
    それゆえ、京都の金閣寺という建造物に「美」への異様な執着を育ててしまう。
    私が10代の時に読んで惹きこまれたのは、金閣寺への偶像崇拝が憎悪へと変わる過程である。内面の暗黒な感情と「悪」に向かってひた走る心理描写は説得力を持って迫る。
    金閣寺を称賛する時の美しい文体と狂いのない絵画的な比喩‥。
    現実の金閣と心象の金閣の「破壊」を悪とみるか、成長とみるか、読み手に委ねられる。三島文学の傑作。
    レビューを書くため再読。

    • yoshimurayuujiさん
      私は「成長」と感じました。人生いろいろありますが、やはり生きていかなければならないのでは無いかと。
      私は「成長」と感じました。人生いろいろありますが、やはり生きていかなければならないのでは無いかと。
      2010/05/06
  • 三島由紀夫の作品を初めて読んだ。
    圧倒的な比喩表現とボキャブラリー。

    金閣寺を放火するという結末がわかっている上で、
    主人公の気持ちや考えがいかに放火に突き動かされていくかを詳細に描かれていた。

    この世界を変えることについて
    主人公は行動、柏木は認識という考えは納得。

  •  “混沌”

    高校生の授業以来、文学作品。
    知らない間に、人生の不安に駆られてしまう。
    それも気づいたらって感じで。

    「将来何になりたいかな」
    「自分の将来ってどうなってんだろう」
    「幸せって何だろう」
    大学生なら誰しも、こんな問いを考えたことがあると思う。

    読みながらそれを再び考えてしまった。
    それも、マイナスなことばかり考えてしまう。
    ちょっと油断すると、そっちの世界に入ってしまうような。
    何度、自分自身を律したか。

    別にマイナスに考えることが悪だと言いたいんじゃない。
    世の中にはそれで苦しんでいる人だっていっぱいいて、
    自分は環境と運に恵まれている。

    それでも私は、マイナスに考えすぎていいことが起きるのが人生ではないと思う。
    悲観的に考えたうえで、最後は楽観的になる。
    「何とかなるよね。」って。
    最後に楽観的になれれば、しんどくなりすぎないと再認識した。
    自分にはこれがあっている。

    「自分の頭脳の編み出した無数の理由が、自分でも思いがけない感情を私に強いるようになる。その感情は本来私のものではない」
    「しかし変ったことを仕出かせば、又人はそのように見てくれるのじゃ。世間は忘れっぽいでな」

    このもやもや、誰かと共感できるのかな。。

  • 吃りというコンプレックスを抱えた学僧・溝口が、金閣の美しさに魅了され、囚われ、憎み、放火するに至るまでの半生の物語。

    金閣という美の極致を前に、吃りという障害を持つ自分の醜さを極度に恥じる。

    戦時下では、戦災はなんの区別もなく焼き尽くされるという点で、あらゆるものは平等であるという考えに安堵を覚えるが、敗戦を迎える。

    『これで私と金閣が同じ世界に住んでいるという夢想は崩れた。またもとの、もとよりももっと望みのない事態がはじまる。美がそこにおり、私はこちらにいるという事態。この世のつづくかぎり渝(かわ)らぬ事態……』
    敗戦は私にとっては、こうした絶望の体験に他ならなかった。(p.81)

    溝口とも分け隔てなく接する同門の鶴川や、内翻足という障害を自分の存在の根拠とする柏木との出会い。

    女と情事に及ぼうとする際に金閣の幻影に襲われ放心し、結局未遂に終わる。

    人生に対する行為の意味が、或る瞬間に対して忠実を誓い、その瞬間を立止らせることにあるとすれば、おそらく金閣はこれを知悉していて、わずかのあいだ私の阻害を取消し、金閣自らがそういう瞬間に化身して、私の人生への渇望の虚しさを知らせに来たのだと思われる。(p.160)

    やがて学校をサボるようになり、柏木に借金をして日本海沿いの由良に出奔する。そこで金閣を燃やすことを思いつく。

    ふと私は、柏木がはじめて会った日に、私に言った言葉を思い出した。われわれは突如として残虐になるのは、うららかな春の午後、よく刈り込まれた芝生の上に、木洩れ陽の戯れているのをぼんやり眺めているような、そういう瞬間だと言ったあの言葉を。(p.242)

    『金閣を焼かなければならぬ』(p.243)

    金閣に放火し、自分も心中しようと最上階に向かうが扉が開かない。拒まれたと感じた溝口は、外に飛び出して左大文字山まで駆け上がる。金閣を燃やす火を眺めながら煙草を吸い生きていくことを決心する。

    私は煙草を喫んだ。一ト仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。(p.330)


    美に対しての挫折を扱った小説だが、同じ告白体の『仮面の告白』も「正常さ」に対して挫折している。

    文も短く読みやすくなったと思ったが、何気なく話しかけた(ように見える)柏木が、いきなり長広舌で、三島由紀夫特有の屈折した持論を披露するのには苦笑した。


    借金を取り立てに寺に来た柏木のセリフ
    「認識だけが、世界を不変のまま、そのままの状態で、変貌させるんだ。認識の目から見れば、世界は永久に不変であり、そうして永久に、変貌するんだ。それが何の役に立つかと君は言うだろう。だがこの生を耐えるために、人間は認識の武器を持ったのだと云おう。」(p.273)

    それに対して溝口は
    「世界を変貌させるのは行為なんだ。それだけしかない」(p.273)

  • 「現実(あるいは人生)か、心象か」その言葉に尽きます。
    「難しく描きすぎ」みたいな感想をちらほら見かけますが、三島由紀夫ほど自分のスタイルを固持した作家もなかなか居ません。そしてそれを認めさせるだけの才知と気概を持ち合わせた作家だと思います。私は、物語に生き、生きる物語を書いた三島の文学に、見事に平伏してしまった読者の一人です。三島の研ぎ澄まされた文体は、彼が作り上げた肉体に他なりません。

    円熟的な作家とは言え、31歳でこれ書いちゃうって、ほんと凄まじいです。とてつもない文章力。怖くなるほど絢爛で、鋭くて、陶然としてしまいます。私が悪文を重ねるくらいなら、もう一度この本を開いた方が、はるかに有意義なものです(笑)

  • THE三島由紀夫という感じで流麗でありながら軽くならない文章と、好き過ぎて破滅するという対人間であれば共感しやすそうなテーマを対建築に行うことで異常性を高めた愛憎の話。わかりそうでわからない攻防戦。

  • 実際の事件を基に描かれた三島由紀夫の代表作。吃音(吃り)によりいじめられた経験を持ち、独特の感性をもって育った主人公溝口。その後も、内反足の柏木や鹿苑寺の住職である老師との出会いや経験等を通じて、最終的に彼が出した結論は金閣寺を燃やすということだった。

  • NHKの100分で名著を見て、読んでみることにした。
    読む時間も割と取ったつもりだけど、5日くらいかかった…。
    テレビで平野啓一郎さんが言っていた通り、すごく芸術的な…犯行の直前にもう一度金閣寺を池越しに見ただけでそこまで書けるか、というくらい、微かな心情も逃すことなく捉えている。
    だけど、最近の本を読み慣れた身からしたら、自意識過剰すぎて読むのが疲れる…感じ。

    美しいものが壊される瞬間が最も美しい。
    自分の幻想の通りに現実があってほしい。
    初めて金閣寺を見て、想像の金閣より美しくないといけない、と考える時も、和尚なら勘付いてくれるはず、と悪行(風俗通い)を重ねる時も、死んだ有為子に出会えるに違いない、と考える時も、
    相当こじらせた中学生、という感じで。
    それをここまで格調高く描けるのがすごい、ということなのか…?

  • 再読

    すべての美しいものの前で、私たちは圧倒される。
    その美を永遠とするためには。

    『金閣を焼かなければならぬ』

  • ーー『金閣を焼かなければならぬ』
     昭和25年の夏、京都の鹿苑寺で実際に起きた事件はそこから6年後、鬼才・三島由紀夫の手によって新たに綴られた。近代日本文学の傑作は海外からも高い評価を受け、
    ノーベル文学賞候補にも選ばれた。
    主人公の青年らしき思想、苦悩は読む者を
    三島由の世界に引き込むことに成功し、特徴的なキャラクターである、鶴川・柏木が主人公の狂人さ、ないし人間らしさを上手く引き出す。後半部分では明確な意思表示がひしひしと伝わり、読者の想像を掻き立てる。かの
    三島由紀夫を語る上で必読の一冊である。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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