金閣寺 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050089

感想・レビュー・書評

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  • 唐突に終わってしまった。
    2020年11/25は、三島由紀夫没後50年。自分は「金閣寺」を読んでないことに気づき、こっそりと就寝前に読み始めた。
    圧倒的な比喩。それでいてくどくならず、「私」の見聞き感ずるところが手にとるようにわかる。
    例えば、憎む母親から打擲された後、母を殊更醜くしているものは何かと考える下り。
    「それは希望だった。湿った淡紅色の、たえず痒みを与える、この世の何ものにも負けない、汚れた皮膚に巣喰っている頑固な皮癬のような希望、不治の希望であった。」

    あとがき
    「金閣寺について」中村光夫
    金閣寺放火事件は、現代の象徴的な事件。
    「境内は何一つ変わっていなかったが、…青ごけを踏みにじり、女を追う紳士、赤松に攀じ登り下のカメラにポーズする女性、石を拾い、池に向かってピッチングの練習の如きものをする学生…」小林秀雄は、正気を保つ者の憤りと悲しみを唄い、三島由紀夫は、それを確実に所有するために、この象徴を芸術によって再現することを、希った。とある。
    言語映像!まさに!

    美は金閣寺。内飜足の柏木が言う。世界を変えるのは行為ではなく認識だ。
    放火の準備をし終わって、その行為は、ここまでが私であって、その先の行為をしなくてもよいという最後の認識のためではなかったか?と一旦考えるが、臨済録示衆の名高い一節の言葉が私に近づく。「裏に向ひ外に向かって逢着せば、便ち殺せ」「仏に逢うては仏を殺し…始めて解脱を得ん。」

    人生と女から金閣寺が護る。
    金閣寺を支配せねばならぬ。どうやって?
    柏木から金を借り(ハムレット、レイアティーズの父、息子に『金は借りてもいけず、貸してもいけない。貸せば金がなくなり、あわせて友を失う』)、故郷舞鶴の日本海に行く。「私」のあらゆる不幸と暗い思想の源泉、「私」のあらゆる醜さと力との源泉。波に向い、突然想念が浮かぶ。「金閣寺を焼かねばならぬ。」

  • 芸術的で難しい文体のため理解できない箇所もたくさんあったのですが、主人公の苦しみがなんとなくわかるような気もした。
    自分と社会とを隔てる吃りの苦しみ。
    苦しみから逃れるかのように空想の中で煌めく金閣。
    そして肥大した空想が時に現実を蝕む様子。
    拭い去れない罪や後悔の意識。
    かけがえのない友人の死。
    親にかけられた期待。
    これらのさまざまな要因が複雑に絡み合い、苦しみ、少年は金閣を燃やすに至ったのだと思うが、それは決して特異な心理ではないように思う。
    叱ってほしかった、愛してほしかった、わかってほしかった、そのままでいいよと言ってほしかった。
    それだけで彼は金閣を燃やす必要などなかったかもしれない。
    世間を騒がせた大事件ではあるが、誰しもが犯しうることのような気もする。

    またいつか読み返してもっと多くを理解してみたいと思う。

  • 僧侶である青年が金閣寺を焼くにいたったまでの心理描写がずっと続いてる。なぜ金閣寺を焼かねばならなかったのか。青年にとっての美とは何か。
    心理表現の仕方が青年がどんな思いをもってる場面にしても全く単純ではなくて、回りくどいように思ったけどそれが芸術的に感じた。
    三島さんの作品は、多くの人には理解されないような文章だけど人間の深いところを芸術的に文学という媒体で表現しているように感じた。
    私はまだわからない部分が沢山あるけど、今まで知らなかった感覚とか重要な"何か"があるような感じがしてならないと思っている。

  • 吃りがひどく醜い自分に劣等感を持つ
    主人公にとっての金閣寺は、幼い頃から美しいという認識を父から刷り込まれていた。しかし実際に見た金閣寺はそうでもなくて、金閣寺が戦争で焼け儚く燃える瞬間まで美の象徴=理想として追い求めてしまう。陰気な青年と金閣寺、対比的な友人の鶴川と柏木との関わり、老師の女遊びや母の不貞を経て理想と現実で葛藤する主人公の内面が窺える。
    金閣寺を燃やしたことは、追い求めた永遠の美を自分の行為によって完成させたことになるのか。

    「一ト仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。」

    締め括りのこの言葉は、世界は認識がつくるのか行為がつくるのかという話中の問いの答えであるような気がして、自分の理想を行為によって完成させたときずっと抱えてきた美を自分の中で追求する葛藤から何かこう解き放たれたような感じがした。

    • あちゃ太郎さん
      決着付けたんですね。認識ではなく行為によって。達成感ありますもんね。
      決着付けたんですね。認識ではなく行為によって。達成感ありますもんね。
      2021/01/01
  • 狂喜的な美しさに囚われた男が火を放つまでの、心の躍動と情念。夏目漱石「こころ」にも似た、人間心理の裏を描いた一冊。狂気的な人間のように見えて、どこかで誰しもが飼っていそうな感情に支配されていく様は耐え難い。三島の文体によって細部まで色濃く写されていく青年像に、心を持っていかれる。

  • 初三島を読み終えてもちろん難しかったがとても面白かった。金閣寺の美に魅せられた青年僧のように耽美派の文章に惹きつけられこの手の本にしては珍しく早々と一気に最後まで読めた。今回手に入れたこの金閣寺の小説の装丁は普通タイトルが書いてある本の真ん中上部にローマ字筆記体でmishimaと書いてある。いかに作家性が強いキャラが立っていたかということが窺い知れる。昔柄谷行人と村上龍の対談で近代の小説はもう終わったというような趣旨の発言をしていて何のことか分からなかったが、これを読んで少しその意味は理解出来た。今出ている小説と昔の小説が持つ意味が全く違うのだと思う。だからといって嘆いていても仕様がないし、ライフイズゴーオン。それでも生き続けるより仕方がないんだろう。最後青年僧は金閣に火をつけずに終わるのかと思ったが、なぜ火をつけなければならなかったのか今後も三島を読むことによって理解したい。

  • 再読。
    確かに良い、最高傑作というのも分かる。人間の卑屈な自意識の描写は強烈なものがあります、今の作家には正直あまり感じられない読感があります。
    ただ結末が分かっているためか、そこに向かってのネタフリがあまりに巧妙過ぎて、かつ、自分に酔っているようであんまりのめり込めない。まぁ発表当時ではないので、ちょっと反則の感想かもしれませんが、正直あんまりこの作家に乗れないんですよね、いろんな意味で。
    でもそれを差し引いての本作の迫力はやっぱ凄いと素直に認めないとね。

  • 実際にあった金閣寺放火事件を犯人目線で三島由紀夫なりの解釈をした本作。
    まず金閣寺を始め神社仏閣や京都の風景の描写が秀逸で、煌びやかで淑やかな日本の美の表現は流石だなと感じました。
    生まれつき吃りのある溝口が美しい金閣に憧れ執着していく姿は狂気的ではあるけれど当然なことであって、
    「豊饒の海」でも三島は度々「瞬間の美しさ」について描いていましたが、
    美しいものは一瞬で在るべきという考えを覆すのが正に金閣であり、時や人が変わっても幾年も変わらず在り続ける美というのは幾年も醜いまま生きる溝口にとって、嫉妬すべき存在であり絶対的に手の届かない存在であったのだろうと思います。
    最終的には放火によってその美を破壊することで乗り越えようとするのですが、実際の事件の犯人は放火後に切腹とカルモチンによる自殺未遂を起こし捕まったそうで、
    「生」を受け入れた溝口には希望があればいいと感じました。
    切り離せない美と生の三島論は私は好きです。

  • あまりにも有名な『金閣寺』を初めて読んだ。小林秀雄の『金閣焼亡』も合わせて読んでみたが、どういう感想を持っていいのかわからない。時代の空気が現代とは大きく違うのかもしれない。ただ物語の最後に向かって進んでいくズンズンとした力は凄みを感じた。

  • 認識だけが世界を変える。柏木の力強い言葉に、三四郎の広田先生の言葉「日本よりも頭の中のほうが広い」を思い出す。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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