- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101117188
感想・レビュー・書評
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秀作。吉村昭の著作の中は、さらっと読めなくて、時間のかかるのがあるが、これもその一つで、描かれた情景を噛みしめて読ませるものがある。本作品は、ある島の孤立した貧しい村の話。小さな共同体が、「お船様」を含めて、定められた秩序を守って生活を送る。「霊帰り」などは、豊かさよりも世代を途切れさせない、人間の本能に従う営みを感じさせる。2016.7.9
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海沿いの寒村で暮らす人々が貧しさから抜け出す為に、冬の荒波の岸壁で毎夜塩をとるために海水を煮詰める。
実はその焚き火は沖を行く船を惑わせる灯りで…
吉村昭は実際の記録を元に物語を書く作家なので、実際にあったと考えると背筋がヒヤリとする。 -
夜の海岸で焚き火をする。暖をとっているのではない。夜空を楽しんでいるのでもない。
獲物がくるのを待っているのだ。物資を積んだ船が罠に落ちるのを。
ある日、船がやってくる。赤い布を着た人間と災厄を載せて。 -
非常に面白い、衝撃的
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吉村昭の作品の深さは分かっていたつもりですが、この作品の凄さは破格です。ほんの少し前の日本の多くの村々で営まれていた過酷な日常。これがムラで生きていた原点なのかと今更ながらに唸ってしまう。
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荷を積んだ商船を座礁させようと、塩焼の炎で呼び寄せる。そうして引き寄せて破船させた船の荷を奪い、命をつなぐ村人たち。生きるとはどんな意味をもっているのか、誰の得になるというのか……そんなことを思いながら読み終えた。見ず知らずの他人の身に起きた不幸を己の糧と喜び、「お船様」と呼んで来訪を待ち望む姿は、あさましくおぞましいものであるのに、彼らの「生」に対するひたむきさを前にすると、なぜか非難の言葉をのみこんでしまう。また、見方によっては天罰と受け取れる出来事も、彼らにとってはただの不運でしかないのかと驚惑してしまうほど、因果応報の観念がない。シンプルな構成ではあるが、これまでの悪行よりも、今あるいは明日あさって、さらにその先を無事に生きていけるかどうかが何よりも大事な彼らを、飽食の時代に生きる自分たちが真に慮ることは難しいと感じる本だった。
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設定がわかった時にゾクゾクした。
「破船」という題名からして、難破した船員のサバイバル物語かと思いきや、
「お船様」、夜間に塩を作る火で遭難船を岸におびき寄せて難破させ、略奪することでなんとか生活を保ちえている寒村の語とは。
文庫本表紙の赤い衣を着て苦悶の表情をうかべる人も死人とわかるとぞっとする。
ほかの共同体からほぼ遮断された江戸時代の日本海の貧しい漁村ゆえに、
難破船を略奪するとか、生き残った人も殺すとか、船をばらして跡形もなくしてしまうとか、現代でいえばとんでもない極悪犯罪集団だけど、
それが長年村の習慣として根付いているから、そこにはわずかも罪の意識も感じさせない。
天然痘が蔓延したことすら「神罰」とはとらえられていないようだ。
自然から生きる糧を得て、自然の変化に生死を依存せねばならなかった当時、
村という狭く貧しい共同体の中で人々がどう生きたのかがよくわかる。
自ら身売りする人、「お船様」という呼び名、膳をひっくり返す儀式、赤い衣類に嬉々とする人、「山追い」を自ら選ぶ村人たち。
どこからこのアイデアが出てきたのだろう。どこかの史実なのだろうか。
あーおもしろかった。 -
吉村昭の9作目。今回の作品が最も何が起こるのか分からないまま後半まで話が進んでいった。結末は悲惨。こういうおどろおどろしい文章を淡々と書き進める作風はいつ読んでも良い。また新しいものに手を出したくなる。次は何にしようかな。