破船 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117188

感想・レビュー・書評

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  • なんかもうずっとつらいのよ。大自然のペースに合わせてしがみつくような生き方とか、村ぐるみで犯罪を隠したりしてるとか。お船様で一時は生き延びられるかもしれないけど、それが永遠ではないってわかってるところとか。
    それでも好きな娘との淡い交流とか、漁の腕前が上がったとか、友人との関係が穏やかなものになっていったりとか、きらめく瞬間がある、あったのにさぁ~~…

  •  本作は少年の視点から綴られる僻地の寒村の3年間の物語だ。大人が年季奉公で廻船問屋に売られ、未成熟な子どもが一家の労働力として漁をせざるを得ない貧困。村に大きな幸を齎す“お船様”(難破船)を求めて祈り、実際に到来したなら情け容赦無く積荷を奪い取る共同体全員での犯罪。その“お船様”によって富ではなく疫病を齎され、村があっという間に崩壊寸前にまで追い込まれる厄災。これら苛酷で不幸な日々が無駄を削ぎ落とした簡明な文章によって描写され、読者に強烈なリアリティーを与えてくる。

  • 暗い物語であった。

    僻地の漁村で日々を生き抜く三年間を、一人の少年を通して語った「破船」。
    農作は期待できず、季節ごとの漁労で糊口を凌ぐ生活。その暮らしの中、唯一の僥倖が難破船の訪れ。その船の積荷を奪うことが、稀に見る豊作と同様。ただ、積荷の略奪であるために、難破船の船員が生きていても、殺して口封じをするという残酷さが、村全体の共通の認識として受け継がれている。

    生きて行くために。生きるという目的が優先されるは「人」でなく「村」。「村」の存続が第一であり、そのためには個人の意志は破棄されるべき。という思考が隅々まで行き渡っている様は、過酷であり悲哀しかない。それが何よりも象徴されるのが、物語の終盤。難破船から広まった天然痘で村が壊滅級の被害を受けた後。
    指導者自ら「村」のために命を擲つ覚悟を示し、皆それに諾々と従う場面。

    この場面で、根本的に違う価値観の生活があったのだな、という恐怖を感じました。あらすじ時点では、パンデミック下での限定環境での混乱が描かれてゆくのだろう、と予想していたのですが、違いました。
    村人たちに混乱は起きず、ただ運命として受け入れるしかないという諦観。もちろん、疫病が終息した後の生活に対して、不安を覚えたりはするのですが、それはもうそういうものであって、なるようにしてゆくしかないという感覚。決意のない覚悟は、無力感と喪失感がすごい。
    日々の描写で、喜びや希望がないわけではないのですが、その個人の感情は「村」という存在を超えてあることはできない、という刷り込みのような思考に塗りつぶされていってしまいます。

    どこまでも、暗さがつきまとう物語であったよ。
    最終盤、奉公から帰郷した父の姿を見て、少年は何を叫んだのか。
    希望、喜びであった帰郷が、絶望と悲嘆の入り口であるのだから。思考や感情というものではなく、ただただ体の内から漏れ出たものだったのだろうなぁ。
    そして、この「村」の暗さは続いてゆく。この僻地で暮らして行く限り、不幸の大小はあれど、続いてゆく。

  • やっぱり吉村昭先生の作品に間違いは無いです。
    生きる為には難破船にだって…。
    人間が一番怖い,そう思える作品でした。

  • 面白かった。面白いというと不謹慎だが、淡々とした文章に引き込まれて一気に読んだ。吉村昭氏の本はノンフィクションの記録文学を5冊ほど読んだが、純粋な小説は初めて。
    物語は、どこかの島の南端にある小さな漁村が舞台である。そこに住む少年の視点で書かれているが、食料もままならないほど貧しい生活である。村の人々が待つのは「お船様」で、物資を載せた商船が村の近くを通りかかるときに難破し流れつくものだ。手をこまねいて待つだけでなく、海が荒い日に浜で火を起こして座礁を誘う。お船様は村にとっての恵みであり、1船来れば村全体が何年も飢えずに済むだけでなく、出稼ぎに行く必要もなくなるので影響は絶大だ。
    そんな難破船が、もう1船流れ着く。その船が村にもたらすものとは。
    小さい村に生まれたら、そこでの価値観や習慣が人生を決める。吉村氏の小説は情景描写がメインで心理描写はあまりないのだが、だからこそ心に残るというか、リアリティをもって迫るものがある。過酷な運命に逆らうことができず、人というのは無力なものである。おすすめしたい小説である。

  • 起こったことを丹念に積み重ね、感情を押し殺した文体。飽食の今では考えられない、食料事情。母のことば「人間には、心のたるみが一番恐ろしい。」
    「物というものは、いつかはなくなる。恵まれている時にこそ気持をひきしめなければ、必ず泣かねばならぬようになる」
    そうは言っても、知らないことは不幸な事でもあり、感染症は防げない。平穏な幸せは長くは続かない、ドラマも、人生も。

  • 戦慄の感染症パニック時代小説(なんだそりゃ)。長引くコロナ禍に読み、ぞくぞく。
    最近、近未来のディストピアっぽい小説を読んでたけど、昔の貧しい時代の方がよっぽど地獄だなと思う。

    惜しむらくは、農村にしては口調が農民ぽくなくて、ちょい違和感が。昔の農民や侍の語り口とか、知らんけども。
    あと、最後にいろいろ種明かしする老人いたけど、そんな詳細に覚えているならもっと早く気付くのでは?と思ったり。

  • おそらく江戸時代。海辺の寒村を舞台に、住民たちの生態を描いている。貧しく情弱な人々の共同体の暮らしぶりや価値感が生々しい。
    たとえば、住民たちは難破船の漂着を「僥倖」として受け止めている。難破船は乗組員たちのとっての不幸なのだが、村の住民たちにとっては天の恵みなのだ。天が与えてくれたものなのだからありがたく頂戴する。そこに他者の不幸とか、積み荷を自分のものにすることが犯罪であるとか、現代に人間から見ると「常識」の範囲内の概念が無いのだ。

    社会規範の善悪は住民たちには関係なく、あるのは祖先から伝わる風習と共同体の存続なのだ。
    閉じた世界は子供の集団のようだ。言語化が難しいのだが、自分の信じる「社会規範」がある程度以上の知識レベルで維持されていることを感じるようになった。

  • こんな過酷な人生を送る人々はいた事に自分の無知を思い知らされた。自分は何と贅沢な日々を暮らしていることか.....
    どうしてこのような土地に暮らすようになったのか?嘗ての平家の落人の部落のように何かに追われたのか、それとも疫病が流行って逃れたのか....
    人間が生きていくには食べることが一番大事でそれをどのように確保するかの術を知っていれば生き向けられるように思う。それには自分の人間力を鍛えねば!どんなに科学が進歩しても最終的には自分だけが頼りになると思うから。伊助は9歳にして一家の稼ぎ手として出稼ぎで不在の父親の役目を果たしていることに感動しましたよ困難に出会うたびにそれを糧に人間力を高めに行っているように思った。それにしてもふっと生まれ出たところで人生に大きな違いがあるものだ....自分のの住んでいる以外の世界も知れば自分の現場も違った見方をするように思った。

  • 物語の世界に引き込まれる。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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