破船 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117188

感想・レビュー・書評

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  •  「破船」は2022年の本屋大賞の「超発掘本!」選ばれた本でもあります。本屋大賞の「超発掘本!」とは、ジャンルや刊行年を問わず今読み返しても面白い本が選出されるものです。
     日本海沿岸の閉鎖的な貧しい寒村。土壌が痩せて作物もうまく育たず、魚介類もその場しのぎ程度の漁が精一杯の土地。村人たちは近海を通る貨物船の船荷をあてに座礁を祈る。
     生きることがこんなに苛酷だとは...。ちょっと気分が暗くなってしまいますが、海外でも広く評価され、多くの国の言語に翻訳された作品でもあります。

  • 豊かな現代との違いに戸惑う一冊。こんなに過酷な生活なんだから、お船様に対する犯罪なんて、大したことじゃないような気もしてくる。なす術もなく運命に翻弄される不幸。

  • 「お船様」の奇習も不気味だが、終盤、疫病蔓延の描写がリアルでゾッとする。日本海沿岸の伝承を基にしたという、作者ならではのフィクション。想像力がすごい。

  • 淡々と語られる「お船様」の実態、天から打ち下ろされた疫病の猛威、東北地方の寒村に起こる過酷なまでの不幸は実際起こったものなのだろう。作者の記述にリアリティを感じたのは私だけではあるまい。

  • この世界は灰色だ。そこに灯される紅色。呼び寄せられる紅色。どちらも悲愴に満ち満ちている。

    『お船様』をまつ貧しい漁村。
    年季奉公で身を売り村を出て行った父親の代わりに家を守り励む少年。

    貧しさはこんなにも人の心や言動を殺風景にし、思わぬ豊かさはこんなにも満ち満ちたものにするものなのか。誰が悪いわけでもない。

    最後は鳥肌がたった。

  • 吉村昭の小説はだいたい面白いですが、こちらもかなり面白い。
    抑えた筆致の中で、江戸時代の村での風習っぽいことがリアルっぽく描かれている。柳田国男や宮本常一の本を思い出されます。江戸すげー、とか明治すげー、とか新渡戸稲造とか司馬遼太郎を読みながら言ってる人にはぜひ読んでもらいたい一冊。

  •  貧しい雪国の漁村。苦しい生活の中、村民たちは難破した船から積み荷をかすめ取ることを生活の糧としていた。10歳の少年の伊作は、奉公に出た父の帰りを待ちつつ、母や幼い兄弟たちのため漁に励むが…

     吉村さんの作品は、派手さはなくとも引き込まれます。貧困にあえぐ村の描写、日々の生活、漁師として成長していく伊作、いずれの描写もしっかりできています。こうした確かな描写が積み重なっていくからこそ、自然と読者は作品の情景を想像し引き込まれていくのでしょう。

     村では難破した船を座礁させるため、岸で火を焚いています。この火に誘われた船が沈んだところを村民たちは、狙っているのです。今の時代から考えるとひどい話ですが、それまでの村の描写を読んでいると、生きるためには致し方ないとも思わされます。そうした風習や民俗の異様さも、面白く読めました。船から奪った積み荷で村人たちが喜びに沸く場面も、そうした当時の生活の厳しさを感じさせられます。

    三人称で描かれる吉村さんの感情を挟まない抑制された筆勢は、村の行く末を厳しく描きます。自業自得といえばそうかもしれないのですが、でも単にそれで片づけられない悲しさも感じさせる結末です。なぜなら彼らの生活が一時でも貧困から逃れるためには、船から荷物を奪うからしかないのです。生きるためにはそうせざるを得ないのです。

     船が流れ着いたとき伊作は、これで奉公から帰ってきた父に米を食べさせることができる、と喜んでいました。そうした感情を読者は否定しきれないからこそ、厳しい結末は読者の胸をより深く強く打つと思います。

  • 百年ほど遡った日本ではどこでも当たり前に存在したであろう閉鎖的な村社会の、閉鎖的にならざるをえなかった厳しい生活環境と自然、最適解として形成されていき逆らう選択肢などなかったコロニーの姿が恐ろしいほどに現実的に描かれている。吉村昭さんの作品に初めて触れたが一文一文が短くて淡々と語られていくのが更に冷酷さを際立たせた。
    時代小説だがこんな世界が事実としてあったのだろうなと信じて疑わないくらいリアリティだった。

  • 本当に怖いと思った。
    人間の冷酷さとそうしなければ生きて行けない無情を感じる。
    お舟様を待ち侘びる心境、歓喜と絶望の振幅は読んでいて辛くなるほどリアルであった。

    最後、主人公の父の凱旋帰還のシーンは涙もの。

  • 厳しい環境にある漁師村のお話。あとがきにもあるが民俗学的な内容がいくつも含まれている。村全体の犯罪行為であるお船様。家族を失う結果になる山追いなどなど。
    かつての日本での地方における生活、暮らし振り、考え方などが分かる。特殊な例であるかもしれないが。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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