海と毒薬 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.68
  • (668)
  • (1066)
  • (1460)
  • (115)
  • (17)
本棚登録 : 8526
感想 : 892
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123028

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 若き医師の「アレ」をやること、やったことへの心の葛藤は間違いなく存在し、小さくないものだった。にもかかわらず、齢を重ね、遠く離れた土地でのおそらくは短くない生活を経てなお、「これからもおなじような境遇におかれたら僕はやはり、アレをやってしまうかもしれない」と呟く彼。そこに、フツーの人間の姿、それを変えられない現実を見る。

    佐伯彰一氏の解説によれば、「留学」「沈黙」と合わせ3部作と呼べるそうなので、未読の「留学」を読みたい。

  • 恥の意識はあっても、罪の意識を感じ得ない日本人(というより、人間)の心理を、「米人捕虜生体実験」という、実際に戦中の日本で起こった出来事をモチーフにして描かれた作品。
    物語は、実験に参加した者のうち、命令された立場である、勝呂、戸田、上田の3人の視点から描かれる。特に、戸田の独白は物語の本質をついており、非常に興味深かった。
    140pと短く、考えさせられる作品なので、中学生~高校生の課題図書にちょうどいい作品だと思う。

  • 遠藤周作のテーマ「日本人とは」を考えさせられる。日本人の宗教観に興味ある人にはいいね。

    日本人は神の教えを持たない。それがこの国の中だったら普通である。

    神が預けてくれる倫理観・人生観というものを日本人はどうやって獲得しているのか。日本人は神に頼らず自律していけるスゴイ民族だということを考えさせられる。

    けどまぁそれゆえの弊害もあるんだろうけど。それにしてもすごいよね。インターナショナルな目で見れば。

    ・・・

    作中で人体解剖に携わった人たちが、なぜその行為を倫理に反することとして止められなかったのか。
    教授が軍部とのパイプを獲得できるという利害のために実施しようとしたこの人体実験。戦時中で生命の価値に対する考え方が麻痺していたにせよ、助手として参加してしまった勝呂はその誘いを断る決定打を欠いていた。
    クリスチャンだったら神の教えに即して、断じて拒否したかもしれない。
    しかし、神の教えを持たない勝呂は結局流されてしまったのだ。

    この物語の教訓として、日本人は神の教えを自分達は持っていないことを自覚すべきだと思った。
    人生で選択の必要に迫られた時、その決定打になる神の教えを持っていないということを。
    つまり、日本人は自分の行動に重い責任が付きまとうことになるのだ。だってその行動は全部自分で決めたことになるから。

    神がいないから拠所が無い。自分で決めなきゃいけない。とても大変。

    とはいえ、現実にそんなハイレベルなことが日本人全員ができてるわけもなく。自分の意志でもなく、神でも無く、、、、他人に流されるままに行動してしまう人が多いよね。

    作中の勝呂もそうかな。結局断る決定打が無いせいで流されてるし。
    橋本部長の奥さんヒルダさんは露骨な対比だよね。彼女は神の教えに下って流されない。苦しむ患者を解放するためとはいえ、患者を殺すことは神教えに反するから完全否定。

    人間って生きていれば選択がある。その拠所があるか無いかってとても大きい。人間そういう選択にかかる熟考は機会費用のロスと認識するから避けたがるものだ。
    神はそのロスをなくす画期的なよりどころだよね。
    その点、日本人は・・・

    こういう民族性を自覚いていくことが大事なぁと思いました。

  • 永久に寄せては返す昏い昏い海のような、僕たちの無形の罪のかたち

  • 初めて遠藤に触れた作品がこれというわけではないけれど
    彼の(人格はさておき)作品にときどき漂う遁世感の根本が
    少し理解できたような気がした。海と毒薬→悲しみの歌と続けて読むと良い。

    作品を読んだ後に表紙を閉じて、改めてこのタイトルを思い知ると
    あまりの深さに唇を噛みしめたくなりますよ。


    そういや気胸て言葉も勝呂さん関係でしったな。

  • 以前にレビューを書いた『悲しみの歌』こそ『海と毒薬』の続編に当たる作品であるいわれている。私は双方の本を並べ見て『悲しみの歌』を先に読むことにした。『海と毒薬』を読了して、この決断が私の為に良かったことを体感した。

    私にとって『海と毒薬』は『悲しみの歌』の本があってこそ成り立つ存在意義であった。何故ならば、『悲しみの歌』の勝呂医師の内面に、私自身が強く心惹かれいるからだ。事件当時の勝呂医師の心情及び環境を読み解くことを通して深める勝呂医師の後生に対する想いは、この上なく悦ばしい。

    『海の毒薬』の勝呂医師を知ってから『悲しみの歌』での勝呂医師を読み解く順序で得られる衝撃も、果てしなく凄まじいものであるように推測出来る。が、私がその順序で読み解いたとしたら、『悲しみの歌』での勝呂医師を、今よりもっと同情や憐れみの感情を投げかけながら読んでしまっていただろうと思う。

    『海の毒薬』を通して、私自身が気づかなかった『悲しみの歌』への想いを考えるキッカケに出来たことが、どんなにも大切なことであり、とても嬉しく思っている。
    『悲しみの歌』は全体的にとても暗いイメージの強いストーリー展開ではあった。が、暗いだけでは収めることのできない人情の深みが沢山秘められていたことを再実感した。特に『悲しみの歌』にて触れていた偏見に満ちた正義感を振りかざすことの罪深さについて、より一層考えを深めるきっかけになっている。


    ところで、両作品において、勝呂医師の心情の違いと、著者との類似性の強い登場人物(小説家及び引っ越してきた者)の心情の違いを、読み比べる面白さもまた、興味深かった。

  • 人体実験をする人っていったいどういう神経しているんだ?自分だったら絶対ありえない!って言える人はどのくらいいるのでしょう。もしその時代、その病院、その立場、その友達、その上司…全てがそろっていたらとひょっとすると、です。戦争は異常が普通になりやすくなるようで、恐ろしいです。

    主人公の医師の迷い、違和感が丁寧に描かれている。屈折した同僚も良い。薄気味悪いが、読みやすかった。

  • 戦時中に実際にあった九州の大学病院で起きた捕虜人体実験事件を題材にした小説です。

    「死」とは何か。「罪」とは「罰」とは。
    人体実験に立ち会って苦しむひとりの助手。
    その一方で、求めても求めても良心の呵責や後悔を感じることのできないもうひとりの助手。
    そのふたりを通して普段考えない、あるいは考えることを避けている問題をたくさん考えさせられました。

    戦時中。誰がいつ死んでもおかしくない。
    いちいち患者の死を悲しんでいたらつとまらない。
    いずれ死ぬと分かっている患者なのだから、あるいは戦争している憎むべきアメリカ人捕虜なのだから、今後の医学の発展のために殺してもかまわない。

    人を殺すことはだめだからだめなのだ。
    私は普段はそう考えている。
    でも、今の医学があるのは人体実験で得られた結果によるところもある。アメリカ人捕虜を使って行われた実験は、特に戦時中など大量にけが人が出た時により多くの命を生かすための医療技術に不可欠だったのだ。
    昔から宗教儀礼としていけにえを神にささげたり、人肉を食べる文化にであった時、私たちは何と言ってそれを否定できるのだろう。牛や豚を食べているのに人を食べてはいけないのはなぜなのかと問われたら、何と答えればいいのだろう。
    死ぬほど苦しんでいる人の命を延ばすことは正しいのか。拷問にかけられる運命にある人を生かしていくことは正しいのか。脳死をどうとらえればいいのだろうか。

    「死」「罪」「罰」。
    避けがちだけれど、永遠に付き合っていかなければいけないテーマだと思う。
    これらを直視させてくれたこの本は、すごく価値があったと思う。
    解説にも書かれているけど、本当はこの人体実験にたずさわった数人のその後を作品として読んでみたかったです。(続編は書かれないまま、10年ほど前に遠藤周作は亡くなられてます)

  • 戸田ぁぁぁぁ…..。
    勝呂には簡単に感情移入できたけど、やっぱり中盤であった戸田の昔話ゾーンで、完全に心惹かれた…
    もちろん戸田は間違っているんだけど、嫌なやつだけど、わたしは標本盗んだりはもちろんしないけど、それでも惹き込まれるキャラクターでした。
    「沈黙」を読んでからこの本を読んだけど、「沈黙」同様に一気に読めてしまう面白さがあって、さすが代表作という感じがあったように思います。

    ダメなことって分かるけど、わたしもあの時代に同じ状況になったら、絶対に断りきれなくてあの場にいたと思う。
    何が正しいのか。もちろん正義や正しさについて真正面から考えるのは大事なんだけど、真正面から考えられない時代や状況について、思いを巡らせることの大切さを改めて実感した本でした。

  • 難しすぎるしグロすぎる。戦時中の生体解剖の話。考えさせられる。

全892件中 71 - 80件を表示

著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠藤周作の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
三島由紀夫
谷崎潤一郎
村上 春樹
遠藤 周作
ヘミングウェイ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×