- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101123028
感想・レビュー・書評
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恥の意識はあっても、罪の意識を感じ得ない日本人(というより、人間)の心理を、「米人捕虜生体実験」という、実際に戦中の日本で起こった出来事をモチーフにして描かれた作品。
物語は、実験に参加した者のうち、命令された立場である、勝呂、戸田、上田の3人の視点から描かれる。特に、戸田の独白は物語の本質をついており、非常に興味深かった。
140pと短く、考えさせられる作品なので、中学生~高校生の課題図書にちょうどいい作品だと思う。 -
永久に寄せては返す昏い昏い海のような、僕たちの無形の罪のかたち
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初めて遠藤に触れた作品がこれというわけではないけれど
彼の(人格はさておき)作品にときどき漂う遁世感の根本が
少し理解できたような気がした。海と毒薬→悲しみの歌と続けて読むと良い。
作品を読んだ後に表紙を閉じて、改めてこのタイトルを思い知ると
あまりの深さに唇を噛みしめたくなりますよ。
そういや気胸て言葉も勝呂さん関係でしったな。 -
以前にレビューを書いた『悲しみの歌』こそ『海と毒薬』の続編に当たる作品であるいわれている。私は双方の本を並べ見て『悲しみの歌』を先に読むことにした。『海と毒薬』を読了して、この決断が私の為に良かったことを体感した。
私にとって『海と毒薬』は『悲しみの歌』の本があってこそ成り立つ存在意義であった。何故ならば、『悲しみの歌』の勝呂医師の内面に、私自身が強く心惹かれいるからだ。事件当時の勝呂医師の心情及び環境を読み解くことを通して深める勝呂医師の後生に対する想いは、この上なく悦ばしい。
『海の毒薬』の勝呂医師を知ってから『悲しみの歌』での勝呂医師を読み解く順序で得られる衝撃も、果てしなく凄まじいものであるように推測出来る。が、私がその順序で読み解いたとしたら、『悲しみの歌』での勝呂医師を、今よりもっと同情や憐れみの感情を投げかけながら読んでしまっていただろうと思う。
『海の毒薬』を通して、私自身が気づかなかった『悲しみの歌』への想いを考えるキッカケに出来たことが、どんなにも大切なことであり、とても嬉しく思っている。
『悲しみの歌』は全体的にとても暗いイメージの強いストーリー展開ではあった。が、暗いだけでは収めることのできない人情の深みが沢山秘められていたことを再実感した。特に『悲しみの歌』にて触れていた偏見に満ちた正義感を振りかざすことの罪深さについて、より一層考えを深めるきっかけになっている。
ところで、両作品において、勝呂医師の心情の違いと、著者との類似性の強い登場人物(小説家及び引っ越してきた者)の心情の違いを、読み比べる面白さもまた、興味深かった。 -
人体実験をする人っていったいどういう神経しているんだ?自分だったら絶対ありえない!って言える人はどのくらいいるのでしょう。もしその時代、その病院、その立場、その友達、その上司…全てがそろっていたらとひょっとすると、です。戦争は異常が普通になりやすくなるようで、恐ろしいです。
主人公の医師の迷い、違和感が丁寧に描かれている。屈折した同僚も良い。薄気味悪いが、読みやすかった。 -
戦時中に実際にあった九州の大学病院で起きた捕虜人体実験事件を題材にした小説です。
「死」とは何か。「罪」とは「罰」とは。
人体実験に立ち会って苦しむひとりの助手。
その一方で、求めても求めても良心の呵責や後悔を感じることのできないもうひとりの助手。
そのふたりを通して普段考えない、あるいは考えることを避けている問題をたくさん考えさせられました。
戦時中。誰がいつ死んでもおかしくない。
いちいち患者の死を悲しんでいたらつとまらない。
いずれ死ぬと分かっている患者なのだから、あるいは戦争している憎むべきアメリカ人捕虜なのだから、今後の医学の発展のために殺してもかまわない。
人を殺すことはだめだからだめなのだ。
私は普段はそう考えている。
でも、今の医学があるのは人体実験で得られた結果によるところもある。アメリカ人捕虜を使って行われた実験は、特に戦時中など大量にけが人が出た時により多くの命を生かすための医療技術に不可欠だったのだ。
昔から宗教儀礼としていけにえを神にささげたり、人肉を食べる文化にであった時、私たちは何と言ってそれを否定できるのだろう。牛や豚を食べているのに人を食べてはいけないのはなぜなのかと問われたら、何と答えればいいのだろう。
死ぬほど苦しんでいる人の命を延ばすことは正しいのか。拷問にかけられる運命にある人を生かしていくことは正しいのか。脳死をどうとらえればいいのだろうか。
「死」「罪」「罰」。
避けがちだけれど、永遠に付き合っていかなければいけないテーマだと思う。
これらを直視させてくれたこの本は、すごく価値があったと思う。
解説にも書かれているけど、本当はこの人体実験にたずさわった数人のその後を作品として読んでみたかったです。(続編は書かれないまま、10年ほど前に遠藤周作は亡くなられてます) -
難しすぎるしグロすぎる。戦時中の生体解剖の話。考えさせられる。