- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101123028
感想・レビュー・書評
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内心納得できないことを頼まれて断れなくて、あるいは断っても悩んで嫌な思いをした経験のある人は多いと思います。自分の行動を決める上で拠り所となる倫理、信念に耳を傾けず流されると一生苦しむことになるというメッセージ、また医学発展のため、戦争のため、出世のため、愛のためなど「理由」ができてしまうと、殺人という恐ろしい行為でさえ、人は正当化あるいは「仕方がない」と思うことができてしまうのだという認めたくない真実。こうした恐ろしいことが歴史の中で度々起きていること…思いめぐらせすぎて恐ろしくなった。またいつか読む。
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【新潮文庫2014夏の100冊21/100】嗚呼、これは難しい。難しい問いをドンッと叩きつけられた。。きっと百回読んだところで答えは見つからないだろう。戦中、敵国兵といえ人を殺した経験をした人が、戦後様々背負いつつ時に楽しみながら生きてたのも事実だけど、私はそれを善悪で判断できない。主題の捕虜の生体実験だって、善か悪か私にはやっぱりわからん。罪だから罰がくだるって言われれば、そうかもね。って思うけど、医療そのものがやっぱりそーゆー罪や悪の積み重ねで進歩してるってのもその通りだし。考えても答えは無い気が。。
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1945年の実際の事件「九州大学生体解剖事件」がモデル。日本人の罪の意識と、意志の弱さを問う問題作。
はっきりしない日本人と対象的な白人ヒルダの存在も印象的。
黒い海に澱み流される様な当事者達の無気力に幻滅しつつ、自分ならば果たしてどうか、と。。。 -
20170928
良心の呵責について、非常に毒のある作品。遠藤周作の作品を読んでいきたい。
生体実験を行うことについて、日本人の罪の意識を色々な人の心理から描いた。
勝呂と戸田の視点で描かれることは、自己の呵責ではなく、世間や周囲の目のみしか気にしないと言うことである。日本人はキリスト教が持つような罪の意識が全く欠如してることを浮き彫りにさせる。比喩的に海のようなものであり、キリスト教のように自分を縛り、罪と罰を意識づける心理が全くない。
何にも感情を揺らされないとは、果たして良いことか。八百万の神という神道や、執着を捨てる仏教の融合で培われた日本人。罪に食い込む問題に直面した時に、教義を示してくれるキリスト教と違い、日本人はどう考え振る舞えば良いのか。果たして自分も分からなくなってきた。倫理を高めるのか哲学を高めるのか、あるいはキリスト教のように一神教の教えに従うのか。
無感情の強みを活かして経済大国になった日本だが、幸福感や哲学(罪と罰etc)を深めていくために、何ができるか。昔を振り返るか、別の道を探るか。
仏教なのか、武士道なのか、神道なのか。私たち=日本人を見つめることを本気でしていかなくては、遠藤周作が示した日本人の気味の悪さを払拭できない。
罪と哀れみの教義を持つキリスト教に、盲目的に信仰心を持つことができない。罪の意識が培われない日本人であるからなのか。『海と毒薬』は日本人における罪の意識の欠如を描いたものである。私を俯瞰する一助となるか。-
2022/03/05
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2022/03/05
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フォロー、ありがとうございます。機会があれば、読んでみてください。今後ともよろしくお願いします。フォロー、ありがとうございます。機会があれば、読んでみてください。今後ともよろしくお願いします。2022/03/05
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遠藤周作氏の作品の魅力は、人間の本質を深く掘り下げていることに加えて、物語の構造が頑丈で劇的で推進力に富むことにあると思います。その魅力に読者はぐいぐいと引き込まれてしまいます。
この作品でも、外国人捕虜の生体解剖という戦時下での異常な事件を中心素材にして、権力欲や嫉妬心に駆られた人たちのエピソードを積み重ねつつ、人間の罪の意識や残虐性について氏は深く掘り下げていきます。「私」が気胸の治療を受ける町医者の日常の話で始まり、そこから町医者の過去をさかのぼり複数の視点を移動して広がっていく物語の劇的な展開も見事です。
暗く重苦しいテーマのこの作品を一気に読ませてしまう手腕はさすがとしかいいようがありません。 -
私の進路に、最も影響したかもしれない本。
とにかく考えさせられる。日本人とは何なのか。こんなに薄い本なのに、訴えてくる内容は重くて、難しい。 -
人間を生かすための人体実験のあり方に葛藤する医学生勝呂。引用にも載せたが、勝呂の友人戸田の台詞が読後、心の中ですごくもやもやしている。医学の進歩とはこういうものなのかもしれないけれども。
感想が書きにくい。 -
人は心の底からなにもかもがどうでもよくなったときに禁忌のボーダーラインを越えるんだと思った。夜と霧で自己を放棄した人の描写とかぶるところがあった。
解説読んで作者が言いたかったことがやっとわかった。"神"が不在の日本人か…。考えたことのない視点だったので目からうろこでした。途中気持ち悪くなったりしたけど読んでよかった。 -
久々に、物凄い小説に出会いました。
「限りなく透明に近いブルー」を読んだ時に似た感覚。
凄まじい力を秘めていて、圧倒される。攻撃力高い。
ホラーとは別の、本能的に背筋が凍る怖さ。
読んで暫くは放心状態になりました。
お話は、戦時中実際にあった、九州帝国大学医学部での捕虜の生体解剖をベースに、創作されている。
生体解剖に関わった医者、看護婦のバックグラウンド、実験の様子なんかは完全に創作だろうけど、凄まじいリアリティ。
完全なノンフィクションではないけれど、事実はあったということが尚更ゾッとする。
完全な事実であっても可笑しくないんだな、って。
戦争中の殺人は罪には問われない。ならば、どうして戦争中の人体実験は罪になるのか?
しかも、人体実験は今後の医療に役立てられる=多くの人を救える。
闇雲に殺すよりは、遥かに生産的。
でも、何か、心の奥底で引っ掛かる。それは違う。では何が違う?答えられない。でも、やっぱり心が拒絶する。それは何故?
外を見れば空襲で何万人という人々が死んで行く。
貴重な薬を使って、助からない命を延命させることに意味はあるのだろうか?
この患者が死んだところで、次々と新しい患者が運ばれてくる。
それでも、目の前の命を救おうとする医者の意義って何だろうか?
そんな絶望感の中で、生体解剖にNoと言えない、でも、手を下せない。
勝呂医師の心とシンクロしてしまった。
全部読んだけど、生体解剖の是非は、私には分からなかった。
この作品のテーマは、「宗教を持たない日本人故の残酷さ」というのもあるらしい。
確かに、宗教は行動の指針となって、私達の軸となってくれる部分があるのだろう。
だから、宗教を信じる人は軸がブレない、と。
それは確かに一理あるけど、結局戦争に参加して、皆と同じように殺戮を行っていたという事実は変わらない。
ただ、カッコイイ尤もらしい理由を都合良く後付けできるだけではないか。
無宗教だから残虐になれるのか?それはいささか疑問。