芽むしり仔撃ち (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126036

感想・レビュー・書評

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  • 伊坂幸太郎の好きな小説ということで初の大江健三郎作品。文体が古いことを除いても、ページが進まない話だった。自分の好き嫌いはラスト次第というのを理解した。

  •  個人的に、大江健三郎の小説はどれもタイトルがめちゃくちゃ素敵だなと思うのだが、「芽むしり 仔撃ち」はその中でも最もカッコいいと思ってい、笑わせるつもりは大江健三郎自身におそらくなかろうと思われど

    "彼はいつも南の地方について憧れており、それについて語ることで自分の日常を埋めていたので、僕らは彼を《南》と呼んでいたのだ。"

    だとか

    "馬跳びにあきた南たちは円く輪になって、それぞれズボンをずり落し、彼らの下腹部を風にあてはじめた。卑猥なくすくす笑いと、やかましい嘲り。彼らのセクスは明かるい陽をあびてのろのろと勃起し、やはりのろのろと萎み、再び勃起した。欲望の荒あらしい生命感も、充足のあとの優しさもないセクスの自律運動は長いあいだみんなの注視のもとにつづいた。そしてそれはおもしろくなかった。"

    なんていうセンテンスにあたるとやはり笑ってしまって、そんな箇所ばかりを思い出してしまう。でも、そういうことを思い出したっていいじゃないかね。この徒労だけが実存なんだ……のテーマをいよいよ陰惨に描いたこの小説でも、やはり楽しかった五日間のことを、せめて読者が思い出すのは、時間芸術でない文学の、なんというか許されている領域だと思うから。

  • 解説によると3週間もかけて疎開先へ歩き回る感化院の子供たちはさすがにファンタジーとのこと。
    その疎開先で疫病がはやり村に取り残される子供たちの話なのでなおさら。
    暗くもピュアというか、泥まみれの子供たちの素直さが、残してきた大人の汚さを浮き彫りにする。

  • 少し読みにくい表現もあったが、登場人物の心理や人間の悪意、悲劇の描写など、圧倒的な密度に心を奪われっぱなしだった。ただ余りに救いが無く、読んで悲しい気持ちしか残らなかったので星4。

  • 大江健三郎作品は短編以外では初でした。大江健三郎さんの文章を読んで自信を無くし小説を書くのを諦めた人も多いと言う話を聞きました。
    少し回りくどく慣れるのに時間がかかったのですが、慣れてしまうと、こんな事まで文章で表現出来てしまうんだと驚きます。
    自然の描写、人間の心の動き、複数の人間の間に流れる空気の変化など。
    動物の死骸の描写や、戦時中の貧しい人達の見窄らしさ、惨めさが内面も含めて、とても細やかに描写されており、何だか堪らなくなりました。
    始終陰鬱な雰囲気に包まれた話ですがそれだけでは終わらないよい意味での裏切りもかい見えて読後感は予想よりは悪くなかったです。
    第二次世界大戦終結直前の山村が舞台との事ですが、どことなく架空の世界のような雰囲気が漂っていることに関してはあとがきを読んで腑に落ちました。

  • 太平洋戦争末期の感化院の集団疎開のお話。もちろんこれは小説で、本当にこんな世界があったとは思いたくはないが、情景描写が生々しく、ノンフィクションとしてさせ感じられた。孤立は自由を与えてくれるが、不安や恐怖がその大半を占めていると感じた。ただ、孤立の不安や恐怖を乗り越えてとった行動によって、新しい世界が広がるように思えた。

  • 集団疎開である村落にきた感化院の少年達の話。
    戦後の貧しい暮らし、自然を擬態化した文章が生々しく、リアルに景色を捉えた作品となっている。

    感化院の少年達が疫病の流行る村の中に閉じ込められた時の怒り、自活していく壮絶な生死の境目を語った、力強い筆力が魅力的だ。美的感覚的に言えば美しいとは言えない内容だと思うが、生きる為に奔走する主人公の前向きな主張が現れている作品となっている。

    ある意味世の中の風情を描いているような感じもした。昨今の小説では主人公ありきで進んで歩く物語が多い。しかしこの物語では世の中とは残酷な人間達が多く存在し、理不尽な犠牲が多く存在する事を生々しく書いたことに意味がある。残酷な事に流されてしまうのか、理不尽なことに屈する事なく正義を内に秘め、貫き通した主人公は物語の中では誰にも助けられやしない。

    しかし、そこに未来への糸口が隠されていると教えられたようであった。

    文章が下の内容が多く、読み進めるのが少し困難だった為に評価は3

  • 想像の世界を実に現実的に感じるのは、自然描写といい、心象表現といい、卓越した筆力にあるようだ。20代での作品というのも驚かされる。「擬する」を銃を突きつけるという意味でさらっと使う人はあまりいないんじゃないか。2020.8.13

  • コロナ禍だから久々に読んでみた、疫病と差別。描写の執念の強さ、濃厚さ、残酷さに驚く。

  • 読んだのは、昭和40年発行、昭和47年11月30日の11版です。

    読書会の課題本で知りました。大江健三郎さんの本は難解とイメージがあり避けてました。
    これは23歳のときに書かれたと知り驚きでした。
    感化院の少年が村へ疎開するのですが、村では謎の疫病で動物たちが次々に死んでいるところでした。村人は少年たちを村に置き去りにして逃げ出します。朝鮮の人と疎開してきた小さな女のこも置き去りにされてました。マイノリティの連帯、正義が常に反転していて、少年たちの目線で物語を読み進められ。脱走兵もみなから侮辱をうけながら、ちゃんと学問を修めつつある人物だとわかります。

    戦時中の全体主義の狂気がいまのコロナ時代に、なんか合ってる気がしました。

    無垢な弟が犬を殺され居なくなってしまうシーンに胸がしめつけられ。
    村長がお前らを許すと言った嘘の寛大さに怒りを感じ。
    すごい作品だなぁ。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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