赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134062

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶり(多分約20年ぶり?)に読み返した、やはり良作。
    改めて感じたのは山本周五郎は単なる人情もの作家ではないということ。
    人間の暗い面を徹底的に見つめ、それを見事にストーリーに昇華させている。
    単なるストーリーテラーではないところにこの作家の真骨頂があると思われる。

  • 1964年初版。以前読んだのはたぶん30年以上前。貧しい民に尽くす赤髭先生の物語という印象しか記憶になかったが、むしろ、栄達を望む若き医員の目から見た出来事や赤髭像。記憶とはいい加減なものなのか、その当時の読解力なのか。しかも、連作短編の多くの事件や患者はサイキックトラウマ・・・。
    周五郎が権力を嫌い、常に貧しい世界に生きる人間の真相を見つめる作家と言われている原点のような作品だからこそ、既に80版を超えているのだろう。

    御番医・栄達を望み長崎遊学から戻り小石川養生所勤務となる医員。そこには最下層の貧民に尽くす「赤髭」が。彼に反抗しながらも、権力・政治の愚かさに憤り民の側に立つ医療を貫く赤髭の強靭な精神に惹かれていく。
    「われわれがまずやらなければならないことは、貧困と無知に対するたたかいだ、貧困と無知とに勝ってゆくことで、医術の不足を補うほかはない。」
    やはり名作。

  • 「赤ひげ」新出去定の無骨だが慈愛に満ちた人情医者物語、と同時に、青臭さが濃く残る医者の卵・保本登の成長物語でもある良作。連作短編形式の作品それぞれは胸がスッとする話もあれば、人間のゾッとする底暗さを見せつけられる話もありますが、これら清濁併せ持っているからこそラストで登が去定に向けて発した言葉に心を揺さぶられます。12年5/7読了。

  • 短編集というか、連作ですね。
    山本周五郎作品はずっと読もうと思っていたのですが、なぜか読んでおらずようやく読破しました。
    最近ありがちなほのぼの人情系ではなく、人間の二面性をしっかり描いた骨太な作品でした。
    厳しい現実を目の当たりにしながら成長してゆく主人公や、陰が見え隠れする赤ひげ先生が、好感触でした。

  • 赤ひげの、「どんなに罪深い人間も、人間が悪いのではない。罪を犯す環境や貧しさが悪いのだ」と自分に言い聞かせる姿が人間くさくていい。けっして悟った人間ではなく、悩みながら理想を追い求めて全力で闘う赤ひげに心を打たれる。

  • 山本周五郎びいきの親父の本。初めて読んだけど面白かった。医療モノと思いきや人間ドラマがつまってます。キャラクターが魅力があって心理描写が細かい。先の展開がどうなるかわからなくて面白く読めます。あとひとつひとつの話が独立してるので読みやすいです。また実家から勝手に借りてこようw

  •  同著者の「ねぼけ署長」とともに、学生の頃から愛読した。これまで何回読んだか分からない。
     不本意ながら小石川療養所に勤めることになった長崎帰りの若い新米医者が「赤ひげ」先生こと、新出去定(にいできょじょう)の医師としての態度に触れ、やがて療養所に尽くそうとなるまでを描く。
     抑えた筆致ながら、新出去定の口を借りてのヒューマニズム、おそらく著者の信条なのでもあろう、弱者や悪者、貧しい者は其れ自身の罪ではない、社会全体の罪であるといった主張が語られ、読む度に静かな感動を得る。なお、同様の考えは、上記の「ねぼけ署長」でも、様々な事件の解決とともに語られている。
     また、本書を原作とした黒澤映画「赤ひげ」も必見であると思う。

  • 人生は教訓に満ちている、しかし万人にあてはまる教訓はひとつもない。殺すな、盗むな、という原則でさえ絶対ではないのだ。
    人間ほど尊く美しく、清らかで楽しいものはない。だがまた人間ほど卑しく汚らわしく愚鈍で邪悪でいやらしいものはない。
    世の中は絶えず動いている。すべてが休みなく、前へ前へと進んでいる。それに就いてゆけないもののことなど構っていられない、だがついてゆけないものはいるのだし、彼らも人間なのだ、今富栄えているものよりも、貧困と無知のために苦しんでいる者たちの方にこそ、入れはかえって人間のもっともらしさを感じ、未来の希望が持てるように思えるのだ。

  • いやはや、こんなに面白くて一気に読んでしまう小説だったとは。
    お見それしました、山本周五郎。
    初の山本周五郎作品だったのですが、是を機に数ある作品を端から読み倒したい!と思わされてしまいました。

    江戸時代の話なのですが、赤髭先生の言葉は、現代でも多くの人の胸に響くはずです。
    時々時代設定を忘れて、貧困や情欲や人間の浅ましさを現す様な、現代の情景が浮かんできました。
    誰かが多くの人の為になるやるべきことがあるし、その誰かになるには、強い意志や確固たる信念が必要だけれど、それはそれを身につける事が出来る全ての人間に可能な行為なのだと思います。

    出来れば江戸時代の江戸の街の地図を手元に置いておくと、もっと楽しいかもしれません。
    東京自体に詳しくないので、どこの事を言っていて、それが遠いのか近いのかさっぱり把握出来なかったので、距離感覚が掴めなかった点が残念でした。

  • 山本周五郎。なぜかみんなあんまり知らないんだよな。ものすごくいい小説家だと思います。人の心の機微をうまく捉えてるし、それが読んでる人にじわじわ伝わってくる。あんまり本を読まない人には、小説のいいとこが分かるので、読んでみてほしい小説家のうちの一人。

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著者プロフィール

山本周五郎(やまもと しゅうごろう)=1903年山梨県生まれ。1967年没。本名、清水三十六(しみず さとむ)。小学校卒業後、質店の山本周五郎商店に徒弟として住み込む(筆名はこれに由来)。雑誌記者などを経て、1926年「須磨寺付近」で文壇に登場。庶民の立場から武士の苦衷や市井人の哀感を描いた時代小説、歴史小説などを発表。1943年、『日本婦道記』が上半期の直木賞に推されたが受賞を固辞。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、とくに晩年多くの傑作を発表し、高く評価された。 

解説:新船海三郎(しんふね かいさぶろう)=1947年生まれ。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。著書に『歴史の道程と文学』『史観と文学のあいだ』『作家への飛躍』『藤澤周平 志たかく情あつく』『不同調の音色 安岡章太郎私論』『戦争は殺すことから始まった 日本文学と加害の諸相』『日々是好読』、インタビュー集『わが文学の原風景』など。

「2023年 『山本周五郎 ユーモア小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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