凍 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101235172

感想・レビュー・書評

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  • これノンフィクションなの!?
    最強のクライマーと言われた山野井泰史さん。
    夫婦で挑んだヒマラヤの難峰ギャチュンカンでの、極限の世界。

    あまりに壮絶なクライマー夫妻の氷壁との闘いに茫然とするばかり。
    でもそこにあるのは、悲壮感や絶望でなく、生きる希望と力であることに心を打たれました。
    手足の指を凍傷で失うことになろうとも、
    死に直面しようとも。

    7000mを超える高山の世界。
    氷壁。絶壁。雪崩。吹雪。
    酸素濃度の低さ、低温。高山病。

    高山で頭痛や吐き気、食べられない、
    それでも登るとは?

    6367mのクスム・カングル東壁にフリーソロで33時間まったく眠らないで登りつづけたり、高度7000m、下の氷河まで1000m、斜度70度以上の氷の壁で、50センチほどの幅の平らな部分を掘って作ってテントを張って寝たり、場所がなくて氷壁からブランコ状にして寝るとか、ひとつひとつ想像してみるけれど、想像しきれない!

    「これでいいのか。
    自分の人生は間違っていないのか。
    しかし、残念ながら、あの山を見ると、登らざるをえない自分がいる。」

    ギャチュンカンアタック前夜
    「何を食べているかわからないほど緊張していた。」
    「食後のコーヒーを、これが最後かもしれないと味わって飲みはじめるが、また上の空の状態になっている。」

    「午前三時半、ビバーク地点を離れた。月は山陰に隠れ、空にはまったく明るさがない。ヘッドランプを照らしながら北壁の取り付き地点へ向かった。」

    苦しくて苦しくて、何度も読む手を止めて深呼吸をしました。

    私もその世界をリアルに見ているように、淡々と鮮明に綴る沢木耕太郎さんの文章がまた素晴らしく、心にしみました。

  • 過去に山関連では植村直己「青春を山に賭けて」、著者関連では「深夜特急」を読んだ状態で読了。「青春を山に賭けて」では植村直己のとんでもない情熱と傾注力に触れて、深夜特急では不思議な旅を独特な文章で魅せられた。これら(題材×文章力)が掛け合わさるとどうなるかと気になりつつ読み終えた。

    読み終えた率直な感想は、やっぱりこれが史実なのかと驚きを隠せない。幼少期からの過ごし方、今回の挑戦までの動機、山野井と長尾が結ばれた経緯などどれをとっても不思議さと想像できないことの連発だった。ただどこの点においても決意と達成しようとする情熱はすごかった。植村直己と同様、アクティビティであると同時に命をかけてやらないといけない山登りの性質かもしれない。
    一番驚いたのは長尾の身体についてかもしれなかったが・・日本一優れた女性クライマーといっても過言ではないかも知れない。ディスアドバンテージを人よりも持ちつつも肉体面・精神面で勝てる人はいないのではないだろうか。

    ただ、本作はすこしばかりの物足りなさを感じた。前述の「深夜特急」で綴られた文体がありながらも、万人受けするような読みやすさ重視の文章になっていた気がする。そして、臨場感やその情景を感じられない場面が多々あった。これはおそらく、著者の沢木氏の史実ではないからだろう。

    ただ逆に言うと、この本はどのように書かれたのだろうか。ノンフィクション作家は基本的に自身の経験を書くものだと思ったが他人の物も書くのかと知らされた意味で、その概念が崩されたということで本作は良かった。それにしてもどのように書いたのだろうか。本作を書くことになったきっかけ、どのように書いたかが気になる。

    山野井は本作の話の後も登山を続けているよう。未踏峰ルートも登ってるということで真似できないし尊敬する。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E9%87%8E%E4%BA%95%E6%B3%B0%E5%8F%B2

  • やー…すごい本だ。というかすごい人たちだ。自分が好きなものを知っていて、それに全力で取り組んだ人って、たとえ手足の指18本無くしても動じない。妙子さん素敵すぎる。二人とも世間からの要求や、「こうあるべき」姿、ピークハントから自由で、「次はどこがおもしろそうか」の軸で決めているから、誰のせいにもしないし後悔もしないんだろうな。ほんとすごい本。

  • 読んでいく内に、心が震えて、凍っていた何かが溶けていく感じがした。山野井夫妻のあり方、生き方が素敵だった。

    この人だという人に出会えるのは、一生にあるのかな。早く忘れようとしてるのに、ふと思い出したり、何気ない一言を覚えていたり。ずっとひとりで生きていくって思ってたから、心配する対象ができて、こんなにも好きになったことがなくて、自分の普通の状態というか、チューニングがおかしくなってた。自分の器、そんなでかくなかった。壊れてしまってた。自分が回りに伝えてた言葉が悪い意味で繋がって、無意識に突きつけられた感じで、そんなことあるはずないのに、自分は死ねばいいとか、酷い愚かだとか、ごめんなさいとか、思ってしまってた。ほんとヤバい状態だった。やっとひとりで、と思ったのに、いまさらだけど、自分の生き方はどーなんだろうって考えるようになってた。

    寡黙になったり、ときどき苛立ったり、そして、二人がスピリットを尊重し合っているのが、かっこいい。

    なんとなく「へー」くらいに読んでいた一冊一冊が、すごい。やっぱり、君のセレクトする本はすごいなぁと思う。ぼくは、どんなに満たされて、安全地帯にいたとしても、好きな人が選んだ本を読んでいたいな。そして、そういう人を笑顔にさせられたらと思うけど。。。原点の山に、アタックして、ぼんやり自分の生き方を考えてみる。なにか違う景色に見えてくる気がする。人生の折り返しに新しい挑戦ができる。嬉しい。

    今日は、大丈夫だ。ひとりじゃないよ。それは、ぼくじゃないのが哀しいけど。人を引き寄せて、相手の魅力を最大限に引き出す愛で溢れてる。君といることは、みんなの喜びなんだろう。独り占めしちゃいけないんだろう。

    君と出逢って死ぬのが怖くなった。好奇心がわいてきたからなんだって、やっとわかった。

  • 宇宙開発とか深海探索とか南極探検とか、人類に進歩をもたらすためにリスクをおかして挑戦するのはわかるけど、登山家といわれる人たちは、ほとんど何の利益ももたらすことなんかなさそうなのに、いったいなんのために大きな危険をおかしてのぼるのだろうかと思っていた。この本を読んでもやっぱりわからなかった。わかったのは、登る動機はただ登りたいという気持ちだけなのだということ。
    考えてみると結局どんな人だって、程度の差はいろいろあれど、自分のやりたいことのためならリスクをおかしてでもやっているのだ。遊園地でジェットコースターにのるのも、海外旅行のために飛行機に乗るのも、もっと言えば外を出歩くだけでもリスクはあるけど、(人類の利益になるかどうかにかかわらず)何かしたいという気持ちがリスクを心配する気持ちを上回ればなんだってやってしまう。そういうことなのかなと思った。

  • 今井通子、植村直己、加藤保男、小西正継、長谷川恒男、ラインホルト・メスナー、ガストン・レビュファ。これまで様々な登頂記を読んできたが、その多くは登山家自身によるものだった。

    本格的な登山経験のない作家が取材により登頂記を書くのは、なかなか難しいのではないかと思う。しかし途中からは夢中になり、最後はベッドの中、日をまたいで(都合により^^)懐中電灯の灯りで読了した。

    特に下山時の極限状態が生々しく伝わってくる。フィクションではない事実の凄まじさ。作家は後景に退き、主役はどこまでも山野井泰史、妙子という登山家だ。このブクログで山野井泰史自身による『垂直の記憶』という著書があることを知った。いつか読んでみたい。

  • クライマー夫婦2人についてのノンフィクション作品。
    想像を超えるような過酷な環境での登山。
    それを乗り越える強靭な肉体と精神力に、感動を通り越して唖然としてしまった。

  • フリークライマーである山野井泰史と妻妙子が、エベレスト近峰にあるギャチュンカンを目指す姿を描いたノンフィクション。その壮絶な工程を、信じられない思いで読み進んだ。活字から想像するしかない世界で、どこまで沢木さんの文章についていけていたかわからないが、想像を絶する登山を追体験させてもらいました。渾身の力で生き抜こうとするふたりの姿が、とても美しかった。自由な生き方、自由なクライミング、かつて藤原新也がカンジス川で撮影した写真に「人間は犬に食われるほど自由だ」とコメントしたように、それを体現しているふたり。
    美しいラインを描いて登ることへのこだわりは、生き方とか物事への向き合い方なんですね。
    とても良い表現です。僕も美しいラインを描いて生きていきたい。

  • 山に登るのいうのはこんなにも過酷な体験だったのか。

    今まで登山というものに全くもって興味がなかったが、この本を読んでみようと思ったのは、自分が知らない世界を覗いてみたい、と思ったのと、登山に全く興味がなかったが故に、なぜ人は危険を冒してまで山に登ろうと思うのだろう?と単純に疑問に思ったからである。

    読み始めると続きが気になってしまい、一日で読んでしまった。私が想像していた登山とは全く異なり、もはや崖を登る(しかも雪の)状態で、どのルートを選ぶか、酸素が薄く朦朧とする頭で常に生死を分ける判断を強いられる。疲労困憊で極限の精神状態の中、追い打ちをかけるように雪崩にあい、休む場所もなければ満足に食事も摂れない。それでもなんとか生き延びる方法を模索する精神力。

    なるほど、山に登る人の心境というのは、限界まで自分を追い詰めてそれを乗り越える事が原動力になっているのかなと思った。生きるも死ぬも全て自分の判断。正しい判断をすれば生き延びるが一歩違えば死に至る。そんな体験が現実にできるのは確かに山はうってつけである。

    稲泉連の日本人宇宙飛行士を読んだ時は宇宙に行ってみたい、と思ったが、本書を読んでも山に登りたいという気持ちは私には芽生えなかった。私のような素人が挑むべき場所ではないと思うし、何より極限状態を耐え抜く精神力が必要だと思うから。

    この本を本人ではなく第三者が本にしていることには感嘆する。これだけ臨場感溢れるストーリーにする為に、どれほどの労力があったろうか。これもまたすごい精神力だと思う。






  • 山野井泰史さんと妙子さんのギャチュンカン北壁からの登頂ノンフィクション作品。

    タイトルの「凍」には、かなりの指を凍傷で失った「凍りつく」意味だけでなく、全力をつくして「闘」した意味も込められている。

    ピオレドール生涯功労賞も受賞してる山野井さんの、追い込まれても追い込まれても対処し続ける体力と精神力に、ただただ脱帽する1冊でした。

    8章の書き出し「目が覚めるとまだ生きていた」が特に痺れます。

    山野井さん密着ドキュメンタリー「人生クライマー」を見てたのもあり、本が特別面白かった、というよりも、本人じゃない人が書いてるのにこの緊迫感はすごい。というのが率直な感想でした。本人じゃないのにこれだけ書けるということは、いかに聞き出し、再構築したのか、その手腕がすごいに違いないはず。

    作品について書くよりも印象に残ったフレーズについて2つ触れたたいと思います。

    ①「わからなさは、危険と隣り合わせだとういこと。同時に、自分の未知の力を引き出してくれる可能性もある。」

    未知は未知を引き出す。限界は知らない領域から訪れる。

    以前自分の記録で書いた「まだ知らないだけ。だから足を運ぶ。挑む。だから挑戦というのは楽しいのだ」というフレーズはもっと深められるのだと思いました。

    ②「筋肉がつくことによって登れるようになるのではないのだろう。ある時脳のどこかが、ここは登れると思うようになる。そこと手足の神経が結びついた時、登れなかったはずのところが登れるようになるに違いなかった」

    凍傷で多くの指を失った山野井さん。以前のような登りができなくなっても、クライミングを繰り返していくうちに少しずつ登れるようになっていく。その出来事自体に多くのクライマーが言い訳できない背景を感じつつ、クライミングの楽しさの本質をついたような一文だと思いました。


    ポッドキャストで配信されてるラジオドラマがなかなかよかったので、本を読む時間がない方にはそっちをお勧めします!

    https://podcasts.apple.com/jp/podcast/%E6%B2%A2%E6%9C%A8%E8%80%95%E5%A4%AA%E9%83%8E-%E5%87%8D/id1510513690?uo=2

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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