遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101248042

感想・レビュー・書評

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  • 「一応ノーベル賞はもらっている」こんな学者が闊歩する伝統の学府ケンブリッジ。家族と共に始めた一年間の研究滞在は平穏無事・・・どころではない波乱万丈の日々だった。通じない英語、まずい食事、変人めいた教授陣とレイシズムの思わぬ噴出──だが、身を投げ出してイギリスと格闘するうちに見えてきたのは、奥深く美しい文化と人間の姿だった。

    筆者のイギリスでの研究生活を題材にしたエッセイ集で、異国の地で暮らすことの大変さ、息子たちの学校でのいじめなど、様々な問題に体当たりでぶつかる筆者の姿に好感が持てた。
    ただ一つ、息子のいじめに対する筆者の父親代からの考え方には、いささか疑問を感じざるを得ない部分もあった。そういう意味では、今どき珍しいくらい古風な考え方をする中年男性というふうにも見える。

  • 一朝ことあらば真先に戦場に駆けつける」>ノブレス・オブリージュ(高貴な者に伴う義務)

    ゆっくり徐々に、というのは怠け心との葛藤に、貴重な精力を費してしまうから良くない。少なくとも私のような怠惰人間にとってはそうである。

    自然科学が社交の場になっている

  • 私は心の中で「行け」と鋭く号令を掛けた。
     静まり返った中を、彼女が弦に当てた弓をすーっと引いた。物凄いとはこのことだった。
    「圧勝だ」と思った。

    私は音楽的感動と愛国的感動の波に手荒くもまれながら、じっとしていた。
    〜中略〜
    「すごかった。ものの十秒で日本の圧勝を確信した」
    〜中略〜
    よし今度は自分が蹴散らしてやろう、と思った。


    海外にいて自国の人間の活躍を観たときの気持ち。
    凄く良くわかる。

  • またドタバタw

  • 藤原正彦が、英国ケンブリッジ大学に研究滞在した1年間について綴ったエッセイ。イギリス人の気質や伝統が描き出されている。

    日本人であるが故に学校で虐められた息子さんに、英国の教授陣に認められるべく孤独に闘っていた自分自身を重ねてしまっていた話など、藤原さん自身の葛藤も存分に描かれており興味深い。他人の苦労に自分の苦労を重ねて自分勝手な激励や期待を押し付けるって、やってしまいがち。

    イギリス人のユーモアは無常観に依るものであり、そこに日本との共通点があるという分析も面白かった。辛い現実から一歩距離をおいて、物事を客観敵に突き放して笑い飛ばす。ユーモアがやせ我慢であることは少なくない。かつて反映を築いたイギリスと、低迷期にある日本とは今後より分かち合えるものがあるかもしれない、と。このユーモアは、ちょっと2ちゃんの冷笑に似てる気がする。

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  • 「海外経験」の意味が詰まっている

  • 著者の観察力のするどさに驚かされる。

    たとえば、イギリス人にとってフェアであるということが、決定的に重要な意味をもつらしいことを、赴任して本業に入るまでの間もない期間に感じ取っている。

    普通の人だったら、訪れた国が好きだとか嫌いだとかなんとなく感情的になったり、慣れない出来事にただ驚いたりしがちなところ。
    著者は、底に蓄えた知識をもとに、日々のことを鋭く分析できているのが非凡だ。

  • イギリスについて、イギリス人について、非常に鋭い観察眼でときに客観的に、ときに主観的に描写されていて、イギリスに対する理解を深めるのにうってつけのエッセイだった。著者は以前、アメリカで仕事をしていたせいもあり、アメリカ社会やアメリカ人との対比、またはオーストラリア人、カナダ人、ユダヤ人、そしてもちろん日本との対比を多く交えて綴っている。客観的に綴られているそれら事実は、それぞれの文化に特徴があるのがとても興味深かった。日本人からすると欧米をひとくくりにしてしまいがちだけど、文化や気質、考え方などかなり違っているんだなと思った。また、著者が実際に体験した人種差別や階級差別について、また著者の息子さんが学校でいじめられたというエピソードについてはかなり主観的に描かれていて、同じ日本人として他人事とは思えず、思わず肩に力が入ってしまった。特に「レイシズム」の章では、あからさまな人種差別に触れられていて、読んでいると何となく重苦しい気分になってしまった。だけど、これが英国の現実であるということは、動かしようのない事実らしいので、この事実は事実として受け入れなければならないと思った。また、ケンブリッジやオックスフォードという世界有数の教育研究機関のシステム・役割・運営、そこでの学生や教授・研究者の生活っぷりが覗えてたいへんにおもしろかった。更には、いわゆる英国紳士の定義・ふるまい・考え方などについても触れられており、興味深かった。英国紳士のほとんどの部分には尊敬の念を抱くが、いわゆる”ラットレース”をバカにしたり、不労所得を最良の所得と考えるあたりについては、ちょっと首をかしげてしまった。

  • 解説の南木佳士氏は、「若き数学者のアメリカ」を読んでから、他のエッセイに手を出さず、この作品で「十四年」ぶりに著者の作品を読んだという。
    私やアマゾンのレビュワーの中にも、そのように読んだ人が多いようだ。

    殆どの人が著者の文章を「グイグイ読ませる」「引きこまれた」と評すが、これは、著者がその時見たり感じたことを文章に起こす能力と、それを当時の世相なども含めた大局的な観点から分析する能力のどちらも非常に高いからだと感じる。

    近代に入ってから米国にその座を抜かれるまで世界の盟主であり続けた老大国の落ち着いた現状と、バブル期に一瞬だけ栄華を極め、その後二十年にわたり凋落している日本とでは比べるべくもないが、ケンブリッジに住まう彼らの生き方は示唆に富んでいて、面白い。

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著者プロフィール

お茶の水女子大学名誉教授

「2020年 『本屋を守れ 読書とは国力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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