櫂 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101293080

感想・レビュー・書評

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  • 多分ストーリー展開だけが記されていれば、文庫本500頁を超えるものにはならないだろうが、宮尾登美子の文章には、主人公の目に映る自然風景、お菓子、四季の移り変わり、寒さ、風、太陽の昇り沈み、花や草木、衣服、気温、湿気、お菓子、果物、何とはない子供の遊びに使われる小道具などなどの説明表現が非常に多い。男の読者としては、もっと話を進めてくれよと思ってしまうところもあるし、その分ちょっととっつきにくい感じは否めない。ただ同時に、その様な表現を通し事によって、実は直接表現では言い表せない登場人物の内面の思いを読者に伝えている。

    時代背景が違うとはいえ、現在の自分には考えられないような男の身勝手さがいやになってくる。

    とは言いながら、本当にそうであろうか?自分は違うと本当に言い切れるだろうか?

    結局自分も岩伍と同様に、金回りに不自由がない事がイコール家族を思いやっているという意識になってしまってはいないだろうか?喜和もお金を第一の目的として望んでいたわけではない。

    うちのカミさんも喜和と同じく、必ずしも思ってることをストレートに表現出来る方ではないし、底抜けに明るいとか、多少のことは笑い飛ばしてしまうという性格でもない。どちらかと言うと、後になってから「ああすればよかった」、「こうすればよかった」と思う方だろう。その様な不安、不満を抱えているであろう彼女の思いをどこまで汲んで、不安なく包容してあげる事が出来るだろうか…男としての真の甲斐性が問われる。

    最後の別れの場面は、非常にあっさりとした状況描写であるがゆえに、その分余計に突き上げてくるものがあった。

  • 年末に作者が亡くなったというニュースを聞いたときに、改めて4部作を読もう、と決意したもの。実は「櫂」は大分昔に一度読んでるけど、まだ若かったからか殆ど理解出来なかった。今回4部作読むにあたって再読。自伝小説というのは書く方も読む方も体力使う、日本が戦争に向かって転がってゆく最中に、こう言う世界が連綿と続いていたというのは僕らは知る由も無く。これが今度どうなっていくのか、4部作読み切って感想文書きます。(しかしなぜか「朱夏」が手に入らない…)

  • この前読んだ『仁淀川』はシリーズだったので、その一番最初の作品を読みました。
    15歳で結婚した旦那が芸妓さんとか人買い系の仕事を始めて、すっごく忙しいときにすっごく年下の美人と子供を作っちゃって、その子を実子として籍に入れて育てたのに他にまた別の女性ができちゃって、子宮筋腫の大手術をしたあとで体が弱っているヒロインさんを無理矢理離縁。
    継子だけれども心が通じていた娘さんと引き離されるところで終わっていました。
    昔の女性は大変だ!
    でも、一気に読ませる面白さがありました。

  • 喜和さん、女として尊敬します。

    とにかく悲しい話だなと思いました。
    昔だからこそ男の人にここまで従順になれたのかなと。現代では考えられない話です。

    時々チラッと見える岩伍の優しさにおおっ…!っとなりながらもやはり最後は悲しさだけが残る。

  • シリーズ物の、多分最初の一冊。
    実は先に「仁淀川」という本を読んでいて、それがこのシリーズの最新本だと知りました。
    「仁淀川」の主人公、綾子の母親、喜和がこの物語の主人公になります。

    「仁淀川」では女の中の女。女性の鑑だと思った喜和ですが、この本ではかなり印象が違いました。
    それも無理もない。
    最初の登場は15歳なんだから・・・。
    田舎者で実直な性格の喜和が何故か渡世人の岩伍を気に入り15歳という若さで結婚。
    その後、波乱万丈の結婚生活を送るという話です。

    結婚当初は定職に就いてない岩伍のせいで、家計はいつも火の車。
    しかも人情が篤いが短気な岩伍はすぐに喜和に暴力をふるう。
    岩伍が芸妓の斡旋業を営むようになり、やっと生活が落ち着いたと思えば、次は岩伍の浮気。
    そしてその浮気相手との間に出来た子を育てる事となる。
    他にも長男の長病、次男の放蕩ぶり、預かる妓をこれも我が子と同じように育てるなど全く心の休まる暇がない。
    堪えて堪えて堪えて・・・。
    それでも、どんな事があっても人への情を失わない、心根が真っ直ぐで腐らない喜和。
    それなのに、そんな妻に岩伍は感謝する所か最後の最後にまたもひどい仕打ちを・・・。

    岩伍という男は憎めない男だと思う。
    男気があって魅力がある・・・だけど、長年連れ添った妻にこれかい!とただもう呆れるばかり。
    でもそういう苦難を乗り越えて、どんどん人間として女性として喜和が成長し、強くなっていくんだから皮肉なもんだと思いました。

    そして、最初は夫が他所でつくった子など絶対に育てるものか!と言っていたのが、血を分けた実の子よりも、そして長年人生を共にした夫よりも強い絆で結ばれていくのだから縁というものは本当に不思議なものだな・・・と思いました。
    母娘がお互いを思いやり、いたわる所にジーンときました。
    「仁淀川」でも思いましたが、お嬢さん育ちでワガママな所はあるけれど、明るくて屈託のない性格の綾子が好きです。

  • 旦那さんについていこうとしても、なかなか馴染めず苦労している感じが最初、辛かった。我慢強いだけに、譲れない所は自分の感情をあらわにするのか?
    例えば、息子の病気、死、家人の嫁入りなど大きな変化にも思いが伝わらない夫婦。
    宮尾作品はまだまだ読みたいです。

  • 先に喜和の娘の綾子が主役の「春燈」を読んでから
    こちらに取り掛かったので、この本での
    主人公喜和の行く末はわかっていたけれど
    どのようにそこへ辿りつくのかとても興味深く読んだ。
    耐えて耐えて夫に仕える、言いたいことがあっても
    それを口にすることは出来ない、夫婦間は
    現代では考えられない。今を生きられて本当に有難いと思った。

    春燈では綾子のわがままぶり、身勝手さ、高飛車な態度に
    少し腹をたてながら読み進めたが、こちらでの母親の喜和を
    かばっての身勝手な父親岩悟との一歩も譲らないやり取りに
    胸がすかーっとする思いだった。
    母親を思えばこそ、出てくる身勝手さや態度もあると思え
    こちらを読んで再び春燈を読み返すとまた綾子への
    見方がかわってきて面白い。
    娘からの目線が「春燈」、母からの目線が「櫂」と物事の
    裏と表を垣間見ることが出来て、とても面白い自伝的小説である。

    たぶんまた読み返すと思うので、大切にとっておこう。

  • メチャ悲しい物語だった。
    一人の女性の物語ですが、いつも思い悩んでいる人生を描いています。それでも最後には光が射すのかと、射して欲しいと読み進んだ結果が、これだったとは悲し過ぎました。
    その中でも、この女性の娘が、母親のために立ち向かって行く姿には、救われ、涙が出ました。
    人生とは、ふつふつと思い悩みながら生きていくものだと思うけれども、ここまで心穏やかに生きていけないと、心が病んでしまいそう。昔の女性は、何とも悲しいものだなぁ~と感じました。

  • この方の著作を読んだ初めての作品は蔵でした。
    新聞の朝刊に連載されていて毎日毎日新聞を開いてどうなったんだろう?とはらはらしながら読んだものです。その後機会があってきのねを読み、上下巻一気に読みふけったのを覚えています。

    著者の生家をモデルに書かれた、とあり興味を引かれて読んでみました。どこまでフィクションでどこからが実際のことなのかは私にはわかりませんが非常に重いお話でした。
    あの当時、家を切り盛りすることが女性の才覚と言うのであれば確かに主人公は少し人より鈍いのかも知れません。が、長男は肺病にかかり、次男は放蕩の限りを尽くし、そこに旦那が外の女との間に出来た子供を引き取るという。その後長男には先立たれ命も危ないという大病をし、旦那は他に女を作り出て行ってしまう。次男坊は自分の味方にはなってくれず意見を言えば旦那は彼女を疎んじて離縁を切り出す。ただひとつの望みであり、慕ってくれている末の娘を最終的に上の学校に入れるために男親に任せるよりなくなってしまう。彼女が一体何をしたのでしょう?と言うほどの過酷な運命です。彼女の煩悶と希望、そして過去の想いが見事に描写されていて胸を打ちます。この作者の状況描写は真に巧みで、読み終わった後大分へこみました。あの当時、女性一人で自立するということは非常に大変なことだったんだなあ。考えてみれば巴吉も哀しい運命の女性なのですよね…

    あとがきによると作者は4部作で彼女のバックグラウンドを背景にした作品を作られているらしくこの作品が第一作だとか。…喜和さんのその後が気になるので次も読むか…でも哀しいと嫌だなあ…と悩み中です。

  • すごい本だなぁとため息がでます。私は、「櫂」よりも時代が進んだ部隊の作品を先に読んだので、その後の喜和の離婚などが頭にあり、余計に切ない気持ちで読み進めました。喜和の、要領がわるいけれど実直な性格が、繊細に描写されています。登場人物が皆複雑な、奥深い性格を持っていて、リアルです。

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著者プロフィール

1926年高知県生まれ。『櫂』で太宰治賞、『寒椿』で女流文学賞、『一絃の琴』で直木賞、『序の舞』で吉川英治文学賞受賞。おもな著作に『陽暉楼』『錦』など。2014年没。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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