かたみ歌 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101337715

感想・レビュー・書評

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  • 昭和だ〜

    しかも“ゴリゴリ”の高度成長期
    「環境」なんて二の次、「チクロ」入りのお菓子を食べ、光化学スモッグの中で子供が育つ。
    道ではダンプカーか我が物顔で行き来し、白黒テレビからは、石坂浩二の「ウルトラQ」のナレーションが聞こえてくる。
    「これから30分、貴方の目は貴方の体を離れ……」

    そんな“怪しい”ノスタルジー香る連作短編集。

    もう一つのお楽しみとして、短編ごとに昭和の名曲?が幾つか入る。
    「紫陽花のころ」には布施明「シクラメンのかほり」(超有名)
    「夏の落とし文」にはドラマ「愛と死を見つめて」テーマソング(マニアックだけど大ヒット、マコ、甘えてばかりで……)
    「栞の恋」にはザ・タイガース「モナリザの微笑」(超超有名、ジュリー〜)
    「おんなごころ」は佐良直美「いいじやないの、しあわせならば」(渋いですねー)
    「ひかり猫」は藤圭子「圭子の夢は夜ひらく」(独特!娘は宇多田ヒカル)
    「朱鷺色の兆し」にはアニメタイガーマスクB面「みなしごのバラード」(とんでもなくマニアック、でも心に染みる名曲)
    最終話「枯葉の天使」にはチューリップ「心の旅」(超超超有名、超青春だー!)

    あまり過去を振り返ると戻ってこれないので、注意……。

  • 東京の下町にあるアカシア商店街。その近くにある覚智寺はあの世とこの世をつなぐ寺だと噂されている。その商店街をとりまく人々、特に幸子書房の店主が、7つの短編全てに関わりながら、そして、最後の物語では その店主の過去が明らかになっていく。殺されても家族を守ろうとする中華屋の主人、弟の代わりに突然行方不明になる血の繋がらない兄、古本に手紙をはさむ文通で、いつの間にか時代を越えて 若くして特攻隊で、亡くなった著者と交流する娘、亡くなった猫の魂に救われる漫画家、見えないものが見えることで 後の奥さんを助ける大学生、そして最終章では母に殺された幼い女の子が、古本屋の主人を救う。今は少なくなったご近所の心の交流と昔は感じていた死者との交流が、描かれていて 懐かしいようなほっとするような。もちろん、残酷な死があるのだが、それでもなお温かい気持ちが交差する。

  • 「栞の恋」がいちばんすきです。

  • 直木賞受賞作家の実力発揮の好著です。
    7つの連作短編集は、個々の作品は独立していながらも最後の作品を読めば全体がつながるという趣向ですが、1960年前後生まれの読者ならさらになつかしさとほろ苦さが倍加されること必定です。
    タイトルの「かたみ」とは形見のようですが、結構悲しい話もありながらも陰鬱に終わらない優しい小説です。
    とはいえできれば、行方不明になった秀則兄ちゃんの元気な姿がこの小説のどこかで登場してくれればという私の願いは欲張りすぎでしょうか?
    涙腺の弱い人には要注意です。

    最後に、小説のPR告知です。
    不思議なことが起きる、東京の下町アカシア商店街。殺人事件が起きたラーメン屋の様子を窺っていた若い男の正体が、古本屋の店主と話すうちに次第に明らかになる「紫陽花のころ」。古本に挟んだ栞にメッセージを託した邦子の恋が、時空を超えた結末を迎える「栞の恋」など、昭和という時代が残した"かたみ"の歌が、慎ましやかな人生を優しく包む。7つの奇蹟を描いた連作短編集。

  • いやゃぁぁ、それはずるい…

    あちらとこちらの世界の境界線が曖昧な下町の商店街。ノスタルジックでミステリアスで少し怖いような気もするけれど、人と人の想いが交錯するどこまでも暖かくて少し切ない短編集。

    で終わると思ってたのに、ラストのあれはひどい。それはずるい。暖かすぎて切なすぎる。彼はあんなにひどいことをしたのに。


    要は幽霊と呼ばれるものが現れたり超常現象が起きたりするお話ばかりなんだけど、それがなんでもないことのように描かれていて面白いと思った。

  • 昭和40年代半ばの東京下町にある「アカシア商店街」で起こる摩訶不思議な物語。
    アーケードのついた長い道に、様々な店がぎっしり連なる昔ながらの商店街の一角にある、ある有名作家似の古本屋の主人を中心に人々と物語は交錯する。

    奇妙な「栞」の文通をしたり、あの世と繋がるお寺があったり、突然懐かしいあの子が「お使い」に来たり……。
    どのエピソードもとても切なく、じわりじわり涙を誘うものばかり。

    時代も変わり、流行る歌が変わっても、人が感じる幸せって昔も今も同じようなものなんだな。
    不思議な懐かしさと、温かな気持ちになる物語。

  • これ全く期待していなくて、例によって表紙がいいなあと思って買いました。家で読んでいたら何故か嫁が反応しました。この表紙の版画作家さんのファンらしく、コレクションを色々見せてもらいました。なかなか面白い偶然でした。

    さて、表紙から想像するに3丁目の夕日的なものを想像すると思うのですが、実際はホラーだったりするんです。
    昔ながらの商店街で色々な人々が不思議な体験をするのですが、その核になっているのが町の神社ととある古本屋さんで、その不思議な体験は全てが霊体験。連作なのに全部霊体験なんですよ。全然予想していなかったので正直びっくり。
    話し的には切ない話が多いのですが、中にはぞくっと来る話も有って飽きることなく読めます。
    「なんだよほんわかしたかったのに、ケッ!」
    とか思いながら読んでいたらば、どれもこれも懐かしい風景と、胸に迫る情感が素晴らしくて、結局は大感動してしまいました。
    商店街なので、一つ一つの話しがさりげなくリンクしていて、ああ、そういえば昔は誰かが誰かに関わってみんなすこしずつ数珠つなぎだったなあと思いだしました。

    都内ですが僕も商店街の生まれだったので、優しい人々に見守られて大きくなった子供でした。商店街を歩いて買い物するとみんなが声かけてくれて、えらいな!買い物か!とか言っておまけしてくれたりしました。
    虫捕まえて餌が欲しくて果物屋さんの前ででかい声で「腐った果物下さい!」と叫んで「うちには腐った果物なんて無い!!」と怒りながら色の変わったバナナくれたり、畳屋さんで一日畳作るの見ていたり、喫茶店のおねえさんにチーズケーキごちそうして貰ったりと思い出してもみんな優しかった。
    なのでダメ親父は全然家に帰ってきませんでしたが不思議と寂しくなかったです。

    話し逸れましたがこれは心に残る本になりました。

  • 昭和40年代、現世と死後の国とを繋げる道があるというお寺のある、アカシア商店街という如何にも郷愁をそそる町が舞台である。
    3話の『栞の恋』は以前テレビドラマで観たことがある。
    本物のサリーが出演していて、オチが原作とは違った記憶がある。どちらも有りだと思う。
    5話の『ひかり猫』、これは愛猫を失ったからこそ感じる切なさがある。
    『世の中には―寂しい思いをしているものが、たくさんいる。』
    現世で寂しい思いをしていたものは、死後も寂しいのだろうか。いや、思い出してくれる人がいればきっと寂しい思いはしないですむのではないか。
    全篇、生けるものと死者が交差する不思議な話だが、恐怖感とか絶望という負の感情はなく、穏やかに自分の来し方、行く先を想像するゆとりを感じる物語である。
    こんな小説を書く作家に興味がわいた。

  • ・短編がストリーリーとして繋がり、その展開がとてもうまいと思った。
    ・ミステリーというよりも、「死」にまつわる哀愁、想いを身近で日常的な生活をモチーフにうまく描いている。ひとつひとつのストーリーの読後に「ホロっ」とくるのは、忘れがちな人と人との繋がりを感じさせるからだろう。
    ・昭和40年代の時代設定も懐かしく、自分自身共感性を得られた。「アカシア商店街」のような、時間がゆったりと流れる商店街も少なくなってきたなぁ・・・

  • 読者は不思議が起きる町へ招待される。
    死者の世界に通じる場所がある覚智寺、町で起きる摩訶不思議な出来事の目撃者であり証言者である古書店主をキーに7篇の死にまつわる話が語られる。
    そしてそれぞれの話の底流にあるストーリーは最後の一篇によって鮮やかに語られる。
    戦禍を免れて古くからの町並が残ったこの町には訳あって他所から流れて来た人達も多い。彼らは過去に責め立てられながらこれからの自分達を立て直すためにこの町にやってきた。そして昔ながらの商店街でスーパーマーケットの便利さとはひと味違う買い物にむしろ居心地の良さを感じる。
    この町には便利さと引き換えに私達が失ってしまったものが残っている。
    それは人々が心地よく暮らしていくためにどうしても必要な事なのだろう。
    人間は生きていく上で後悔する事を、長く生きていけばいくほどそれだけ多く抱え込む。
    それに対する懺悔の気持ち、特に死んでしまった愛する者に対するその気持ちはなかなか辛いのだが、もしも死者に今この懺悔の気持ちを伝える事ができたならどんなに気持ちが楽になるだろう。
    古いこの町はそんな願いが叶うかもしれない不思議空間。

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著者プロフィール

朱川湊人
昭和38年1月7日生まれ。出版社勤務をへて著述業。平成14年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞。15年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞。17年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。大阪出身。慶大卒。作品はほかに「都市伝説セピア」「さよならの空」「いっぺんさん」など多数。

「2021年 『時間色のリリィ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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