シーシュポスの神話 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102114025

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  • カミュ
    シーシュポスの神話

    真に重大な哲学上の問題は一つしかない。自殺。人生が生きるに値するか否かを判断する、これが哲学の根本問題に答えること。それ以外のこと、つまりこの世界は三次元よりなるとか、精神には9つの範疇があるとかはそれ以降の問題。
    ニーチェの望んでいること-哲学者たるもの身を以て範をたれてこそはじめて尊敬に値するというのが真実ならこの根本命題に答えるのがどれほど重要かわかる。(これによって自殺を左右する)

    ある問題の方が別のある問題より差し迫っているということを一体何で判断する? -その問題が引き起こす行動を手掛かりにして(カミュの意見)
    ガリレオの自殺は根本的でない。取るに足らない問題。
    これに反して多くの人々が人生は生きるに値しないと考えて死んでゆく。他方また、生きる理由のためを与えてくれるからといって、様々な観念のために、というか幻想のために殺し合いをするという自己矛盾を犯している多くの人々を僕は知っている。(生きるための理由と称するものが同時に死ぬための見事な理由でもあるわけだ)

    だから僕は人生の意義こそ最も差し迫った問題だと判断する。

    あらゆる本質的な問題(ときに人を死なしめるかもしれぬ問題、あるいは生きる情熱を10倍にもする問題)について、おそらく思考方法は二つしかない。

    ラ・パリス的思考方法とドンキ・ホーテ的な思考方法。この二つのもの、つまり自明性と抒情的態度との均衡によってのみ、僕らは感動と明晰とに同時に至ることができる。それゆえ実に目立たぬものだが、同時に悲痛きわまるこのような主題においては精緻な学識に基づく教壇的弁証法は良識と共感との両者から発するより謙譲な精神の態度に席を譲らねばならないことがわかる。

    これまで自殺は一つの社会現象としてしか扱われなかった。しかしここで問題にしたいのは個人の思考と自殺の関係。自殺というこの動作は偉大な作品と同じく、心情の沈黙の中で準備される。当人自身もそれを知らない。思考を始める、これは内部に穴が開き始めるというこよ。発端は人の心の内部。

    実存に真っ向から向き合った明察から光の外への脱出へといたり死をもたらすあの動き、それを追跡し、理解せねば。

    ある一人の自殺には多くの原因があるが、一般的に言ってこれが原因だと一番はっきり目につくものが実は一番強力に作用したという試しがない。熟考の末自殺するということはまずほとんどない。

    自殺はある種「生を理解できない」と告白すること。「苦労するまでもない」と告白すること。習慣や日常の馬鹿ばかしさを認めたことを前提にしている。とすれば精神が生きていくのに必要な眠りを精神から奪ってしまうこの計り知れない感覚とは一体どのようなものか。

    とかく説明できる世界は親しみやすい世界だ。だが反対に幻と光を突然奪われた宇宙の中で人間は自分を異邦人と感じる。(離人感) この追放は失った祖国の思い出や約束の地への希望を奪われている以上、そこではすがるべき綱はいっさい絶たれている。

    人間とその生との、俳優とその舞台とのこの断絶を感じ取る、これがまさに不条理の感覚。自殺を想ったことのある健康人なら誰でも、これ以上説明をしなくてもこの感覚と虚無への熱望との間には直接のつながりがあるとは認めることができよう。

    この試論の主題はまさしく不条理と自殺の間の関係、自殺がどこまで不条理の解決となるかというその正確な度合い。

    生に意義を与えることを拒んだ思想家のうち、キリーロフ(文学)、仮説に属するジョージルキエを除いてはこの人生を拒否するに至るほどまでに自己の論理を貫いたものはただ一人もいない。
    ルキエは知識と自由意志の不可分を主張、自殺?
    悲劇性を真面目に取ろうとしない態度が人間としての値打ちが低いということに。。

    いっさいを退けて真の問題へと直進しなければいけない。

    論理的であるというのは常に楽にできる。しかし極限まで論理的であり続けるのはほぼふかのう。「論理的」にも強さというか広さがあるな。
    死に至るまで貫かれた論理が存在するか?(正当で論理的な自殺はあるのか?と)

    ヤスパースは統一的世界像の構成の不可能性を明らかにした「この限界はわたしをわたし自身へと導く、そうやって辿り着いた地点では客観的視点など私がただ表象しているに過ぎない。そこでは私自身も他者の存在も私にとってはもはや客観的対象とはなりえない」ここで多くの人が自殺する。思考の自殺。

    しかし真の努力とはそれとは反対に可能な限りその場に踏みとどまって、この辺境の地の奇怪な植物を仔細に検討すること。
    不条理と希望と死とが互いに応酬しあっているこの非人間的な問答劇を特権的立場から眺めるためには粘り強さと明徹な視力とは必要である。
    その時この基本的でしかも同時に微妙な舞踏について精神はその様々なフィギュアを分析し、続いてそれを明示して、自らそれを再び生きることができる。

  • 原書刊行は1942年(昭和17年)というのだから第二次世界大戦の真っ只中である。アルベール・カミュ(1913-1960)は繰り返される戦争の中で不条理を見つめたのだろうか。彼は立ち木に衝突する交通事故で死んだ。KGBによる暗殺説もある。不条理を説いた男の不条理な死。
    http://sessendo.blogspot.jp/2015/10/blog-post_8.html

  • カミュは本当に頭がいいなぁ。
    正直難しかった(笑)
    こんなにも不条理についてこと細かく書けるというか思考できるというのがすごい。
    ドストエフスキー論とカフカ論は大好きな作家なので、なかなかおもしろく読めました。
    偉大な作家とは哲学者的小説家である。バルザック、サド、メルヴィル、スタンダール、ドストエフスキー、プルースト、マルロー、カフカっておれが好きな作家多し(笑)
    やっぱカフカやドストエフスキーってすごいよな~って思ったし、カラマーゾフの兄弟がよりいっそう楽しみになった。

    いっさいは許されているとは、なにひとつ禁じられていないという意味ではない。不条理は、ただ、これらのどの行為の結果も等価値だとする。
    死が不可避な唯一のものだというこの事実を除けば、悦びであれ苦しみであれ、いっさいが自由である。

  • カミュは「意識」の人。目覚めていることに大きな価値を置く。

  • 「『異邦人』の哲学的翻訳」(サルトル)
    サルトルは、「シチュアシオン1」で、『異邦人』について言及している。

  • ギリシャ版賽の河原といえるシーシュポスの神話。終わりなく続く徒労、報われない努力という不条理を前に「すべてよし」と言い切って何度でも岩を押し上げる覚悟。その強さに「幸福」の在り方を見た気がした。

  • 肌感覚で分かるというのは難しい。
    文化や歴史の違いなのか、原語で読めれば違うのかもしれないけれど。

  • 4-10-211402-5 206p 1997・2・10 51刷

  • 「真に重要な哲学上の問題はひとつしかない。自殺ということだ。」ああ、全くもってその通りだ。兄に自殺された身にとって、その言葉はより実感を伴って響いてくる。世界はいつも割り切れず、生はいつだって不条理だ。カミュの哲学は難解だが、それは安易な跳躍を良しとせず、不条理という困難さから決して目を逸らさないが故の必然的産物である。「すべてよし!」と未だ断定に辿り着けない生、だが大事なのは到達することではない。カミュは不条理に引き裂かれながらも、それでも「すべてよいものか?」と絶えず問い続ける敗北の人生を肯定する。

  • 世界は人間の理性では把握しきれない、しかしながら人間にはこの世界をすべて理解したいという救いがたい欲求がある、そしてその世界と理性との間の関係こそが「不条理」である。

    であるから人間の救いがたい欲求を捨てようという努力や、不条理を肯定し受け入れるような方法は本来の不条理の姿を変えてしまう。
    カミュは明徹な視点でこの不条理を見つめ直そうとする。

    ……実を言えば今回の読書で僕がこの本の全部とより深いところをはっきり理解したとは言い難い。
    特にp.90の質から量への価値の転換がいまいちつかみきれない。
    けれどもここのところ読む本はどれも、この「質から量へ」を示唆しているような気がする。

    わからないながらとっても惹かれてしまう本だ。
    サルトルやキェルケゴールを読んでからもう一度読みたい。

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