- Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102122013
感想・レビュー・書評
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サン=テグジュペリ(1900~44年)は、フランスの飛行家、小説家。仏リヨンに生まれ、1921年に兵役で航空隊に入りパイロットとなったものの、除隊後は工員などをしながら、雑誌に作品を発表する。その後、ラテコエール社に入って、トゥールーズ-カサブランカ空路のパイロットとなり、更に、アエロポスタル社のブエノス・アイレス支配人として、南米空路開発に携わるが、その間、『南方郵便機』(1929年)、『夜間飛行』(1931年/フェミナ賞受賞)、エッセイ集『人間の土地』(1939年/アカデミー・フランセーズ賞受賞)等を発表する。第二次世界大戦勃発後は、動員されて偵察任務などに従事したが、一時ニューヨークに亡命し、『星の王子さま』(1943年)等を執筆。1943年に北アフリカのフランス軍に復帰し、翌年、偵察飛行のために仏コルシカ島を発った後、地中海上でドイツ軍に撃墜されたといわれる。
本書には、上記の『夜間飛行』、『南方郵便機』の2作が収められているが、作品としての評価は『夜間飛行』が圧倒的に高い。
本書を読むにあたって、まず理解しておく必要があるのは、当時の航空界・技術の状況だろう。かの有名なライト兄弟が初の有人動力飛行に成功したのは1903年で、その後、1909年に英仏海峡横断、1913年に地中海横断、1927年にリンドバーグによる北大西洋横断、及びル・ブリによる南大西洋横断が成された。フランスは、こうした長距離飛行で世界を先導したほか、商業飛行にも力を入れ、トゥールーズから、カサブランカ、ダカールへ路線を伸ばし、更に南米への路線を開拓していった。
『夜間飛行』は、こうした開拓期に、南米各地からの郵便機を集中させ、ヨーロッパ便の中継点となっていたブエノス・アイレスにおける一夜を、支配人のリヴィエールを中心に描いたもので、更に、チリ路線におけるアンデス山脈の嵐、パラグアイ路線における星空の下での静穏な飛行、パタゴニア路線における颶風との格闘(結局、同路線のパイロットのファビアンは帰還しない)という、様々な状況下での飛行の様子が語られている。
リヴィエールは、テグジュペリをパイロットとして鍛えた実在の人物がモデルとなっているといわれるが、本作品の中で、リヴィエールおよび配下のパイロット達は、当時は無理と言われた夜間飛行をビジネスとして確立するための、勇気、沈着、責任感、自己犠牲といった美質の体現者として描かれている。それを象徴する、リヴィエールの次のような言葉が心に沁みる。「部下の者を愛したまえ。ただそれと彼らに知らさずに愛したまえ」、「愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ。ところが僕は決して同情はしない。いや、しないわけではないが、外面に現わさない。」
使命を果たすために命まで賭すという行為は、現代ではあまり称賛されないし、むしろナンセンスと捉えられかねないが、今の我々の社会が、こうした使命感に燃えた(無名の)英雄たちの行為の積み重ねによってできていることは間違いなく、その尊さを思い出させてくれる作品と言えるだろう。
(2024年1月了)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『夜間飛行』のみ読んだ。
郵便物を配達する航空会社の運営者である主人公リヴィエールとパイロットの視点を中心として描かれた小説。
今みたいな科学技術は無かったため、当時の夜間飛行は危険だった。
しかし、航空機を利用した郵便会社を存続させるために夜間飛行を実施せざるを得なかった。
このような事情を理由にリヴィエールは社員たちに対し、厳しく取り締まり、指導をしてきた。(正直今の時代にそぐわない経営のような気がするけど)
そんな主人公の苦悩や葛藤などの心情や、パイロットの飛行中に生じる緊張感や怖さなどを、比喩表現を多用し美的な文章で描き出している。
正直な所、私が苦手な比喩が多用されていたので、この小説の良さや内容をはっきり説明できるとは言えない。しかし、パイロットが嵐に飲まれて飛行が困難になった際の場面は、引き付けられるような描写で面白く感じた。また再読しようと思う。 -
『星の王子様』の著者として知られるサン=テグジュペリ。パイロットでもあった彼は本作品で20世紀前半の航空業界を鮮明に描く。本作品は航空会社の支配人リヴィエールとパイロットであるファビアンを中心に、航空会社に携わる様々な立場の人の心情や葛藤を描いた群像劇である。文中の表現は非常に詩的ながら、パイロットが飛行中に見た景色や登場人物の人間臭い内面がリアルに書かれており、当時の情景をまざまざと想い浮かばせる。本作品を通してサン=テグジュペリの描く美しい世界を堪能してみてはいかがだろうか。
(地球惑星科学コース M2) -
難しすぎてよく分からなかった…星の王子さましか読んだことがなかったから、気軽な気持ちで読んだのが間違いだったかも。もっとじっくり時間をかけて読むべき本だったと反省。またチャレンジしたい。
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航空輸送会社が夜間定期飛行を実現するまでの実験時代のお話。
命を失う危険を犯してまで実現したいことなどないし、人の人生まで背負いたくないんですけど。私は完全に個人的幸福側の人間だけど、こういう人がいないと人類の進歩ってない?
「ところが人間に恐ろしいのは、ただ神秘の世界だけなのだ。神秘をなくすることがたいせつなのだ。」
「事業と、個人的幸福は両立せず、相軋轢するものだからだ。」 -
命を賭して「仕事」をする
歴史において、また現代においても、人命を賭してなされる類の「仕事」が存在する。
この当時の夜間飛行便事業は、その類のものであった。
いかなる仕事であっても、人命が犠牲になることはあってはならないーそのような考え方もできるし、現代の倫理においてまっとうな指針であるようにも思える。しかし、実際に我々の生活のほとんどが、多くの先人が命を落とした「仕事」の上に成り立っている。
この小説の主人公は、航空輸送会社の支配人リヴィエールで、彼の手には多くの飛行士の命が握られている。
彼はこの責任においてあまりに厳格だ。ある監督者が己の寂しさゆえに一人の飛行士と交流を持とうとした際、彼は監督者を咎め、無意味な罰を飛行士に与えて親交を破壊するようにと命じる。抵抗する監督者に、リヴィエールは告げる。
「部下を愛したまえ。ただし彼らにそれと知らせぬように愛したまえ」
厳しすぎるーーと胸が痛む場面だが、リヴィエールの主張はいちいち尤もだ。もし、飛行士が上司との友情ゆえに無茶な命令に従った場合、かれは上司のために死んだことになる。それはあってはならないのだ。
人はもっと崇高な目的のために死ぬべきなのだ。
どれだけ平和な日常を過ごしても、人は儚く死ぬ。しかし、大きな仕事を通して、命が永続的になりうることもある。人の魂のその部分を自分は救っている、そうでなければ、自分のしていることに意味などない。リヴィエールは自らの立場に苦悩しながら決断を下し続ける。
しかし、リヴィエールは決して孤独ではないのだった。悲劇の後、飛行士たちの間で交わされる会話が、それを表している。
リヴィエールが信じたいように、彼が操縦士たちを死地へ送り込んでいるわけではないのだ。彼らはもっと崇高なもののために戦い続けるのだ。 -
うーん。
16章だったかな?眩いばかりの雲上に抜けるシーン。静謐と美しさと死を感じる所は、とても好きだと思ったけど。
心に響き過ぎてヤバい…みたいな感じではなく、教養の一環として読んでよかったなー、くらいかなぁ。理解できなくてごめんなさい。
満点五つ星!!…という人のレビューを色々と読んでみたいと思った本。 -
消灯後の飛行機で読みたくなる作品。
ただ、個人的には南方郵便機の回想のくだりが蛇足に感じた。