- Amazon.co.jp ・本 (684ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103252313
感想・レビュー・書評
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寛政年代に現れ、
約10ヶ月の間に140点もの錦絵を出版し忽然と姿を消した絵師東洲斎写楽とは何者だったのか?
日本芸術史上に残される最大の謎が今明かされる。
とても面白く感動さえさせてくれる話でした。
江戸編の最後の言葉で思わず泣きそうになった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東洲斎写楽の専門家でもなんでもないので、
その魅力とやらはわからなかったし、別人説なんかも初めて知った。
そういった意味では小説というよりも、
学術問題を小説仕立てで読み解く、といったほうが正しいかもしれない。 -
このミス2011年2位。
現代編と江戸編が交互につづられる。
江戸編は面白かったけど、現代編が・・・。
登場人物とその行動に共感できなかった。 -
回転扉の事故で幼い息子を亡くした浮世絵研究家・佐藤。
絶望し死すら考えるような精神状態の中、佐藤を繋ぎ止めたのは一枚の浮世絵の肉筆画だった。
その絵を描いたのは、写楽ではないのか……。
たった一枚の肉筆画から、謎の浮世絵師写楽の正体を追う、歴史ミステリ。
冒頭がいきなり鬱展開で、主人公の佐藤さんは息子を亡くすわ(しかも頭がパーンな感じで…)、そのことで鬼嫁からさんざん詰られあわや第二の惨劇が起きかねない状況だわ、仕事も失うわでこれ以上ないようなどん底状態からのスタート。
こんなギスギスした空気でこの先数百ページ続くのかと心配しましたが、写楽の謎を調べるパートではそういった鬱要素が脇に置かれていたのでほっとしました。
物語は、佐藤と美人すぎる大学教授・片桐(オランダ人とのハーフ?)が写楽の正体を追う現代編と、江戸時代の版元・蔦屋重三郎をメインに据えた江戸編を交互に描きながら進んでいきます。
現代編では、超インテリでバリバリ論理人間である片桐教授と協力しながら話が進むのですが、佐藤が適当な思いつきを語ると、すぐさま片桐教授に完膚無きまでにたたきのめされるので、見ようによっては佐藤が美女にいたぶられているようにも見えます(笑)。
これだと思った説を何度も分解・補強しながら結論へ近づいていく、全体的に緊張感のある流れになっています。
そして蔦屋を始め、様々な浮世絵師たちがゴロゴロ登場する江戸編は、ちゃきちゃきの江戸弁での会話が楽しい。
確かな審美眼を持った版元である蔦屋がどのようにして写楽を「発見」し、世に出していくのか。
現代編のギスギスした空気とは反対に、江戸編は人情やくすっと笑える部分の多いお話になっています。
今作の肝である写楽の正体…真実はともかく、少なくとも作中で明かされる正体…については、佐藤がなかなかその可能性を指摘しないので、えーいはよせい!もったいぶるな!と少し思ってしまいました(笑)。
写楽は●●、というだけでなく、さらに●●も関わっているとしたところが面白かったです。
●●さんはほんとにあんな文章を残しているんだろうか。
佐藤の、というか島田さんの出した結論の現実的な真偽はともかく、作中で写楽=●●という説を補強する史実が次々と発見される場面はなかなか興奮しました。
佐藤たちお葬式ムード→フィーバーフィーバーな空気になるのに笑った。
かくして絶望のただ中にいた佐藤は、写楽の正体という誰にも到達しえなかった謎に一歩近づき、才色兼備な美女とも知り合い、生きる希望を取り戻したわけです。
やや無理矢理な感じがするとはいえ、息子の事故や片桐教授との出会いなども写楽の謎に迫るためのヒントとなり、きれいにまとまっている…のですが、最後が少し唐突かなあ。
島田さん自身があとがきで書いていますが、かなり内容を削ったようで(このページ数で!)、気になるアレコレが投げっぱなしジャーマン状態になっています。
ヒロイン(?)の片桐教授からして、どことなく不自然な態度を見せていたのにそこは最後までスルーされているし…。
全ての始まりとも言える謎の肉筆画や、嫁と義父の問題、亡くなった蔦屋に写楽は何を思うのかなどのことも、うやむやなまま終了。
あとがきには機会があったら続編を書きたいとありますが、積極的に機会をねらってほしいです。
肉筆画、あの結論はさすがに無いと思うんですが!(まさか最初からああするつもりだったとかは…ないですよね…)
江戸時代編ももっと見たかったので、是非続編が出るのを期待しています。
それにしても、せっかく写楽を始め浮世絵の話がたくさん出てくる作品なんだから、挿絵として実際に浮世絵を見せてほしかったなあ。
表紙の絵もほんの一部分だし。
自分で調べろってことか…。 -
小説としては、本人も後書で書いているように失敗だと思う。主人公の家族背景とか無茶苦茶だし、いらない。
写楽の正体については、非常に面白いと思う。他の書き方があったと思う。 -
東洲斎写楽の正体を解き明かすミステリ。写楽といっても名前くらいしか知らず、日本史にはあまり詳しくない私ですが。それでも面白く読めました。でも日本史等に詳しければ、もっと面白く読めると思います。
タイトルにもある「閉じた国」が、作中で主人公が出会った不幸な事故、そして写楽の秘密にも関わっていく部分は凄いなあ。そして明かされる写楽の正体。もちろんこれが事実かどうかは謎ですが。信じてしまいそうです。 -
著者が後書きにも記しているとおり、伏線が回収しきれないという痛恨の結果に終わっているが、それもまた黄金期の作品にも似た情熱の発露のようで味わい深い。
手垢のついたジャンルともいえる歴史ミステリだが、冒頭から圧倒的な筆力で、先行作品とは一線を画す。じっくりと手に汗握る展開といい、御茶ノ水の細やかな描写といい唸らされるばかり。
近年の作品では迷走気味の気配があったが、やはりトップクラスの作家であることを証明して見せた。流石の一言。 -
殺人事件もトリックも一切出てこないが、本作品はまさに島田荘司の描く“ミステリ”。 写楽という迷宮に足を踏み入れるまでの部分に多少の強引さを感じるものの、いったん探求が始まるや否や、怒涛の如く溢れ出る手掛かりに呑み込まれ、底なし沼のような歴史の狭間に深く入り込んでしまった。
既出の説を真っ向から否定するのではなく、いろいろな角度からの可能性を考え、充分な考慮を経て消去していく手法をとっている。不確定な手掛かりからの推理とは違い、現存する史料や史実を踏まえ、外堀からじわじわと核心に迫っていくプロセスは、この作家の本格に対するスタンスをそのままなぞっており、実に論理的で無駄がない。
キャラの役割も合理的で、主人公の仮説に肯定する者と否定する者を設定することで、偏った解釈にならないよう慎重に展開していく細やかさも見て取れる。
もちろんこの作者のことだから、在り来たりの真相を読者に突き付けるわけがない。確かに誰も唱えなかった正体だが、それまでの構成が見事なので特に突飛な印象は受けなかった。「謎」とそれに対する「答え」、この合致の鮮明さにはつくづく納得させられた。
現代パートの未完成さは多少気になるところだが、近年読んだ歴史ミステリの中ではダントツの面白さ。なので、やや甘の満点評価。 -
写楽についての見解に至るまでは、とても面白い。ただ、ここに至る過程で、子供の死が必要であることがわからないし、子供を失った親としての状況、心情が理解できなかった。