とうへんぼくで、ばかったれ

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 333
感想 : 67
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103323419

感想・レビュー・書評

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  • +++
    札幌のデパートに勤務する吉田は、中年の男性にひとめぼれしました。あとは、まっしぐらです。張り込み、尾行と地道な活動で情報収集をはかり、やがて男を追いかけ上京、拠点を池袋周辺に移します。ストーカー?いえ、違います。「会いたい」と「知りたい」と「欲しい」で胸がいっぱい、男のことを、ただ「好き」なだけです。問題は、男が吉田の存在すら知らない、ということ―。
    +++

    ひと目会ったその日から、その人のことが頭から離れなくて――というか、その人に魂がくっついて行ってしまったかのようになって――寝ても覚めてもその人その人、となってしまう吉田であった。その人の名は、エノマタさん。取り立ててどうということのない、職場では影が薄いと言われる独身四十男である。だが、仕方がないのである。恋なのだから。彼のことは何から何まで知りたくて、こっそりあとをつけてみたり、行動を見張ってしまったりするのも、決してストーカーなどではないのである。恋なのだから。彼の転居とともに引っ越してしまうあたりの行動力には少々驚かされるが、そうまでしても知りたいのである。恋なのだから。片思いの切なさとこの上ない幸福感が見事に描かれていて惹きこまれる。この物語の、恋が実るまでの張りつめた幸福感が好きである。実った後の幸福は、もはやつけたしのようなものであると言ってしまいたくなる。吉田を応援したくなる一冊である。

  • ストーカー的な女性の恋のお話なんですが、この男性って結構ひどい奴なんです。

  • なるほど、たっちゃんは、とうへんぼくと言い表されるような人だった。そういう読後感。

  • 23歳生娘吉田と42歳のぱっとしない独身男の恋愛物語。

    百貨店で働く吉田はチラシの撮影で出会った広告代理店勤務のエノマタに好意を持ち、
    週に何度か会社の前の公園で待ち伏せしてエノマタの行動を観察するなどプチストーカー行為をおこなっていた。

    ある日会社が倒産し東京へ行ってしまったエノマタを追いかけ、吉田も上京。
    再びストーカー行為によりエノマタの生活スタイルを把握して、小さなきっかけを元にとうとう交際に至る。

    吉田はエノマタが好きだという欲求に従って行動しているだけで、本人はそのおかしさをあまり問題視していない。
    吉田は一般的な感覚からは相当逸脱しているけれど、ひとつひとつの心の動きはとてもシンプルでわかりやすく、腑に落ちる感じがある。
    エノマタ氏に片思いをしているときの方が楽しいな、と思ってしまったり、自分ばかりが相手に合わせているのが不服だけど、結局エノマタの都合がいいように振舞ってイライラがつのったり、不安になったりという心情がとてもリアルである。

    しかし、そこまで愛されていながら、エノマタが吉田のことをどう思っているのか分からなかった。たぶん引いていたんだろう。エノマタ氏は恋愛体質でもなければ、盲目的に自分を愛する女を都合のいい女にして手の内で転がせるほど悪人でも器用でもなかった。
    ある意味かなり罪な男である。
    物語の最初と最後はエノマタ目線で語られる。
    最初からそんな予感はしていたけれど、ふたりに別れが訪れて、吉田と共に恋の終わりを迎えたときはむしろ「別れてよかった」と思ったのに、最後のエノマタの独白で、ふたりがお互いを思う温度差が大きすぎたのかなと感じてなんだか悲しくなった。


    恋愛小説であるけれど、それ以外の点も小気味いいお話である。
    吉田と、札幌の幼馴染前田、バイトの同僚で彼氏と別れて吉田の家に転がり込んできたりえぽんのキャラが面白く、ちょっと変なところがいい。
    ハムスターの枇杷介もいいアクセントである。
    遠く離れた実家の両親との距離感とか、しっくり落ち着く表現が多かった。
    しみじみといいお話である。

    草食系の独身貴族や、そいつに恋してしまった女の子を見つけたらプレゼントしようと思う。

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著者プロフィール

1960 年生まれ。北海道出身。04 年「肝、焼ける」で第72 回小説現代新人賞、09 年「田村はまだか」で第30 回吉川英治文学新人賞、19 年「平場の月」で第35 回山本周五郎賞受賞。

「2021年 『ぼくは朝日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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