光の犬

著者 :
  • 新潮社
4.01
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感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103328131

作品紹介・あらすじ

生まれ、育ち、生きて、病み、死んでゆく――。その瞬間、たしかにそこにあった生のきらめき。北の町に根づいた一族三代と、そのかたわらで人々を照らす北海道犬の姿。助産婦の祖母の幼少時である明治期から、父母と隣家に暮らす父の独身の三姉妹、子どもたちの青春、揃って老いてゆく父母とおばたちの現在まで……。百年以上に亘る一族の姿を描いて、読後、長い時間をともに生きた感覚に満たされる待望の新作長篇!

感想・レビュー・書評

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  • p193 自分は光を放つわけではない。死んで灰になれば、なにも残らない。いやそうではないかもしれない。真で残るものがあるとすれば、それは言葉ではないか、と歩みは思う。わたしが父にむかって言ったことば、母にむかっていったことばはつかのまの空気をふるわせて、端から消えていく。それでも父と母の記憶のなかに、いくつかのことばの断片は残るかもしれない。わたしの口からでたことばが、その人が死ぬまでのあいだ、耳の底にとどまる記憶として残ることがあるはずではないか。

    p53 東方の賢人 3人からの贈り物 黄金、乳香、没薬(もつやく)


    p359 カトリックの典礼 最後の祈り 終油の秘蹟

    3世代にわたる物語

  • <poka>
    歩が亡くなることはかなり最初ほのほうで示唆されていたが、亡くなる場面以降、冷静に読み進められなくなってしまった。落ち着いてから気を取り直して読み終えました。

  • 2020年に読了。静かによい。よいとつぶやいた。

    読み終わりたくなくなる。年代記だからいつか終わる。でも終わってほしくない。
    道場人物では、歩の動静に心惹かれた。面立ちが浮かんできそうで、すっと消えていく感じ。
    また何年かしたら読む。読むはず。

  • 2022/11/11
    何とも清潔な小説である。

  • 北海道の小さな町に生きた三世代の家族と、ともに生きた北海道犬の話。寒い土地を舞台にした静謐な物語。マクラウドの短編を思い出した。家族の分かり合えなさ。

  • 三代に渡る添島家の家族、そしてその周辺の人々の話。話の視点が複雑に入れ替わり、時間軸もあっちへ行ったりこっちへ行ったりでこちらも探りさぐりの読書を強いられる(そういう効果を意識してのことだろうが…)。
    関係者を含め、みんな性格は違えどもどこか心の底で醒めているような節があり、お互いに踏み込んで関係を維持しようとか、変えていこうとはしない。そんな添島家はいつしか子供が途絶え、全員が老いてゆっくり欠けていくことになる。初老ながら一番若い始は一族の「消失点」を意識しながら田舎へ帰り、一人一人が自我を失い死んでいくのを看取る役割を引き受けるのだ。

    いつもながら文章は非常にきれいで、文章がたんたんと進んでいく中にはっとするような表現がたくさんある。だけど登場人物たちの希薄な関係にともなう空虚さ、病気や老いの重苦しさが小説全体を覆っていて読んでいる私のほうも窒息しそうになってしまう。そしてその行き場がどこにもないまま終わる。
    この人の小説の家族や恋人って常に関係が冷めきっているように思う。惹かれ合う段階の恋人でも、なんだか明日になれば別れていても不思議でないような雰囲気がある。最後の方にはその不安感が主人公のつかみ取る観念のようなものによって昇華し、吹き上がって抜けていく美しさを感じるんだけど、今回は重たさはあってもそういった昇華の実感がなかったような…。同じように一族を書いた話に角田光代のツリーハウスがあったけど、私はそちらの方が凄みを感じて好きかも。

  • 2017年。もとは「新潮」2015年9月~17年5月号連載。
    23の章からなるが、連載時の回とは一致しないのだろう。後半の章は短め、たった2ページの章もある。

    北海道北見に近い架空の町枝留、明治時代に信州から東京の里子にだされ、また実家に戻ったのち産婆となった主人公添島始の祖母から、両親、叔母ら、早逝した姉、その幼馴染で近くの教会の牧師を継いだ男性、友人など。3代前からの家族や身近な人々の様子や思いを、松家らしく丁寧な筆致で描き出す。主人公は松家と、すなわち私とも同年代。子供時代があり、青春期があり、周囲の人を見送り、やがて自分も老いていく。「火山ふもとで」に似る構成と書きぶりでしみじみする。
    タイトル「光の犬」というのは、3代飼い続けた北海道犬のことと、牧師の家の子の名前光、そして家に差し込む光を指してこれからの時間の流れを言うのだろう。が、もう少しなんかいいタイトルはつけらっれないのかと思う。

  • 文体がさほど難しいわけではなく読みやすいのだけれど、物語が一つの家族の何世代に渡った時代のエピソードをちりばめながら進んでいくので、サーと読み流すことができず、じっくりゆっくり読み進んでいきました。ここまで作者によって計算された事なのでしょうね。久しぶりに読み応えがある本、しっかりと満足感のある本です。

    血族、親戚、家族間の複雑で細かいリアルな心理描写、作中に現れる様々な死の描写が、リアルで他人事ではなく、身につまされるというか、こんな家族が今現代の日本中のあちこちにありふれていて、日本の今の家族のリアルを突きつけ、嗤われているようで、ただ現実をしっかり客観的に俯瞰的にみさせてくれる、そんな助けにもなったような気がします。

    ただ時代はどんどん進んでいき、近い将来にこの本も、昔の家族の在り方を教えてくれる貴重な資料の一つになるんだろうなぁと思いました。

  • タイトルの犬(北海道犬)が中心、もしくはそれに沿った内容かと思っていたけど、そうではなく、代々北海道犬を飼っていた一家の生涯がたんたんと語られている内容だったので、期待は外れでした。ただ、後半以降は興味を持って読むことができましたが、相対的に物理や科学などの論理が入って、難しくつまらない場面も多かったです。

  • 約110年!の物語。場所も時間軸も前後左右、自在にwarpします。が、惹き付けられてどの細部も素晴らしい。『沈むフランシス』表紙写真の犬、参考までに。

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著者プロフィール

1958年生。大学卒業後、新潮社に勤務し、海外文学シリーズの新潮クレスト・ブックス、季刊誌「考える人」を創刊。2012年、長編『火山のふもとで』で小説家としてデビュー、同作で読売文学賞受賞。第二作は北海道を舞台にした『沈むフランシス』。本書が小説第三作になる。


「2014年 『優雅なのかどうか、わからない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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