キミトピア

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 501
感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104580064

感想・レビュー・書評

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  • だれしもがなんとなく考えたことのあることを、著者のとっ散らかっているようで実はひとつに織り込まれている文章で書かれていて、何作かこの著者の作品は読んでいるけども、やっぱり圧倒される。まあ、もっとぶっ飛んでいる感じ、あるけども。
    必死に追いつこうとして読み進めていると、ふとした瞬間に自分が考えていることが目に入ってきて、通常のテンションに戻る、また必死に追いつこうとする、以下エンドレスループ。これがやっぱり、すきだなあ。
    「すっとこどっこいしょ。」「ンポ先輩」「あまりぼっち」がすきだ。「すっとこどっこいしょ。」の主人公の未来に対する葛藤、結論を先伸ばしにしていくことに対しての葛藤、わかるなあ。これがずばっときた。あと、「美味しいシャワーヘッド」の、全部言葉にはしなくてもいいという結びがすとんと落ちた。
    あと、冒頭がすごくいいよねぇ。

    (445P)

  • 書き下ろし3編を含む短編7編。
    いずれも相変わらずのスピード感で、ほどよい読み応えもあり、面白い。最近の舞城の描く世界は、何気ない日常が、ふとしたことでどんどん逸脱していって、その逸脱を収束させようと頑張って思考する、という1つのパターンがある。この「逸脱」が、「やさしナリン」だったり「穴食い虫」だったり、「気持ちの搾りかす」だったり、人と人との関係性の中で顕在化するちょっとしたズレにスポットを当てて独特の言葉でその本質を追究していく感じがとても面白い。

     冒頭の「ユートピア=YOUTOPIA」についての記載が、昔あった「ぴあ」の「はみだしYou とぴあ」を連想した人も多かったんじゃないかと思うが、ここにある言葉

     どんなにバカップルのぼわーっと間の抜けた言葉に聞こえようとも、僕はキミトピアを信じていて、そこに住み着くつもりなのだ。
      
    っていう境地ってすごい心地よい。

     「ンポ先輩」で出てくる「怪談っぽい世界」。言葉や感情が内包する嘘や間違いから生まれる心の穴に気づいてあげられれば哀しみが減る。
     すべての小説世界に共通して流れているのは、こういう「人と人がすれ違うもとになる目に見えないモノ」であろう。それを「怪談っぽい」と表現する。舞城の小説の中には、解離性同一性障害であったり、強迫神経症だったり、明らかに精神疾患を意識した人物がよく登場すると思うのだが、作者は、これら1編1編の作品の中で、その得体の知れないモノに名前を付けて「気づきやすい」ようにしてくれている。

     だからこそ、この人の作品は妙にポジティブな読後感を与えてくれるのだろう、とそう思う。

  • 舞城王太郎作品では、感動と切り離されているようでいて人とは別の道で誠実さや愛にたどり着く主人公が多く登場するが、本作の主人公たちの世界や人間に対する興味のなさはかなり徹底していて突き放されているような冷酷な印象を受ける。特に「やさしナリン」や「あまりぼっち」「真夜中のブラブラ蜂」の主人公たちは冷たい印象で、「興味ないけど幸せになってね」ではなく「興味ないから」でおしまいにしてしまうようなタイプ。小説を読みながら彼らの思考に触れているとだんだん息苦しい気持ちになる。
    最後に収録されている「美味しいシャワーヘッド」という短編がそういう行き場をなくしている息苦しさの逃げ道を作ってくれるような話になっている。本作の収録作のなかで唯一「自分はなにかを失っているのかもしれない」と気づく主人公で、ただ気づいたところでお話が終わる。話の構成としても太宰治でよくある感じで、ほぼ繋がりのないバラバラのエピソードがなんとなく同じ主人公の話としてひとつの題名のなかに収められていて、気の抜ける感じがある。

  • 面白いとか感動するとかではなく、とにかく好き。
    何故、好きなのか理屈をつけてしまうと好きでなくなってしまいそうで怖いので思考停止しておくのがいいなあと漠然と思っているうちに10年以上経ってしまったくらいに好き。

  • 舞城王太郎さんの名探偵や殺人の起こる物語はあっけにとられるという意味ではおもしろいけど、一見普通みたいな生活をしている人が意外な思考や行動をしてく話が好きかも。7つの短編、シャワーヘッドはよくわからんかった、他はどれも好き、「すっとこどっこいしょ」のはちゃめちゃな展開たまらん。

  • 芥川賞ノミネートされてた「美味しいシャワーヘッド」。
    いつもの、一本のエピソードをゴリゴリ進めてくのとは違ってちょっとした出来事をぽつりぽつりと散文的に?話していくのが
    読み終えた今とても不器用なようで胸に響く。
    みんな僕を通り過ぎ、置いていったけれど、生きてる。続いてる。

    最後に読んだシャワーヘッドが謎に一番心を動かされた。
    とっ散らかってて別にモチーフで纏まってたりとかもしないのに。
    なんていうか佇まいみたいなものが切ないんです。文学って。
    シンプルにおもしろかったのは「やさしナリン」「ンポ先輩」「あまりぼっち」辺り。
    そうそうこれこれみたいな、大切にしたくなる、いつものやつ。

  • 「添木添太郎」と「真夜中のブラブラ蜂」がお気にいり。
    黒い馬が恐ろしすぎる。

  • 久しぶりに舞城さんの作品を読んだ。世界観がやはりすごい。どれも良かったけれど、最後に読んだ美味しいシャワーヘッドが印象的だったかな。最後の読了感に引きずられすぎているかもしれないが、それぞれの短編で、それぞれの主人公が懸命に生きている姿はまさしくYOUトピアのようでした。

  • 美味しいシャワーヘッド:第148回芥川賞候補

    いつから舞城の作品を読むとこんなに息苦しく感じるようになってしまったんだろう?
    舞城が変わったのか、それとも自分が変わったのか?
    正直な話、どの話もあまりに説教臭すぎて読むのがつらく、また、文体も自己模倣というか、そのフランクさが過剰すぎて、どんどんとただ雑な文章に近づいて行っているような気がしてならない。
    しかし振り返ってみれば舞城の話が説教くさいのは今に始まったことではない気もするけれど(特に「純文学」として書かれた作品について)、しかし文体の幼稚化に伴ってメッセージばかりが前面に出るようになって、その正義感のおしつけがましさのようなものに読んでいてげっそりしてしまった。
    特徴的だった文体も、今では多くの作家が似たようなテイストで書くようになったこともあり、そこからの変化を求めているからなのかはわからないが先述したが「幼稚化」したようにしか感じられず(多用される「……!」という安易な表現など)、これが舞城の進んでいく方向性なのだとしたらちょっとそれはどうなの、と思わずにはいられない。
    「美味しいシャワーヘッド」は四度目の芥川賞候補作だがこれもエピソードが有機的な繋がりをしているとは思えず、今までの自分の作品の出来の悪い模倣にしか思えなかった。今後もこの方向性なのだとしたら受賞は厳しいのではないかと感じさせられた。

    あとこれはまた別の話だが先日村上春樹の作品を読んだこともあってか、やはり舞城はハルキ・チルドレンの一人なのだな、ということを感じさせられた(特に「ンポ先輩」の世界観など)。

    最近はリアルタイムで作品を追えていないため、『淵の王』などは未読なので、そちらで挽回してくれることを期待している。ただホラーっぽいから読むのに抵抗あるんだよなあ。『深夜百太郎』とか完全にだしね…。

  • 今までになく市井の人を描いているというか、身近さがあった。

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著者プロフィール

1973年福井県生まれ。2001年『煙か土か食い物』でメフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞。『熊の場所』『九十九十九』『好き好き大好き超愛してる。』『ディスコ探偵水曜日』『短篇五芒星』『キミトピア』『淵の王』など著書多数。2012年『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦著)の25周年に際して『JORGE JOESTAR』を刊行。近年は小説に留まらず、『バイオーグ・トリニティ』(漫画・大暮維人)の原作、トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』の翻訳、短編映画『BREAK』や短編アニメ『龍の歯医者』『ハンマーヘッド』の原案、脚本、監督などを手掛けている。

「2015年 『深夜百太郎 入口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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