星新一 一〇〇一話をつくった人

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 68
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  • Amazon.co.jp ・本 (571ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104598021

作品紹介・あらすじ

『ボッコちゃん』『ようこそ地球さん』『人民は弱し 官吏は強し』…文庫の発行部数は三千万部を超え、いまなお愛読されつづける星新一。一〇〇一編のショートショートでネット社会の出現、臓器移植の問題性など「未来」を予見した小説家には封印された「過去」があった。関係者百三十四人への取材と膨大な遺品から謎に満ちた実像に迫る決定版評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 読む前は、かなり分厚い本なのでひるんだ。
    だけどこのページ数は、本書の記述が膨大な取材と参考文献に基づいているからこそ。
    星新一という飄々としつつも孤独を内に抱えた天才の人生が、緻密な文章から浮かび上がってくる。

    星新一が星製薬という大企業の御曹司だったことも、SFがかつては文学とみなされておらず、苦労があったことも、1001編のショートショートを作るという偉業を成し遂げていたことも、そもそも江戸川乱歩と同時代の人間だったことも知らなかったので、とても興味深かった。
    新一は、作品が古びないよう、何度も改稿を重ねたとのことなので、全く昔の人という印象がなかったのだろう。

    晩年、SF界の主役ではなくなった新一が、編集者に「あんた、嘘でもいいから、今度ぜひ原稿書いてくださいっていえないの?」と言うエピソードなどがあまりに切ないので、今でも先生の作品はみんなが読んでるよ、と伝えたくなる。

  • 非常に読み応えのある人物評伝。ショートショートの達人 星 新一(本名 親一)の素顔に熱く迫った作品。ショートショートは昔いくつか読んだけど、どんな人なのかはほとんど知らなかった。かつて一世を風靡した製薬会社の御曹司だったとは。さらに起業した父 星 一(ハジメ)の事業家としての閃きと行動力と人脈活用には驚嘆する! 作家 星新一と事業家 星 一の2人の評伝のような読み応えになっている。
    父に纏わる政財界の面々、新一に纏わる作家の面々、いずれも私たちがよく知る大物たちの名前がずらずら出てくるので非常に興味深かった。
    あらためて星新一の作品を読んでみたくなった♪

  • 最相葉月の本は長い。徹底的な取材をして、自分の考えを語るとそうならざる得ないのだろう。長いけれども引き込まれる。まず、題材が良い。最相がギモンに思ったり知りたいと思うことは、私も知りたいと思っていたことが多い。そして素人の目線で調べが進んでいくことが読者を魅了する。専門家の立場で書かなくて、素人が確かな調査をして書くから良いのだ。
    星新一の話もズンズン読みました。私は司書だから周知の事柄も含まれるが、それ以上に知らないことが多くて面白かった。知っている作家がガンガン出てくるのも楽しいです。それからSFやたんぺんが文学的地位がなかったことに驚いた。

  • いつか最後まで読みたい!さいしょのすこしだけ読みました。

  • 図書館でいったん借りたものの、手つかずのまま返却。

  • p.283
    新一自ら短編の創作方法を考察した「短編をどう書くか」(福島正実編『SF入門』所収)という随筆がある。
    アイザック・アシモフの『空想天文学入門』に、アシモフの3つの方法が挙げられていた。
    ・知識の断片をできるだけ多く広くバラエティに富んでそなえていること
    ・その断片を手ぎわよく組み合せ、検討してみること
    ・その組み合わせの結果をどうなるかをすぐに見透かしてみること

    p.286
    プロットを作るには、「小話を覚えてみたらいい」
    p.459
    新一がとくに才能に惚れ込んで目をかけている人。江坂遊。『あやしい遊園地』
    p.464
    新一の発想法は要素分解共鳴結合。
    p.466
    江坂氏の説明
    殺戮と平和利用という対立した言葉の断片がある。これを分解してみる。殺戮からは戦争、武器、大量虐殺、原子爆弾。平和利用から、アインシュタイン。原子爆弾とアインシュタインではあたりまえすぎて、共鳴しない。
    原子爆弾に対応するものとして線香花火を、アインシュタインに対応するものとして花火屋のおっさんをおいてみる。
    線香花火の背後に原子爆弾。花火屋のおっさんがE=mc2を口にする意外性。

    江坂はショートショートの発表の場がなく、携帯小説としてだしている。

    p.468
    新一はおもしろいと思った小説や映画、新聞の小さなコラム、小話があると、徹底的に暗記することを習慣づけていた。

    p.521
    時代に応じて作品に手を入れるのは手塚治虫も同様。

  • ショートショートの日本における創始者にして、レジェンド。おそらくもうすでに伝説。そんな星新一の伝記、評伝。
     星製薬創業者にして、戦前、戦後に国会議員まで務めた星一を父親に持つ新一。森鴎外を叔父にもつ、一の妻、精の華麗なる家系。一はとんでもないバイタリティで、野口英世、新渡戸稲造、伊藤博文、後藤新平、張作霖・・・・などと関係を持ち、台湾や満州で利権を獲得して星製薬や関連する会社を拡大していくが・・・。戦後は一転、星製薬は傾き、一はアメリカで客死。長男の新一は会社の利権に群がる有象無象に翻弄される。いい時にはその利の分け前に群がり、傾きかけると徹底的に貪り尽くす・・・そんな人間たちの姿を見てきた新一は昭和31年、「日本空飛ぶ円盤研究会」に出会う。そして、SF界の巨匠となっていく。
     しかし、ショートショートが文壇からは正当に評価されない。筒井康隆や小松左京など後輩たちは様々な文学賞を受賞する。認められたい・・。たくさん読まれる、教科書にも採用されるという栄誉の一方で、正当に評価されていないのでは苦しみ、苦悩が新一を蝕んでいく。少し寂しい、晩年。
     でも、この人すごいや・・・・。

  • 著者が書いているように自分も、星新一のショートショートには、ある時期ハマり、その後急に興味を失った。同じ経験をした人はきっと数多くいるだろうと思う。
    そうした経験があるから余計に、星新一という実作者の立場から、本書を通じて産みの苦しみを追体験し、多くの発見があった。
    子供がある時期、読書の通過儀礼のように読む本。それだけで星新一は十分幸せではないかと読み手からすれば思う。しかし実際はこれほど孤独に創作していたのかと思うと、デビュー作から順に、もう一度読み返したくなった。

  • 星新一の大ファンというわけではないけど、もちろん名前くらい知ってるさ!だって教科書に載ってたし、なんか宇宙人から貰った種を勝手に育てたら超巨大化して大変だー、みたいなのとか。いや、適当だけど。でも大概この手の話を冷静に今考えると、但し書きをつけまくった説明書みたいで宇宙人嫌らしいな。美味い話には裏があるって言う。
    なんていうような話とは無関係に伝記なわけで、とりあえずショートショートに心血を注いでもページ数で換算したら安くなるってのは東野圭吾あたりに言ってやるべきだとは思った。

  • 2007年刊。

     実に著者らしい粘っこい、星新一の評伝である。
     星新一といえば、子供向けショートショート1001編というイメージで語られるのだろうし、間違いではないのだろうが、数少ない個人的な読破歴からは、手塚治虫に負けずとも劣らない日本SF小説の天才というもの。
     この印象は本書で益々強まった感がある。だいたい、あの筒井康隆が星をして、自らの着想の源泉と公言し、私淑していた相手となれば猶更である。

     さて、人生行路という意味では、本書から伺える山あり谷ありの星の人生は凄まじい。
     昭和31年頃までの星製薬の御曹司だった「親一」時代と、以降の作家「新一」時代。その落差に驚くことしきりである。

     まず、前半生。御曹司という限定付きだが、戦前世代と同様の道を辿ってきたものだ。
     なるほど鋭い観察眼の片鱗は見せたが、小学時代の綴方教育では落第生だった星。旧制高校(東京高校)の自由闊達な教育とそれがどんどん浸食された時代相。戦中の東京帝大の農芸化学分野に進学し、文科系の学徒出陣に出くわした様は、その同時代の世相を読み解くこともかのうだろう。

     一方の後半生。
     戦後は、自らの経済人としての力不足から、父の残した負債事業を立て直し得なかったことに始まり、そこから転じ、小説家としてある種の名声を得ることは叶った。
     しかしながら、所謂文壇からSF畑を白眼視されたまま推移してきたのが実情である。

     そもそも先駆者としては避けがたい苦悩を一身に背負いつつ、他方、彼の後継からは憧憬と敬愛の眼差しを受け続けた。
     そんな中、時代の変遷が彼を襲う。昭和40年代以降、SFと特撮・アニメーション、あるいは映画のコラボレーションが席巻した時代に、星は乗り切れなかった。そこが、筒井康孝や小松左京とは違う、一世代上の人物なのだろう。
     あえて言うなら手塚治虫や水木しげると同世代なのだろうが、マンガという分野そのもの切り開いた手塚が何でもできたのと違い、広義の小説は、星が切り開いたジャンルではない。特異領域の先駆者は、他の一般領域の先人に叩かれるという宿命を背負っていたとも評しえよう。

     かように星の後半生においては、文壇と大衆作家の境界線に居続けながら、特異分野での先駆者としての立ち位置を保ち続けた人物というべきなのだ。

     その来歴と先駆者の偉業を見るにつけ、一度くらい、彼と後継が生み育てた戦後SF小説作品群を概観してみたいなと思わせる書である。
     光瀬龍などに言わせれば本格SFではないとされるであろう「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」、あるいは「帰ってきたウルトラマン」などに心魅かれた少年時代を送った身としては猶のこと…。

     このように前後編が対照的な本作は、まぁ言うなれば、一粒で何度も美味しい評伝と言えそうだ。

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著者プロフィール

1963年、東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業。科学技術と人間の関係性、スポーツ、精神医療、信仰などをテーマに執筆活動を展開。著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』(大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞ほか)、『青いバラ』『セラピスト』『れるられる』『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』『証し 日本のキリスト者』『中井久夫 人と仕事』ほか、エッセイ集に『なんといふ空』『最相葉月のさいとび』『最相葉月 仕事の手帳』など多数。ミシマ社では『辛口サイショーの人生案内』『辛口サイショーの人生案内DX』『未来への周遊券』(瀬名秀明との共著)『胎児のはなし』(増﨑英明との共著)を刊行。

「2024年 『母の最終講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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