不愉快な本の続編

著者 :
  • 新潮社
3.26
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本棚登録 : 456
感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104669059

感想・レビュー・書評

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  • スピン3号の「絲山秋子 デビュー20周年」で改めて、著者の作品に向き合う。
    中期の作品、意外に知らないものも多く、その中の本作を選ぶ。

    退廃的な中に本来の優しさが潜んでいる、著者独特の人間観。
    登場人物みんなどこかアウトローでいて、人間臭くて、見放せない、そんな日常でもあり非凡な世界でもある。

  • 短編集『ニート』に収録されている「愛なんかいらねー」で衝撃のアブノーマルっぷりを見せつけた乾が主人公。カミュ「異邦人」が参考文献に挙がっているように、ムルソー同様 肉親に対して情の薄い乾は、実家とは音信不通。パリに留学するも、美しい変態娘アイシャと狂乱を尽くしただけ。金貸しが趣味のヒモ…とことんクズの彼が初めて本気で人を好きになり、結婚する。しかし乾は「不愉快な本」にしか興奮出来ず、結婚生活は続かない。

    近代美術館に展示されているジャコメッティの裸婦立像に魅了され、盗み出したそれをかわいそうな元同級生に託し「ああオレも太陽が見てえ」と逃亡し、たびの人になる乾。彼の行き着く先は…。

    訳の分からない嘘つきなクズ野郎、なのに時々真理としか言いようのない言葉を言わせてしまう絲山さん。
    「ボクだって腹は減るんだよ。でも手のこんだ料理はしたくない。だからお湯沸かしてカップヌードル食っちゃう」は、リアリティある。ユミコの立場なら悲しくなるけど…

  • 初絲山氏。
    初挑戦なので作風がわからなかったのだが、どうやらいつもこんなトーンの作品を書く方らしい。

    自堕落な主人公ケンジロウの目を通して語られる物語は、軽薄なのに理屈っぽい、リアリティ溢れるようでいてどこか不条理な奇妙な世界だ。
    読んでいて楽しい物語でもない。どちらかというと不快を感じるくらいのストーリーなのだが、不思議と引き込まれあっという間に読了した。
    何をどこまで描くか、どういう言葉選びにするか、そのあたりの著者の絶妙なさじ加減の為せる技なのかもしれない。

    一歩間違えると嫌悪でだけで終わってしまいそうだが、他の著者の作品もちょっと読んでみたくなる、癖になりそうな感じだ。
    思いのほか文学的に幕を閉じるラストも悪くない。

    オマージュ的に取り上げられるカミュの「異邦人」も、どんな話だったかすっかり忘れてるなあ。
    読み返してみようかな。

    余談。
    初めて読むので短編なら入りやすいかな、と思って手にしたのだが、短編集じゃなかった…。

  • 男性主人公、しかも変わったやつとかヒモ系とかを語らせるのは絲山秋子 に限ると思う。残念なことにそれを証明するほど読書をしていないが・・・・。

    主人公の落ちっぷりが見事で、彼は誰も恨んでいないし、自分を憐れんでもいないし、悲観的にもなっていないし、かといって笑い飛ばすこともできない。とにかく救いがないのである。
    誰を恨んでいるのかは薄々わかるのだけれど、気付いていないのか気付かないフリをしているのか・・・。そういうところが現代社会の弱い立場の人たちを見ているようで何とも言えない気持ちになる。もしかすると私も「弱い立場の人」なのかもしれないことにもはっとする。

    浪人や留年は許されるが、大学卒業と同時に就職が決まっていないと「負け組」のレッテルを貼られてしまぞと警鐘を鳴らしているようにも見えるし、そういう社会を嘲笑しているようにも見えるこの作品。
    大学を出てもそのへんのアパレル系の店で店長をやるくらいしか能がない男、ちゃんと働いていても犯罪行為でしか自分を癒せない女、留学するほど能力があるのに性癖のせいで自分を押し殺してしまう哀れで不愉快さも表せない男。
    こういう話を高学歴な絲山秋子のような作家が書くと妙に説得力がありリアリティが増す。だから私は彼女の私生活まで気になってしまうのだ。現代社会の影の部分であったり、人があえて目をそらしてしまうことを堂々としかし悲観的にならずに書ける作家の一人だろう。

    まったく不愉快で愉快な1冊であった。不愉快なので星はあえて3つとする。

  •  絲山秋子「不愉快な本の続編」、2011.9発行。広島に生まれた乾ケンジロウは、東京の予備校で1年浪人し大学に。フランス留学はして自慢だが、大学を中退。以後各地を放浪。最後のパトロンは吉祥寺に住んでる10歳上の大学の先生、成田ひろみさん。変態のヒモだった。新潟ではユミコ32歳と結婚するも浮気されて2年で離婚。富山では泥棒が趣味の杉村明日香の誘いを断る。実家のあった呉に帰り弟が死んだことを知る。そして、この不愉快な本を閉じるとあるが、本人はどうなったのか・・・。なんとも不思議な世界でした。

  • 確かに不愉快な内容ではあるが作者のエネルギー感じた。一気に読み終えられる分量でよかった。

  • あれ、『異邦人』読んどかないとダメですか。

    宙ぶらりんな人生とか、地方が舞台とか、このまえ読んだのと似てはいる。だいぶ暗くなったけれど。

  • 数ある絲山作品の中でも、特に観念的。
    流されるままに流れ、先々で周りに寂しい思いをさせる主人公。
    でも何故かちょっと好かれたり。
    とにかく寂しい。

  • 私にはお馴染みの地名が出てきて
    嬉しかった。

  • 2014.9.14 - 9.15
    (147P)

著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

絲山秋子の作品

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