朗読者 (Shinchosha CREST BOOKS)

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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900182

感想・レビュー・書評

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  • 会話はできても、文字を読めない、文字を書くことが出来ない。文盲とはつまり、会話でしか言葉を生み出せない、ということだ。会話でしか生まれないハンナの言葉は、できては直ぐに消えゆく泡のようなものだ。ハンナとミヒャエルが愛し合う場面で入浴の光景が多いのは、水や泡のように流れてゆき、そしてすぐに消えゆくものを暗示している。

    文盲を隠し、そのために世界から、そして周りから置き去りにされ、ナチス第三帝国の戦犯として、いつのまにやら裁かれるものとなってしまい、自尊心のために(文盲を明かさないために)牢獄に入れられてしまったハンナ。ハンナと溺れるように恋をし、ハンナに身を捧げ、ハンナに裏切られたにもかかわらず、愛だけはなくならずにそこにあったミヒャエル。

    社会は罪を生む。
    文盲、それ自体は罪であるわけはない。
    社会が文盲を罪とし、それを十字架としてハンナに背負わせた。ハンナはその十字架と共に生き、十字架を隠し、愛する人にも見せないようにした。ミヒャエルは十字架を取り除こうとした。そしてそれは不可能だった。もしかすると、牢獄にいる間だけは、ハンナの背から十字架はなくなっていたのではないか。牢獄でのハンナはまるで教祖のようだった。出所してまた罪人になること、また背負うことになるだろう十字架を、ハンナは拒絶して、だから牢屋で自死したのではないか。



    愛とはなにか、罪とはなにか、裁くこととはなにか、あらゆる問いが波のように押し寄せてくるが、著者は「答え」を求めて、これを書いたのではないと思う。
    心の解放、そして思い出がなくならないように。


    一文、次の文、その次の文と、示唆に富んだ言葉の波。私にとって『朗読者』は、何度も手にとって読むべき本の1冊だ。


  • ハンナ。最初に戻って会話を拾い読み。読み終わっても涙が止まらず余韻に浸っている。正直この本を読むまでアウシュビッツで働いていた人のこと、その後の人生を想像したことはなかった。その時代を生きた人達の背負ったものにショックを受けている。これは別の本でも掘り下げてみたい。年の差21歳。この差がなければこの関係は無かっただろうし、物理的にも精神的にもかけ離れていながらもお互いの人生にかけがえの無い存在として支え合っているのって、ありきたりだけど「愛」を感じる。この強烈な出逢いが人生にあったってことは羨ましくもある。別の作品も読んでみよう。

  • 深い想い。
    それしか伝えられない!
    いつの日にか触れて欲しい作品。

  • 苦しい。愛…。これは愛。

  • 15歳の少年ミヒャエルの初めての切ない恋。
    第一章の恋の部分はかなりあっさり読んでしまいました。

    第二章から引き込まれました。
    裁判でかつての恋人を見るために裁判に通い詰める主人公。
    元恋人が「文盲」であることに気がつくが
    彼女のプライドを優先する。刑期を終えた
    彼女が選択したのは自らの死。

    「あなただったら何をしましたか?」
    「あなただったらどうしましたか?」
    ハンナの問いかけに私は答えられない。

  • 21歳差の恋愛の話、では全然なく。生身の人間、それも憎しみより愛情を感じている相手の罪(と自分の罪)をどう受け止め、裁くか。そんな答えが無く、深淵を覗くような物語でした。さて日本人はどうしてきただろう、と思いました。

  • 今回再読し、出版されてすぐに読んだときには気がつかなかったミヒャエルとハンナの心の動きに注目した。裁判・カセットテープを送るようになってから・出所が決まってからの二人の心の変化がこの本の中で重要な場面だ。自分に正直に生きる難しさを感じた。

  • タイトルからは中身を想像できないと思う。

    内容は・・舞台はドイツ。第二次世界大戦後、強制収容所、裁判、少年と熟女の愛(と言っていいのか)
    等が要素の一部だ。タイトルが何故「朗読者」なのかは、是非本を読んで解して欲しい。

    人の心の描写をするに「身が焼け焦げるほどのXX!!」とか「波一つたたぬ水面のような・・」とか。 そういった間接的ではあるけど、心理を直接比喩した文章は殆ど出てこない。

    淡々と、行動のみが語られていく。
    にも拘らず、人物の苦しみや葛藤がダイレクトに伝わってくる。

    何ていうか・・一発びんたを食らってる感じか?
    恨み言は言わない、ただ一発頬を殴る。

    モチーフに強制収容所はあるけれど、物語の一要素としてだけで、残酷な描写などは一切無い。

    「生き生きと悩んでる」

  • 『胸を締めつけられる、残酷な愛の物語。
     15歳の少年ミヒャエルが経験した初めての切ない恋。
     けれども21歳年上のハンナは、突然失踪してしまう。
     彼女が隠していたいまわしい秘密とは……。』(裏表紙コメント)
    血の通った、過去もしがらみもある一個の人格を持った人間として相対し、互いの人生に関わり合う際に生じ得るあらゆる感情。
    それが、本作品で完璧に描ききられていると感じた。

    残酷とか、悲劇とか、物語全体を第三者目線で決め付ける言葉は似合わない。
    演出一切無しの、ただ当事者として読み手を「ぼく」に憑依させ、感情を溢れさせる文章が本当に秀逸。

    <メモ>
    ・国の過去の歴史の責任は誰にあるのか?第三帝国崩壊後のドイツ国民。親の世代を裁く。
    ・ぼくと父親(哲学論者)との会話。相手の意志決定の、自由と尊厳を守るということ。
    ・あくまでも他者としてある、ハンナの圧倒的存在感。自ら語る口を持たない人間像。

  • 意外すぎる展開、涙なしには読めない結末――。
    ベルンハルトシュリンクの非凡な才能と、経験があってこそ生まれた小説でしょう。
    「ナチス」「年齢を超えた愛」「文盲」3つのテーマが絡み合い、連関しあい、感動の最終場面へ向かう一文字一文字を、時間を忘れて読み進んでしまう一冊です。

著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク(ドイツ:ベルリン・フンボルト大学教授)

「2019年 『現代ドイツ基本権〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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