- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900533
作品紹介・あらすじ
旅仕事の父に伴われてやってきた少年と、ある町の少女との特別な絆。30年後に再会した二人が背負う、人生の苦さと思い出の甘やかさ(「イラクサ」)。孤独な未婚の家政婦が少女たちの偽のラブレターにひっかかるが、それが思わぬ顛末となる「恋占い」。そのほか、足かせとなる出自と縁を切ろうともがく少女、たった一度の息をのむような不倫の体験を宝のように抱えて生きる女性など、さまざまな人生を、長い年月を見通す卓抜したまなざしで捉えた九つの物語。長篇小説のようなずっしりした読後感を残す大人のための短篇集。
感想・レビュー・書評
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読んだ後しばらく考え込んでしまうような、読み応えがある話だらけ。
情景の描写が細かくて、個人的にはとても入り込める時と間延びして感じてしまう時があった。
なんだかもどかしい気持ちになる話が多かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
p30
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「使いものにならない、身のほどをわきまえた愛。危険はひとつも冒さないけれど、それでも甘い滴りとして、地下資源として生き続ける。その上に、この新たな沈黙の重みを乗せて。この封印を。」
くるったようにまいにちアリスマンローなのだけれど、物語のはじまりにはいつだってどきどきしちゃう。時のながれとともに変わりゆく街並みと、人生の突飛さはとどまるところをしらず、それは哀愁をよぶものから滑稽にさえおもえるようなものへとその対象をうつしてゆくよう。
ふとした瞬間におとずれる満ち足りた幸せは、本のなかでふれる他人の人生、ごくたまに行くお笑いライヴ、そんなエキサイティングなできごとでなくて、年に50日程度の休日、繁盛しない(あるいはさせようともしない)店での、そんな日々のささやかなルーティーンのなかで訪れる。この人生における健気さは、誇ってもいいのだとおもった。楽しいことをつくらなければ、楽しくない は存在しないのだと気がついたときの寂しさと穏やかさのように、日々の倹しい美しさを思い出させてくれる。
"率直で曖昧、優しくて皮肉っぽい" わたしも、こころをすこしでもアンロックにしてしまったら、また愚かなことをしてしまうかもしれない、なんていうどうしようのなさを引きずりながら。
だって、「人生にはかなわないもんね」。
Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage。もうそんなふうに、花びらをむしってゆくなんてことはしないけれど。
「Comfort」がくるおしいくらいに好きだった。「Post and Beam」も。じぶんが(あなたが)特別な存在だったかもしれないだなんて、ほんと笑っちゃう、そんなドラマチックなんて。
「しかし一方で ── 気持ちが高ぶった。急速に近づいてくる厄災が人生に対する責任のすべてから解放してくれるのだとわかっているときに感じる、言うに言われぬ高揚感だ。それから恥ずかしくなって、気を落ち着けて、じっと黙っていた。」
「それは、自分にとって本当に大切なものに対して、わたしが二度とつく必要のないことを願いたい類のうそであり、示す必要がないことを願いたい軽蔑だった。そんなことをする必要がないよう、わたしはなんとか以前の知り合いからは離れていなければならなかったのだ。」
「それぞれに結婚生活があるからこそ、このべつのなにかが甘やかで心を慰めてくれる期待となっていたのだ。それは独自で保てるようなものではなさそうだった。たとえ二人とも自由だったとしても。かといって、なんでもないわけでもなかった。試してみて、崩れ去るのを見てから、なんでもなかったと思うことになる危険もあった。」
「だが、まえには気づかなかったことに気づくようにもなった。毎朝ウィンドウに面したスツールや歩道のテーブルに座っている人々の幾人かが浮かべる表情に ── こうしているのがぜんぜんすばらしいことではなく、孤独な生活のありふれた習慣でしかない人たちの。」
「彼に会うときはのんきそうな顔をして、自立しているところを見せつけようとした。ニュースを交換し ─ わたしは必ずニュースを用意しておいた ── いっしょにわらい、峡谷へ散歩に行った。でも、わたしがほんとうに望んでいたのは、ただ彼をセックスに誘い込むことだけだった。セックスの激しい情熱が互いの最上の自我を融合させてくれると思っていたのだ。わたしはこういうことに関して愚かだった。」
「ずうずうしくなりすぎるかはにかみすぎるか、たいていはそうなってしまう。」
「冒険ってやつ。でもね。冒険に見えたけど、すべて筋書き通りなの、わかるでしょ。」
「そりゃ、もちろん、あの人がまちがってたのよ。男ってね、まともじゃないの、クリシー。あんたにも結婚したらわかるけどね」
「それに──と彼女は言った──ひとつはそういう場所がなくちゃ、いろいろ想像もし、知ってもいて、もしかしたら憧れてもいて──だけどぜったいにこの目で見ることはないってところが。」
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恋占いだけ読む。
作為、無作為 そう変わりないのかもしれない。 -
心理描写、情景描写が面々と生々しく続き、あたかも作者の描くそのワンシーンの中に、わしづかみで同席させられたかのごとく。何とも言えない圧迫感。
三人称書きであるが、神の視点ではない。映画のカメラワークのように、視点となる登場人物が急にすり替わったり、時間軸が一足跳びに飛んだり。そもそも関係性が分からないまま語られ始め、会話などからそれらがようやく読み解けるなど、読者にとって親切設計ではない 笑
結構、読みにくいので、気持ちや時間にゆとりのある時にお薦めしたい。
ある一時に焦点を当てて、そこに主人公の人生を濃縮させて語るスタイルなのでしょうか?
読後感は悪くはないが、どの話も「そーなのよ、そうなんだわ」と主人公が合点する姿に、呆気にとられつつ終わりみたいな・・・。
物語としてのオチがない。
唯一、オオッ!と言って読み終えられた「恋占い」が1番好きだ。特に、ヒロインがブティックにドレスを買いに行った時の描写が素晴らしい。この本の最初の作品だったので、金の鉱脈でも発見したかのごとく期待が高まったのだが。
どの作品のヒロインにも、火山のマグマのようなフツフツとした感情のエネルギーがある。作者に嫌味や意地悪さを感じるという書評を目にするが、抑えきれないマグマはおのずと世界を斜に見させる。作者自身もそのマグマの持ち主なのでは?
また、病院や介護施設の訪問、学者や教師である男性登場人物といったストーリーの共通性が多く、読んでいて混乱を覚えた。
「恋占い」みたいな作品があればまた読みたいのだが。 -
久しぶりに読み応えのある本に出会いました。
9つの短編それぞれが、何処にでもいるごくごく普通の人達の物語。
それぞれの物語が映画のシーンのように突然始まって、この人誰?この人何者?ここで何やってるの?と疑問が生じ、読んでるうちに一つ一つ謎が解けていく。
日本語版の表題は『イラクサ』ですが、原作の表題は『恋占い』、個人的にその話が一番面白かった。
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主人公は老人と孫娘だけで暮らす家の家政婦。決して美人とは言えず…というか醜いと思われる事が多い。離れて暮している孫娘の父親と密かに文通していて、それが心の支えになっている。ところが父親からの手紙は孫娘の友達の悪戯だった。
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どの話も予想外の終わり方をするが、↑の話は驚きの展開でした。 -
3.69/647
『旅仕事の父に伴われてやってきた少年と、ある町の少女との特別な絆。三十年後に再会した二人が背負う人生の苦さと思い出の甘やかさ(「イラクサ」)。長篇小説のようなずっしりした読後感の残る九つの短篇。チェーホフ、ウェルティらと並び賞される作家の最高傑作。コモンウェルス賞受賞、NYタイムズ「今年の10冊」選出作。』(「新潮社」サイトより▽)
https://www.shinchosha.co.jp/book/590053/
目次
恋占い/浮橋/家に伝わる家具/なぐさめ/イラクサ/ポスト・アンド・ビーム/記憶に残っていること/クィーニー/クマが山を越えてきた
恋占い
(冒頭)
『何年もまえ、あちこちの支線から列車が姿を消す以前のこと、そばかすの散った広い額に赤味がかった縮れ毛の女が駅にやってきて、家具の発送についてたずねた。』
原書名:『Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage: Stories』
著者:アリス・マンロー (Alice Munro)
訳者:小竹 由美子
出版社 : 新潮社
ハードカバー : 448ページ -
しみじみ、良い物語を読みました。
短編なんだけれどどのお話も長編小説みたい。人間模様がほろ苦く現実的に描かれていました。
ドラマチックなようで普遍的なようで、外国のお話だけれど隣の人はこんな人生歩んできたのかも、みたいに思わせる身近さがあります。
映画化される短編もあるみたいで楽しみです。 -
友だちの誕プレに