あの素晴らしき七年 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901264

作品紹介・あらすじ

初めての息子の誕生から、ホロコーストを生き延びた父の死まで。七年の万感を綴る、自伝的エッセイ集。戦闘の続くテルアビブに生まれ、たくさんの笑いを運んできた幼い息子。常に希望に満ちあふれ、がん宣告に「理想的な状況だ」と勢い込んだ父。現代イスラエルに生きる一家に訪れた激動の日々を、深い悲嘆と類い稀なユーモア、静かな祈りを込めて綴った36篇。世界中で人気を集める掌篇作家による、家族と人生をめぐるエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • イスラエルの作家ケレットのエッセイ集。
    これまた評判どおりすばらしかった。
    両親がホロコーストの生き残り(本人は1967年生まれ)で、住んでいるイスラエルのテルアビブは、テロや戦闘でしばしばおびやかされるのだけど、そういう現実から目をそらすことなく、でも日常をしっかりと生きてユーモアを忘れない。
    いま、コロナ禍の中で世界中の人々が「いつになったら元の生活が送れるのか」と思っているわけだけれど、イスラエルやパレスチナに暮らす人々にとっては、もっと気の抜けない状態が生まれてこの方の日常なわけで。そんな中でも日々のささやかなことに怒ったり喜んだり泣いたり笑ったりして人生を送る作者の姿はなんだかはげみになるのだった。

  • イスラエルの作家、エトガル・ケレットによるエッセイ集。

    テロや戦争が日常として存在する生活の中で、それでもユーモアと優しさをもって人生と付き合っていく作者や周囲の人々の姿が印象的。上質なジョークと見事なストーリー展開に笑わせられながら、現実のままならなさに目を開かされ、しかしむしろそれ故に、この世界で生きていくことに価値があると、言葉なく諭されるような気持ちにもなる。

    作者の優しく、力強い目線は、エッセイ「長い目で眺める」で書かれた以下の言葉へ端的に示されているように思う。

    「どんなに見込みの低そうな場所でもなにかいいものを見つけんとする、ほとんど狂おしいまでの人間の渇望についての何か。現実を美化してしまうのではなく、醜さにもっとよい光を当ててその傷だらけの顔のイボや皺のひとつひとつに至るまで愛情や思いやりを抱かせるような、そういう角度を探すのをあきらめない、ということについての何か。」

    その「何か」を持ち続けることの困難さを知りながら、それぞれの生活を生き続けることの大切さを教えられるような、本質的で美しいエッセイ集。

  • 息子の誕生から父の死までの7年間を綴ったエッセイ。
    テロや空襲が日常の暮らしにもシリアスさを感じさせない。
    各国でのユダヤ人であるが故の困難にも強靭なユーモアで対抗する。
    著者の言葉には揺るぎない知性と力がみなぎっている。

  • ピラティスの話も、オーバーブッキングの話も大好き。
    それはそれとして。
    イスラエルとユダヤ人の日常に考えさせられる1冊だ。

  • 長年に渡る中東での戦争、TVから流れる街の空爆の様子、伝統的な黒ずくめの服装に身を包んだユダヤ教の人々…私にとってこれらのことは、遠い国の遠い出来事でしかなかった…この本を読むまでは。
    そこにも私たちのように日々暮らしている人たちがいて、日常の些細なことに泣いたり笑ったり、時には怒ったりしている…という当たり前のことに気付き、中東問題を以前とは違う視点で考えるきっかけとなった。

  • イスラエルの作家ケレットのエッセイ。
    次々とテロで怪我をした人が運び込まれてくる病院で、息子が生まれてくるのを待っているシーンから始まる。テロやロケット攻撃など、今だ戦闘的な日常が続くイスラエル。そこでの日常をシニカルに切り取る。また、彼の両親や祖父母の代の忘れられない過去の体験もそこここに記されている。
    それらが皆、日常として書かれていることに深く考えさせられる。
    世界の中でユダヤ人であることの意味、イスラエルという国の尽きない現実。そこに生きる家族の日常と愛。笑いと共に知らせてくれる。

  • 面白い!
    ユーモアと苦さ。
    ヴォネガットやアイザック・B・シンガーを彷彿とさせられる。

    昨年、「突然ノックの音が」の刊行イベントで、氏のトークを拝聴したが、あの語り口そのまま、と感じた。
    その時は、空襲の合間に今日はサイレンが鳴らないといいねなどと言い合いながら息子を学校に送っていく…という日常などをユーモラスに語られていて、そのギャップにギョッとしたのだけれど。

    よく出来た短編小説のような味わいすらある。

  • 戦火が絶えないイスラエル
    ユーモア溢れるノンフィクション作品

  • 今年読んで良かった作家のひとりは間違いなくミランダ・ジュライなのだけれど、この作家もその位置に来た。まだ1冊しか読んでいないけれど、とにかく素晴らしいよ。子供が誕生して、父親が亡くなるまでの7年間のエッセイなのだけれど、テロリストの攻撃で始まり、ミサイルが降ってくる最終話で終わる。中東情勢、宗教、私は恥ずかしいくらいとにかく無知だけれど本当に素晴らしい。

    イスラエルで起きていることは紛れもなく悲劇で、子供は大人の都合で大勢死んでいる。この作品は宗教、国の都合と家族、自分のルーツを絡めているのに、驚くくらいあっけらかんとしている。ケレットは受け入れてるんだな。

  • イスラエルはテルアビブ在住の作家の短編エッセイ集。「七年」とは息子が生まれ、父が死ぬまでの七年間だ。どの話も日常を切り取ったようなもので短くて、ユーモアに満ちていて面白い。著者の日常は、実際に自国が戦争をしていて兵役があり、テロが起き、ミサイルが降ってくる日常である。でもすごく軽妙な語り口で、あくまで軽く受け流していく姿勢が読みやすく、何が起きようが子育てや日々の生活は続いていくし、かえってそういった「日常」が確かに存在するのだということを思わせる内容になっている。しかし著者にはそんな啓蒙じみた考えは一切なさそうなのが良かった。
    個人的には、兄が宗教教育から脱落したり、姉が超正統派に転向したりというなかで「神を信じない」著者との多少ぎこちない、それでも相手を尊重した家族付き合いが続いていっている様子が面白かったなと思う。

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著者プロフィール

1967年イスラエル生まれ。両親はホロコースト体験者。92年『パイプライン』でデビュー。『突然ノックの音が』は世界40ヶ国以上で翻訳。『あの素晴らしき七年』『クネレルのサマーキャンプ』など。

「2019年 『ピッツェリア・カミカゼ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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