ドミトリーともきんす

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (126ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120046575

感想・レビュー・書評

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  •  前作『黄色い本』から、じつに12年ぶりの新作コミックス。
     季刊誌『フリースタイル』の「THE BEST MANGA 2015 このマンガを読め!」で第1位に選ばれるなど、各紙誌絶賛の話題作である。

     科学者たちがものした自然科学の名著について、マンガで読書案内をした作品。
     終盤にジョージ・ガモフが「ゲスト」の形で登場する以外は、一昔前の日本の優れた科学者たちが取り上げられる。朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹といった面々である。

     前作『黄色い本』も、自らが高校生時代に『チボー家の人々』を夢中で読んだ体験をベースにした、他に類を見ない「読書マンガ」であった。その意味では、前作の延長線上にあるとも言える。

     絵柄は前作よりもさらにシンプルを極め、もはや「余分な線や点は一つもない」という域に達している。
     シンプルでありながら緻密に計算された絵の素晴らしさを味わうだけでも、一読の価値がある。

     架空の学生寮「ドミトリーともきんす」の2階に、学生時代の科学者たち4人が住んでいる、という設定。主人公の母子と4人の交流という形で、彼らの著作が紹介されていく。

     ただし、いわゆる「科学解説マンガ」ではまったくない。
     最終章で湯川秀樹の「詩と科学」が取り上げられることが象徴するように、科学者の中にある詩心――いわば「理系のロマンティシズム」が抽出されていくマンガなのである。

     高野文子以外には作り得ない世界だと思うし、愉しく読んだが、世のマンガ好きがこぞって絶賛するほどの作品だろうか、という気もする。

     高野文子は、並外れた寡作ゆえに神格化され、過大評価されている面があると思う。ちょうど、つげ義春が作品を描かなくなったことでむしろ神格化されていったように……。

     私は高野作品なら『黄色い本』のほうを買うし、「マンガによる読書案内」としては『草子ブックガイド』(玉川重機)のほうが優れていると思う。
     『ドミトリーともきんす』に向ける注目のせめて10分の1でも、マイナーな傑作『草子ブックガイド』に向けてやってほしいところだ。

  • トモナガ君、マキノ君、ナカヤ君、ユカワ君が住んでるドミトリー。こんな寮に学生の頃住んでたらと想像しながら読みました。4人の中では特に雪の結晶で著名な中谷宇吉郎の本「科学の方法」に強く影響を受けました。

  • とても静かでよかった。とも子さんの言葉を借りるなら、心が平らになる一冊。
    きん子ちゃんがかわいらしい。読みたい本がまた増えた。

  • 科学の入り口を開いてくれる。
    「詩と科学は遠いようで近い」を目の当たりにさせてくれる柔らかな本だ。
    自然科学の本の読後感を、「乾いた涼しい風が吹いてくる」と表現するのは、妙にとてもよく腑に落ちる。
    全く興味が持てなかった領域だけど、読みたくなった本が2冊あった。
    こういう出会い、感謝したい。

  • 高野文子さんは、漫画を描くことは「世界を発見する」ということだと思っているのかもしれない。世界とは、自分の人生であり、生きてきた社会そのものであり、素晴らしい本の世界であり、そこから導かれた何かである。

    あんなにも絵が上手いのに、それを封印してまで(でも、時々こぼれ落ちるようなドキッとするコマがある)科学の本の紹介漫画に徹する絵柄を作った。この拘りこそが高野文子さんである。

    まるで真打ちのように、最後に湯川秀樹が登場する。ハッキリ言って、彼の物理講義はちんぷんかんぷんだけど、最後に紹介される「詩と科学ー子どもたちのためにー」という詩は、それと共に出てくる高野文子さんの幾何学不思議絵と共に、忘れられない「世界」だと思う。

    ほんの一瞬、奇跡的に詩と科学はこの漫画の中で「出会う」。でも、それは高野文子さんがいたから実現出来たことでもある。思えば、加藤周一はしばしばこの奇跡を実現していた。

    それは見ようとする者だけが見ることの出来る世界である。

    幾つも読みたい本が出来た。困ったことになった

    2015年2月17日読了

  • 4人の科学者による著作を紹介したマンガ。なんだか不思議な読後感でしたが、理系に疎い文系人間が自然科学系の本を読んだときのおもしろさってこういうことだよね、って気がした。

  • これからの人生の目標ができました。私はともこさんのようでありたい。そしてきんこちゃんを育てたい。朝永くんや湯川くんをあたたかく見守りながら。
    今年であった本のなかで大ヒットです。この本と出会ったエピソードとともに大事にします。
    それではみなさんごめんそうらえ。

  • 科学のマンガ

    ともきんす(管理人?家族の名前から)という寮に
    朝永振一郎・牧野富太郎・中谷宇吉郎・湯川秀樹らの
    科学者が学生として住んでいてという設定。
    かれらの著書の内容を少しマンガで紹介しているという
    内容。
    これだけ聞けば、なんとなく興味をそそられたの
    ですが、読んでみるとよくわかりませんでした。
    科学的な興味がすでになくなっているのかも
    科学的興味って、若者の特権ですよね・・・・

  • 全国の学校司書さんへ。この本を、図書室の科学読み物の棚に置いてみてください。この本の中で紹介されている本を読んでみたいと思う子が、きっといるはず。ただしふりがながないので、小学校ではご注意ください。中央公論新社さん、ルビ付きの版も出してくれないかなー。

  • 高野文子が、カガクする心と出会ってしまって大変です。舞台は朝永振一郎や湯川秀樹などが暮らす 架空の寮、ドミトリーともんすです。ドミトリーともきんすでは将来ノーベル賞をとるような人が住んでるので、寮生活には縁遠いと思われがちな科学の目で日常が切り取られていきます。

    科学とは興味を持つ芽。

    さて科学が日常にもたらす興味とはなんでしょう?この話は科学だからといって別に実験とかの話ではありません。鏡はなぜ左右は反対になるのに、上下は反対にならないの?などという気づきの話です。興味を持ったら考えずにはいられない。そして調べたくなってしまう人の話です。しかし、彼らが考えたことに対して科学が答えをくれたこと想像以上にわずかです。
    唐突ですが、3・11以降私は日本にある種の終末観を感じます。日本が行き詰まっている感じがします。
    しかし、科学の眼で見た時、われわれの生活はまだまだ未知なところばかりです。私が壁だと思っていたところは、科学の目を持ってすれば扉
    かもしれません。
    行きづまってなどいないまだまだ未知の世界があると感じさせられます。
    違う視点を持つ重要さを教えてくれます。

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著者プロフィール

高野文子(たかの・ふみこ)
1957年新潟県生まれ。漫画家。1982年に日本漫画家協会賞優秀賞、2003年に手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。作品集に『るきさん』『おともだち』『絶対安全剃刀』『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』『棒がいっぽん』『黄色い本』がある。漫画作品の他に、絵本なども手掛ける。

「2022年 『増補 本屋になりたい この島の本を売る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高野文子の作品

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