観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書 2443)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024435

感想・レビュー・書評

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  •  最近、ふらっと書店に行って、新書のコーナーで話題の『応仁の乱』(呉座雄一著、中公新書)を見ていたら、その近くに、同じ室町時代でも、初代将軍足利尊氏とその弟の直義の争いを描いたこの『観応の擾乱』が目に飛び込んできました。その昔、大河ドラマ『太平記』を見て感動し、現代語訳を読んだ記憶があり、気になった(特に、実力がありながら敗れた直義の有り様)ので、こちらの方を購入し読むことにしました。
     読み終えての感想は、「濃密」。普通、新書だと学術的なものでも比較的読みやすいのですが、鎌倉幕府の統治制度の多くを引き継ぎ参考にした室町幕府の説明(「創造」と「保全」で尊氏と直義の権限の説明をしたのは成程と思った)を詳細に行い、情勢の目まぐるしい変転と離合集散を克明に描き、且つ最後に総括を行う。分厚いハードカバーの学術書を読んだような気分がしました。しかし、尊氏と直義双方がこの争いに当初から消極的(直義は最後まで)だったのは意外でした。確かに、筆者の言う通り最後は気概の差で尊氏が勝利したと思うのですが、私は、二人が基本的に「理想」に重きを置くような人物で、戦闘「欲」の強そうな義詮や領地の所有「欲」に執着する各地の武将に引きずられるように争いが推移し、最終的に尊氏が自らが弟直義とともに築いた幕府に対する執着という「欲」に気づいた尊氏が本気になって決着した、という『欲の勝利』がその心理的本質だったのではないか、と思いました(もしかしたら、それが戦争そのもののにおける本質なのでしょうか?)。
     ただやはり、それでも、制度や争いの推移、あと各武将の関係性など複雑でわかりにくかったのは事実です。『日本史年表・地図』(吉川弘文館)があると理解の手助けになるか、と思います。今度は、改めて『応仁の乱』に挑戦します。
     

  • 東2法経図・開架 B1/5/2443/K

  • 吉川英治の『太平記』が好きだったので、面白く読めた。
    終章のまとめでは、恩賞充行の適切な実施と所領を巡る訴えの迅速な裁決を行ったことが、擾乱以後の安定につながったと書かれている。
    どの地域どの時代でも、個人は自身の利得の最大化を目指す合理的な存在なんだなあと感じる。
    また、彼らが各々行動することによって起こる「集合行為問題」を解決する制度設計を行うことが、政治の安定化をもたらすのだと思った。

  • 「応仁の乱」と同じく、何となく知ってるけど実は顛末をよく理解していないけど興味ありますトピックが、じつによく分かった。実は尊氏がここまで追い詰められていた事も、さらに直義直冬が見る間に「逆転負け」して行った流れも納得。

  • 尊氏将軍に就任直後は、ほぼ全ての政務を直義が仕切っていた。それは鎌倉期、建武新政期を踏襲する側面が濃かった。高師直も横暴な悪人だったとするイメージは一次史料を見る限りは当たらず、鎌倉末期の御内人の立場からの振る舞いであった。観応の擾乱を通して二人が没落、死去したことは、そういった鎌倉、建武新政期の政治からの断絶、革新、という意味あいがあったこと。それにしてもこの尊氏・直義兄弟の不思議なところは、ここぞという勝負どころで無気力・消極的になってしまうところ。本心では身内とは争いたくないのに、心ならずも担ぎ上げられてしまったという側面もあるのだろうか。それなら最初から争わなければいいのに、と傍目には思え、理解に苦しむ。人間くさいといえばあまりに人間くさい。ヘッドがそんなんだからか、支持勢力も通説では尊氏党、直義党と確固としたものが語られるが、仔細に見ると、ひどく流動的というのはむべなるかな、と。以下備忘録的に。/尊氏はの義詮、直義派の桃井直常、石塔頼房くらいしか主戦派存在せず、両軍の総大将尊氏、直義以下ほぼ全員に厭戦気分が蔓延しているのに対立が治らない不思議な戦争。/皮肉なことに幕府の窮地に直面したため47歳にして征夷大将軍としての尊氏の真価が開花しだした/義詮が京都を奪われたのを無能の証とする説があるが、それも含め、講話条件を一方的に暴力で解決しようと破ったのは南朝側であることは指摘しておきたい。/観応の擾乱は、尊氏ー師直の恩賞、守護職の分配に不満を持つ武士が、直義に接近しつつあるところに、足利直冬の処遇問題が複雑に絡んで勃発したことに求められる/"努力すれば報われる。この場合の「努力」とは幕府への奉公を意味するが、幕府がこのような信頼を得た意義は大きい。忠節を続けていれば、必ず何らかの形で権益を与えられる。万一敵対しても、帰参すれば決して悪いようにはされない。自分が殺されたとしても、最低限、家の存続は許される。"(p.248)

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著者プロフィール

亀田俊和(かめだ・としたか)
1973年秋田県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。京都大学博士(文学)。現在、国立台湾大学日本語文学系助理教授。主な著書は『室町幕府管領施行システムの研究』(思文閣出版)、『観応の擾乱』(中公新書)、『高師直 室町新秩序の創造者』(吉川弘文館)、『征夷大将軍・護良親王』(戎光祥出版)など。

「2021年 『新説戦乱の日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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