寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • / ISBN・EAN: 9784122041783

感想・レビュー・書評

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  • 死の香りのする連作短編集。
    連作だということを最初は知らないで読み始め、2作目3作目と続く中で見覚えのある単語を目にしてやっと気がついた。
    人々の欲望や狂気までもがあまりにも静謐に描かれていてふとした瞬間に泣きそうになる。明らかに狂っていて現実とは遠いようなのに、どこかこの世界と繋がっている。まるで水彩画のように静かで儚い。
    小川洋子の硬質な文章が好きだ。
    人間の奥底の感情までも描いているはずなのに、恐ろしく冷たく無慈悲に物語は進行していく。それがより一層儚くて、苦しいほど美しくて。

  • 死とそれに付随する何かについての11の短編は、それぞれが密やかに繋がっている。
    2つ目の話を読んだときにそれに気がつき、次を読むときからはより注意深く読むようになった。そのつながり方は、昔、上野動物園で見たマレーグマくらいに控えめで謙虚なため、そっと読まないと見失ってしまいそうだからだ。

    それぞれの話に出てくる死は、とても美しい。
    死を美しいと感じるなんて、現実的じゃないとわたしは思う。タイトルに「死体」ではなく「死骸」という言葉を使ったのは、読んでいる人に肉体という物質を感じさせないためなのかもしれない。
    肉は腐敗し周りを穢していくが、
    骨は白く乾いてゆくように。

    『果汁』というタイトルの話は、村上春樹の『ノルウェイの森』を彷彿とさせた。
    「こんなこと、あなたに頼むべき筋合いじゃないって、よく分かってるのよ」
    筋合いという単語。
    駅まで来ても電車に乗ろうとせず、ただずんずんと歩く彼女。斜め後ろからその姿を見つめる僕。
    ストレートの髪とその間から見える耳。

    この本で度々流される涙は、わたしたちが日常に流すそれとはまるで違う物質のようだ。
    激しい憤りも、胸が張り裂けるような慟哭も、息をつくことさえ出来ない嗚咽も伴わない。
    ただたださらさらと流れる透明な液体。
    そういう哀しみがどんなふうに訪れて、涙がどんなふうにこぼれるか、まだ私は知らないのかもしれない。

  • 永遠に続かない弔いの一瞬だからこそ、
    儚くて狂気的なほど美しい。
    傷つけられたはずなのに、ゆっくりじっくり少しずつ彼を傷つけたいという願望。
    自分の手の中にあるものが壊れていく様に感じる喜び。
    それは矛盾しているけど、絶対に叶うことのない永遠を求めているのかもしれない。
    少しずつ、微妙に、曖昧に繋がる連作短編。
    現実感のない狂った世界と生活感の溢れる日常が入り乱れる不安定さがより儚さを感じさせた。

  • 小川洋子さんの作品が好きで恐らくエッセイ以外は全部読んだが、ああこれだ、と1番すとんと落ちる一冊になった。
    連作短編集だと知らずに読んだが、連なり方がなんと表現していいかわからないがとても美しいと思いました。

    いくつかの単語や人物が一編一編に出てきて繋がりがわかりやすく、ワクワクするし更には物語に入り込みやすいと思う。
    一つ一つの表現が美しく情景を想像したくなる文章が本当に素敵です。美しさだけではなく、紙一重の顔をしかめてしまいそうなグロテスクな部分も含めて。

    中でも1番好きな表現が、"トマトと満月"中の『言葉の底にひんやりとしたさざ波が立っているような物語だった。それはひとときも休むことなく、さわさわと僕の胸を侵した。』という一節で、つい言葉の底ってなんだろうと想像してしまった。

    きっと何度も読み返す一冊になると思う。

  • ホラーよりもそこはかとない狂気の方がおそろしい

  • ページをめくるごとに、甘いような腐ったような香りが鼻をかすめる本。
    内容に合っていて忘れ難くて美しい、素敵なタイトルだと思います。

    短編集で、印象に残ったのは「心臓の仮縫い」です。
    「白衣」は分かりやすい話ですが、この雰囲気がとても好き。
    「洋菓子屋の午後」の描写がすごい…たぶん作家が見せたかった景色そのままを、わたしは見ていたと思う。

  • 冷蔵庫で亡くなった子供、身体の外に心臓がある女、拷問器具の博物館etc...の不思議な短編集。それぞれの話は少しずつリンクしてて、それがまた混乱させる。
    小川洋子さんの短編集としては今のところ一番好きかも。

  • うーん、好き。
    って、まず一言。

    小川洋子さんの小説は、現実と非現実を行き来しているような、不思議な気分にさせてくれるものが多いように思う。
    おかしな世界なのに、すぐそこにあるような。
    文章の透明度の高さも、好きであるかなり大きな一因。

    必ず何らかの“死”が絡み、様々なかたちの“弔い”が描かれた短編集。
    過去の死であったり、現在の死であったり。不慮の事故での死であったり、自然死であったり、殺人であったり。
    そしてこの短編集のおもしろいところは、時系列や順番は関係なく、どれかの物語がどれかの物語と不可思議に繋がっているところ。順番通りのものもあれば、忘れた頃にだいぶ前の物語と繋がったりもして、その繋がり方に感嘆。

    美しきシンガーに心臓を入れる鞄を依頼された鞄屋のお話「心臓の仮縫い」と、ライターが取材先のホテルに滞在中、犬を連れた不思議な中年女性に翻弄される「トマトと満月」がとくに印象に残った。
    でも、全部好き。
    そして、冒頭の感想に戻る。笑

    こういう文章を書いてみたい。とも思う。
    静謐で美しく、浮世離れした感じ。

  • 題名がいいな~と思って手に取りました。
    しりとりみたいな短編集です。

    「ベンガル虎の臨終」までのお話はどれも気に入りましたが、特に「洋菓子屋の午後」、「老婆J」、「白衣」、「心臓の仮縫い」の4話が好きです。
    これは最初にこういう感じにしようと思って考えられたのでしょうか。
    お話の並びも重要だと思いますが、ちょうどいい具合に並んでいておお、そう繋がるのか、というちょっとした驚きというか発見が楽しめます。

    いくつか線を引いたり、栞を挟んだりしてぱっとめくった時に目に留めたい表現がありました。
    今まで何冊か小川さんの本を読みましたが、その中でもこの本はお気に入りになりました。
    死を描くのが上手い…というか私にあっている?作家さんだと思います。

    • 円軌道の外さん

      A(仮)さん、はじめまして!
      関西出身で東京在住、
      読書は勿論、映画と音楽と猫には目がないプロボクサーです。
      遅くなりましたがフォ...

      A(仮)さん、はじめまして!
      関西出身で東京在住、
      読書は勿論、映画と音楽と猫には目がないプロボクサーです。
      遅くなりましたがフォローありがとうございました(^o^)

      僕も小川洋子さんの作品大好きで、
      A(仮)さんの言う
      『死を描くのが上手い』って分かります!

      どの作品にも死の匂いが漂ってるし、
      どこかエロチックで官能的で、
      そしてグロさを描いても、 
      決して知性や品性を損なわない美しい文体も
      クセになる中毒性を有してますよね。

      それにしても、 A(仮)さんのレビュー読ませてもらって
      その独特で鋭い観察眼と感性に惹きつけられました。
      またオススメありましたら
      教えていただけると嬉しいです(笑)

      ではでは、これからも末永くよろしくお願いします!

      あっ、コメントや花丸ポチいただければ
      必ずお返しに伺います。
      (仕事の都合によってかなり遅くなったりもしますが…汗)



      2015/04/13
  • 終わりがあるからこそ、いと惜しく、美しいと感じるのだろうなあ。
    と、何だか新年早々アンニュイモードに突入してしまいましたが!

    やっぱり、小川先生、大好きだー!うおおおお\(^o^)/

    と本を静かに閉じた後、ソファの上で意味もなく身悶えました、2014年の初読本でございます。
    もう何度目になるか分からない一方的なラブレターを、またしてもブクログに綴るのであります( ^ω^ )←

    密やかに形を亡くしたものと、それに対する密やかな弔いが、丁寧に、残酷に紡がれる連作短編集です。
    それぞれの話は独立しながらも少しずつ関わりあっていているのですが、そのリンクする感じがすごく控え目なのが素敵です。

    「実はこの話とあの話のキャラクタはこういう風に関わりあっているんでした〜!」な種明かしで読者を驚かせることを主眼にした作品も少なくないですし、私もそういう作品は大好物な質なのですが、小川先生の手にかかればそうはならないのですね。
    失われる物達が、視点を越え、次元を越えて多層的にクロスして行く様が深々と紡がれていく情景が、ただただ美しく、愛しくなります。


    何で毎回好き好き言ってしまうんだろう、と思ったんですが、何となく自分なりに答えらしきものを今作を読んで得たような気がします。
    小川作品には、何と無く【死】や【喪失】の香りが漂っていて、それがミステリに傾倒する私のどストライクな部分を抉るんじゃないかなあ。
    今回は死そのものをテーマにしていたから、それが際立っていたようにも感じました。
    そうなると、今度は私がどうしてこんなにミステリに傾倒しているのかという話になるんですが…うーん、そこまで考えたことはなかったなあ(笑)。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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