ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150102371

感想・レビュー・書評

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  • SOLARIS(1961年、ポーランド)。
    スタニスワフ・レムの代表作。ジャンルとしては「ファースト・コンタクトもの」に属する。つまり、地球人と地球外生物の「初めての接触」について書いたもので、SF小説のテーマとしては至極オーソドックスなものである。にもかかわらず、『ソラリス』は数ある同種の作品の中で、ひときわ異彩を放つ作品としてSF史にその名をとどめている。

    作者曰く、『ソラリス』以外の作品において、ファースト・コンタクトの結果は突きつめれば以下の3つのパターンに帰着するものであった。

    1)地球人と地球外生物が共存的な関係を築くもの。
    2)地球人と地球外生物が対立し、地球人が勝利するもの。
    3)地球人と地球外生物が対立し、地球外生物が勝利するもの。

    …多少の不正確さを承知で例を挙げると、映画『E.T』やホーガンの『星を継ぐもの』は1に、映画『エイリアン』やブラッドベリの『火星年代記』は2に、映画『猿の惑星』や光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』は3に、それぞれ分類されるだろう。異色のファースト・コンタクトものとして外せない作品にクラークの『幼年期の終り』があるが、これも1の変形バージョンと見なすことができるだろう。

    バラエティ豊かにみえる上記の作品群は、しかし暗黙の了解のうちに1つの共通ルールを常識として採用している。「知的生命体同士は意思疎通が可能である」という常識である。意思疎通がとれなければ友好関係も敵対関係も結びようがなく、文字通りお話にならない。ゆえにSFでは自動翻訳機なりテレパシーなりを小道具として導入するわけだが、そこには「テクニカルな面さえクリアすれば知的生命体同士の意思疎通は可能なはず」という思い込みがある。

    『ソラリス』において問題提起されるのは、まさにその点である。「知的生命体は人間との意思疎通が可能である」というなら、裏返せば「人間との意思疎通が不可能なら知的生命体ではない」ということになるが、それは真理だろうか。一体、私達人間の「意思」なるものは、宇宙に存在する全ての知性を評価する尺度として使用できるほど、普遍的なものなのだろうか。私達は無意識のうちに、またも無邪気な人間中心主義に陥っているのではないか。人間には原理的に認識不可能な知性というものも、この世には存在しうるのではないか。そもそも「知性」とは何か、また「意思」とは何か。

    この問題は、哲学や脳科学、精神医学、生物学、そして神学にまで関係するものだろうが、きりがないのでここでは深入りしない。ひとつだけ確かなのは、「常識から飛躍して、どれだけ純粋に〈思考のための思考〉をすることができるか」をSFの醍醐味と考える読者に対して、『ソラリス』は間違いなく豊饒な時間を提供してくれるだろう、ということだ。発表から約半世紀たった今でも色褪せることのない傑作である。

    • 佐藤史緒さん
      あー、あからさまな他者よりも、自分に近い人の方がかえって相互理解不能だという矛盾…カトリックとロシア正教とか…革マルと中核とか…いやむしろ親...
      あー、あからさまな他者よりも、自分に近い人の方がかえって相互理解不能だという矛盾…カトリックとロシア正教とか…革マルと中核とか…いやむしろ親子とか夫婦とか(鬱
      映画はまだ未見ですが、いつか見たいです!
      2014/03/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「自分に近い人の方が」
      判っている筈。と言う前提があるのかも、、、
      「自分に近い人の方が」
      判っている筈。と言う前提があるのかも、、、
      2014/03/27
    • 佐藤史緒さん
      確かに。一種の甘えなのかも。
      確かに。一種の甘えなのかも。
      2014/03/28
  • 惑星ソラリスに存在する生きた海、そんな未知なるものとの遭遇が主題となるわけだが、そもそも私たちはどれだけのものを「既知」としているのだろうか。例え家族や恋人であってもその人の事を完全に理解するのは不可能であり、どれだけ愛せども私が愛しているのは所詮「私の中のあなた」という観念に過ぎない。しかし、例えそれを理解したとしても、それでも人が他人に触れようとする行為が無くなる事は決して無いのだろう。そう、例え理解できないとしても接触しようとする―そして届かない。そんな反転した感情のカタルシスがここに刻まれている。

  • 高度な知能を持つとされているソラリスの海。惑星ソラリスに到着してから主人公に降りかかる奇妙な現象。最初は得体の知れない不気味さがあって読んでてとてもワクワクしました。しかし物語が進むにつれそんなワクワク感も薄れていきました。主人公が対峙した怪異は自殺してしまった妻が再び現れるといったもので彼女はいったい何者なのか、なぜ現れたのかを調べはじめます。しかし中盤以降は序盤のホラー要素は何処へ、恋愛色が強くなります。またこれが淡々と語られていくので個人的には非常に淡白な印象を受けました。前に読んだ江國香織さんの「冷静と情熱の間」を読んだときと似たような思いです。(僕自身経験があまり無いのでこういった文章の良さを感じ取るには及ばないといった状態です)
    要は未知の惑星でのありえない現象の元での大人な恋愛ストーリーといった感じです。最初ホラー色が強かったのとそれに期待してしまったためこの展開は拍子抜けしてしまいましたが、もちろんソラリスという架空の惑星の風景や海の描写など細かく書かれており、想像力も書き立てられますからそういった意味ではとてもSFらしいものでした。ですが惑星ソラリスの風景や海の描写、ソラリスについての研究者たちの文献などが長く、物語自体があまり進まない印象です。


    はじめから、冒険物SFではなく未知の世界での不思議で切ない恋愛物という観点で読んでいたら、あるいわ大人な感じ(?)の恋愛物の良さを感じ取れるほど成熟していればまた違った感想になったのかなと思いました。

  • これまで読んだSFの未知との遭遇というのはハラハラドキドキな物が多かったけど、この作品はそれが淡々と描かれ妙に説得力があって新鮮だった。

  • 主人公のケルビンとその恋人ハリーのやり取りは、痛ましく、そして感動的である。
    そのやり取りすべてが、ソラリスによって具現化されたケルビン自身の過去や無意識に基づく幻想の一連であり、ケルビンはそのことを思い知らされることになる。すなわち、目の前にいる恋人ハリーは仮構にすぎないことをケルビンは突きつけられてしまう。それでもなお、ハリーを愛していこうとするケルビンの姿は涙が溢れてくるほど、感動的である。

  • ユング?

  • アメリカのSFと全然違う。日本の怪談と西洋のオカルトの違いのように。タルコフスキーの映画も面白かったが小説も良い。洗練された感じではないが表現しようとしている事が判るような判らないような。内面に訴えるSF小説だ。

  • 自分がいる地平と別の地平にいるらしい何かに出会ったら。

  • 不可知なる物を目の当たりにすると、こんなに豊かなドラマが生まれる。

    映画版は割とメロドラマティックな展開が印象に残りますが、原作はもっと淡々とした情景描写やSFチックな解説調の文章が多く、とても静かな作品です。が、ソラリスの海という最後まで謎のままの舞台装置を通じて人間の内面を照射する世界観は、原作も映画も同じスタンスを取っていると鴨には思えました。大きな盛り上がりはないけれど、しみじみと来ます。

  • 『惑星ソラリス』の原作小説です。やっぱり映画のほうはタルコフスキーの解釈が入っているからテーマが微妙に違うんですけど、先にそっちが念頭にあるのでそのイメージが浮かんじゃうし、そういう先入観で読んでしまいました。でもやっぱ哲学的…というか深い作品だと思います。

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著者プロフィール

スタニスワフ・レム
1921 年、旧ポーランド領ルヴフ(現在ウクライナ領リヴィウ)に生まれる。クラクフのヤギェロン大学で医学を学び、在学中から雑誌に詩や小説を発表し始める。地球外生命体とのコンタクトを描いた三大長篇『エデン』『ソラリス』『インヴィンシブル』のほか、『金星応答なし』『泰平ヨンの航星日記』『宇宙創世記ロボットの旅』など、多くのSF 作品を発表し、SF 作家として高い評価を得る。同時に、サイバネティックスをテーマとした『対話』や、人類の科学技術の未来を論じた『技術大全』、自然科学の理論を適用した経験論的文学論『偶然の哲学』といった理論的大著を発表し、70 年代以降は『完全な真空』『虚数』『挑発』といったメタフィクショナルな作品や文学評論のほか、『泰平ヨンの未来学会議』『大失敗』などを発表。小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた。2006 年死去。

「2023年 『火星からの来訪者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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