日の名残り (ハヤカワepi文庫 イ 1-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200038

感想・レビュー・書評

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  • 若い頃に読んでもピンとこなかっただろうな。旅の終わりが素晴らしい。夕日が目に染みる。

  • 凄かった。凄かったとしか言えない自分がもどかしい。
    人生の中で行ってきた様々な選択を自分は最善のものだと信じていたが、人生の終わりになって自分の至らなさで多くのことを見落としていたことに気づき悔恨するという話。解説もすごく分かりやすく解説によってより深く思考することが出来た。
    後悔ばかりの人生に何を見い出せばいいのか。
    そんなことを考えた。
    生まれてきたからには後悔はつきものなのかもしれない。あーあ。

  • またもやしてやられた。
    ノーベル文学賞作品は硬くて真面目で難解で、おそらく数ページで投げ出すだろう。そういう先入観を持って読んだ、『わたしを離さないで』と今回の『日の名残り』。それはそれは見事に裏切られた。こんなはずではなかった。不覚。あれよという間に一気に読み終えてしまった。なんたることだ。
    私のノーベル文学賞作品のイメージが完全に崩れ去った。ああよかった。

    二作とも、出だしは軽く何の気なしに本の世界に引き入れられたかと思うと、気がつくととんでもないところへ連れていかれているといった印象を受ける。ノーベル賞の受賞理由は「世界とつながっているという幻想的な感覚にひそむ深淵」だ
    という。難しくてよくわからない。でもこの深淵という言葉だけ取り上げてみると、気が付いたらとんでもないところに引き入れられている印象を受けたこの感じが深淵なんだろうか。

    執事スティーブンスが過去を語っていく。あくまでも回想録の形式をとるため、話が現在につながるかと思うところで、時間をいったん飛び越して回想の続きを語るというような技法が私には新鮮だった。記憶は得てして曖昧なものだがそれをうまく使ってあえて記憶を語らせる事で、水彩画の滲みのようなブレに味がある。上品な語りと情景の美しさにうっとりする一方で、ユーモアが散りばめられている。このユーモアをたどるだけで、喜劇として読めて面白い。愛すべきミスター・スティーブンス。私も親父ギャグの腕を磨こうと思う。
    しかし何と言ってもラスト。展開は薄々読める。でもそんな事はお構いなしに、軽々と、ずっしり重い巨石を心に置いていく。なんてこった。

    "今を前向きに生きる"という意味が少しわかったような気がする。どんな過去があろうと過去はもう取り返しがつかないもの。その過去を引きずって、今いる立ち位置を見失うと過去の中に囚われて生きる事になる。人は"今を生きるしかない"という事なのだ。過去にすがって幻想の中に生きるくらいなら、その過去に行くためのタイムマシンの開発に真剣に取り組む方がまだ前向きだろう。
    とはいえ、自分が生きてきた人生を否定しなければならないとしたら、しかもそれがもう人生の黄昏時にきて初めて気がついてしまったとしたら。これ以上の悲劇は無いように思うけれども、それでもやっぱり人は気がついたところから再スタートを切るしかない。人生は一度きりという時の"人生"は、時間の不可逆的な
    流れの事、もしくは物質的な生から死までの間の事を言っている。"今を生きる"ということは人生の間のひとつひとつのエピソードを上書きして更新していくものなんでしょう。

    パソコンで文章をタイプしているとき、保存し忘れてフリーズしたときの悲劇は相当なものでしょう。文章の打ち込み時間が長ければ長いほど、ショックが大きいというものです。ミスター・スティーブンスはこまめに保存する事を怠ったものと思われます。主人を信じ、品格を信じ、筆の赴くまま連綿と文章をつづっていく事が良いと信じて、長くタイプしすぎたのです。そして、デリートしてしまったときにやっと気が付いたのです。思い出しながらタイプをやり直そうとしても、も
    う筆が踊りますまい。そうでしょう、ミスター・スティーブンス。

    それもまた人生かもしれないけど、もう少しこまめに今に立ち返って保存しようと思う。私もまたパソコンが不具合を起こして再構築中である。ミスター・スティーブンスよりももう少し先の長い再スタートで良かったと思おう。

  • カズオイシグロさん、ノーベル賞をとってからずっと読みたいと思っていた作家さんだけど、なかなか読めず初作品。

  • まず翻訳された文章が苦手な私でもスルスル読めた、翻訳の土屋政雄さんの力は大きい。以前読んだ『わたしを離さないで』も土屋さんの翻訳。外国語に昏い私のような人間には翻訳者の力も読書に大きく影響する。

    『ハーフ・オブ・イット』に出てきたことがきっかけで読み始めた本書。戦前からイギリスのお屋敷で執事を務めてきたスティーブンスは新しい主人に留守の間イギリスを旅行しては、と勧められドライブに出る。自分の信じる執事像を貫き、敬愛する主人に奉仕した過去が語られるが、道のりが進むなかその回顧が段々と翳ってくる。

    読み終わるとうっすら切なく悲しいのは、過去は留めて置けない、流れては取り戻せない、その容赦の無さからかもしれない。人生は選択の連続で何かを選べば選ばなかった方を失う。後ろを振り返ると選ばなかった無数の未来が幻の光を放っている。過ぎ去ったあらゆるものが胸を衝く。
    こう書くと誤解されそうだが、決して暗いばかりの話ではない。ユーモアがあり優しくて、切なさと優しさの塩梅に人間の温かさを感じる。完璧主義で無神経に思われたスティーブンスがラスト数ページで愛おしくて堪らなくなった。

    ——必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向きつづけなくちゃいかん。人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。

  • ノーベル賞作家ということで、読んでみました。
    残念ながら私にはそのよさというか、このような小説の読み方が充分にまだわからないようでした。
    もう少し他の小説を読み込んで、それからまたこの作家の作品を読んでみます。

  • 執事スティーブンスの、自分の人生に対する後悔と、自分の執事人生を否定したくないゆえにその後悔を認めたくない、という相反する気持ちの交錯というのがスティーブンスの一人称の語りからとても繊細に描かれていたように感じた。

    というぽい事を書いてみたけれども、最後にスティーブンスが涙するまでそのことに気づくことができなかった。執事の誇りや品格、ダーリントン卿の人柄についての語りは自分をごまかすためだったいうことも。自分の人生においても、どこかごまかしているところはないかなと思った。

    そう考えると、とても悲しい物語なはずなのにどこかさわやかさというか、そんな風なものを感じてしまう作品だった。

  • これほどまでに主人公に共感できないにも関わらずあれよあれよとページがめくれていったのは、早く私自身の感性の正常性を確かめたかったからだ。

    主人公は第一次世界大戦後のイギリスのある屋敷に仕える執事で、全体は口語体で書かれた彼の主観で制覇され、彼の主張が所々で熱弁される。

    特に彼の執事に対する理想像は、執事を脱ぐのは完全にひとりになったときに限られると語っていることといつ睡眠をとっているのかもわからないほど多忙な職務を考えるとほとんど執事としての人生しか送っていないようであり、もはや人間としての理想像にすり替わっており、それが読んでいて理解に苦しむ行動の一因になっているように思える。

    理想的な品格をそなえることは、生きていく上でこの上ない喜びかもしれない。しかし彼の場合は実際以上に喜びを享受しすぎて私には自惚れに感じられてしまった。

    途中からその違和感を覚えたためどこかでこれを覆してほしいと願いながら読み進めたが、主人公は栄華の時代の回想から戻ってもなお出会う人々と内心冷めた同じ調子で交流する。

    最終章のタイトルが六日目となっており前章のタイトルの四日目から時間が空いていたことで、私は少し希望を見出した。
    この時間に主人公は栄華の時代の異性の同僚と何十年ぶりという再会を果たすのだが、その女性は現在は結婚しているものの過去主人公に好意を持っていたことを暗に示す。

    読者にとってはわかりきっていたことを主人公はまるで感じていなかった、もしくは感じているのに自分の品格に通じる職務のために踏み入れてこなかった。しかし他人の感情というソフトな部分に接して初めてこれまでの反省・後悔・疑心に向き合い、沈みゆく夕日を前にして今日の残りのようなわずかな時間さえも有意義に過ごすことを胸に決めたところで、主人公に人間らしさが芽吹いた気がする。

    最後に、個人的には夕方は一番恐ろしい時間だと思っている。

  • 人生経験豊富な読者向けの名作なのかな、という印象。がむしゃらに生きてきた先輩達が、ふとこれまでの人生を振り返る時に手に取る一冊として、自分の人生に自信が持つことが出来、また他人も似た悩みを持っていることに気づく、そんな作品なのではと思いました。

    残念ながら25歳の私にはまだ未経験な感情・心情が多く、想像に頼り深く共感できる描写が少なかったです。

    「卿は勇気のある方でした。人生で一つの道を選ばれました。」
    フォロワーでも何となく生きていくことはできる。けど一度きりの人生、人を惹きつける強い情熱・道を持った男になりたい。

    また「執事の品格」とは主人を第一に考える一つの「道」だと思います。品格を持ったプロになるべく謙虚に努力を続けたいと思いました。

  • 主人公が、一緒に働いていた人に会いに行くのですが、その途中で、昔のことを思い出しながら会いに行きます。

    大きくて、身分の高い人(というか、社会的に地位のある人)の執事を主人公がやっていたのですが、その時のことと、現在の様子が交互に出てくるような感じです。

    一緒に働いていた人に会い、その人の言った言葉が、この本に込められた思いなのかなと思います。

  • 書店で見かけ、英文学を書くカズオイシグロの名前に惹かれて買った一冊。英版斜陽なんて噂も聞き、どちらも名家が衰退の一途をたどる点では同じだけど、斜陽は名家の苦悩、本著は名家に仕える執事の品格に重きを置いている印象。これは訳者の才かもしれないけれど、執事の丁寧な言葉遣いを表現する上では日本語訳の方が合っているのではないかと思うくらい、滑らかな文体は読んでいて心地が良かった(英語にも敬語はあるのだろうか)。結果的には個人的にはスティーブンスの思う品格、他人の前で服を脱がない品格に共感した。強い人は私的な自分を出さない。ただバックに色濃くイギリスがあるので政治的な背景や紳士としての"品格"は理解しきれていないような気もする。

  • カズオ・イシグロ氏の本は本当に好き。
    過去の大英帝国の華やかかりし時代を誇りつつも、時代が流れていったセンチメンタルな叙情をしみじみと感じるのは、日本人に通じる何かがあると思う。執事の主人に対する尊敬の念も、敬服に値する。
    英国人と日本人の両方の血が流れているからなのだろうか。

  • 精緻でひたひたと進む、小説だが、これは『文学』だった。
    翻訳とは思えず、訳者にも同じく称賛を贈りたい

  • 日の名残り

  • カズオ・イシグロ2作目。古き良き英国を感じた。ところどころユーモア散りばめられていて読みやすい。
    ミス・ケントンに再会する場面は、ほろ苦く微笑ましく。
    50くらいになって読むと、また違った味わいになりそう。

  • カズオイシグロさんの「私を離さないで」が面白かったので、同作者の作品を探しました。ブッカー賞受賞作だったのでこの本を読みました。

    イギリスの執事が語り部となって進む物語。

    この半年読んだ小説の中で一番心に刺さりました。
    執事の口調が品があって読んでいて心が凛とします。
    執事や女中頭、卿のキャラクターが、明記されてはいないのに会話の雰囲気や文体からじわっと伝わってくる。
    カズオイシグロさんならではの表現力。

  • 素晴らしい、作者もですが翻訳者が。
    まごう事なく執事の中の執事然とした語り口。そして日の名残りというタイトルも秀逸。
    旅行しながら、過去と現在が振り子のように行ったり来たりして、だんだんと明かされるかつての雇い主の悲しい運命、自分の執事としての転機になった事件(?)、男女の機微…好きすぎて3周目に突入している。
    最後、寂しく終わるかと思いきや、スティーブンが冗談を練習しようと思い立ってて可愛かった。そう、主人公側カッコよくて有能で鈍感で可愛い…恐るべしカズオイシグロ。

  • 素晴らしかった。
    ありがとう。

  • 見えてきた風景を頭の壁にくっきりと刻み、ゆたゆたと旅を続けながら頭のなかの風景画に話しかけ、感じたかったわたしに迫って行く。
    スーツが英国の民俗衣装のようなものであるということ、時にネクタイは組織と個人を強固に結びつける短い紐、首輪になること、そんな社会にある当たり前がどうやって形成されていくのか、当たり前って何?という問いの連射で、当たり前の背景が、かすかに視える、硬直化した態度を割る太陽の光を浴びた。
    本書は、特有の考えの習慣から離れる旅を提供し、ペンが滑るように流れる時間と真面目に向き合わせてくれる。

  • 日本での武士の威厳が崩れて行くように、英国の貴族への評価も移り変わっていく様が、執事スティーブンスが、主人公として、物が経っている。

    政界の名士のお屋敷に、有能で、堅物の執事が、大英帝国の栄光が失せて富豪のアメリカ人が、主人になってもお仕えする。

    その主人は、自分の帰国の間に、数日間、執事に休みを取らせて、イギリスを観光して来いと、勧めてくれるのである。

    品格を持った貴族たち、それに忠誠を誓ったような執事、そして、有能でありながら、自分の思いを言えなかった女中頭が、本の大部分を示しており、過去の英国の讃歌であり、そして時代と共に移りかっわって来た背景が、よくわかる。

    長い年月によって、世の中の政治も、風潮も、そして、スティーブンスとミス・ケントンの関係も、変わってしまった。

    桟橋から見る秋の夕暮れ 人生が、思い通りに行かなかったからと言って、後ろばかり向き、自分を責めても詮無い事・・・・・
    何か真に価値あるものの為に微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで充分だと、、、、

    凄く読み易く、そして、時間的な過去への話も、流れるように、執事と女中頭と貴族との会話で、読み取ることが出来た。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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