ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

著者 : アガサ・クリスティー 三川基好

• 早川書房 (2004年5月14日発売)

感想・レビュー・書評

[ごえもんさんの感想 · 2009年5月12日]

この作品のタイトルは、通常の推理小説がまず最初に殺人事件が起きて、その後に探偵が登場、そしてその探偵が謎を解決すると言うスタイルなのに対して、本来、殺人が起きると言うのはそれまでの経緯があると言う発想から、殺人事件が起きるゼロ時間への推移から始まると言う物語です。まずは、その構成の素晴らしさに驚きます。江戸川乱歩も折原一もクリスティ本人もベスト１０に入れる作品だけのことはあります。

もちろん殺人事件が起きて物語はおしまいと言うことになりませんが、一般的に倒叙物と呼ばれる形式ともまた違っています。殺人事件に至るまでの記述がないといけないようにもなっており、殺人事件が起きてからよりもむしろ殺人件が起きる前に殺人事件解決のためのヒントや経験があった（バトル警部の末娘のエピソードなど）と言う小説の構成に素晴らしい面が多い作品です。

（以下、ネタばれです）

犯人でない人間が犯人であると自白するところも、ちょうど容疑者Ｘの献身の舞台を見たばかりで、よけいに面白く思えたのかもしません。

1944年の作品でありながら、今の時代とさほど違和感のない恋愛感情など、古さを感じさせない物語はさすがクリスティです。

[izooさんの感想 · 2009年3月4日]

人の命が奪われる魔の瞬間「ゼロ時間」。

数多くの推理小説では殺人が起きたところから始まるが、
それは単なる「結果」に過ぎない。

それは既に前から始まっていて、
数多くの要因やそれによって引き起こされる負の感情が
存在していて、時に用意周到な計画が着々と準備される。
そして機が熟せば、様々な関係の、
様々な思いを抱く人物が同じ時刻に一つの場所に集まってくる。

刻一刻と時は刻まれ、そして迎える「ゼロ時間」。
殺人の起きる時間へ。

物語の山場、鈍そうに見えて実は大変優秀で頭のきれる
バトル警視による事件の謎解きで明かされる真犯人の殺害動機、
それまで巧妙に内に隠されてきた狂気に
背筋が寒くなるものを覚えた。

この作品を傑作と言うクリスティファンも多いし、
地味で寡黙なバトル警視の
「能ある鷹は爪を隠す」的個性が嫌いではなく、
そんな彼の貴重な出演作品であるにも関わらず、
私はそれ以外の登場人物の性格と、
物語ラストのあまりに「女的な」締め括り方が
どうしても好きになれず、そのためにこの作品の良さを
十分に理解出来ない事を残念に思う。

[Maoさんの感想 · 2009年2月21日]

殺人から事件は始まるのではなく、あらゆる事由の終着点が殺人なのだ。殺人から過去へと遡る従来のミステリーの常識を覆した衝撃作。あの時味わった鮮烈な驚きは、何度読んでも色あせない。

[灰戸さんの感想 · 2008年4月24日]

バトル警視もの。推理小説としては変わった構成をしている作品。事件は200ページを過ぎないと出てこず、そこまでは三角関係っぽいのにはさまれます。とはいえ、事件は初期を思わせるもので、犯人は意外に思うかもしれません。

[雨兎さんの感想 · 2008年2月9日]

恩田陸のような雰囲気がする作品。ぴんと張り詰めたような緊張感漂う、秀作だと思う。何でも持っているスポーツマンと影の薄い前妻と美しく快活な今妻、その友人の男。緊張漂う一家で殺人が起こる。ノックスの十戒には抵触してるけど、伏線の張り方とか話の複合具合が素敵。

[weisselilieさんの感想 · 2007年11月13日]

クリスティの人生訓のような発想が面白い　いかにもいかにもクリスティ

[sweetcakeさんの感想 · 2007年5月22日]

残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。殺されたのは金持ちの老婦人。金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった―人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向けて、着々と進められてゆく綿密で用意周到な計画とは?

[小夜さんの感想 · 2006年10月8日]

昔のカバーのほうが好きです。

[pekokunimoさんの感想 · 2006年8月28日]

クリスティ愛読者としてはお薦めは他にも沢山あるけど、なぜか印象に残った一冊。タイトルもまた本編での伏線の張り方もセンスが光るクリスティ異色作。

[tic_tacさんの感想 · 2006年6月30日]

この話は犯人が綿密な計画の筆を下ろす所が始まる。普通は殺人が起こってしまった所から推理小説は始まるけれど、その常識をあっさりと覆された一作。ポアロもミス・マープルも出てこないけど、読み応えあり。でも真鍋博さんのイラスト表紙のが好きです・・・。