ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300820

感想・レビュー・書評

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  • 陰惨で、同時にこの上なくロマンティックで、という取り憑かれるほど好きな作品が、クリスティにはいくつかある。上位3作はホロー荘、謎のクィン氏、終りなき夜に生れつく。Towards Zeroはタイトルが断トツ。
    どれも、トリックがどうということではなく、心の機微とその描き方にえもいわれぬ魅力があるのだ。
    雪白と薔薇紅ね。(グリム童話、覚えてる? ラストで都合よく登場する王子の弟というくだりに、幼心にさえ胡散臭さを感じたものだ)この、儚げな妖精ふうの雪白タイプに、クリスティはある種の憧れを抱いている気がする。著者自身は作中に登場する「てきぱきとものごとを処理する実際的な」メアリ・オルディンに近いから。メアリは、人生の華やかな面から置いてけぼりにされた地味な女として描かれるのかと思いきや、教養もあり有能で人に好かれ…とレディ・トレシリアンがべた褒めしてるとこを見ると、自分と同じタイプのすべての女性に対するクリスティの共感と敬服を感じられる。そんなふうに登場人物の描写を味わいながら何度でも愉しめる。
    ラストで誰と誰が結ばれるか、ちょっとした一文に工夫を凝らしてあるのも心憎い。

  • 「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇『ゼロ時間へ(原題:Towards Zero)』を読みました。

    『無実はさいなむ』、『蒼ざめた馬』に続き、「アガサ・クリスティ」作品です。

    -----story-------------
    残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。
    殺されたのは金持ちの老婦人。
    金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった―人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向けて、着々と進められてゆく綿密で用意周到な計画とは?
    ミステリの常識を覆したと評価の高い画期的な野心作を新訳で贈る。
    -----------------------

    1944年(昭和19年)に刊行された「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇、、、

    「エルキュール・ポアロ」も「ミス・マープル」も登場しないノン・シリーズモノですが… 以前、「ミス・マープル」モノに変更されて、アレンジを加えられた映像化作品の『ミス・マープル3 ゼロ時間へ』を観たことがある作品です。


    テニスプレーヤーで万能スポーツマンの「ネヴィル・ストレンジ」は二番目の妻ケイは、9月の初旬、「ネヴィル」を養子として育ててくれた金持ちの老婦人「カミーラ・トレリシアン」の住む屋敷ガルズポイントで休暇をとることに… そこには毎年9月に「ネヴィル」の前妻「オードリー」が滞在しており、今年はその時期に「ネヴィル」と「ケイ」が一緒に滞在することになった、、、

    「ネヴィル」の計画では家族的な雰囲気の中で、「ケイ」と「オードリー」の仲を取り持つことだったらしいが… 気の強い「ケイ」は、ことあるごとに「オードリー」につらくあたる。

    そんなケイの言動を目の当たりにした「ネヴィル」の心は徐々に「ケイ」から離れていき、別れた「オードリー」の方に傾いていくが、それが「ケイ」の気に障り、「ケイ」は「ネヴィル」にも突っかかることも… そんな様子を「カミーラ」と同居している「メアリー・オルディン」や「ケイ」の友人で近くのホテルに滞在している「テッド・ラティマー」、「オードリー」の従兄「トマス・ロイド」などが各々の思いをこめて見つめていた。

    そんな中、最初の事件が起こる… ガルズポイントを訪れた弁護士の「トレーヴ」が深夜になって近くのホテルに帰るとエレヴェーターに故障中の札が下がっており、心臓の弱い「トレーヴ」がやむを得ず部屋のある3階まで階段を上がることに、、、

    ホテルまで送ったロイドがその姿を見たが、それが「トレーヴ」が生きているのを目撃された最後となる… 翌朝「トレーヴ」はホテルの部屋の中で死んでいるのが発見された。

    「トレーヴ」の死因は心臓麻痺だった… 「トレーヴ」の心臓では階段を3階まで上がること自体が自殺行為だったのだ、、、

    しかし、ホテルではエレヴェーターは故障などしていないという… 誰かが故障中の札をエレヴェーターに下げたらしい… イタズラか、それとも「トレーヴ」の心臓のことを知っている誰かが故意にやったことか。

    続いて第二の事件が起こる… 「カミーラ」が部屋の中で殺害されていた、、、

    凶器と思われるゴルフクラブが部屋に残されており、そのクラブは「ネヴィル」のものと確認され、しかもゴルフクラブには「ネヴィル」の指紋しかついていなかった… さらに、「ネヴィル」のスーツの袖に血痕がついているのが見つかり、使用人の証言からカミーラと「ネヴィル」が激しく言い争っていたこともわかった。

    だが、捜査にあたったバトル警視は「ネヴィル」が犯人とは思えなかった… あまりにもできすぎているのだ、、、

    非情な計画的犯罪と一時的な感情がごちゃ混ぜになった、相容れない二つの要素が入り混じった、まるで辻褄の合わない事件… 「ネヴィル」にはアリバイが成立することが判明し、次に「オードリー」が疑われる。

    「オードリー」がカミーラを殺害し、「ネヴィル」に罪を被せようとしたのか… 「トレーヴ」の死は病死なのか… 「バトル警視」の捜査が本格的に開始されたが、事件は意外なところから解決に向かい始める、、、

    自殺でし損なった男「アンガス・マクワーター」が、終盤に意外な活躍を見せ、

    「バトル警視」の娘が学校で遭遇した盗難事件との類似性が、本事件解決のヒントとなり、

    「トレーヴ」の語った昔話… 弓矢で遊んでいて誤って友人を射殺した少年の話が事件の重要なカギとなっていた、

    と、全く関係ないと思われていたエピソードが、うまーく繋がったときは、パズルのピースがぴたっと嵌った感じで気持ち良かったですね。

    まさかね… (偽装の)アリバイが成立することを前提に、敢えて自分に容疑を向かせ、その後、「オードリー」に容疑が向くように仕掛け、「オードリー」を絞首刑にするのが目的だったとは、、、

    その目的を達成するために、身近な人たちを殺めるなんて許されない犯罪ですよね… しかも、その動機は、自分が捨てられて自尊心を傷つけられたという、あまりにも利己的な理由ですからね。

    自殺し損ねた男「アンガス・マクワーター」が印象的でしたね… しかも、「オードリー」と一緒になるというハッピーエンドで、事件の陰惨さを忘れて、希望を持つことのできるエンディングが良かったです。


    以下、主な登場人物です。

    「カミーラ・トレリシアン」
     金持ちの老未亡人

    「メアリー・オルディン」
     トレリシアンの遠縁の親戚

    「ネヴィル・ストレンジ」
     万能スポーツマン

    「ケイ」
     ネヴィルの2番目の妻

    「オードリー」
     ネヴィルの最初の妻

    「テッド・ラティマー」
     ケイの友人

    「トマス・ロイド」
     オードリイの遠い従兄

    「ハーストール」
     執事

    「ジェーン・バレット」
     小間使い

    「アリス・ベンサム」
     小間使い

    「エマ・ウェイルズ」
     小間使い

    「スパイサー」
     料理女

    「アンガス・マクワーター」
     自殺しそこねた男

    「トレーヴ」
     有名な老弁護士

    「ロバート・ミッチェル」
     警察署長

    「ラーゼンビイ博士」
     警察医

    「ジョーンズ」
     巡査部長

    「バトル」
     警視

    「ジェームズ・リーチ」
     警部、バトルの甥

  • 謎が解ける直前まで、犯人の態度がいけ好かなくて、うっとおしいと感じていた。にもかかわらず、犯人は貴方ですの一言で状況がすっかり引っくり返ってしまって、明確な殺意があったからこそ、ああも様子がおかしかったのだと納得せずにいられなかった。疑心暗鬼になればなるほど余計にクリスティの掌の上でいいように転がされるとわかっているけれど、その見事な手腕に惚れ惚れしているのだから、これはこれで楽しい。

  • 本書のテーマでもあるが、最初から殺人が起こるわけでなく、物語の半分を過ぎないと殺人が起きないのが特徴的。
    それだけ、なぜ殺人を起こしたのか、人々の心理描写が色々と描かれていたのが良かったと思う。だからといって、もちろん犯人がわかるわけでも無いのも凄い。

  • 殺人の動機が、こんなことで、、、と思い、人としてどうかと思った。
    意外な人が犯人でびっくりしたが、犯人がわかるところはちょっと運の要素が強いというか、そこまで洞察力が高くない私ならきっと、気づかないだろうと思った。

  • クリスティの名作。長い積読のはてにようやく読了。重層的なトリックもおもしろいが、そもそもミステリーにおける起点とは何か?を問いかけるメタ・ミステリーのコンセプトが秀逸。
    ただ、最後のロマンスは玉に瑕かと。

  • 全体的にはかなり好きな作品ながら、テーマとストーリーの相性が良くないのか惜しい印象が残った。タイトルのTowards zero「ゼロ時間へ」が、一つの事件に集約されていく強烈な流れを感じさせて素晴らしいのに、焦点となる企て自体がアガサお得意の見た目と違う人間関係から導き出される、つまり解決の時まで謎のため、例えばZの悲劇のような冤罪の死刑執行阻止を目指すカウントダウン的な緊迫感など得られようもなく、後付けの肩透かし感が残ったし、二次的な理由から起こってしまった凄惨な事件が悲しい。
    犯人造形や、バトル警視、法律家等のサイドストーリーも面白かったし、追い詰められて無実なのに罪を認めてしまうところなど現代でも考えさせられる要素が多く古さを感じさせない。タイトルや語り方が違ったら大満足だったかもしれない。
    クイーン の先行作と同じトリックというコメントがあって、最近読んだアガサの短編に当該作らしいタイトルをいじった話があった。あちらの犯人は探偵が見逃さないのが腹立つような正義漢で、本作と対照的なのも面白い。

  • 何だか分かったような、よく分からないような話だった。
    結局バトル警視、ちゃんと推理してたの?そうとは思えないんだけど。

  • 2021/02/11 読了

  • 最後の最後まで全然事件が起きなかったので、途中で読むのを諦めようかけました。
    でも最後まで読んで本当によかった。犯人が意外すぎて衝撃を受けました。この本は、事件にはそこに至るまでの過程がある、と言うのがテーマらしいのですが、その過程(事件が起こるまでのストーリー)を読んだからこそ、この人は絶対犯人じゃないって気になったので何だか変な感じです。

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