紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

制作 : 古沢嘉通 
  • 早川書房
3.92
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感想 : 153
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  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350205

感想・レビュー・書評

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  • 2022.01.09 図書館

  • 移民の母親と、母親が周りと馴染めないことに憤りを感じる息子との間で、距離が広がっていく表題作でぼろぼろ泣いた。しかもその下地に文化大革命での複数の死があるのだから。

  • 家族の話が多い(個人の話が少ない)のが叙情的に感じるのだろうか。

    ・紙の動物園 中国母の折り紙の魔法
    ・もののあはれ 宇宙船を直すヒーロー
    ・月へ 土地と亡命申請者 中国語訳なし
    ・結縄 タンパク質構造解析とターミネーター種子
    ・太平洋横断海底トンネル小史
    ・潮汐 満潮と塔
    ・選抜宇宙種族の本づくり習性 口吻手記 石の脳
    ・心智五行 腸内細菌群と脳内化学
    ・どこか全く別な場所でトナカイの大群が
    ・円弧 ボディワークス社 不死
    ・波 おかえりなさい 数世紀前に追い越された
    ・1ビットのエラー
    ・愛のアルゴリズム
    ・文字占い師 秋 羊 制海権 freeze 中国語訳なし
    ・良い狩りを 機械になった妖狐

  • ファンタジーなものからハードSFまで楽しめます。日本が舞台になっていたり、漢字が主題だったりで海外作品ですが身近に感じるのが多かったです。表題作はたくさんの賞を取ったそうですが、スチームパンクっぽい「良い狩りを」がお気に入りです。?

  • 3.93/1129
    内容(「BOOK」データベースより)
    『ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた…。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作ほか、地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人乗組員が穏やかに回顧するヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、中国の片隅の村で出会った妖狐の娘と妖怪退治師のぼくとの触れあいを描く「良い狩りを」など、怜悧な知性と優しい眼差しが交差する全15篇を収録した、テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭がおくる日本オリジナル短篇集。』

    目次
    紙の動物園 / もののあはれ/ 月へ / 結縄(けつじょう)/ 太平洋横断海底トンネル小史/ 潮汐/ 選抜宇宙種族の本づくり習性 / 心智五行 / どこかまったく別な場所でトナカイの大群が / 円弧(アーク)/ 波 / 1ビットのエラー / 愛のアルゴリズム / 文字占い師 / 良い狩りを

    紙の動物園
    (冒頭)
    『ぼくの一番最初の記憶は、ぐずぐず泣いているところからはじまる。母さんと父さんがどんなになだめようとしても、泣くのをやめなかった。』


    著者:ケン・リュウ  
    訳者: 古沢嘉通
    出版社 ‏:‎ 早川書房
    単行本‏ : ‎413ページ

  • 最初の表題作でボロボロ泣いてしまった。一方、途中にはSF慣れしていない自分にとって難解な話もいくつかあり、再読の必要性を強く感じています。SF的なモチーフをふんだんに使いつつも人の心と心の触れ合いに重きを置いた優しい眼差しの作風に、なんとなくカーヴァーを連想しました。「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「良い狩りを」が好み。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/11405

  • 「紙の動物園」
    アメリカ人に嫁いだ中国人女性の母とその息子の話。
    母は英語が話せず周囲と溶け込めないが、折り紙に命を吹き込む能力で生まれた息子と交流することが救いとなる。
    息子は自らの過程が周囲と異なることを自覚するとともに、母との交流を断つ。
    母が亡くなった後、お気に入りだった老虎の折り紙に書かれていた母からの手紙で思いを知る。

    周囲との違いを受け入れることもできるが、それを恥じ、否定する人もいる。
    「恥」という感情を受け入れられるか。
    私は息子の気持ちが痛いほどわかってしまう。
    かつての子どもだった自分を振り返りながら読んだ。

    その他も面白い短編がそろっている。

  • 既視感があるから何かをベースにしてる気がするが

  •  たとえばPバック『大地』は外から見た小説だったが、内なるものとして“中国人の目線”で記述ししかもSFである作品群。
     それは、自らの血肉の源であり恩義を被る肉親を裁断するようなものである。宗教であれば棄教し、昨日までの神を悪魔とすることもできようが、血は争えない。
     解説で示された作者の言は太字で写した。

    中国本土で翻訳されないヤバい作品も英語では流通を阻むのは難しいだろう。体制を揺るがすほどの衝撃度ではない、「たかがSF=絵空事」だが。

    紙の動物園 The Paper Menagerie〈F&SF〉2011/3,4
    折り紙に命を吹き込む中国系の母には、やはり出自の秘密があった。
    人形などに命を吹き込む、宿るファンタジーは数多い。

     けれどもむしろ、投稿者は以前NHKドキュメンタリーでやっていた、中国の少数民族の女にだけ伝わるという〈女文字〉を想起する。女だけがむすめにだけ教えて受け継がれてきたという…(中国人作曲者が郷里のそれを「交響曲のテーマにするために教えてほしい」と懇願したことから世界的に明るみに出た)。少数民族が自らのアイデンティティーを守るための小さくて大きなシステム。それは折り紙の賦活にも共通する。単なる生活の便利ではなくて、民族nationを守るためのものであったに違いない。

    他国の作家が書けばファンタジーだろう。しかし中国人の血を成分とするケン・リュウが著せば“プロレタリアート文化大革命によって、少数民族の宝が毀され流出霧散した”というヤバい真実を暗示する政治寓話political fantasyになってしまう。政治寓話は権力闘争という政治学の思考実験だからSFと限りなく近似しているのだ。

    「テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』The Glass menagerie(戯曲)へのアリュージョンallusion(ほのめかし)です。短篇の中でもっぱら弱弱しく、脆い存在であると見られていた母親が、折り紙の動物と同様、大きな内なる力を持っていることが明らかになるのですから」
    戯曲の登場人物ローラは、ガラス製の人形コレクションを持っていて、その脆い人形たちは心象を象徴するらしい。

    もののあはれ Mono no Aware (2013年ヒューゴー賞短編部門受賞)オリジナルアンソロジーThe Future is Japanese 2012
    2011東日本大震災の折、日本の被災者の落ち着きが世界的に称賛された(らしい)。それにメガ倍する地球に小惑星が衝突して壊滅するというカタストロフィ、世界各国政府は各々に地球脱出をプロジェクトするが、日本では「みんなの席はありますから、あわてないで整然と集合して乗りこみの時を待って」と国民に呼びかけた。
    ハヤカワSFシリーズ『300対1』では、火星に避難できる割合が1/300で「それでも(すべての資源をつぎ込み)驚異的な数字だと聞かされた」、まあそうだろう。
     他国では、僅少な脱出宇宙船の建造で汚職があり、暴動があって、席の総数も分からず分配をめぐって冷静な議論などできる状況にはない。
     いや、日本でも

    「建造した連中は政府に嘘をつき、まだ用意が整っていないのに整っていると言ったんだ。首相は面目なくて真実を認められずにいる」

    首相の声がか細く、体つきがとてもひ弱で年老いて見えたのは覚えている。心底申し訳なく思っているようだった。
    「国民のみなさんを失望させてしまいました」噂は本当だった…

    (語り手・大翔は、あるコネでただ一人アメリカの光子帆船に席を得た)
    「みんなただ家に帰ったの?」
    「そうだよ」
    「略奪はなかったの?パニックにかられて逃げ惑う人たちや、町中で反乱を起こした兵士たちはいなかったの?」
    「それが日本なんだ」自分の声に誇りがにじんでいるのがわかる。父さんの誇らしげな声を真似ていた。


    西欧式ストーリーテリング《物語の主人公は問題解決のために積極的に行動しなければならない》に従わない語り…

    月へ To The Moon 〈ファイヤーサイド〉2014/4
     亡命したいものは「迫害された」とストーリーを作りたがる(経済的理由での亡命は多くの国で認められていない)、ことに「キリスト教徒であることが迫害された」は同情を呼びやすい。しかし信仰は内心にあるもの、それの表現が無制限に自由とは言い難い。
     してみると自由は迫害されるから美しい(価値がある)、恋愛が抵抗にあって燃え上がるように。


    結縄 Tying Knots 〈クラークスワールド〉2011/1
    「では、わしらの結縄本から言葉を学んだとしたら…あんたらも毎年わしらにカネを払わねばならないのではないか?」…

    お得な話には、紐がついていた。…わしらは藩王に年貢を払わねばならないのだ。わしは天村を阿片王と結びついている農民らとおなじくらい低い立場に貶めてしまった」文明は阿片だ
    著者付記:人間のパターン認識能力と空間認知能力を利用してタンパク質フォールディングのための効率的なアルゴリズム探索の支援をするというアイデアは、セス・クーパー他『マルチプレイヤー・オンラインゲームでタンパク質構造を予測する』ネイチャー誌466号…で述べられている。/ナン族の結縄システムのいくつかの特徴は、ハングル文字およびインカの縄文字と中国の結び紐細工民芸をモデルにしている

    太平洋横断トンネル小史 A Brief History of the Trans-Pacific Tunnel 〈F&SF〉2013/2
    『太平洋横断トンネル小史』世界恐慌脱出に、1935年、戦争ではなく太平洋横断トンネルという大事業を採った並行世界。

    インスパイアされた?

    大西洋横断トンネル、万歳! (1979年) (サンリオSF文庫)

    大西洋横断トンネル、万歳! (1979年) (サンリオSF文庫)
    著者: ハリイ・ハリスン
    出版社:サンリオ

    発行年:1979

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    ハリスンは、別の軸で20世紀前半をひっくり返している。工事に1人の事故死も許容せず、安全対策にコストを惜しまず、人身事故の可能性を未然に防止する献策した技師を「素晴らしい貢献だ」と称賛する超平和なグローバリズム。戦争など起こりようがないわな。

     19世紀末の北米大陸の鉄道建設には大量の中国人労働者が使用され「枕木一本に一つの死体」とか言われた。
     投稿者は前にダム建設の絵本をレビューしたが、日本の土木工事でも初期にはかなりの“犠牲者”(嫌な言葉だ)があった。
     21世紀、中国は最後の資源大陸アフリカに「援助攻勢」をかけている、という。土木工事の労働力は中国本土から派遣し、囚人である疑いがある。ありそうだが投稿者は“断言はしない。
     ただ、死刑も人命軽視の事故も多い中国人の命が安いのはいつまでだろうか。
     アメリカ人(兵)の命は高価である。イラク戦争の最初の1週間で米兵と報道者53人が死亡したことは「多すぎる犠牲」だったらしい。
     1993年、ソマリアの国連活動の中で起きた“モガディッシュの戦闘”で18名(+国連兵1名)死亡、73人負傷、(ソマリア民兵+市民は350~1000名死亡)、悲惨な遺体凌辱の映像が報道されたことで翌年アメリカ軍は撤退を決めた。
     キルレートが10倍以上でも許されない。
     おそらく米中が白兵戦で激突することは、今世紀前半にはないだろう、と思うが。人命の高価な国に勝ち目はあるだろうか。

    潮汐 The Tides 配信誌〈デイリーサイエンスフィクション〉2012/11/01
    「軽快な小編」とある。

    娘への父の愛に打たれる。

    選抜宇宙種族の本づくり習性 The Bookmaking Habits of Select Species 〈ライトスピード〉2012/8
    ブライアン・オールディスによくあるスタイル

    「個人のいないこういうスタイルで書いた初めての例」

    心智五行 The Five Elements of Heart Mind〈ライトスピード〉2012/1

    どこかまったく別の場所でトナカイの大群が Altogether Elsewhere,Vast Herds of Reindeer 〈F&SF〉2011/5,6
    順列都市 上

    順列都市 上
    著者: 山岸 真/グレッグ イーガン/Egan Greg
    出版社:早川書房

    発行年:1999

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    に設定が似ている。
    自然環境が過酷になり、数学的空間の中で生きる人類たち。
    語り手のママは古代人(「自然出産された」の意。ただし今やその意識をロボットに移行している)、その特性を最大限に活かす「宇宙飛行士になる」決意をした。生命が存在する可能性が高い惑星へ、行ったきりの旅をするのだ、(意識上で)45年後には出発し、永遠の別れ、しずれは異星で朽ち果てる…。だが原始古代人のオーバークロックされない意識の数十年に比べれば無限に等しい。娘と実体験で過ごす飛行艇(莫大なエネルギーを費消する)が貸し出された…

    「遠くにあるあの丘が見える?トナカイがいるでしょ?あそこはモスクワと呼ばれた大都市だったの。モスクワ川の氾濫に覆われ、泥に沈むまえは。シンギュラリティ自然人類が全滅した大災害のはるか前に亡くなったオーデンという古代人が作った詩『ローマの没落』トナカイの群れ、黄金の野原、人けのない都市群、雨、降り止まぬ雨、この世の抜け殻への優しい抱擁」

    彼女らはまた大西洋で鯨の頭上を通過し、マンハッタンの残骸も見た

    「人類が作ったものはなにひとつとして永遠には残らない…データセンターでさえ、宇宙の熱死のまえにいつか崩壊してしまう。だけど本物の美は残る。たとえすべてのリアルなものが必ず滅びるとしても」

    ママの意識が星々のあいだに浮かんでいるのを想像する。宇宙塵のなかでかすかに光る電磁リボンとして。はるか遠くのあの惑星で、ロボットの容器がママを待っている。異星の空のもと、時の流れのなかで錆び、腐食し、ばらばらになってしまう容器が。

    円弧 Arc 〈F&SF〉2012/9
    セックスと子供を作ることが不死に替わる我々の最上の手段だった

    (SF的イノベーションで生きているうちに見たいものは)「我々が死を克服するところを見たい。生はあまりに貴重な贈り物Giftで、それが終わらねばならないのはただただ残念でしかない」

    貧富による医療格差は許せないと日本では建前が語られる。
    〈不死〉が実現するとしても、最初は超高価で独裁者しか享受できない、という最悪なシチュエーションになるだろう。

    (記者会見)「われわれの処置は、個人のゲノムに合わせた手順をとる必要があります。それには高い費用がかかり、数十年は高いままでしょう。さらに研究に投資し、コストを下げるのに充分見合うほどの代金をいただかねばなりません。その費用を負担するための保険を求めるのであれば、議会に陳情してはいかがでしょう」

    二十年で、千人以上の人間が長命化処置を受けた。しかし、同僚で配偶者のジョンは阻害の遺伝子で逆に老化してしまった。


    ところで

    放浪惑星

    放浪惑星
    著者: フリッツ・ライバー他
    出版社:東京創元社

    発行年:1973

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    では、地球に訪れたエイリアンは「地球で今見えている夜空は遥か昔の光に過ぎない。先進文明星系はとっくにダイソン球を建設して無駄な放射をしない。不死も達成して、文明に遅れた地球は“死の島”。でも不死は退屈でたまらない」と語る。

    語り手は開発グループの中心メンバーであり、30歳で老化を止めた。
    はるかに年長に見え、「自分を捨てた」と思い込んでいた息子に出会った…
    抗老化措置はポピュラーになっていたが、彼はそれを拒んだ。

    彼女も。

    波 The Waves 〈アシモフ〉2012/12
    ディアスポラ

    ディアスポラ
    著者: 山岸 真/グレッグ・イーガン
    出版社:早川書房

    発行年:2005

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    と設定が似ている

    1ビットのエラー Single-Bit Error オリジナルアンソロジー〈Thoughtcrime Experiments〉2009
    A.C.クラークの代表作の一つに『星』(短篇)がある。(ネタばれ)キリスト誕生の夜空の啓示は超新星の爆発によるものだったというのだが、奇跡にはそれほど大きな動作は必要ない。電子回路への1個の準光速プロトンの直撃で自動運転装置が誤動作し、聖女リディアは死んだ。同乗していた男タイラーは  (リディアが先に見て聖女となった)天使アンブリエルを見た。1ビットのエラーの連鎖反応と言うべきか?

    著者付記:三つの着想の源がある。テッド・チャン『地獄とは神の不在なり』…同様のテーマを扱っていることから、出版前にチャンの許諾を求め、了承を得た。
    書き直し、書き直し、感性を阻む一種のブロックができたが

    2009年に、何度も没になった作品を集めるというアンソロジーに収録されたことで、吹っ切れ、そこから本格的に書きはじめる。またこの頃、中国のSF作家たちと連絡を取るようになり、彼らの作品を読みはじめ、非英語圏文化のジャンル小説に魅了され、多大なインスピレーションを受けたのも、作家としてブレークするきっかけとなった。

    愛のアルゴリズム The Algorithms for Love 〈ストレンジ・ホライズンズ〉2004/7/12配信
    文字占い師 The Literomancer 〈F&SF〉2010/9,10
    『文字占い師』漢字を部分ごとに分解してどんな意味があるのか考察する。
    イジメ問題と絡めて『ドリアングレイの肖像』みたいなトリックも。
    アメリカは「美国」と書くが、ほんとうにその国是は美しいだろうか。
    主人公は父がスパイで反共活動のために非人道的行為もしていたことを知っている。あるいは、盗み見た書類の意味を成人してから気づいた。

    この作品もまだ中国語訳はない

    良い狩りを Good Hunting〈ストレンジ・ホライズンズ〉2012/10/9&同/10/20
    化かす狐の側から見た妖し。
    語り手の父は「妖怪退治」の専門家である。が、このごろ文明開化で仕事が減っている…
    久しぶりに来た仕事だが、妖狐を取り逃がした。
    しかし息子は僧堂の隅に白い狐を追いつめて飛びかかって押さえつけた。
    と、狐は全裸の少女に変身した。追いかけていた妖狐の娘だった。

    女の子はゆっくり立ち上がると、背後に積み上げられた藁から絹のローブを手に取って身にまとい、ぼくを高慢な目つきでにらんだ。
     (妖狐の娘が語る)「一か月ほど前のある夜、商人の息子は、養鶏家の仕掛けた罠につかまった母さんにたまたま出会ったの。母さんは罠を逃れるために人間の姿に変身しなければならず、その姿を見たとたん、あいつは一目惚れしてしまった。/母さんは自由気ままにしているのが好きで、あいつに悪さする気なんてなかった。だけど、人間の男がいったん妖狐に惚れてしまったら、たとえどんなに離れていても、妖狐には相手の声が聞こえてしまう。泣いたりわめいたりするのを、さんざ聞かされて、母さんは頭がおかしくなりそう…あいつをおとなしくさせるためだけに毎晩会いにいかなくちゃならない」

    「あの男が弱っているのは、母さんを忘れさせるつもりで、藪医者が毒を盛っているからよ。母さんこそ、夜ごと訪れてあいつを死なないようにさせているの。それから誘惑なんて言葉を使わないでくれる?人間の女に恋に落ちるのとまったく同じように、人は妖狐に恋に落ちるんだから」

    「意外な方向転換と結末…きつねうどんかと思ったら、蒸しパンだったみたいな」。蒸しパン喰ぅSF?フェティシズムで金属身体を愛するというのは理解できなくはない。

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