キャパの十字架

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163760704

感想・レビュー・書評

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  • 究極の現地現物がここにあると思う。

    スペイン戦争の一場面を撮った写真「崩れ落ちる兵士」に沢木耕太郎は疑問を持った。
    この写真は、今までずっと、戦場で兵士は打たれた光景をキャパが抑えたものだと思われてきた。
    それを疑うことは、「『(中略)キャパの写真がポーズを取ってもらったものだなんていう説は、スペイン人には受け入れがたいものなんです。やはり、あの写真はピカソの{ゲルニカ}と並ぶ、スペイン戦争のイコンですから』」(p.93)

    実は、沢木耕太郎以前にも写真に疑問を持つ人はいた。
    彼はススペレギ教授。
    しかし、スペインメディアはそれを是と認めなかった。

    今回沢木耕太郎が隈なく裏を取ったおかげで、ススペレギ教授は救われたと思う。

    沢木耕太郎のルポ根性に感服した。

  • 「崩れ落ちる兵士」を巡るノンフィクション。後書きにも書いていますが、キャパの虚像を暴くものでは無いです。最後にキャパとゲルダの話でまとめたところに沢木耕太郎さんの愛情を感じました。

  • 世界的に有名な1枚の報道写真、「崩れ落ちる兵士」の真贋を探るノンフィクション作品。

    この写真はスペイン内戦中の1937年に、報道写真家ロバート・キャパによって撮られたものである。ただ、この写真には不自然な点が多く、以前から真贋をめぐる議論が起きていたようだ。

    そう言われれば確かに、撃たれているのに出血の痕跡が見られない。だいたい撃たれている兵士を正面側から捉えることなど可能なのだろうか、と素人目にも感じた。
    著者の沢木氏によって詳細な検証が行われ、ついにはモデルとなった兵士の素性、撮影された場所、撮影に使用したカメラの機種、そして本当は誰が撮ったのか、という真実に肉薄する事となる。

    しかし、沢木氏の推理が進展するのとは反比例し、いまさら真相を究明する事に何の意味があるのか、と感じるようになった。モデルとなった兵士は祖国のために戦死し、キャパの恋人だったゲルダも、このスペイン内戦で悲運の死を遂げている。キャパ自身もすでに1954年、北ベトナムの戦場で亡くなっているのだ。

    沢木氏は実際に撮影されたと思われるポイントを見つけているが、かつて激しい戦闘が行われていたその場所と、戦争が終結し70年も経った平和な今、物理的には同一でも同じ場所と言えるのだろうか。

    実際に戦争は起こり、祖国のために戦死した兵士がいて、それを世界中に伝えようとした報道写真家がいた。
    たとえ一枚の写真に何らかの演出があったとしても、この事実は決して揺るぎようがないのだ。

    その点については、おそらく沢木氏も同じ考えのはずである、であればなぜ執拗に真実を晒す必要があるのか。死者の尊厳を冒してまで、掘り起こす価値のある墓など在りえないのでは。

    読了後、そんな違和感を覚えたのは自分だけだろうか。

    否定的な意見ばかりを並べてしまったが、この件に対する沢木氏の丁寧な取材活動や、鋭い観察眼に対しては敬意を表したいと思う。

  • 一枚の写真の「真」「贋」を追い求める著者の足かけ20年に及ぶルポ。
    キャパの代名詞ともいえる「崩れ落ちる兵士」、あの写真は兵士が銃弾に倒れる瞬間を撮ったものなのか、そしてあの写真を撮ったのは、本当にキャパなのか。
    資料だけを頼りに一冊の本を書くことはできるだろう。けれど実際に自分がその場に立ち、同じ風景を感じ、現物を見ることでのみ得られる「真実」というものも確かに必ずある。
    ルポタージュというのはこういう風に一つ一つ事実を重ねていくものなのだな。
    ノンフィクション、って面白い。

  • キャパを有名にした1枚の写真「崩れ落ちる兵士」への違和感から丹念に関連する資料や写真を集め、比較し、現地に行ってその謎を追う沢木耕太郎。
    http://www.magnumphotos.com/C.aspx?VP3=CMS3&VF=MAGO31_10_VForm&ERID=24KL535353

    崩れ落ちる兵士はスペイン内戦を撮った写真の中から見つかったがキャパ自身はその時の状況を公的には詳しく話していない。現像も自分でしたわけではなく、雑誌社に送ったフィルムの中から見つかったものだった。キャパの本名はエンドレ・フリードマンでユダヤ系ハンガリー人だがブダペストの学生時代に政治活動への関与が理由で逮捕され、ベルリンでジャーナリズムを学ぶ。このころフォト・エージェンシーのバイトで写真の現像をしていた際にインドのマハラジャの結婚式の写真を見てボスの部屋に「凄い写真です!」と駆け込んでしまい、そのことがきっかけでボスからカメラマンとしての扱いを受ける。その後ライカを唯一の財産としてパリに拠点を移す。

     エンドレ・フリーマンの写真は高く売れなかったが、パリで知り合った後の恋人ゲルダ・タロー(こちらも本名はゲルダ・ポホリレ、タローは知り合いの画家、岡本太郎からもらった名前だそうだ)のアイデアで架空のアメリカの有名写真家ロバート・キャパとして高く写真を売ることに成功していく。ゲルダは最初はマネージメント中心だったがキャパと行動をとるうちに自らも写真を撮るようになり、キャパはライカ、ゲルダはローライフレックスを使ったと言う。この2台のカメラのフィルムサイズが後に沢木の推理の根拠の中心を占めていくことになるのだが。

     世界中で銃弾を背に頭部を狙撃された兵士が崩れ落ちる瞬間を撮ったと思われた写真はフランスの写真週刊誌「ヴュ」1936年9月23日号に初掲載されているがそのとき同時に同じ場所で倒れるもう一人の写真が掲載されている。その後色々調べていくうちに一連の写真が見つかり、雲の位置から時間経過を推理したり、影や草の形から2枚の写真がほぼ同時に別のカメラで撮影された可能性を追いかけていく。


     果たして「崩れ落ちる兵士」は本当に狙撃された瞬間を撮ったものなのか、写真を撮ったカメラはライカかローライフレックスか、そして写真を撮ったのはキャパなのか、ゲルダなのか?

    写真の腕を上げていくゲルダは次第にキャパの名前で発表することには飽き足らなくなり、キャパ&タローそしてタローのクレジットで発表するようになっていく。1937年7月22日号の「ルルージュ」には表紙に大きく「タローによる衝撃的なフォト・ルポルタージュ」と載せられるまでになっていった。キャパはゲルダにプロポーズするが自由の中にいるゲルダに拒絶される。撮影したフィルムを現像するためパリに帰ったキャパとは別行動をしスペインに残ったゲルダだが共和国軍と行動をともにするなか突然暴走した戦車に轢かれて亡くなっている、ルルージュ発売わずか4日後のことだった。

     崩れ落ちる写真が「LIFE」にのり戦場カメラマン、ロバート・キャパが世界中に知られるようになったのは1937年7月12日号のことで、当時のキャパは弱冠23歳だった。その後キャパは世界中の戦地で写真を撮り続けるが「崩れ落ちる兵士」を超える写真は撮れないでいた。1944年6月ノルマンディー上陸作戦の従軍カメラマン4人に選ばれたキャパは後に血みどろのオマハ海岸と言われるオマハ海岸に上陸する。プライベート・ライアンの戦闘シーンで有名な所だ。この時に上陸できたのキャパともう一人で、キャパのフィルムだけがLIFEに届いた。暗室係のミスで72枚のネガのうち生き残ったのがわずか11枚。その中の1枚が第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を代表する1枚となった「波の中の兵士」飛び交う銃弾に背を向けて撮った写真で、現像ミスが逆に不鮮明な画像として迫力を与えている。

    この兵士は後に波打ち際で倒れている所をE中隊の軍曹とカメラマンに助けられたがキャパは自伝「ちょっとピンぼけ」には救出話は書いていない。挿話では母船の中で唯一の生存者が陸地に向かって進めなかった自分は臆病だったと呟くのを聞き、「いや、臆病だったのは僕の方さ」とその若い兵士に言ったと記している。

  • 「崩れ落ちる兵士」をめぐる謎はさらに深遠な物語を導くことになる。報道写真には作者が思いもしなかった物語が付加されることもあるのだ。キャパの背負った十字架とは?

  • ゲルダ・タローは岡本太郎。

  • 図書館で借りて読了。
    何かのランキングの上位にあったので気になって。

    ひとつの写真に端を発して始まるジャーナリズム的一冊。
    何かの卒業論文を読んでいるかのような感覚に陥った。
    よくわかりませんでした。

  • ロバート・キャパの代表作として知られる"崩れ落ちる兵士"。この一枚の写真について死ぬまで正確な説明をしなかったキャパ。その結果、多くの謎を生み出した。事実を導き出すための取材力と考察、結論へと至る過程は震える程の衝撃。唸る一冊。

  • キャパとゲルダ。
    魅力的以外の何者でも無い二人。
    著者は検証、謎解きをミステリ解読のごとく押し進めて行く。
    モノクロ寫眞、モノクロ時代。
    想像逞しく心馳せて…

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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