- Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163903408
感想・レビュー・書評
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火花と同時受賞の芥川賞受賞作ですが、こちらの方が好みです。
無職なのにポジティブな主人公、目的は祖父の死なのにどこか微笑ましい展開。
そして火花がラストを奇抜なものにしてきたことに対して、こちらはリアルな結末です。そういう終わり方は普通に訪れるなという…
個人的にも母が会社から帰って来られない時に代わりに入院先の病院に行って、認知症ではないけれど寝たきりになってしまい早くお迎えがこないかしらと言っていた祖母の介護をしたり(勿論尊厳死など求めずに元気になって欲しいと思ってましたが)旅行などで体重が増えるとトレーニングで落とすことを考えたりするので、主人公に共感出来る部分が多かったのかもしれません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
生きていても死しか待っていない人の
延命措置を行うのは、
長生きを無心で美徳と考える、
本当に保身の豚の所為だなあ、と思います
生きることは恐ろしいことです -
いままで読んだことがある羽田さんの作品の中で、すごく読みやすかった。わたしの家にも要介護の祖父母がいるからかな。年代も近く、立場的なものも近いからかすごく感情移入した、健斗に。ちょいちょいぐっとくる台詞回しがあった。太り気味のでメンタリティーの低い彼女に、もっと、俺に優しくしてくれたっていいじゃない、彼女だろ。という箇所があるんだけど、わたしも3日前に恋人に同じようなこと言われたなーと笑。あーって思った。自分がしてる数々のひどいことは棚に上げて、会いたいセックスしたいをストレートに出し、それを断るとそういうこと吐いてくるのか、と。
ラストらへんが泣ける。お風呂でちょっと目を離した隙におぼれてしまった祖父。死ぬとこだった、と、あんなに毎日死にたい死にたい言ってた祖父からついで出た時、健斗はその一言に、一畳半ほどの脱衣所で平衡感覚を失い、おぼれそうになった。違ったのだ。こうして孫をひっぱり回すこの日とは、生にしがみついている。(p116)
芥川賞にふさわしいって思います。これこそ純文学。いい作品。 -
祖父と、母親の3人で暮らす28歳になるニートの息子目線で話は進む。
祖父は介護を必要としており、よく「死にたい」と口にする。
そんな祖父に対する母親の対応は、「自分のことは自分でやれ」というもの。
それは、何にでも甘えて頼ってくる祖父を疎ましく思ってか、それとも祖父の自立のために必要を感じての、あえてのものなのかはわからないが、非常に厳しい。
一方の息子は、徹底的に祖父を甘やかす。
しかしそれは純粋な愛情からではなく、疎ましく思う祖父を再起不能にしてしまうためであり、甘やかして、甘やかして、自分で自分のことを何もできないようにしてしまおうというもの。
その先には、祖父の安らかな死が待っていると思っている。
終始この息子目線で話が進んでいくのだが、祖父に対しても、恋人に対しても、独りよがりと思える思考や発言が多い。
随分と極端な視点から、介護、年金、政治、就職、恋愛などの問題に切り込んでいる。
斬新な視点から描かれておりたいへん興味深かったが、共感できない部分もあったのが実際のところである。 -
親の介護が他人ごとではないので、一気に読みました。
最期まで社会の一人として理想を持って、なんて人生が、持てはやされているけれど、この小説の健斗の祖父の様に、理想がただただ「穏やかな死」という方が、なんとも現実的で、すんなりと入ってきました。
手を貸さず自立を促す母と、身体・頭の能力を低下させ「穏やかな死」へとむかわせる健斗。ただ、健斗自身この方法が果たして良いものかどうか、逡巡するあたりが良かった。
愛情を確かめるかの様な弱弱しい振る舞いの裏に、欲望に対しては積極的な祖父が、笑いを誘う。
”スクラップ‘は、祖父、多摩ニュータウン、健斗の過去、といろいろ考えられる、そして”ビルド”していく健斗の背中を押したくなるような作品でした。
月刊「文藝春秋」で読みました。
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2015年上半期芥川賞受賞作。文芸春秋九月特別号で読んだ。火花に続いて読んだけど、受賞インタビューや選評などを読むに、純文学とはこういうものかいなと取りあえず納得。本作はニートによる老人介護の物語で、社会派小説っぽいっけど、ややネガティブな感情を持ち合う老人と孫との共同生活がテーマであり、孫の心の動きを丹念に記録したもの。日常生活の細かい描写にこだわっており、リアリティティのある表現がされている。単なるシステム論や概念論に陥らず、緻密で丁寧にシミュレーションを行うことで、心の問題の本質に近づこうとする取り組みが純文学なのかなと思いました。で、火花もこれも結局どっちも淡々としした私小説っぽい作りとなってる。まあ、観念的で狂人的なドロドロとした心理描写がないので好きだけど、もっと構成や表現にチャレンジするやつがあっても良いと思う。
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ーーー「じいちゃんが死んだらどげんするとね」ーーー
第153回芥川賞受賞作。
介護と尊厳死がテーマの本作、とても読みやすかった。
究極のやさしさは、ある種の狂気と紙一重なのかもしれない。
なにかを信じこんだ人間が発する強い感情の怖さみたいなもの。
目に見えない、でも確かに存在するものを文章に、小説に載せることが巧みだと思う。
著者のデビュー作、『黒冷水』から通じる、仄暗い人間の心理みたいなものが、この作品にも一貫してあるなあと、懐かしく感じた。ひさしぶりに読み返したい。
介護する側、される側、どちらにもある負のイメージを、わりとポップに表現しているとおもう。
これ、書き方によってはほんと、不幸のどん底みたいな話になってしまいかねない。
そうしないところが、バラエティで垣間見せた著者のユニークさからきてるとわかるとストンと腑に落ちる。
最近観たという、白黒の音速を超える映画の話はちゃんと本作にも反映されていた。
たくさん売れて印税はいることを願っています! -
老人介護とニートを合わせた今のトピックスを合わせた小説である。