スクラップ・アンド・ビルド

著者 :
  • 文藝春秋
3.16
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本棚登録 : 4442
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  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903408

感想・レビュー・書評

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  •  祖父の介護を通じて、ニヒルで無気力だった青年が生きる力を取り戻していく物語。

     筋トレのシーンの描写は好き。疾走感があって。真面目に語るようなことじゃない内容を必要以上に真面目に語ることで生まれる面白さ。最近はフィットネスブームだし、AYAさんとか、テストステロン氏の著書なんかも売れている。わたしも筋トレが好きだし、落ち込んだときもトレーニングをすればすぐに気持ちが切り替わって、高揚感を得られる。介護や日常にもやもやした主人公が筋トレに目覚めて覚醒していく、というのはとても共感できるストーリーだった。

     ただ全体を通して、文才を主張したいあまりなのか、文章が凝りすぎているように感じて、ちょっと疲れた。読点を用いずに一つの文に情報を詰め込めるだけ詰め込んだ、早口で畳み掛けるようなウーマンラッシュアワースタイルの文章は、ツイッターでよく見かける。言いたいことをまくしたてるように全部とにかく今すぐ言ってやる!という意気込みはきっと、140文字という字数制限がある中でこそその面白さ発揮するのであって、文字数に上限のない小説においてそういう書き方をする必要を、わたしはあんまり感じない。


     とはいえ、芥川賞受賞以来、羽田圭介さんのパーソナリティ含めずっと気になっていた作品だから、ついに読めてよかった。

  • 高齢者の介護というテーマを、このような形で小説に昇華する発想は予想を超えていた。
    うーん、なるほど。

    「死にたい」が口癖の祖父には、私だったら「じゃあ早く死ね!!」と言いたくなってしまうであろう。家族ならなおさらそうなってもおかしくない。
    が、孫の健斗は「死ね!!」ではなく「祖父の願いを叶えるための手伝いをしよう」と考え、「安楽死」を与えようとする。
    その思考の中には死んでしまえと思う自分への罪悪感や、就職活動が上手くいかない自分の現実からの逃避的な意味もあるだろう。(明文化はされていないけれど、人の死を軽く扱う映画を意識的に観るなどそれらの“裏”心理を感じさせる描写が上手。)

    そして、優しく、祖父の願いを叶える至れり尽くせりの介護によって祖父の行動を奪い、衰えさせて安楽死へ導こうとする。祖父の行動や思考を奪いながら祖父を反面教師にして肉体改造に励み、勉強に前向きに取り組む。この発想は本当に面白い。

    で、なんだかんだで情に動かされ、日常のなかの事件により「祖父は本当に死にたいのか?」「いや、生きたがってるのでは、、、?」と思い直す主人公。

    かなり屈折してるけどいい孫だよなぁ。
    自分だったらなかなかできないだろう。

    最終的には祖父の作戦だった?という深読み感想も見かけて、もしそうだったらとんでもないじいさんだな、、、と思いつつ、最後の別れのシーンではイライラさせる天才ながらどこか憎めない死にたいおじいちゃんと卑屈でプライドばかり高いけど素直な孫に、確かに家族愛があることを感じさせる。

    あー、面白かった。

  • 祖父はただのボケ老人だったのか、全てを見透かした演技者だったのか、回収されない伏線に疑問が残るが自分は後者だと感じた。祖父はわざと弱っているように演じることで、無職の孫に対し介護をするという役割と存在意義を与えて居場所をつくってあげていたのではないか。後半で就職先が決まり出ていく主人公を祖父は自分のことは気にしないで頑張れと送り出し、互いの顔が見えなくなるまで手を振り続ける場面にも孫を思う祖父の愛情を感じた。

  • 2018.10.28読了
    ☆3

    図書館で借りて読んだ。
    設定は面白く小説の世界に入りやすかったが、ラストがあっさりしすぎていたように感じた。

  • とても切実な問題で、人はある程度の割合でどちらの立場も経験するのか、と思うと胸がふさがりました。うちもまだ祖母が健在で施設にいますが、一人暮らしをしていた時の母の負担はやっぱり大変でした。考えはどうあれ、手を差し伸べる主人公はえらいな、と思います。死にたい、を繰り返すのは本音なのかな。案外しっかりしてる一面も見えるのでちょっと不気味さも。ブラック企業への転職で、また人生の転機が訪れて…この家族のその後はどうなるのか。特別な事ではなく、とてもとても普通の事が、丁寧に描かれている作品でした。

  • うーん、、、これが芥川賞なのか。
    自分の勉強不足かもしれないが、何が評価されているのかわからない。
    体育会系の発想が気にくわないだけなのか。
    亜美が最低女みたいに描かれてるのが女性の自分的には解せなかった。

  • 『おらおらでひとりいぐも』を読んだ後だと、出てくるお爺ちゃんが凄いダメな感じがする。割とみんなシレッと自分本位。そこがまたいい。つい怒鳴っちゃうとことかいい。でも決して暗くない。

  • オーディオブックで聞きました。
    読後に感じたのは「人間ってしぶとい…」ということ。面倒くさいことに、人間は「死にたい」と言うとき、「生きたい」というメッセージを発信しているのだと思う。
    さらに面倒くさいことに、だからと言って他人が直接的に相手の人生をどうこうしてあげることはできない。結局は本人の想いの通りに生きていくし、想いを変えるのは本人しかできない。
    この本を読んで、そう感じました。

  • 主人公建斗は祖父の介護をしつつ、資格取得を目指したり、肉体を鍛えたり、就活に励んでいる。
    どこにでもあるような家庭を、羽田さんはク-ルな筆致で描いているが、根底は温かい目をもって見つめている。
    読み終えた瞬間、こんな作風もあるのだと感心した。

  •  とても、読みやすい芥川賞でした。NHKのドラマを先に見てからの、読了となりました。ドラマでは、女性ボクサーの存在が面白かったのですが、小説では書かれていません。青年の立ち直りの物語なのでしょうが、介護を必要とする祖父の振る舞いの面白さに惹きつけられました。青年の祖父に対する思いと行いは、実際に老人と生活を共にしたものからすると、とても実感の伴ったものでした。

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著者プロフィール

1985年生まれ。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞しデビュー。「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞。『メタモルフォシス』『隠し事』『成功者K』『ポルシェ太郎』『滅私』他多数。

「2022年 『成功者K』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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