- Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163905426
感想・レビュー・書評
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2010年から2016年までの所謂文芸誌に掲載された短編集。川端康成賞受賞作の「給水塔と亀」を目当てに読んだが、正直この作品がわかるのにはもう少し年月を要する気がする。冒頭2作は読み進めるのに時間を要したが、「アイト-ル・ペラスコの新しい妻」から弾みがついた。ウルグアイのサッカー選手が再婚した女性と語り手の物語。何とうまくつながっていることかと感嘆。「運命」「地獄」の不思議な世界を堪能した後最後に表題作で大笑い。取りついた中で考えることやモノの見方が(この日と生きている時からこんなだったろうな)と思わせる。「運命」の登場人物じゃないけど三田さんが誰かにとりつくたびに(頑張れ)と思ってしまった。終わり方がまた良かった。
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短編集 イカす
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繊細な発想のかたまり!!ムズムズするくらい面白かった。
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久しぶりに近所のブックオフに行き、いつもは通らない棚のそばを通過して漫画コーナーに向かっている時に、「浮遊霊ブラジル」というタイトルが目の端に入った。勢いでそのまま5歩くらい通り過ぎたのだが、「浮遊霊ブラジル!? 何なんだ、気になる!!!」と思い、後戻りして読んでみた。
その場で読んだのは表題作「浮遊霊ブラジル」。
むちゃくちゃおもしろい。主人公は死んでて、この世に未練を残していて成仏できないんだけど、そんなホラーな状況からは想像できないくらいにトボけていて、おかしい。
とても気に入った。
でも、そこにあった本はなんだか薄汚れていてページにシミとかついていたので、申し訳ないが購入は見送り、図書館で借りて読んだ。(ほんとすいません)
ふだん、日本の小説が合わなくて、本屋大賞とか全然ダメで、読むとケチつけたくなっちゃってストレスがたまるので海外文学に逃げていて全然知らなかったんだけど、すでにいろんな賞を受賞していて、十分に才能を認められている作家さんなんですね。知らなかった!
ブックオフを出る時は「埋もれた才能を発見しちゃったよ・・・」くらいに思っていたが。全然埋もれてなかった。
川端康成文学賞を受賞したっていう「給水塔と亀」もすごく良かった。好き好き。
(好きな日本人作家が増えて本当にうれしいのである。姉に日ごろから「外国かぶれめ」とののしられているので・・・)
なんとなくだが、読んでいて「関西の人っていう感じがする」と思っていたが、確認したらやはり関西人であった。すごくなじみがある感覚。
この本を読んだだけなので、まだ分からないが、この人の言語感覚が好きだなぁ、と思う。
「うどん屋のジェンダー」とか最高。タイトル読んだだけで笑っちゃう。で、内容を読んで、分かるーこの「ジェンダー論」分かるーと思った。
あとは「アイトール・ベラスコの妻」が良かった。
他の作品とちょっとトーンが違っていて、しかも複雑な構成で、ぐいぐい読ませる。
とにかくおもしろかった。
また他の作品もちょっとずつ読もう。 -
短編集。どれも面白かったけど、個人的に死後の話が好きみたいで、表題作と「地獄」が格別面白かった。
「地獄」は、親友のかよちゃんと旅行中にバス事故で死んでしまった主人公(そこそこの年齢の女性で、作家だった)が、「物語消費しすぎ地獄」に堕ちて様々な苦難に耐え、一方かよちゃんは「おしゃべり下衆野郎地獄」に堕ちて、やはりさまざまな試練を与えられている。地獄も個人に合わせて色々考えてくれるらしく、あと指導員がマンツーマンでついてくれて、かよちゃん以上に饒舌な西園寺さん(※鬼の名前)だの、妻の健康のために異動になった権田さん(やはり鬼の名前)だの、鬼の間にもサラリーマンの悲哀や人間関係があり、つらい地獄の責め苦に合いながらもなんともユーモラス。物語消費しすぎ地獄は自分も堕ちそうで怖い。
「浮遊霊ブラジル」は、72才でぽっくり死んでしまったお爺さんの幽霊が、町内会で行くはずだったアイルランドはアラン諸島への海外旅行が心残りで成仏できず彷徨う。幽霊は自分の徒歩圏内で移動することは可能だけれど、電車等乗り物はすり抜けてしまうので遠距離の移動はできず、女湯を覗くくらいしか楽しみがない。ある日、人間に憑りついていれば移動できることに気づき、なんとか人間を乗り換えてアラン諸島を目指すが、なんやかんやで憑りつく人間を間違えてしまいうっかりブラジルへ。移動にコツがいるけれど、地獄よりはこっちのほうが楽しそう。
※収録
給水塔と亀/うどん屋のジェンダー、またはコルネさん/アイトール・ベラスコの新しい妻/地獄/運命/個性/浮遊霊ブラジル -
津村さんのなんとも不思議な世界。
「地獄」がなんとも面白かった。妙な説得力がある地獄観。
「アイトールベラスコの新しい妻」世界観が恐い。
他
「給水塔と亀」
「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」
「運命」
「個性」
「浮遊霊ブラジル」
どれもこれもどんな話?
と聞かれると本当に困る。
津村さんのこの独特な視点が本当に病み付き。
2016年10月 文藝春秋
装画 北澤平裕
装幀 大久保明子