サロメ

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2010
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905891

感想・レビュー・書評

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  • 「サロメ」を読んでるの?と、つぶやかれ、「知ってるの?」と聞くと、「うん。新約聖書の本で読んだよ。」という言葉を残して、消えてしまった。数分後、目の前に現れた1冊の本とともに「海外の小説なり、海外のことについて書かれているものを読むなら、聖書のことは知っておかないと、本当の意味がわからないよ。」とダメ出しされた。渡されたその本はカバーがボロボロで、かなり読み込んでいるようだ。「面白いから今もたまに読むんだ。」と一言。私の視線を感じたからか、ボロボロの説明があった。

    この作品は、オスカー・ワイルドの戯曲・妖姫「サロメ」を世に送り出された天才画家・オーブリーと姉・メイベル・ビアズリーの愛憎関係が渦巻く物語である。
     
    恥ずかしながら、今まで聖書に関心を持つようなきっかけがなかったため、聖書に関する知識がまったくなかった。
    それゆえ、宗教的な背景があるこのような作品では理解できないことや理解できていないことすらわからないことがあるということが今回よくわかった。
    例えば、異母兄弟の妻・ヘロディアスの美貌にほれ込み、兄から奪って自分の妻にし、自分とヘロデヤとの不倫を弾劾した洗礼者ヨハネ(ヨカナーン)を投獄するが、民衆に人気のある彼を処刑できない。民衆に人気というだけで、王はなぜヨハネを殺せなかったのか。それは王自身も民衆と同じようにヨハネを預言者と思っていたこと、また民衆の暴動を避けるためであったようだが、王を含む民たちが預言者を崇める理由が、当初は理解できていなかった。
    他にも、ワイルドのサロメは、ヨハネに恋慕していたという、耽美主義的な話になっているが、聖書で描かれている「サロメ」とワイルドの「サロメ」の違いがもたらすインパクトが当時に生きる人の中でどれほどのものであったかたも量ることができない。

    異端児のワイルドを納得させるあるいは超えは才能を知らしめるその挿絵画家オーブリーはそれ以上の狂人なのであろう。

    その狂人の姉・メイベルが弟を守ろうとしてアルフレッド・ダグラスと共謀し、フランス語「サロメ」の英語訳出版から弟を引き離した真実の裏事情があるのではないかと、勘繰ってしまう。例えば、メイベルがワイルドあるいはオーブリーに恋愛感情を持っているとか。

    精神に病んでいる時には避けたい本であるが、心に訴えかけるインパクトは大きい作品であった。

  • 表紙は予言者ヨカナーンの首に口づけをしようとするサロメを描いた一枚。
    本書はこの挿画を描いたオーブリー・ビアズリーと彼の姉・メイベル、そして戯曲「サロメ」を生み出したオスカー・ワイルドを巡る物語です。

    物語のはじまりから、ビアズリー姉弟が堕ちていく気配が満ち満ちているのです。
    誰かを想う気持ちと大きな成功への渇望に突き動かされるように、どんどんねじまがった方向に事が進んでいく様子は、怖いと思いつつ目が離せない魅力がありました。
    ラストシーンのどろりとまとわりつく蜜のような甘やかさにぞくりと鳥肌が立ちました。

    散りばめられた”禁忌”の気配に酔いしれながら読了。

  • 戯曲<サロメ>は、オスカー・ワイルドが書き下ろし、
    オーブリー・ビアズリーが挿絵を描いて、後世に残した作品である。

    21世紀。
    画家 オーブリー・ビアズリーの研究をしている甲斐祐也は、ロンドンに赴任中。
    彼のもとに、作家 オスカー・ワイルドの研究者、ジェーン・マクノイア
    という人物から、会って話をしたいというメールが届く。
    ジェーンは、甲斐に見せたいものがあると、バッグからある物を取り出す。
    それは、舞台の床下から発見されたという ”未発表の<サロメ>“ だった。 
    そこに描かれていた挿し絵の首は、
    戯曲<サロメ>に登場するヨハネの首ではなかった。
    「これが、ほんとうの <サロメ> だとしたら、新発見、いえ、事件です」

    この序章の後、真っ黒なページがあらわれ、時代は19世紀へと遡る。
    この黒いページは、戯曲の 暗転 なのだろうか?

    ここからは、ビアズリーの姉の目線で、
    弟オーブリー・ビアズリーとワイルドの物語が展開される。
    オーブリー・ビアズリーは、
    ワイルドと 彼の戯曲<サロメ> に魂を奪われ、憑りつかれる。
    そしてその執着が、誰も見たことがない絵を描き続ける原動力となるのだが…。
    語り手である姉のメイベル・ビアズリーは、
    全身全霊でワイルドから弟を守り抜こうとする。
    しかし、彼女自身も異様で容赦のない執念を見せる。

    最後から二つ目の暗転のあと、21世紀に戻る。
    ジェーンが甲斐に ”未発表の<サロメ>“ が発見された舞台を案内するのだが、
    発見された場所である舞台の床の上に立つジェーンは、
    時空を超えた存在のように仄めかされる。

    そして最後の暗転が明けると、舞台は1900年へと遡る。  
    ここで、「これが、ほんとうの <サロメ> だとしたら、新発見、いえ、事件です」
    と語られた意味が暗示される。

    破滅的、妖艶、そして耽美的な物語だった。

  • “「楽園のカンヴァス」「暗幕のゲルニカ」に続く野心的傑作長編”という帯と、オーブリー・ビアズリーの蠱惑的な表紙絵に惹きつけられて、手に取った本書。

    内容は、タイトル通りオスカー・ワイルドの問題作「サロメ」をめぐる物語です。
    スキャンダラスな危険要素を持つ作家オスカー・ワイルドと才能あふれる若き画家オーブリー・ビアズリー。二人の運命的な出会いあったからこそ、“聖人の首”という、聖書の中のタブーエピソードを戯曲にした「サロメ」という作品がセンセーショナルを巻き起こしたといえます。
    たとえそれが、関わった者の運命を狂わせようとも・・。
    話は、オーブリーの姉・メイベルの視点で展開しますが、メイベル自身もオスカーとオーブリー、そしてオスカーの恋人・アルフレッド・ダグラス(男)との愛憎劇に絡んできて、もう正直ドロドロなのですが、全然下品ではないところが流石です。
    ただただ、破滅的な展開に惹きつけられて、どんどんページを繰ってしまいます。
    それにしても、原田さんは、情景描写も心理描写も手に取るように伝わってきて、“実際に見てた?”という感じです。勿論フィクションなのですが、そう思わせないリアルさがあります。敢えて言わせて頂くと、オスカー・ワイルドの悪魔的な部分がちょいとぼんやりしていたかな、と思わないでもないですが、ビアズリー姉弟やアルフレッドを狂わせた“何か”を読者側で感じて。という事なのかもしれません。

  • 読ませる、読ませる。
    なのに、★四つにしたのは、出来るならばもう少し長く、この作品の中に存在していたかったという、贅沢な物足りなさからである。

    『サロメ』を巡る、ワイルドとビアズリー姉弟の物語。

    今回は現代パートは限りなく省かれていて、ほとんどが姉メイベル・ビアズリーの視点で語られている。
    『サロメ』の話自体は知っていたけれど、ワイルドの『サロメ』と、ビアズリーの挿絵にそんな大きな関係があったとは知らなかった……。

    なのに、その二人をも凌駕してしまうメイベルの化け物感が凄すぎる。
    結局、誰が誰を愛し、憎しみに駆られたのか。
    もちろん原田マハの得意とする絶妙なフィクションが織り交ぜられているとはいえ、こんなドラマがあるのなら、ワイルドの『サロメ』を読まずにはいられないなぁ……。

    『楽園のカンヴァス』からずっと、驚かされている原田ドラマ。
    ああ。今回も素敵だった。


    20170817

    早いけれど、再読。

    クライマックス〜エンディングがパッと思い浮かんで来なかったので、自分のために詳しく残す。
    以下、ネタバレ注意。

    メイベルの執念。
    弟を愛することと、自らが光を得ることの両方を遂には肯定し、ワイルドとダグラスを舞台から引きずり降ろすことに成功する。

    彼女が求めたのはオーブリーの首だったのか。
    ダグラスに英訳を求めたと嘘を吐くことで、オーブリーが喀血をした際の口付けに由来する。

    そして、姉の計略によって遠からずオーブリーは亡くなってしまう。

    そのオーブリーが求めた首は、今回の核になっている「ワイルドの首」だった。
    エンディングでたった一夜、たった一人の観客を前にサロメを演じたメイベルは、その演技を以てワイルドの息の根を止める。
    そこに、絵を埋めて。

    手に入らない愛しき男の首を欲するファムファタル。
    幕間が非常に上手い。

  • 面白くてグイグイ引き込まれた。
    ワイルドとビアズリー、こう言う関わりがあったとは知らなかった。史実では仲が悪かったと言う事になっているらしいが、知ってしまったら妄想せずにはいられないでしょう!

    主人公はワイルドとビアズリー…と見せかけて、実は二人ともメイベルの手の上で転がされていただけ。メイベルとオーブリーの関係も妖しくて複雑。メイベルは望み通りサロメになったのね。

    ただ、劇場の床下から発見された絵と原稿って事になっているから、やはりこれを書いたのはメイベルなのか?
    絵の方は印刷物の顔だけが描き加えられて晩年のワイルドになっているって事だけど、メイベルって絵も描けたって事?謎は残る。
    ビアズリーの画集を借りて来てしまった!夭折してしまって残念。

  • 少し前に
    荻原規子さんの「樹上のゆりかご」を読み、
    「サロメ」という言葉に目が止まったので。
    (恥ずかしながらそれまでは全然しらなかった)

    主人公が日本人なのかなって思ったのに、
    急に舞台が暗転して
    気づいたら過去のロンドンに飛ばされてた。

    実在した人物たちの物語だからこそ
    自分もその場に居合わせているような感覚で
    海外のことなのにかなり入り込んで
    読めてしまった。

    メイベルのことが、
    わからないようでわかるような。
    暗いところに連れて行かれるのがわかっているのに
    やめらられない、逃げられない。

    そんな気持ちで読了。

    もうひとつのサロメ
    本当にあったりして。



  • あゝ!
    あたしはたうとうお前の口に口づけしたよ、
    ヨカナーン、お前の口に口づけしたよ。


    なんて蠱惑的な文章なのだろう。

    先日、「累」という映画を観てサロメを知った。その後、美術展にてサロメの絵を見てどぎまぎし、最近気になってる原田マハさんがサロメという題の本を書いていると知り、迷わず手に取った1冊。

    この物語がどのくらい史実に基づいてるのか分からないけど、1種の解釈として本当に面白かった。読んでる途中で何回も表紙のサロメの絵をまじまじとみてしまった。

    今ではサロメが醜い顔のイメージが当たり前だけど、それを作り出したのはビアズリーだったのか。
    恋する女性は醜いのか…むむ、なるほどなぁ…

    美術をもっと学びたいと思った。原田マハさんの他の本も読んでみたい!

  • 何冊目かの原田マハさん。
    やっぱり美術といえばマハさんです。

    読者が続きが読みたくなるツボをご存知で、ストーリーを引っ張るドロドロ感と緊迫感はさすがとしか言いようがない。
    そして圧巻のラストの演出。
    虚構か、現実かといろいろな意味で考えさせられる。
    本書の題が「サロメ」なのも一つの仕掛けなのだと思います。

    美術に関心がなくても、オスカーとオーブリーの関係や、メイベルのちょっと行き過ぎた兄弟愛にハラハラさせられます。
    絵と音楽のそれっぽさを伝えるのは至難の技だと思うんですが、オーブリーの絵の妖艶さをうまく表現しています。

    登場人物の誰にも共感できないストーリーでありながら、何かを渇望したり、禁忌の恋や関係性に溺れ、愛憎を向ける相手へのドス黒い欲望が読み手を惹きつけます。
    危険な香りのする本ですが、やっぱり文体や人物描写は王道的なところもあり、万人が読める形にも落ち着いています。

    人間の泥ついた感情を描いて入るけれど、描き方が絵画的。作られた作品なんだな、フィクションなんだな、そういう安心感もあるんですよね、
    悪く言えばリアリティがあんまりないとも言えるんですが…。たぶん、あんまりにも台詞も人物描写も芝居がかったように感じてしまうことからきているのかも。

  • サロメ。フランスの戯曲を初めて知った。
    病弱で絵の才能ある弟の人生を支え続けた、一途とも狂気とも言える姉の愛。それは息子を想う母親の洗脳とも言える。時代背景が古いにも関わらず、クラシックな描写が少ないおかげで、自分の知識の範囲で想像を膨らませて読むことができた。

著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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